ホムンクルス(漫画・映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ホムンクルス』とは、2003年より山本英夫が『週刊ビッグコミック スピリッツ』で連載していた漫画、およびそれを原作にした2021年公開の映画作品。
映画化が発表された2020年時点でのコミックス累計発行部数は400万部を超えており、コミックス版の衝撃的な最終話も話題となった。
「第六感が目覚める」というトレパネーション手術を受けた主人公は、人々の心の歪みを投影した「ホムンクルス」が見える能力を得て、次第に自らの内面とも対峙していくようになる。

『ホムンクルス』の概要

『ホムンクルス』とは、2003年より『週刊ビッグコミック スピリッツ』で連載していた漫画、およびそれを原作にした2021年公開の映画作品である。
作者は1988年にちばてつや賞 ヤング期待部門を受賞し、代表作に『のぞき屋』や『殺し屋1』を持つ山本英夫。
2008年から2009年まで1年間休載を挟んだが、コミックス累計発行部数は2020年時点で400万部を超える人気を誇った。
コミックス最終回の衝撃的で救いのないラストは多くの考察を呼び、いわゆる「鬱漫画」の一角として語り継がれている。
2020年には清水崇監督による映画化が発表され、2021年に公開された。
高級ホテルとホームレスたちが住まう公園に挟まれた道路で車上生活を送っていた名越はある日、頭蓋骨に穴を空け、第六感を目覚めさせるという未承認の医療行為「トレパネーション手術」の被験体になることを持ちかけられる。
手術を受けた名越は、左目だけで見ると特定の人物の姿が砂の集合体やロボットなどの異形として見えることに気が付き怯えるが、それはその人物の心の中のトラウマやコンプレックスを捉えたものだった。
名越はホムンクルスを通じて自らの心の奥底にある歪みとも向き合い、「本当の自分」というものについて考え始めるが、次第にこの能力に依存していくようになる。

映画版では名越の過去についてや、映画オリジナルの登場人物であるチヒロが登場するなどの改変が加えられている。

『ホムンクルス』のあらすじ・ストーリー

「ホムンクルス」との邂逅

外資系金融企業のエリートサラリーマンだった名越 進(なこし すすむ)は、高級ホテルとホームレスの住まう公園の間の道路で車上生活を送っていた。
今一つ他のホームレスとも馴染めず、元の暮らしに戻ることもできず、中途半端な日々を送っていた彼の元にある日、医大生を自称する謎の男・伊藤 学(いとう まなぶ)が現れる。
伊藤は名越に、頭蓋に穴を空けることで脳の潜在能力を引き出し、第六感を目覚めさせるという未承認の医療行為「トレパネーション」の被験体になることを持ちかける。
その誘いを一度は断った名越だが、金銭的に困窮したことで、高額な報酬を提示されたその申し出を受けることにした。

手術そのものは簡単に終わった。施術直後は何の変化もなかった名越だが、数日後、左目のみで見ることで、一部の人間が異形に見えるという異変に襲われる。
この異変に恐怖を覚えた名越が伊藤に相談すると、伊藤は「その人物の抱えたトラウマやコンプレックスを投影させたものを見ている」と推測し、その異形たちを「ホムンクルス」と名付けた。
名越はこの「見える」能力を駆使し、幼い頃の事故で負った罪悪感から自らを守るロボットのようにホムンクルスを構築してしまったヤクザの組長や、砂の集合体のような姿に見えた女子高生の心に触れて彼らを救っていくが、救った人間のホムンクルスの一部が自分の身体に転移していることに気が付く。

自分と向き合っていく名越

嘘にまみれた日々に生きる意味を見失い、車上生活を送っていた名越。
現在の顔すら整形手術を繰り返して作ってきた名越は、人の心の「歪み」の象徴であるホムンクルスを目の当たりにしてきたことで、自らの存在意義に目を向けるようになっていった。
そんな名越の前に伊藤が現れ、トレパネーション実験の中止を申し渡した。
名越はそれなら穴を塞ぐようにと告げ、それを了承する伊藤。しかし穴を塞ぐ直前に彼のホムンクルスについて伝えると、伊藤は非常に強い動揺を見せる。
「お互いに、ホムンクルスからは逃げられない」と伊藤に告げた名越は、ホムンクルスが見えない右目を縫合して塞いでしまった。
しかし、右目を塞いでホムンクルスしか見なくなったことで、名越はますます追い詰められていく。
限界を感じた名越は右目を縫合していた糸を切り、ホムンクルスから自分を解放することにした。

入院中の父に会いに行く伊藤に同行し、そこで父子の関係性を目の当たりにした名越。
彼は伊藤の嘘を暴くため、あらかじめ買っておいた女装用の服を手渡して顔に化粧を施し、ディナーに誘った。
ディナーの席で互いの心の歪みの真相を明かそうと問答する2人。
伊藤のホムンクルスが水のような姿であり、その中に一匹のグッピーがいたことを名越が明かすと、伊藤は激しく動揺し、堰を切ったように自らのことを語り始める。
後日、グッピーと水槽を携えて父の病室を訪れた伊藤は、彼に勉強を強いるあまりにグッピーを殺してしまったという父の独白を聞いた。

父子のわだかまりが解け出していたその頃、伊藤との対話を機に「整形前の自分の顔や、その当時の記憶そのものを思い出す」という自らの課題を定めた名越は、車の中で過去の自分の写真を見つけていた。

見えなくなるホムンクルス

名越は、伊藤に整形する前の自らの写真を見せる。
そして「妬みや嫉妬で前を向けなかった自分を見てくれた女性がかつて一人だけいた」ということを告白した。
徐々に嘘偽りのない自分を取り戻しつつあった名越だが、それを境にホムンクルスが見えなくなり始めていることに気が付く。
まだ自らのコンプレックスを乗り越えられていなかった名越は、伊藤に再度の手術を依頼するが、危険性を説かれて断られる。
しかし、手術に狂気じみた執着を見せる名越は、伊藤の家から手術道具を盗み出してしまう。
深夜、公園のトイレで電動ドリルを使い、自らの額に再び穴を空ける名越。
死ぬことは免れたが、多量の出血と不衛生な場所で手術に及んだことから、体調に異変をきたしてしまう。

そんな名越に、どこか見覚えのある「顔が変わる」ホムンクルスを持った女が接近するが、彼が何のステータスも持っていないと見るや、彼女は立ち去って行った。

伊藤に助けてもらった名越は、顔が変わる女と再度の接触を試みていた。
「ななみ」と名乗った女は名越に金を渡して自宅へ送るよう告げ、そのまま部屋に彼を連れ込む。
自らと女がどんな間柄にあったのかを探る名越は、この女こそ過去の名越を見てくれた唯一の存在であるかつての恋人、七瀬 ななこ(ななせ ななこ)である可能性に思い至る。
名越は、ななみのホムンクルスと対話し「整形してから嘘しかつけなくなった」ことを指摘する。
名越は自分の過去についても語り、ななみのホムンクルスの中に不細工な男の顔が見えることを伝えると、彼女はその場を逃げ出してしまった。

「心を見る」手段

翌日、伊藤にこの件を報告していると、元板前のホームレス仲間・イタさんが立ち退きを巡って役所の人間と揉めているのを目撃する名越。
後日、イタさんのテントでホムンクルスと対話する名越だが、対話によって救われたかに見えた彼は自ら命を絶ってしまった。
更に車が駐禁を切られてしまい、自分の居場所はどこにもないことを改めて突きつけられたような気持ちになった名越は、ますます孤独感を深めていく。

そんな名越の前にななみが現れ、ヤクザのパパから盗み取ってきた現金を勝手に車に積み、一緒に逃げようと声をかける。
名越は、車内で彼女にななみとの思い出についての話をした。
不美人同士だったが、互いの内面を見ながら付き合っていた過去。
しかし名越は作り物の美人に気をやってしまい、ななこと、そして彼女との間にできた自身の子供を見捨ててしまったこと。
思い出を語り終え、自分と一緒になることを強要する名越から逃げようとするななみだったが、名越が追ってきたヤクザのトラウマを指摘して追い払うのを見て、考えを改める。
本当にホムンクルスによって他者の心が見られると信じたななみに対し、名越は「他者の心を見る方法がある」と伝える。

名越の言う「心を見る手段」とはトレパネーションのことだった。名越は、彼女にも自らの手で手術を行う。
頭蓋骨にも自らと同じように穴を空けたななみと額を合わせると、彼女の顔は自分の顔に変わって見えた。
名越は自分と同じ顔をしたななみと、そのままベッドを共にする。
事後、眠りに落ちたななみの顔はいつの間にか元通りになっていた。
自分と同じ顔をしたななみと交わることでようやく生への実感を得て、部屋を出た名越の目には、全ての人間が自分と同じ顔に見えていた。

エンディング

それから一年後、人気のない海辺で車中生活をしていた名越の元を、すっかり女性の姿になった伊藤が訪ねていた。
車の中で会話をする2人。名越は久しぶりに会う伊藤に対し「きれいになった」と伝える。
その一方で、頭を布で覆い、右目に眼帯をしていた名越は他人を見ることに疲れ切っている様子だった。
彼が頭に巻いていた布を取ると、名越が自らトレパネーション手術を施した跡がいくつも残っていた。車の後部座席に置いてある段ボールには、手術のための道具が積まれている。
名越は「自分を見てくれる人を探している」と伊藤に告げると、自分のせいだと涙する彼の頭に電動ドリルを宛がった。
絶望した伊藤が覚悟を決めて目を閉じ、謝罪を繰り返していた時、名越の目にパトカーと、近寄ってくる警官たちが映った。
不思議なものを見るような顔をして電動ドライバーを置き、車外へ出ていく名越。
名越の目には、無言で近寄ってくる警官たち全員が名越の顔に見えていた。

泣き崩れる伊藤を車内に残し、名越は彼らに向かって気さくに手を上げ、親し気な様子で近づいていくのであった。

『ホムンクルス』の登場人物・キャラクター

メインキャラクター

名越 進(なこし すすむ)/演:綾野 剛

本作の主人公。34歳。
外資系金融会社勤務のエリートだが、生きる意味を見失い、西新宿の高級ホテルと公園の間の道路で車上生活を送っていた。
強い虚言癖があり、公園に住んでいるホームレスともうまく馴染めずにいる。
容姿の劣った自分には何もないという強い劣等感で精神を蝕まれており、交際していたななこと彼女が身籠っていた自らの子供を、自身と同様に不美人だからと捨てた過去がある。
劣等感から逃れるために整形手術を繰り返しており、整形前の顔については記憶の一切を失っていた。
ある日、突然現れた伊藤にトレパネーションによる実験を持ちかけられ、一度は断るも、金銭苦によりこれを了承。
その結果、他者の心の中にあるコンプレックスやトラウマなどの歪みが異形となって表れた「ホムンクルス」が見えるようになった。
ホムンクルスを通じて他者の心を見るようになったことで、自らの内心に抱えたコンプレックスとも向き合うようになっていくが、それと同時に「見る」能力に対する依存を深め、自ら再手術をするまでになっていく。
最終的には「自分のことも見てほしい」という欲求が露になったことで、一部を除いた全ての人間が自分と同じ顔に見える状態に陥った。
コミックス版のエンディングでは、自らトレパネーションの手術を繰り返しながら車上生活を続けているところを伊藤に見つかり、手術を施したななみを死なせてしまった件で警察に追われていたことが仄めかされている。

映画版では、ななこは既に交通事故死しているという記憶を取り戻し、伊藤のホムンクルスとも対峙して彼の本心に触れている。
最後にはななこを奪う事故の原因となったチヒロを許し、共に旅立っていく様子が描かれていた。

伊藤 学(いとう まなぶ)/演:成田 凌

医大生。22歳。裕福な家庭で生まれ育っているが、奇抜な出で立ちで、どこか不気味な雰囲気を持っている。
名越に興味があったようで、彼に高額な報酬をちらつかせ「トレパネーション」による医療実験を持ちかけた。
知能が高く、医学的、心理学的根拠から、名越が見ているものは他者の心の歪みであることを推測している。
その異形を「フラスコの中の小人」になぞらえ、ホムンクルスと名付けた本人。
外面を取り繕ってきた名越に対し、内面を取り繕って生きてきているという共通項があり、このために反発しあって討論に発展してしまうこともある。
しかし着眼点は適格で、「名越が見ているホムンクルスは、名越自身の心の歪み」という指摘をし、この発言は、その後の名越の運命を示す重要なものとなった。
小学生の頃に飼っていたグッピーの美しさに憧れて女装をしていたが、非常に厳格だった父親にそのグッピーを殺されてしまったことがトラウマになっている。
そのせいか、名越が見た伊藤のホムンクルスはグッピーが映る水の塊ような姿をしていた。
最終話では失踪した名越を探し当てるが、完全に壊れてしまった彼を見て、実験を持ちかけた自らの罪の重さを再認識し、後悔と謝罪を口にしながら泣き崩れている。

映画版では医大生ではなく医師となっており、原作よりも更に「現実主義でドライな若者」という部分が目立って描かれている。
記憶を取り戻した名越に自身のホムンクルスについて指摘を受け、自身の本心を吐き出した後、自らにトレパネーション手術を施した。

サブキャラクター

組長(くみちょう)/演:内野 聖陽

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