1960年代イギリスの若者達を描いたカルト映画「さらば青春の光」

「さらば青春の光」(原題「QUADROPHONIA=「四重人格」)は、1960年代のイギリスの若者達、「モッズ」と「ロッカーズ」の間で実際に起きた暴動事件をもとに、ある一人の青年の心の軌跡を描いた作品です。
映画内に登場するモッズファッションや音楽は未だに人気が高く、この作品は一種のカルト映画となっています。

「モッズ」とは

モッズは、音楽や衣服に共通したものを好んでいたようです。ファッションはモッズファッションと言われるように、ヘアスタイルは前に髪を下ろしたようなモッズカット、ファッションでは、三つボタンのスーツ、ミリタリー調のパーカーなどが好まれたようです。音楽では、イギリスのザ・フーやスモール・フェイセズなどがモッズたちによく聞かれていたようです。また、ビートルズは、モッズファッションでデビューしたことは有名ですね。

モッズは、深夜クラブに集まって、ダンスに夢中になったり、ファッションを競い合ったりしていたようです。また、モッズは、スクーターを愛用していました。スクーターを利用した理由は、オートバイでは、エンジンが剥き出しになっているのでスーツのズボンが汚れてしまうためだからでした。スクーターの中でも、ベスパなどという車種のものが好まれたようです。

出典: detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

「モッズコート」と言えば、カーキ色でフードのついた膝丈ぐらいのカジュアルなコートが思い浮かぶかと思います。
「モッズ」というのは、そのモッズコート、もっと正確に言うと米軍放出品のミリタリーコートを細身のおしゃれなスーツの上に羽織り、イタリア製のスクーター、ベスパを愛用した1960年代の若者達のことです。
この画像でもわかるように、このスタイルは現在にも受け継がれていて、当時としてはかなり斬新なセンスだったであろうと想像されます。

イギリス南部、白亜の断崖がそびえ立つ海辺にたたずみ、それからゆっくりと海に背を向けてこちらへ歩み出す主人公ジミーのシルエット。
これは映画冒頭のシーンですが、ラストとつながる大事なモチーフになっています。

「REAL ME」から続くめちゃめちゃかっこいいオープニングシーン。

1960年代のイギリスに登場した「怒れる若者達」

本作の舞台は、1960年代のイギリス。
ビートルズ登場前夜でもあったこの時代、それまでの社会通念・大人達の常識に疑問を抱き、荒れる若者達が目立つようになっていました。
「長距離走者の孤独」を書いたアラン・シリトーの作品に出てくる青年はその典型です。
こういった若者達のことはAngry Young men=「怒れる若者達」と呼ばれていました。
その「怒り」は、様々な形で表現されていましたが、本作の主人公ジミーは、昼間はメッセンジャーボーイとして一応「まともな」仕事をこなしつつ、夜になるとモッズファッションに身を包み、ハイになるためのクスリを飲んで仲間達がたむろする遊び場へと繰り出していました。
仲間たちもそれぞれ昼間は普通に仕事をする若者たちですが、けっして高収入を得る仕事をしているわけではなく、胸のうちには社会や大人に対するもやもやした不満を抱えながら生きていたのです。

ジミーには憧れの女性がいました。彼女の名はステフ。昼間はスーパーのレジ打ちをし、夜になると彼氏と一緒にモッズ仲間たちの溜まり場へ姿を見せる美しい彼女にジミーは何とか近づくことができました。
そして近くブライトン(イギリス南部の避寒地・日本の湘南のような場所)で行われるイギリス全土のモッズの集会へ一緒に出かける約束を取り付けることに成功。
内気で要領の良くないジミーにとって、これは奇跡みたいなことで、彼は一気に舞い上がります。

そしてブライトン行き当日。
ジミーは最高の気分で、仲間たちとともに愛車ベスパをすっ飛ばします。

ところがこの先行きには暗雲が。
実は同じように「怒れる若者たち」ではあるけれども、モッズとは見た目やライフスタイル、ファッションが全く異なるロッカーズ(昔で言うところのカミナリ族)たちも、この日ブライトンを目指し、彼らの愛車であるバイクを走らせていたのです。

ブライトンに着き、「俺たちはモッズだ!(WE'RE MODS!)」と雄叫びをあげるジミーたち。
しかしこの後、彼らとロッカーズが鉢合わせをし、街中で乱闘が始まってしまいます。
この事件がきっかけで、その後ジミーの人生はまったく意図していなかった方向へと走り始めていくのです。

ラストシーンにまつわる様々な見解

セブンシスターズと呼ばれる白亜の崖の上に佇むジミー。
この後ジミーがとった行動と、「彼がどうなったのか」については、見る人たちによって様々な解釈があります。
個人的には冒頭に流れた、夕日の海を背に、こちらへ向けて歩いてくるシルエットがその答えだと考えています。

あの「スティング」がスクリーンデビューしたのがこの作品

モッズの中でもひときわ目立つクールな男。彼の名はエース。
このかっこよすぎる男を演じていたのは、POLICEのボーカリストだったスティングです。
黙っていてもカリスマ性が溢れ出していて、主人公もすっかり惚れ込んでしまう役どころをスティングが見事に表現しています。

日本の人気アニメ「けいおん!」にもモチーフとして本作が登場

日本の人気アニメ「けいおん!」劇場版では、ジミーが佇んでいた同じ場所から海に向けて花束を投げ入れるシーンがあります。
メンバーたちがイギリスへ行くという内容のもので、そのEDで流れました。
もちろん本作に絡めたものです。

THE WHO、KINKSなど当時の音楽が満載

フーのピート・タウンシェンドによる同名の本
「四重人格」も出てるけれど、あちらの内容は別モノの短編小説集です。

映画の方はもちろん随所に出てくるモッズ・ファッション、スクーター、
そして当時のモッズのライフ・スタイルが味わえる
という意味でも60年代のモッズを知る際には欠かせません。

これと前後してモッズの大リバイバル・ブームが起き、
ネオ・モッズ・ムーヴメントなるものも発生したから、
ここでのライフスタイルは見る人に絶大な影響を与えたのでしょう。

出典: mods.beat-net.info

脚本がイギリスの(今も現役で活動中!)バンドTHE WHOのメンバー、ピート・タウンゼントによるものであり、実際に1960年代当時のモッズたちが好んで聴いていた曲で代表的なもののひとつに彼らの「MY GENERATION」があります。この曲はまさに「怒れる若者たち」の心情をストレートに映し出したものと言えるでしょう。

またこのほかに、キンクスやロネッツ、カスケーズなど当時ヒットチャートを賑わせた曲がたくさん流れます。

まとめ

主人公ジミーがあまりにもセンシティブすぎて、やることなすことうまくいかず、最終的に「全部壊れろ!」と思ってしまう過程。
これを「ひ弱過ぎる」「自分勝手すぎる」と感じる方たちには、本作はなかなか共感を得難いかもしれません。
しかし青春時代というのは多かれ少なかれ、(実際に行動に移すかどうかは別として)こういう心情になることがあるのではないでしょうか。
純粋すぎるあまり自滅していくジミー。でもこの後にはきっと少年時代と決別し、大人になった彼の姿があるものだと私は思っています。

matsurika
matsurika
@matsurika

Related Articles関連記事

けいおん!(第1期)のネタバレ解説・考察まとめ

けいおん!(第1期)のネタバレ解説・考察まとめ

『けいおん!』はまんがタイムきららに連載されていた、かきふらいによる四コマ漫画が原作のアニメ。 音楽経験の全く無かった高校生平沢唯と個性的な仲間達が織りなす、ほのぼのとしていながらも時折ふっと切なくなる空気系青春バンドストーリーである。 劇中でキャラクター達が結成するバンド「放課後ティータイム」の楽曲のクオリティの高さも相まって社会現象にもなった。

Read Article

けいおん!!(第2期)のネタバレ解説・考察まとめ

けいおん!!(第2期)のネタバレ解説・考察まとめ

『けいおん!!』(K-ON!!)とは、まんがタイムきららに連載されていたかきふらいによる四コマ漫画を原作とするアニメの、2010年4月から2010年9月まで放送された第2期である。1期は感嘆符が一つだけだったが、2期では二つ表記されている。 単行本第3巻以降の「3年生編」がベースになっており、メインキャラクター達の卒業までのストーリーが描かれる。

Read Article

けいおん!・けいおん!!・映画けいおん!の名言・名セリフ/名シーン・名場面まとめ

けいおん!・けいおん!!・映画けいおん!の名言・名セリフ/名シーン・名場面まとめ

「けいおん!」とは、かきふらい作の4コマ漫画作品、およびそれを原作としたアニメ・映画・ゲームなどのメディアミックス作品である。廃部寸前だった軽音楽部を舞台にした学園コメディー。帰宅部、楽器経験ゼロの主人公が仲間と共に成長する、等身大の女子高生の日常を描いた作品である。 アニメ第1期・第2期だけでなく、卒業旅行を描いた映画も公開された。 女性キャラが中心であり、友情を感じる名言・名セリフが多く存在し、楽曲とともに高い評価を得ている。

Read Article

映画けいおん!のネタバレ解説・考察まとめ

映画けいおん!のネタバレ解説・考察まとめ

『映画けいおん!』とは、かきふらいによる4コマ漫画作品が原作のアニメ映画である。軽音楽部を舞台にした学園コメディー作品。女性キャラが中心であり、友情を感じる名言・名セリフが多く存在し、楽曲とともに高い評価を得ている。本作はTVアニメシリーズでは描かれなかった「卒業旅行」をテーマとした話である。 卒業を控えた軽音部3年生4人は、教室で同級生たちが「卒業旅行」を企画していることを知り、軽音部も行こうとなる。くじの結果「ロンドン」に行くことに。ロンドンで軽音部の繰り広げるゆるやか部活ライフを描く。

Read Article

【あつ森】アニメ・漫画キャラの制服を再現したマイデザインがすごい!【マイデザインIDまとめ】

【あつ森】アニメ・漫画キャラの制服を再現したマイデザインがすごい!【マイデザインIDまとめ】

大人気ゲームシリーズ「どうぶつの森」のニンテンドーSwitch専用ソフト『あつまれ どうぶつの森』では、服やタイルを自由にデザインして作る「マイデザイン」という機能があり、人気を博している。特に人気漫画などに出てくる服を再現したマイデザインはたびたびネット上で大きな話題になっている。Switchオンラインで公開されているマイデザインは自由に使うことができるので、大好きなあのキャラになりきることも可能だ。ここでは様々な人気アニメ、漫画の制服を再現したマイデザインを紹介する。

Read Article

「漫画の殿堂」芳文社からアニメ化された作品まとめ

「漫画の殿堂」芳文社からアニメ化された作品まとめ

かつてはほとんど知られていませんでしたが、今では知らない人が少なくてってきたほど、大ブームを巻き起こしている出版社が芳文社です。形式は4コマ漫画が主体。その漫画雑誌のタイトルは「まんがタイムきらら」で、「けいおん!!」や「ひだまりスケッチ」など数多くの名作を世界に轟かせてきました。そんな芳文社の過去から現在に至るまでを、アニメ化された経緯とともに、まとめてみました。

Read Article

アニメライブの先駆者!ゆるゆるアニメなのに大ヒットしたけいおんの魅力に迫る!

アニメライブの先駆者!ゆるゆるアニメなのに大ヒットしたけいおんの魅力に迫る!

2009年4月深夜帯でテレビアニメの放送が開始されると、作中に登場する楽器や楽曲にも注目が集まるなどの大きな反響があった「けいおん!」 その反響は数字としても現れており、テレビアニメ第1期の終了時点で、ポスターなども含めた関連商品の点数は200点以上におよび、TBSの番組としては最多であった『ROOKIES』の103点を倍近く上回っています!そんな「けいおん!」の魅力について考察していきます!

Read Article

【氷菓】彼女と観るならコレ!カップルにオススメの安心安全アニメまとめ【けいおん!】

【氷菓】彼女と観るならコレ!カップルにオススメの安心安全アニメまとめ【けいおん!】

アニメ好きな男性にとって、彼女と一緒に作品を観たいというのは夢だったりしますよね。でも、いざ2人で観るとなると「引かれたらどうしよう…」と不安になってしまうもの。そこでこの記事では、カップルで観るのにオススメしたいアニメについてまとめました。アニメに馴染みがない彼女も、きっとこれらの作品だったら安心して観られるのではないでしょうか。実は彼女のほうがオタクだったなんてこともあったりするかも!?

Read Article

目次 - Contents