ホムンクルス(漫画・映画)のネタバレ解説・考察まとめ
『ホムンクルス』とは、2003年より山本英夫が『週刊ビッグコミック スピリッツ』で連載していた漫画、およびそれを原作にした2021年公開の映画作品。
映画化が発表された2020年時点でのコミックス累計発行部数は400万部を超えており、コミックス版の衝撃的な最終話も話題となった。
「第六感が目覚める」というトレパネーション手術を受けた主人公は、人々の心の歪みを投影した「ホムンクルス」が見える能力を得て、次第に自らの内面とも対峙していくようになる。
実際にホームレス生活を送ってみた作者の山本英夫
本作の作者である山本英夫は、代表作『のぞき屋』執筆時には探偵学校に潜入するなど、細かな取材や実体験に裏打ちされたリアリティのある描写に定評があるが、本作執筆にあたっては実際に西新宿の公園でホームレス生活を送り、睡眠療法についても学んでいたという。
ロシアに実在するトレパネーションの研究機関
ロシアのサンクトペテルブルクには「トレパネーション研究所」が実在している。
この研究所では、トレパネーションを行うことによって得られる様々な健康効果についての研究がされているという。
『ホムンクルス』の原作漫画と映画の違い・相違点
名越と伊藤の職業の設定変更
原作では名越は外資系金融会社勤務、伊藤は医大生となっているが、映画版ではそれぞれ保険査定員と研修医となっている。
ユカリの本心を知るきっかけがあったSNSの「裏垢」
ユカリが名越の車の中に置き忘れていた携帯電話の内容を見ることから、彼女が内心で抱えているコンプレックスに気が付くという点では共通しているが、原作連載当時から映画化までには10数年経過していることもあり、携帯電話はスマートフォンへ変わっている。
原作では、携帯電話に残された文章を見てユカリの本心の一端を見た名越だが、映画版ではSNSの裏アカウント(裏垢)にアンクルカットの画像と共に文章が添えられているのを見る形に。
「チヒロ」の登場
映画版では伊藤の勤務先の病院で名越が出会う「のっぺらぼう」のようなホムンクルスを持った女性として、チヒロが登場する。
記憶喪失に陥っており、失った記憶を取り戻す治療のために病院に通っている女性だが、名越は彼女が「ななこ」であると信じ込んでいた。
後になって記憶を取り戻したチヒロは「自分はななこを死なせた事故の車に同乗しており、罪滅ぼしのため、記憶を失った名越の前にななことして現れ、寄り添っていた」という真実を語った。
原作には登場しないながらも、映画版の展開において非常に重要なキーパーソンとなっているキャラクターである。
変更されたななこの人物像
原作版では「整形する前の名越と心を通わせて交際していたが、不美人ゆえに妊娠中の子供もろとも名越に捨てられた」という設定のななこ。
映画版では、同棲している恋人という設定は共通しているものの、遊び回って自宅に帰らず、向き合ってくれない名越に対して不満を募らせている女性となっており、容姿に対する言及はない。
更に、生死が不明の原作版に対し、映画版では自分と向き合ってくれることをしない名越に対して不満を露にして家を飛び出し、追いかけてきた名越と共に交通事故に遭ってしまう。
この事故でななこは亡くなり、死後に名越は彼女が妊娠していたことを知った。
グッピーから金魚へ変更された伊藤のホムンクルス
原作版での伊藤のホムンクルスは、人型の水の中に一匹のグッピーが隠れていたが、それは、厳しい父親に抑圧されている彼の中での「美への憧れ」を象徴するものだった。
名越との対話を経て父と和解した彼は、最終話で女性の姿で登場している。
映画では、人型の水という点では共通しているものの、グッピーは金魚に変わっている。
この金魚は、伊藤に対しては無関心だった父が可愛がって飼育していたというもの。
「父に見てほしい」という気持ちを募らせた少年時代の伊藤が殺してしまったことがトラウマとして、ホムンクルスに表れていた。
この設定変更に伴ってか、映画版では伊藤が女装をする展開はなくなっている。
ラストシーンの大幅な改訂
伊藤が警察と共に彼を見つけた時には、名越は孤独感から手術を繰り返し、完全に壊れてしまっていた、というのが原作版のラストシーンであるが、映画版では、ななこを失った時の記憶を取り戻し、その上でチヒロを許して共に旅に出る、という形に変更されている。
これに対し、原作ではあるがままの自分を受け入れることができるようになった伊藤は、映画版では名越に胸の内を吐き出した後で自らにトレパネーションを施している。
その後、屋上から虚ろな目で街を見下ろしているところが最後の登場シーンであり、その後の安否は不明。
「自分を見てほしい」という欲求が強く出ていた点などは、原作版での名越の設定の一部を引き継いでいるようにも窺える。
『ホムンクルス(映画)』の主題歌/挿入歌
主題歌:millennium parade「trepanation」
作詞:Friday Night Plans
作曲:Daiki Tsuneta
歌唱:millennium parade
millennium paradeのメンバーとしても活動する音楽家ermhoiと江﨑⽂武は、映画版の劇中⾳楽も担当している。
Related Articles関連記事
殺し屋1(漫画・映画)のネタバレ解説・考察まとめ
『殺し屋1(いち)』とは日本のバイオレンスアクション漫画である。原作は山本英夫で1998年から週刊ヤングサンデーに掲載されていた。過激な暴力表現が特徴であり、2001年に三池崇史監督で実写映画化された時にはあまりにも激しい暴力シーンのため、性描写以外では初のRー18指定となった。元いじめられっ子の主人公「城石一(イチ)」は謎の男(ジジイ)のマインドコントロールによって凄腕の殺し屋に仕立て上げられていた。新宿歌舞伎町にある「ヤクザマンション」を中心にした暴力団との攻防・混沌を描く問題作。
Read Article
【トラウマ】痛いシーンのあるマンガまとめ
マンガってつまるところ「絵」なんですよ。それでも読んでいて「痛い」という感情が思い浮かぶのは、書き手の表現が優れている証拠だと思います。というわけで[痛い」シーンのあるマンガをまとめてみました。
Read Article
タグ - Tags
目次 - Contents
- 『ホムンクルス』の概要
- 『ホムンクルス』のあらすじ・ストーリー
- トレパネーション実験
- 「ホムンクルス」との邂逅
- 砂の女子高生
- 名越と伊藤
- 見えなくなるホムンクルス
- 名越の崩壊
- 『ホムンクルス』の登場人物・キャラクター
- メインキャラクター
- 名越 進(なこし すすむ)/演:綾野 剛
- 伊藤 学(いとう まなぶ)/演:成田 凌
- サブキャラクター
- 組長(くみちょう)/演:内野 聖陽
- ユカリ/演:石井 安奈
- 七瀬 ななこ(ななせ ななこ)/演:伊藤 茄那
- ななみ
- ケンさん
- イタさん
- 伊藤の父(いとうのちち)
- 映画版にのみ登場する人物
- チヒロ/演:岸井 ゆきの
- 『ホムンクルス』の用語
- ホムンクルス
- トレパネーション
- 『ホムンクルス』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 伊藤学「要は、人々の心の深層に沈んだ歪みが、いろいろな化け物…「ホムンクルス」として見えるんです。」
- 名越進「キミ…どうしてそんなことするんだ…?」
- 伊藤学「ホムンクルスが…自分自身だということを…」
- 名越進「ひとつになろう。」
- 最終話の名越の笑顔
- 『ホムンクルス』の裏話・小ネタ・トリビア/エピソード・逸話
- 心理状態が表れた名越の寝相
- 実際にホームレス生活を送ってみた作者の山本英夫
- ロシアに実在するトレパネーションの研究機関
- 『ホムンクルス』の原作漫画と映画の違い・相違点
- 名越と伊藤の職業の設定変更
- ユカリの本心を知るきっかけがあったSNSの「裏垢」
- 「チヒロ」の登場
- 変更されたななこの人物像
- グッピーから金魚へ変更された伊藤のホムンクルス
- ラストシーンの大幅な改訂
- 『ホムンクルス(映画)』の主題歌/挿入歌
- 主題歌:millennium parade「trepanation」