私たちはどうかしている(わたどう)のネタバレ解説・考察まとめ

『わたしたちはどうかしている』は2016年から2021年まで『BE・LOVE』にて連載された、安藤なつみによる作品。累計発行部数は500万部を突破しており、2020年に日本テレビでドラマ化もされている。本作は金沢を舞台に、400年間代々受け継がれる老舗和菓子屋で起きた殺人事件をきっかけに動き出す。殺人事件により、運命を狂わされた七桜と椿。その2人を取り巻く人間の愛憎劇と殺人事件の謎がやがてひとつに繋がった時、真実は予想もつかない展開へと繰り広げられていく。

『わたしたちはどうかしている』の概要

『わたしたちはどうかしている』とは、『BE・LOVE』にて2016年から連載されていた安藤なつみによる恋愛ミステリー漫画。新婚編も含め、全19巻。2020年にドラマ化され、浜辺美波と横浜流星のダブル主演として話題となった。
和菓子や着物など、金沢を舞台に和の美しい世界がふんだんに散りばめられており、それが作品の魅力のひとつにもなっている。
400年連綿と続く、金沢で老舗の和菓子屋、光月庵。この光月庵の当主が何者かに殺されてしまう所から物語は始まっていく。当主の息子、椿(つばき)の証言により殺人容疑をかけられた光月庵の和菓子職人、百合子(ゆりこ)。逮捕された百合子の娘七桜(なお)と、父を百合子に殺されたと思っている椿。一度は離れながらも、2人の運命はかつてお互いを引き合わせた和菓子により再び巡り会い、七桜と椿は偽りの夫婦として光月庵という呪われた場所に絡められていく。素性を隠して椿の嫁となった七桜に次々と試練がおとずれるが、人間同士の駆け引きや執念、そして次第に明らかになっていく椿の秘密に七桜は翻弄されることになる。かつてお互いの大事な家族を奪いあった七桜と椿は、傷つけ合いながらも、その強い結びつきから抜け出すことができない。憎しみ合いながらも、その根底には愛情が芽生えている事実を否定できず、いつしかどうしようもなく惹かれあっていく心が七桜と椿を葛藤させる。やがて少しずつ全容が解明されていく事件の謎と共に、親子二代に渡って繰り広げられてきた愛憎劇の真実が解き明かされ、2人の運命は大きく揺さぶられる事になる。
この作品は、光月庵当主殺人事件の真犯人、光月庵の次期当主は七桜と椿のどちらがなるのか、そして七桜と椿の関係はどうなっていくのか、など終始目が離せないストーリー展開となっており、緻密な構成を丁寧かつスリリングに描いている。

『わたしたちはどうかしている』のあらすじ・ストーリー

七桜と椿

和菓子職人として大倉百合子(おおくらゆりこ)は、娘の大倉七桜(おおくらなお)を連れて金沢で老舗の和菓子屋、光月庵に住み込みで働くことになる。この時七桜は5歳で、同い年の光月庵の跡取り息子、高月椿(たかつきつばき)に「さくら」と呼ばれ、一緒に遊んでいた。七桜は母の百合子と椿に和菓子を教わり、それから和菓子の世界にのめりこむ。しかし平穏な生活が1年も過ぎた頃、突然その生活に終止符を打つことになった。
光月庵の当主である樹が何者かに刺されて倒れており、その時椿は百合子を指さして樹の部屋から出てきたと主張した。その証言を受けて百合子は樹刺殺事件の容疑者として警察に連行された。残された七桜は施設に預けられたが、この時に百合子は心労がたたって亡くなってしまう。百合子は殺人容疑がかかったままだったので、七桜は姓を大倉から花岡(はなおか)に変えて生活することになった。
それから15年の月日が経ち、七桜は母と同じ和菓子職人になって小さな和菓子屋で働いていたが、その店に毎日のように「花岡七桜の母親は人殺しです」というメールが届き、七桜はお店を解雇されてしまう。
そんな時、結婚式の引き出物に出す和菓子を、光月庵と七桜で対決式で勝負して欲しいという依頼を受ける。はじめはその依頼を断る七桜だが、仕事を失いあてどもなく歩いている七桜の所に、30代ぐらいの男性から声をかけられ「きみのお母さんから20歳になったら渡してほしい」と頼まれていたという手紙を渡される。七桜がその手紙を受け取り読むと、そこには「七桜へ わたしはなにもやってない」とだけ書かれていた。七桜は一度は断った光月庵との和菓子勝負を引き受ける事にし、15年ぶりに椿と対面することになった。しかし椿は七桜とは気づかずにいた。
和菓子対決は光月庵に決まり、七桜は気落ちしながら帰路につこうとした所を椿に呼びとめられ「俺と結婚しないか」とプロポーズをされる。七桜は光月庵という場所でしか、母の無実を証明することが出来ないという思いから、椿のプロポーズを受け入れた。
七桜は自分の素性を一切隠し、強い覚悟と共に光月庵に赴いた。その日とり行われていた老舗旅館の「長谷屋」の娘と椿の挙式に乗り込むと、椿はそこで長谷家との婚姻を破談にし、七桜との結婚を宣言して、式は混乱のなか中止となった。椿の母である女将はこの事に憤慨し、七桜に激しい怒りと憎しみを燃え滾らせる事になった。

それぞれの思惑

女将は七桜を追い出そうと、得意先の挨拶用に七桜に持たせたお菓子をわざと汚した状態にし、大事な顧客の信用を失わせようと裏で画策した。七桜は顧客の前で大失態を演じ、名誉挽回のために七桜はこの大事な顧客に和菓子を作ろうとするが、女将は光月庵の職人に頼み込み、七桜に厨房を使わせないように裏で手を引く。椿が命令という形でこの職人に七桜に厨房を使わせるように言うが、厨房の権限は光月庵の大旦那である高月宗寿郎(たかつきそうじゅろう)であり、椿には無いと無下にされる。椿は七桜と共に大旦那の元に行き、厨房の権限を行使できるように頼み込むが、大旦那から「権限が与えられる者は光月庵の次期当主だけで、高月家の血を引いていない椿は次期当主ではない」と言われてしまう。どういうことかと七桜は椿に問うと「大旦那は女将の不貞で出来た子だと思っているからだ」と告げた。
女将は七桜の身辺調査も行い、七桜が5歳の頃、逮捕された光月庵の職人、百合子と共に写っている写真を入手し、女将は七桜の正体を問い詰める。
だが光月庵に七桜の母親と名乗る人物が挨拶したいと言って現れ、七桜もこの話に便乗し正体を隠し通す。その後七桜は母親役と2人きりになると、この母親と名乗る人物に事情を聞いた。するとお店の常連客から頼まれたと言い、その母親役は夕子(ゆうこ)と名乗った。七桜は直感的に頼んだ人物はあの30代くらいの男性ではないかと思い、お店に行きたいと夕子にお願いし、承諾を得る。夕子のお店に行きたい七桜を椿は呼び止め、七桜と椿の結婚式に出す和菓子の菓子帳を取りに行くと言って、椿はたどり着いた部屋に七桜を閉じ込め「俺は信用ならない人間ほど手元に置いておく主義だ」と言い、七桜を幽閉した。
そうして女将に、大旦那主催のお茶会の日に七桜と挙式をすると伝え、椿は七桜の様子を見に行った際に七桜に欺かれ、七桜は部屋からの脱出をはかった。しかし七桜の頭上に壺が落下し、椿が七桜を助けた事で椿の頭と手に怪我をしてしまう。椿は女将から七桜を守るために部屋に幽閉したのだと七桜に告げた。

椿と大旦那の確執

光月庵に、職人にとって名誉ある流派の茶会に出す和菓子の依頼が舞い込むが、手を負傷した椿はプロとして最良の状態ではないからと、断ろうとする。だがそれを止めた七桜は、椿に代わって和菓子を作ると言い、椿はまず七桜に茶道を叩き込む。だがそこに大旦那が現れ、その茶会に招待されているが、椿の作る和菓子は食べないと嫌味を言って出て行ってしまう。
なぜこれほど大旦那と椿はいがみ合うのか七桜は椿に理由を聞くと、樹殺害事件の前日、百合子と樹は部屋でキスをしていたのを目撃していたが、それを言えずに黙っていた椿に対して、大旦那は椿に強い不信感を抱くようになってしまったのだという。それ以来、大旦那は一切椿に構わなくなり、椿がつくった和菓子を食べる事はなくなった上、椿に命の危険が迫っていた時でさえ、椿を助けようとはしなかった。椿は一度死にかけたこの命を、光月庵を自分の物にするために使うと誓い、以来執念にかられていくのだった。
茶会に出すお菓子は無事七桜によって完成し、椿も負傷の手でひとつだけ茶会に招かれている大旦那のためにお菓子を作る。そうして茶会が開かれたが、茶会の主催者から依頼したお菓子とは別にもうひとつお菓子が必要であると伝えられ、即席で作れる落雁という粉を型に押し込めるシンプルなお菓子をつくることに。そこで型を光月庵から取りに行った七桜は、茶会に戻る際にあの30代くらいの男性に再会することができたが、話をしたいと思いながらも、帰りを待つ椿を待たせるわけにはいかず、七桜は後ろ髪を引かれながらもその男性と別れ、椿の元へと急いだ。
こうして無事お菓子を出し終えた七桜と椿は、茶会の主催者からお菓子の説明をお願いされる。椿はこのお菓子に込めた思いと共に光月庵を受け継いでいく者としての想いも乗せて、大勢の中のひとり、招待されている大旦那に向けて伝えた。その言葉を受け止めた大旦那は、椿が作ったお菓子を持ち帰って食べ、さらに大旦那主催の茶会の時期をずらし、七桜と椿の結婚式に参加する事を決めた。この話を聞いた椿は涙し、一度は断った茶会の依頼を受けた七桜の存在に感謝し、さらに七桜に対する想いも深まっていった。

七桜と椿の真実の親

七桜は城島という光月庵の職人が使用している部屋が昔、百合子と幼い七桜が住んでいた部屋であることを知る。城島も、七桜がその部屋に何かあると勘づいており、束の間その部屋で1人くつろげるように配慮した。昔百合子と住んでいた痕跡を見つけて懐かしく思う七桜は、そこで押し入れの天井に目が留まる。一か所だけ不自然な部分があり、七桜が天井を調べてみるとそこには箱が隠されていた。箱の中身を見てみると、中には書類や樹と百合子が互いに送り合ったラブレターなどが入っていた。その中に七桜と椿の、樹とのDNA父子鑑定書を発見する。七桜と樹は生物学上の父であることは極めて高く、一方椿と樹は生物学上の父である事は極めて低いとあり、七桜は真実を知り茫然とする。
七桜は城島の部屋を出たが、そこで出会ったのは大旦那であった。七桜は大旦那主催の茶会の日取りを変更したことに、椿を認めてくれたからなのかと問うが、本来は高月家の血を引く人間が光月庵の当主になることが先祖代々決められてきた事であり、椿は違うと言う。そして、本当の光月庵の当主は昔ここに住んでいた「さくら」であり、「さくら」を探しているが見つからないと七桜に話した。
光月庵を自分の物にしたい椿にとって「さくら」は正当な光月庵次期当主だから椿は「さくら」が憎いのだと、七桜は椿の本当の思いにたどり着きショックを受ける。
七桜は椿と結婚はできないと考え、今すぐ椿の前から姿を消すために七桜の存在を知る30代くらいのあの男性の身元を、茶会の亭主から聞いて家を訪ねた。男性は多喜川と言い、七桜から事情を聞くと、今すぐ光月庵を出た方がいいと告げ、それに躊躇する七桜に多喜川は光月庵を出て後悔しないかと引き留める。
七桜は事件の真相を追い求めて光月庵の屋敷を探索する。そこで樹が刺殺された部屋は大旦那によって閉鎖され、その部屋に続く扉が開くときは大旦那が茶会を開く日しかない事を知り、七桜は大旦那主催の茶会の日までに百合子の無実を証明したいと心に決める。
一方大旦那は遺言書を作成し、光月庵は椿に譲るが、光月庵の正当な血を引く者が現れた場合はその者に光月庵を譲ると書き、それを偶然目撃した女将は遺言書の内容に激しく抗議する。
それから幾日かして大旦那主催の茶会が開かれ、女将は大旦那の部屋に忍び入り遺言書を探そうと漁っていた所を、大旦那に見つかってしまう。大旦那は女将に激昂し、昔大旦那が目撃した女将の不貞を強く責めると、女将は否定もせずに樹から愛されなかったことを大旦那に喚き散らした。大旦那はこのやりとりで女将の不貞で出来たのが椿だと確信を得たところで、女将に突き飛ばされ手に持っていた遺言書を奪われてしまう。さらに態勢をくずしそのまま机に頭を強打して意識を失い、女将はその部屋に火を放って立ち去った。

光月庵の火事

茶会は終わっていないのに大旦那が現れない事に気づき、七桜は大旦那を探しに行く。その時樹の部屋に続く廊下の扉が開かれている事に、七桜は不審に感じて樹の部屋へと入るが、そこに居たのは女将だった。七桜はこの部屋で殺人事件が起こった話をして女将にゆさぶりをかけると、女将は百合子が憎かったと告げた。
樹と百合子が愛し合っている関係だと知った女将は、樹が刺された日に椿の会話を先導し、百合子に疑惑の目が向くように仕向けたのだと話した。百合子は女将によって罪をなすりつけられた真実を知り、七桜は樹を刺したのは女将かと聞くものの、それは違うと否定した。七桜はあの日女将を見たと訴えると言い、ついに七桜は女将に「さくら」だと正体を打ち明けた。
しかしそれを後ろで聞いてた椿にも聞かれ、七桜は椿に全部嘘だったのかと激しく詰め寄られる。だが七桜は毅然と母の無実を証明するために光月庵に来たのだと椿に話した。
その時光月庵で火事が起き、大旦那が行方不明であると知らせを受けた。椿は大旦那を探しに行こうとし、その時椿は七桜に部屋から出るなと伝え、七桜も椿から逃げないと心に決め、その部屋で待機すると立ち去る椿の背中に言葉をかけた。そこへ通りかかった城島と多喜川に逃げようと声をかけられるが、七桜は椿との約束を守りたいため、頑なにその部屋から出ようとしなかったが、そこで突然妊娠しているお腹に異変が起き、痛みだす。七桜は病院に担ぎ込まれ、2日後に病院で目を覚ました時、お腹の子供は助からなかったと聞いてこれは天罰だと自分を責める。さらに光月庵が火事になったことをニュースでも取り上げられ、椿が光月庵に代々伝わる道具を持ち出したことを知り、七桜は椿が、自身の約束よりも光月庵の道具を優先した事実に茫然とする。
お見舞いに来た多喜川は、ショックを受けた七桜に同情し「何がしたい?」と聞くと、七桜はそこでもお菓子への憧憬を思い出し、多喜川に「お菓子が作りたい」と泣きながら答えた。

3年越しの七桜と椿の再会

七桜は多喜川に頼み、光月庵の近くに花がすみというお店を開店させた。七桜にとって紆余曲折ありながらも、火事の事件から3年経とうしていた。

茶会の和菓子選定会で花がすみも呼ばれるようになり、再び光月庵ともお菓子で対決することになる。選定会では花がすみのお菓子に決まり、光月庵は落選する。
次の選定会でも光月庵と花がすみは呼ばれてお菓子を作るが、七桜の目論みはその選定会に選定員として来ている溝口議員と接触する事だった。七桜は溝口議員に近づき、花がすみに案内してもてなした。溝口議員は七桜の作るお菓子を気に入るが、それこそが七桜が溝口議員にかけた罠だった。丁度同じころ、椿も花がすみというお店が気になり、店に赴く。そこで椿は七桜と思いがけず再会し、七桜に愛憎うごめく感情を押さえきれずに詰め寄るが、ふいに現れた多喜川に制され、椿は仕方なくお店を後にする。
溝口議員が花がすみの和菓子を気に入り、茶会に呼ばれる際は花がすみのお菓子を推薦している事を知り、さらに七桜は溝口議員に親密に接し、溝口議員と光月庵の裏金にまつわる共謀を暴こうとしていた。だがそこで溝口議員に勘ぐられ、いずれ光月庵は大旦那が亡くなるため、光月庵は潰れるだろうと言われてしまう。七桜は多喜川からも、光月庵の次期当主決定権があるのは大旦那であるため、今すぐ大旦那に会うべきだと言われる。
溝口議員は女将に七桜の事を密告したことで、女将は大旦那が入院する病院に急ぎ、光月庵へ連れ戻そうとする。その時に病院に向かった七桜と鉢合わせになるが、女将は強引に大旦那を退院させ、七桜は大旦那と話もできずにいた。
しかし光月庵の次期当主を狙っている七桜は諦めきれず、光月庵への用事を済ますついでに敷地に乗り込み、大旦那の部屋に潜り込む事に成功する。そこで大旦那に七桜が「さくら」である事を明かし、大旦那は事実を受け入れる。大旦那は七桜と椿に、12月31日に大晦日の日にお菓子をつくるようにお願いする。どちらのお菓子がより美味しく魂をふるわされたかで、次期光月庵の当主を決めるという。光月庵に代々伝わる、血筋によって当主を決めるやり方ではなく、大旦那の心によって決められる事となった。
対決当日、七桜と椿は大旦那にお菓子を出し、大旦那はそれぞれのお菓子を食べた。大旦那は女将にもお菓子を差し出し、どちらが作ったかを伏せた上で、次期当主にふさわしいお菓子を選ばせた。
そうして選ばれたのは、七桜のお菓子だった。これに抗議したのは女将だったが、女将もまた七桜のお菓子を選んでおり、この対決により七桜は光月庵の当主となる事が決定した。直後に大旦那は体の無理がたたって倒れ、病院に運ばれる。病床で椿に、自由にお菓子を作れと言い、その言葉を最後に大旦那は帰らぬ人となった。

多喜川家が隠ぺいした真実

多喜川はその後日本舞踊の披露式に七桜を誘うが、そこに椿も来ていた。披露式後に七桜は椿を探し、屋敷で迷ってしまう。七桜がたどり着いた部屋は仏間だったが、ひとつだけ立てかけられずに床に放置された遺影を見つけ、誰かに似ていると訝しむ。そこに現れた長谷家の長女、長谷由香莉(はせゆかり)に、その遺影は多喜川の父、多喜川秀幸(たきがわひでゆき)だと七桜に伝えられる。由香莉は七桜に、光月庵に来る前に働いていた和菓子屋で「花岡七桜の母親は人殺しです」というメールが送られてきた話しをしだし、七桜はその話を聞いて理解が追いつかず、七桜を探しに来た多喜川に真実を話してほしいと頼み込んだ。
多喜川は観念し、真実を話し出した。多喜川の父、秀幸は光月庵の女将と懇意であり、それを知った多喜川の母は次第に病んで亡くなった。そこで多喜川は女将に復讐しようと思い立つ。そこで七桜の存在を知り、多喜川の復讐のために一役買ってもらおうと思い、それならば小さな和菓子屋にいられては不都合なため、お店にあのメールを送ったのだと言う。七桜に親切にしてくれていた多喜川が、実は七桜を復讐の道具として利用していたことにショックを受け、七桜は多喜川の家から飛び出してしまう。
それからしばらくして、七桜はやはり真実を見つけようと椿と共に事件に踏み込む。手がかりは百合子の残した箱の中にあると思った2人は、百合子の樹宛の手紙の束を調べる。その手紙にひとつだけ住所の違う手紙が残されており、七桜と椿はこのわずかな手がかりを元にその住所のある場所へと向かった。その場所には普通の民家が建っており、住んでいたのは亡くなったとされている秀幸だった。秀幸は七桜と椿に真実を語りだした。

昔、光月庵の大旦那が多額の負債を抱えてしまい、光月庵の経営が一気に傾いた。ところがそんな時に鳳今日子(おおとりきょうこ)という女性が、実家の家宝を売ったお金で光月庵の負債の返済に充てて欲しいと伝えに来る。負債を返すあてのない樹はこの話に乗り、無事負債の全額を返済したのだった。しかし樹は今日子が実家の家宝を売ってしまったことで、親から激しく叱責された事を知り、責任を取って今日子を嫁に迎え入れる。それが光月庵の女将だった。しかし樹には百合子という想い人がいて、忘れることができずにいた。そこで数年ぶりに会った樹と百合子は関係を持ってしまい、その時百合子は七桜を身ごもる。このことを今日子は勘づいてしまい、今日子は秀幸に頼み、自身も椿を身ごもる事に成功する。樹は椿が本当の子供じゃないと知りつつも愛情を注ぎ、秀幸もまた身ごもった百合子を放ってはおけず、どこにも行くあてのない百合子にこの家を貸してあげたのだ。だが出産してしばらく後に、百合子は赤子の七桜と共に消えてしまう。
百合子はその後、百合子を探してあてた樹から光月庵で働かないかと提案され、行くあてのない百合子はその提案を受け入れ、光月庵で住み込みで働く事になった。しかしその時偶然に、今日子の話を立ち聞きしてしまう。今日子が樹を手に入れるために、裏で光月庵の経営が傾くように画策していたのだった。百合子と樹はこの事実を知り、2人は光月庵を手放して2人で生きていこうと決める。
しかしその次の日、樹は何者かに刺されて殺されてしまう。秀幸は息子の多喜川が事件当日アリバイがなかったため、多喜川が樹を殺したのかと疑念がよぎった。そこで秀幸は百合子が七桜に宛てた手紙の続きに、秀幸の家から出た後の出来事が綴られた手紙を隠し、百合子に容疑がかかったまま放置して息子の嫌疑を隠ぺいした。そうして秀幸自身はその罪に耐えられずに、何もかも捨てて死んだ人間として隠居生活を送っていたのだ。

事件の真相

光月庵に戻った七桜と椿はその日、就寝することにした。だが深夜、七桜を殺そうと今日子が光月庵に現れ、短刀を手に七桜の部屋に忍び込む。しかし間一髪、七桜は多喜川に助けられ命拾いするものの、七桜を殺せなかったことに今日子が逆上し、再び短刀を七桜に向ける。それを庇った多喜川は刺されてしまうが、多喜川は今日子に「これで地獄に引きずりこめる」と言う。異変に気づいた椿が七桜の部屋に現れ、樹を殺したのは多喜川なのかと訊ねると、それに対して今日子は「犯人は多喜川の母、美由紀(みゆき)」と告げた。
樹刺殺事件の前日、今日子は百合子と樹を引き裂くためにある策を考えていた。それは多喜川の母の美由紀を焚きつけ、深夜の光月庵に忍び込ませて自身を刺殺させるつもりでいたのだ。そうして美由紀に刺された後は、今日子は自分を殺しに来たのは百合子だと、隣で寝ている椿に証言するつもりでいた。そうすれば百合子と樹は結ばれずに、永遠に仲を引き裂けると考えていたのだ。ところが美由紀は、誤って樹を殺してしまう。多喜川は母の美由紀が殺人を犯した事を知りつつも、その罪を隠し続けていたのだ。こうして事件の真相は明らかになった。
しかし事件の真相はもうひとつあった。今日子はその後外を徘徊し、樹と椿の幻影を見る。しかしそこは電車の線路の中であり、今日子は電車に轢かれそうになっている所を椿が助けに入る。今日子は椿に何故助けたのか聞くと、椿は樹が息絶える前に「今日子を守ってやって欲しい」と伝えられていたことを話す。あの日、樹が刺されたのは就寝前だった事から、殺しに来たのが女性であれば体力差で優位に防げたはずだが、その殺意が今日子に向けられている事を知って、樹は今日子をかばったのではないかと推察した。樹刺殺事件の真相は、樹が今日子を想い、全力で守ろうとして起きた悲劇なのだと椿は話した。さらに椿は、樹は今日子を女性として愛せていなくても愛情はあったのだと伝え、椿も今日子に生きていて欲しいと告げると、今日子はそれを聞いて泣き崩れた。

その後椿は光月庵を去り、新天地でお菓子を作っていこうとしたがそれを七桜は引き留める。そうして七桜は椿に逆プロポーズし、お互いの傷つけあった過去や間違いの中でそれでもお互いを必要とし、惹かれ合った事実を認め、七桜と椿は一緒になることを誓い合う。
こうして2人は結婚し、光月庵と花がすみの2店舗を両立させつつ、共に手を取り合ってお菓子を作り続ける事になった。

『わたしたちはどうかしている』の登場人物・キャラクター

主要登場人物

花岡七桜(はなおか なお)

本作品の主人公。幼い頃に母の百合子に連れられて光月庵で過ごしていた。そのときに椿から名前に桜が入っていることから「さくら」と呼ばれ、以来光月庵に住んでいた頃は皆から「さくら」と呼ばれるようになる。百合子と椿から和菓子を教わって以来、和菓子づくりにのめりこみ、その後和菓子職人の道に進んだ。光月庵で起きた事件をきっかけに、赤色を見ると動悸が激しくなってしまい、和菓子に赤い着色をする事ができない。

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