文豪失格(文豪シリーズ)のネタバレ解説・考察まとめ

『文豪失格』とは、AIR AGENCY・フロンティアワークスのドラマCD『文豪シリーズ』のコミカライズ版で、2015年から千船翔子がCOMICリュエルにて連載した。単行本は全3巻が発売されている。
天国で暮らす個性豊かな文豪たちを描くギャグストーリー。夏目漱石、芥川龍之介らがライトノベルを書いてみたり、ラジオのパーソナリティを勤めてみたりと様々なことに挑戦していく。
笑いを通して文豪の代表作や性格、それぞれの人間関係も学べるため、史実満載の「教養ギャグ」として人気だ。

教師としての夏目漱石

文豪学園に夏目漱石が赴任してきたという設定で描かれた回では、夏目の教師像がよく描かれている。中原中也や芥川龍之介らが生徒役で登場するのだが、教室で酒を飲んで暴れたり、タバコを吸い続けたりと問題児だった。夏目は厳しい教師なため、余計問題児たちは反発する。そんな中、生徒の一人である太宰治が欠席していることに気づく。太宰の机を見ると大量の落書きがあり、夏目は「酒、タバコ、喧嘩はなんとか目をつぶってやったが、いじめだけは絶対に許さんぞ!」と激昂する。しかし、その落書きは太宰が自分で書いたものだった。どうやら、そうすることで「いじめられているかわいそうな自分」を演出するのが趣味らしい。授業後、職員室に騒動を謝りに来た芥川や宮沢賢治に対して、改めて太宰を心配する言葉をかける夏目。偏屈に見えるが、もしかしていい人なのかもと生徒が思い始めたところで、今度は太宰が校舎から飛び降りると騒ぎを起こした。川端康成曰く「文豪学園の恒例行事」と言われるほど同じことを繰り返しているらしいが、夏目は必死に引き止める。実は、夏目は受け持った生徒が自ら命を経ってしまった経験があるのだ。予習を何度も怠る生徒を叱責したところ、その二日後に生徒は華厳の時から飛び降りた。実際の理由は夏目に叱られたからというわけではなかったが、それでも夏目は終生自責の念に駆られていた。「私は神経質で怒りっぽく、教師に相応しくないことは分かっているが、このクラスを受け持ったからには最後まで面倒を見るつもりだ」と太宰に言い聞かせる夏目の姿には、自身の性質と教師という職の性質に葛藤しながらも、教師であるからには教育者であろうとした彼の真面目さが窺える。

芥川龍之介と『蜜柑』

芥川の小説『蜜柑』の回想シーン

教師経験者の文豪がゼミ講師として働く設定の「文豪ゼミナール」で講師役を務めた芥川龍之介。彼は海軍機関学校で教鞭を取ったことがある。芥川の授業スタイルは、まず雑談で興味を惹く話題を話すことから始めていたらしく、この回でも自身の体験談を語る。内容は、芥川の代表作の1つである『蜜柑』だった。芥川が汽車に乗っていると、どうにも垢抜けない少女が乗ってきた。芥川は、少女の不清潔な身なりや、三等車両の切符を握っているのに二等車両に乗っていることなどに不快感を覚える。さらに、トンネルに入るタイミングで窓を開けられ、石炭を燃やした煙が車両内に入ってきた。芥川は少女を叱責しようとするのだが、トンネルを抜けた窓の向こうでは、少女を姉と呼ぶ少年達が手を振っていた。少女は風呂敷に入れていた蜜柑を弟たちに向けて投げる。「お姉ちゃんありがとう!大切に食べるよ!」と喜ぶ弟に、少女は静かに涙を流した。芥川は、少女がこれから奉公先に向かうのだと理解してしまう。「小鳥のように声を上げた三人の子供たちと、そうしてその上に乱落する鮮やかな蜜柑の色と」「私の心に上には、切ないほどにはっきりと、この光景が焼き付けられた」と作品内から言葉を引用しながら、弟達目掛けて空を舞う蜜柑、震えながら車内で涙する少女の姿が印象的に描かれている。子どもであっても家族と離れて働かなければいけなかった時代をありありと描いた心に訴えかける話だ。生徒役の太宰治らは感涙してしまい、結局授業にはならなかった。

夏目漱石「もし何処かにこだわりがあるなら、それを踏み潰すまで進まなければ駄目だ」

「文豪ゼミナール」で塾長役を務める夏目漱石は、芥川龍之介ら講師が作家になりたい思いを抱えていることに気づいていた。将来に悩む芥川らと、進路に不安を抱える生徒達を目にして、漱石は「生活のために教師をしているに過ぎない」と常に陰鬱な日々を送っていた若い自分を思い出す。「君たちには私のように悩んでほしくない」と語り始めたのが「もし何処かにこだわりがあるなら、それを踏み潰すまで進まなければ駄目だ!」という言葉である。「人生は一度きりだぞ!やれるところまでやり尽くしてみろ!」と生徒らを叱咤激励する。「この世に生まれら以上何かしらしなければいけない。若い君たちには諦めないでもらいたい」と応援する夏目に、生徒よりも講師の坂口安吾が感動で泣き叫んでいた。一連の言葉は、夏目漱石が学習院の生徒に向けて行った公演「私の個人主義」から引用している。

裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

妻と仲が良い泉鏡花

本作では、ピンクの着物で大のうさぎ好きという女性のような雰囲気で登場する泉鏡花(いずみきょうか)。漫画内では妻が登場するシーンがないが、ドラマCD版では妻と非常に仲睦まじい様子を見せている。紹介文でも「妻と非常に仲が良いリア充」と公言されている。

出版社地下の独房

天国出版の編集長は、手段を選ばない厳しい原稿の取り立てを行うため、文豪たちから恐れられている。そのせいか「編集長に捕まると、出版社の地下にある秘密の独房に原稿を書き上げるまで監禁される」という噂が立っているという。しかし作中では、文豪たちは地下室どころか地獄と見られる場所にまで連れて行かれ、武器を持った編集長に加えて地獄の鬼やら悪魔やらに囲まれ、泣きながら執筆するシーンがある。さらに「今日中に仕上げなかったら、2度と天国に戻れないようにしてやりますから」と脅し文句も口にしていた。

単行本に挟まれている文豪解説

1〜3巻の単行本には、話ごとの合間に実際の文豪の情報が載っている。登場する文豪のプロフィールのほか、生まれ順、没順の表まであり、ちょっとした豆知識としても勉強になる。

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