cocoon(今日マチ子)のネタバレ解説・考察まとめ

『cocoon』とは、今日マチ子によって2009年3月から2010年5月にかけて秋田書店の『Eleganceイブ』に連載された戦争漫画である。単行本は2010年8月、文庫版は2015年4月に、それぞれ秋田書店より刊行された。
沖縄のひめゆり学徒隊から着想を得た戦争と少女の物語。女学校に通う少女・サンの視点から、刻一刻と悪化していく戦況と、その中を懸命に生きた少女たちの姿が描かれる。戦争の悲惨さと、その中でも失われない主人公の少女性の描写が見どころである。

マユ「蚕は手榴弾なんて使わないんだ。自分で繭を破るんだ」

手榴弾で自決している少女たちを見て動揺するサンを励ますマユ(画像右)

かつての級友たちが集団自決しようとする場面から逃げ出したサンに、マユがかけた言葉。
一度同朋の兵士に襲われかけたことのあるサンは、純潔を守って死のうとする級友たちと一緒に死ぬ資格はないと考えてその場から走り去る。そんなサンを追いかけてきたマユは、「蚕は手榴弾なんて使わないんだ。自分で繭を破るんだ」とサンを励ます。「繭」とは悲惨な現実から精神を守るための想像力のことを指し、「繭を破る」とは夢の世界から抜け出す、すなわち戦争を生き延びて日常生活に戻ることを示している。

サン「繭(マユ)が壊れて私は羽化した。羽があっても飛ぶことはできない。だからーーー生きていくことにした」

マユを亡くしたことで、サンは夢から覚めたことを自覚する

ラストシーンでのサンのモノローグ。なお、この時だけ「繭」という漢字に「マユ」というルビがふられている。
「私たちは想像の繭に守られている」というおまじないをかけて自分を守り続けてくれたマユを亡くしたサンは、戦後自宅に帰る最中に「繭が壊れて私は羽化した。羽があっても飛ぶことはできない。だからーーー生きていくことにした」と心の中で語っている。自身が作り上げた夢の世界から覚めたことを悟ったサンが、現実の世界を力強く生きていこうと決意したことを示す言葉である。
また、このシーンで回想されるマユの亡骸は上半身を晒しているが、その胸は少年にしか見えない。マユの死以降、それまでは白い影で描かれていた男性たちが詳細に描かれるようになったことからも、サンの繭(夢の世界)が破壊されたことが暗示されている。

『cocoon』の用語

コクーン

コクーン(cocoon)という英単語には、「繭」という意味があるほか、「保護するために繭のようにくるむ」という意味がある。本作では、少女が凄惨な現実から自身の心を守るために思い描く想像や空想が「繭」という言葉で表現されており、それがタイトルに採用されている。

ガマ

洞窟や壕のことを指す沖縄方言。本作の舞台がどこかは明言されていないものの、時折沖縄方言が登場することで、この物語が沖縄のひめゆり学徒隊がモチーフとなっていることが仄めかされている。
サンたち看護隊が派遣された先ではガマが病院として利用されていたが、戦況悪化に伴って軍の基地として占有され、サンたちは退去を余儀なくされた。看護隊解散後の逃亡途中でも、たびたび病院として使われていたガマが登場している。

ウージ

さとうきびを指す沖縄方言。沖縄の気候に適し、昔から農家の人々の暮らしを支えてきた農作物であった。
ユリとマリはカラスがくわえてきたウージを2人で貪り食い、「今まで食べた中でいちばん美味しかった」と言って息絶えた。

『cocoon』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

『cocoon』は現代の少女が夢に見た戦争

作者である今日マチ子は、本作のことを「現代の少女が、昔の戦争の本を読んで、夢を見る。そういう話を書こうと思いました」と語っている。着想のきっかけとなったのは沖縄のひめゆり学徒隊の話だが、「夢の中で再生される戦争の話のため時代も場所もあいまい」としている。
また、主人公のサンが最後まで生き延びるのは、「たとえどんな悪夢であっても、夢の中では自分と自分を見つめる視点は決して死ぬことがないから」である。

兵隊たちが白い影で描かれるのは作者の少女時代の思い出から

本作において、サンをはじめとする少女たちは克明なタッチで描かれているのに対して、兵隊たちは皆、目鼻のない白い影法師の姿で描かれる。
これは今日マチ子の少女時代の思い出を反映しており、今日マチ子は本作の後書きで「少女時代のわたしが、潔癖さをつきつめるうちに、男性の存在がないようにふるまっていた思い出からです」と兵隊を白い影で描いた理由を語っている。

終戦80年を記念して2025年にNHKでアニメ化

本作は、終戦から80周年となる2025年夏に、NHKにてアニメ化される。アニメーションプロデューサーは元スタジオジブリの舘野仁美氏、アニメーション制作をササユリが担当する。
NHKは制作決定時に、「戦後80年の節目の年、幅広い世代があらためて『戦争』について考える作品を世に届けたい。そんな思いから『cocoon(コクーン)』のアニメ化を決定しました。」とコメントしている。

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