新旧ハッチ第1話に見る「時代の風潮」その他

2010年にリメイク映画化された『みなしごハッチ』ですが、実は平成元年に一度リメイクされていたんですね。人によっては「平成版」のハッチの方が印象に残っていると思います。で、YouTubeなどの動画サイトで1話目を見比べて仰天しました。今から30年近くも前に、既に「時代に合わせて」制作されていたことに…いや、かわいいんですけどね。

共通点というか、引き継いだところ

・養母がいる。
・卵の時にスズメバチの襲撃に遭ったため、聞かされるまで自分の出自を知らなかった。
・第1話にして、肉食の虫に立ち向かう勇敢さがある。
・旅に出て、たくましく成長する。
ですが、元祖(以下「昭和版」)の『ハッチ』は何だか重苦しく、悲しい話が多いです。笑顔で旅立てた回が一体どれだけあるのかと聞きたくなるほどに。対して平成版は、基本的には明るい印象です。メルヘン重視といった具合に。

1話目から波乱万丈、「現実」を描く昭和ハッチ

昭和版のハッチは色々と不遇です。悪運が強いのか何なのか、卵の中で唯一生き残ってシマコハナバチという別種の花蜂に拾われて育てられます。が、シマコハナバチのママさんの実子はそんな事情など知らず、「異分子」のハッチをいじめるわ仲間外れにするわ…。

右がシマコハナバチのお兄ちゃん。根は悪い子じゃないんですよ、たぶん。

子供の残酷さ

空恐ろしいと感じたのは「子供の残酷さ」です。「兄弟なんだから仲良くね」と言われても外見(というか種類)の違うハッチを毛嫌いします。遊ぶ時も仲間外れだし、「末っ子」という名目で「一番端っこにいろ、飯も一番後だ!」優しいのはママだけです。そんな折、ある事件が…。ママの留守中、言いつけを破って「危険な外」へ。ママさんにばれたら即「ハッチのせい」。ある意味で事実ですが、庇う気0です。カマキリに捕まった妹見捨てて逃げるし。

自分の正体を知ったハッチ

その後ひょんなことからハッチが「実の兄弟でない」ことが発覚するのですが、たまたま不在だったハッチを見る兄弟たちの顔、怖いです。台詞がなくても何を考えているのか、そして企んでいるのかが分かります。案の定、「お前は捨て子だ」と取り囲んでの大合唱。ママさんから真相を聞いたハッチは泣き崩れつつ、「ミツバチの仲間や本当のママに会いたい」と旅立ちます。「外の世界の恐ろしさ」を「ママ」から聞きながらも、「それでも会いたい。外がどんな世界でも負けないし、負けちゃいけないんだ」と言って。旅立ちの日は嵐でした。

2話目で挫折

そして2話目にして挫折を味わいます。衝撃的だったのが、「スズメバチの群れに突っ込んだけど、相手にもされなかった」こと。いろいろな意味で小さすぎたハッチは、手当たり次第スズメバチにかみつき、ひっかき…槍まで奪ったものの、返り討ちにされます。失恋という挫折をも味わい、最後に「人間」を見ます。「あんな怖い生き物が…」でも旅を続けなくてはいけません。仲間やママに会うために。

メルヘン重視?甘ったれから成長していく平成ハッチ

平成版ハッチ。前髪?が気になります。

さて、19年経て制作された「平成版」の方。主題歌とハッチの声を担当しているのは歌手の石川ひとみさんです。人形劇『プリンプリン物語』などで声優を経験されていたので、多少違和感があるものの、気品と元気さある「新しいハッチ」を好演しておられました。で、思ったこと。「平成ハッチ…何か恵まれてるなあ。てかメルヘンだなあ」

甘えん坊で友達もいて…

まず、「寵愛を争う、意地悪な兄弟がいない」こと。そして「自分がミツバチであると、最初から知っている」こと。「友達もいる」ことなどです。ママと呼んでいる人(蜂)は女王に仕えていた侍女のハニーですが、女王も含め仲間は全滅したと思ったらしく、ハッチを自分の子のように育てていました。卵にいたため何も知らないハッチはミツバチの本来の生態も聞かされず、優しいママにべったり甘えて、昭和版で「出るな」と言われた外で普通に遊んで…「そんなんで旅に出られるのか…」と心配になるほどですが、随所に根性が見られました。

友達を救うんだ!

しかし真相を知って自分から旅立った昭和版とは違います。昭和ハッチは何だかんだあの兄弟の中で鍛えられていたんじゃないでしょうか。「一人で旅立つなんてボクできない…」ママを一人ぼっちにしたくない、という理由もありますが、昭和版と比べると覇気が足りなく感じます。作品批判ではなく、世相だと思うのです。1970年当時と89年当時とでは、子供の環境も違っていたはず。旅立った時は晴れていましたが、しょんぼりしていました。「ママ」が「心を鬼にした」結果ですが、過保護な親が増えた、ということなんでしょうか。

メルヘン。

人間は登場せず、メルヘン調の雰囲気漂う平成ハッチですが、回を重ねるごとに着実に成長。相手を気遣い、大人には敬語を使うまでになっています。ごく普通に野宿する場所を探したり。第一話で甘ったれな印象を与えたのは、たくましく成長するさまを描くためでもあったんですね。

総括

昭和ハッチが兄弟と喧嘩するシーン、かわいそう、やめて、となるかもしれませんが、昔の子は兄弟喧嘩で「やっていいライン」「けがをさせない喧嘩の仕方」を見極めていたそうです。昨今は規制が激しすぎてむしろ痛みが分からない、という声も聞きます。そのことも含めて虫の世界に「現実」をこれでもかと託した昭和ハッチと、平成「元年」にして既にメルヘン路線というオブラートに包んだ平成ハッチ。既に「規制」は始まっていたのか…リメイク作から考えること、学ぶことはたくさんあると思った次第です。

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