埋もれたリメイクアニメ『みつばちハッチ勇気のメロディ』

『おそ松くん』が再アニメ化、ということで、あるリメイクアニメ映画についてご紹介します。『おそ松くん』同様昭和から平成へと現代風に生まれ変わり、かつタイトルも変わったのに、今一つ知名度に乏しいのは、作品の力不足?いいえ、それは違います。たまたまジブリ、ディズニーといったアニメ二大巨頭と同時期に公開された、その時期が悪かっただけなんです。公開は2010年。原作は『みなしごハッチ』です。

次なる変更点が、スズメバチです。登場時からミツバチたちを蹴散らし、ハッチを「独りぼっち」にした連中です。昭和版では、弱者とされる個体を覗いて皆単なる悪役どころか悪者といった感じでした(最終話でハッチを逆さづりにし、「卵のありかを言え!」とママを脅迫など)。
しかし、本作ではそのイメージが変わります。無論、ハッチが接触したスズメバチたちは人間の価値観でいえば非道な振る舞いをしていました。デザインもより凶悪になっている上口調もチンピラ風です。が、ある存在が『ハッチ』のスズメバチのイメージを一新させました。

ヨーロッパ辺りが舞台のようですが、アミィは「ハッチ」から「ハチ」を連想。三兄弟の名前を聞いた日にはどう反応するやら…。

それは女王とその子供です。スズメバチの女王は「姉御」といった感じで非常に威圧的ですが、危機が迫った際も自分だけ逃げだすようなことはせず、部下にも任せず、自ら子どもたちを助けに行きました。
そして、兵士(働き蜂)たち。女王が危機に陥ったと知るや、スズメバチたちは「散々探した」ミツバチになど、目もくれていませんでした。しかも、協力までしてくれるのです。それでも仲良しこよしになったのではなく、自分たちのためというところが、「悪役」らしくていいとは思いました。

その他気になったこと

ハッチはとばっちりを受けた?

今回のスズメバチには被害者としての面もあります。それは劇中を見れば明らかです。大群で蜂の巣を襲うのはオオスズメバチだけですが、その時期は決まっています。「ひょっとしたら、ハッチの城は襲われずに済んだんじゃないか、季節外れで蜂の巣を襲わなければならないほど、彼らも追いつめられていたのではないか」…何か憎めない描写をわざわざ入れるあたり、勘ぐってしまうのです。女王以外のスズメバチ代表格ともいえる画像の三兄弟の名前に象徴される、彼らの牙城を見る限り。

女王の左手

スズメバチの城に乗り込んだハッチは、捕えられているママを救おうとしますが、寸前スズメバチの女王につかまってしまいます。この時、女王は左手でハッチをつかんでいました。そして非常にさりげないことなのですが、子供たちを救おうと伸ばした手も左手なのです。
女王自身は意識していなくとも、捕食者の面と母親の面が描かれており、演出に唸らされました。

すれ違う一人と一匹

ある事情と誤解から、アミィとハッチの間に精神的なすれ違いが生じてしまいます。そしてその際、アミィはハーモニカを落とすのですが、そのことに気づいたのは夜になってからでした。
ハーモニカを落とした」アミィは拾いに行くためあわてて坂を駆け下りる…内に勢いづいて止まらなくなる。
そこにやってくる、ハッチとハーモニカ…今度は文字通りの意味ですれ違いますが、きょとんとしたハッチの表情、それを確認するように見るアミィの顔。
何だか、象徴的じゃありませんか?仲直りしたいハッチと勢いづいて止まらないアミィのすれ違い…ニヤニヤします。二人を結びつけたハーモニカが、すれ違いが生じた際転がり落ちて、再び仲直りの印として戻ってくるところとか。

二種のハチはどうなるのか?ハッチの浮遊性

ラストにも気になる点がありました。それまで軽やかに飛んでいたハッチが、何だか重力に負けまいと懸命に羽を動かしているように思えるのです。
昭和版のころからエコ的なメッセージもあった『ハッチ』ですが、現在は昭和版の『ハッチ』の頃よりミツバチが減っているようです。
作中でも珍しいといわれるほどに。ミツバチが来るのは、自然豊かな証拠、という言葉を聞いたことがありますが、ハッチたちにとって居心地のいい場所とは残されているのでしょうか?羽毛のように舞い歩ける日が、来るでしょうか?

原作アニメ・『みなしごハッチ』

1970年放送。人間は登場しますが、顔が描かれることはなく、自然破壊や補虫行為を行う悪役と言う立ち位置。虫たちは自然界の厳しい世界で生きており、毎回のように敵味方関係なくゲストの虫が命を落としていました(ハッチによる殺害も含む)。
ハッチ自身の行ったことが裏目に出ることもある、敵はスズメバチだけではないなど、子供向けアニメにしては容赦なく陰鬱なイメージで、「トラウマになった」との声も多いです。
しかしそんな中で弱者であるミツバチのハッチが諦めずにママを探す為旅を続ける様、旅の途中で出会い、救われた虫との友情も描かれており、単なる暗いだけのアニメでないことは伺えます。
事実懐かしアニメを紹介する特番では常連作品ともいえる物で全91話のロングランを達成し、リメイクも作られました。また、虫の世界に託した現実世界のメタファと評価するファンもおり、高度な考察がなされています。22話までなら、YouTubeで視聴可能(1話分を3分割)。

出典: www.fami-geki.com

ママとの再会シーン。最終回ですら、敵味方共に死者が出ました。ちなみに最終回冒頭、ハッチはスズメバチの巣でリンチを受けています。

続編とリメイク

新みなしごハッチ(続編)

出典: bbs.soul-plus.net

続編です。スズメバチを倒し、平和な暮らしを享受するミツバチの国でしたが、よそから移って来た虫との餌の採り合いに端を発する女王(ママ)と軍で意見に食い違いが発生。
おまけにヤクザのようなモモスズメガのボスをハッチが怒らせてしまい、ミツバチ城に犠牲者が出、「今の女王は頼りにならない」とママは失脚。そこにまたスズメバチが現れて、国は滅亡します。妹のアーヤを女王にすべく、新たな旅が始まるのでした。

出典: bbs.soul-plus.net

スズメバチの少年に「父の仇」と狙われます。

平成版『みなしごハッチ』(リメイク)

出典: elfno.com

昭和版と比べると一話目の印象が大分違います。

平成元年にリメイクされました。昭和版ではハッチはシマコハナバチという別の種類のハチに育てられており、「見た目が違う」という理由で事情を知らない兄弟からいじめを受けるのですが、この設定が消滅。
ママに仕えていたミツバチの侍女を実のママと思い込んで暮らしていた、という設定でした。一話目から友達がいる、食器を使って食事をするなど、昭和版よりも明るめでメルヘン調です。ただし、スズメバチの襲撃シーンや弱肉強食によるギリギリの生を描く部分は残されています。

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