文豪失格(文豪シリーズ)のネタバレ解説・考察まとめ

『文豪失格』とは、AIR AGENCY・フロンティアワークスのドラマCD『文豪シリーズ』のコミカライズ版で、2015年から千船翔子がCOMICリュエルにて連載した。単行本は全3巻が発売されている。
天国で暮らす個性豊かな文豪たちを描くギャグストーリー。夏目漱石、芥川龍之介らがライトノベルを書いてみたり、ラジオのパーソナリティを勤めてみたりと様々なことに挑戦していく。
笑いを通して文豪の代表作や性格、それぞれの人間関係も学べるため、史実満載の「教養ギャグ」として人気だ。

CV:岡本信彦
1907年4月29日生まれ、1937年10月22日没。昭和期に活躍した。生涯で350篇以上の詩を残している。代表作は『サーカス』『汚れっちまった悲しみに……』。フランスの印象派詩人に感化されつつも独自のオノマトペを使った作風で知られている。当時は名が知られていなかった宮沢賢治を高く評価していた。
小柄で少年のような風貌だったが、酒癖が悪く、飲んでは暴言を吐いたり人に殴りかかったりしていた。太宰治(だざいおさむ)に対しても「青鯖が空に浮かんだような顔をしやがって」と罵倒した。太宰も太宰で中原の才能を認めつつも人柄を嫌っていた。
本作でも言動は変わらず、酒を飲んでは大暴れしている。また、太宰には遭うたびに怒鳴っている。締め切りに間に合わず出版社を爆破しようとしたり、宮沢賢治(みやざわけんじ)が職場いじめにあっていると知ると職場に殴り込みに行ったりと好き放題している。可愛らしい容姿から、谷崎や川端から「中原君には特別に」と物理的に距離の近い対応をされるため気持ち悪がっている。坂口安吾(さかぐちあんご)とは生前からの仲良しで、よく一緒に行動している。

坂口安吾(さかぐちあんご)

CV:立花慎之介
1906年10月20日生まれ、1955年2月17日没。第二次世界大戦前から戦後にかけて活躍した。純文学、歴史小説、推理小説と幅広く執筆し、随筆でも知られている。代表作は『堕落論』『不連続殺人事件』など。無頼派と呼ばれる反権威主義や奔放な生き方で人気を集めた。幼少期から破天荒な性格で、学生時代も問題行動の多いヤンチャな人物だった。大人になってからは小学校で人気の教師だった時期もあるが、相変わらず突拍子もない行動をすることがあり、突如カレーライス100人前を注文したエピソードがある。しかし、ナイーブな面もあり、大学時代に交通事故で頭蓋骨に亀裂が入り、後遺症に苦しんだ。強い被害妄想を抱くようになり、後に覚醒剤中毒の遠因になっていく。晩年は鬱状態になり、覚醒剤の大量服用で狂乱状態になっていた。
本作でも相変わらず破天荒な生活を送っており、愉快犯としてよく騒動を起こしている。谷崎潤一郎(たにざきじゅんいちろう)が開店したホストクラブで働いてみた時は、生前と同じくカレーライス100人前を注文する奇行に走った。また、川端康成(かわばたやすなり)と共謀して他の文豪の恥ずかしい手紙を読み上げたり、二人で薬品会社に侵入して文豪たちを幼少期の姿に変える薬をばら撒いたりと犯罪行為も行なっている。また、生前から仲の良い中原中也(なかはらちゅうや)とよく遊びに行っている。

川端康成(かわばたやすなり)

CV:小山力也
1899年6月14日生まれ、1972年4月16日没。第二次世界大戦前、後にかけて活躍した。代表作は『伊豆の踊り子』『雪国』など。「繊細な感覚で日本人の本質を表現している」として、日本人初のノーベル文学賞を受賞した。無口で眼力が強かったと言われる。眼力の強さは、夜中に川端宅に侵入した泥棒を見つめ続けただけで撃退したほどである。しかし、面倒見は良く、多くの新人作家を発掘したことから周囲の人に慕われていた。中学生時代の下級生で寮の同室だった少年との愛情関係を赤裸々に語ったりと開放的な面も持ち合わせている。
本作では随分と弾けた性格になっており、眼力や無表情さは変わらないが、坂口安吾(さかぐちあんご)とともに愉快犯的犯行を繰り返して多くの文豪をトラブルに巻き込む。突拍子のない無茶振りも多く、周りを困惑させ続けている。なぜか中原中也(なかはらちゅうや)に対しては、何かにつけて「中原くんにだけ教えてあげますが」と特別扱いしている。その度に中原は「いや、いいよ…」と普段の態度からは想像できないほど小さくなって断っている。

志賀直哉(しがなおや)

CV:小野大輔
1883年2月20日生まれ、1971年10月21日没。明治期から昭和期にかけて活躍した。代表作は『暗夜行路』『和解』。「小説の神様」と称され多くの日本人作家に影響を与えている。不正などには黙っていられない勇猛果敢な人柄で、些細なことには動じずカラッとしていたため多くの人に慕われた。生まれ育ちが裕福なので、当時は高価だった自転車を乗り回したエピソードがある。第二次世界大戦後、人気絶頂だった太宰治(だざいおさむ)の『斜陽』を酷評し、激怒した太宰は志賀を批判する内容の『如是我聞』を発表した。
本作でも、元来の細かいことを気にしない性格で突き進んでいる。運動神経が非常に良く、棒高跳びやプールの飛び込みを軽くこなし、無理矢理連れてきた芥川たちから引かれていた。どこか無神経とも取れる発言が多く、繊細な作家たちを怒らせている。志賀本人はあまり気にしていない。太宰には、文字通り死してなお恨まれている。

宮沢賢治(みやざわけんじ)

CV:中井和哉
1896年8月27日生まれ、1933年9月21日没。仏教信仰と農民生活に根ざした創作を数多く行なった。発表した作品も少なく、生前はほとんど無名だった。没後に彼の作品を愛好する作家らの活動で認知されるようになり、国民的作家になっていった。天体や自然をテーマにした童話は、オノマトペを多用する文体で知られている。心優しく、自分より他人の幸せを優先するような人物だった。小学生の時、悪戯の罰として水を入れた茶碗を下げて廊下に立たされた友人を見て、少しでも茶碗を軽くしてあげようと水を全部飲み干してあげた。
本作は死後の世界なため、登場時点ですでに名の知れた作家になっているのだが、生前と変わらず優しい性格なせいで他の文豪の勢いに押されている。真面目で勤勉。農業に勤しんでおり「イートハーブ宮沢農園」で様々な野菜を育てては、セクシーに見える形の大根などを人にプレゼントしている。性的なことに関心が強いものの、女性嫌いを装うなど恋愛関係はかなり拗らせた男である。閑散期には会社勤めをするが職場いじめにあってしまう。宮沢は生前も職場いじめを経験し、その時の体験を元にしたと見られる作品も執筆した。中原中也(なかはらちゅうや)らに相談したところ、職場に殴り込みに行かれた。

江戸川乱歩(えどがわらんぽ)

CV:鈴村健一
1894年10月21日生まれ、1965年7月28日没。大正から昭和期にかけて活躍。推理小説を得意とし、日本に本格的な推理小説ジャンルを定着させた立役者である。代表作は『怪人二十面相』『D坂の事件簿』『屋根裏の散歩者』など。彼が生み出した名探偵・明智小五郎は、今もなお愛されるキャラクターだ。人付き合いが苦手で引きごもりがちな性格だった。
本作に登場する江戸川も、相変わらず人への苦手意識は拭いきれないが、自身が生み出したキャラクター「怪人二十面相」のふりをすると饒舌に話すことができる。二十面相は20種類の違う顔を持つ変装の達人で、貴重な品物を狙うと前もって予告状を送る大胆不敵な人物だ。江戸川は二十面相になりきっていると高圧的な話し方になるが、普段は気の弱い男である。スランプで小説が書けなかった時にはわざと事件を起こしてネタにしようとした無鉄砲さもある。生前、連載していた推理小説を終盤に入ってから「犯人が思いつかない」という理由で急に打ち切ったことをきっかけに、彼の大ファンだった坂口安吾(さかぐちあんご)に嫌われるようになった。江戸川は坂口のミステリの才能を高く評価しているが、相変わらず天国でも遭遇すると睨みつけられている。

小泉八雲(こいずみやくも)

CV:鈴木達夫
1850年6月27日生まれ、1904年9月26日没。明治時代に活躍し、日本の怪談話を英語でまとめた『怪談』を出版したことで知られている。元々の名前はパトリック・ラフカディオ・ハーンで、アイルランド系・ギリシャ生まれの小説家、日本研究家、英文学者で、元々はイギリス国籍だった。アイルランドからアメリカに移住して、その地でたまたま日本に触れる。英訳の『古事記』などを読んで来日を決意し、1890年に日本に来ると、同年8月には島根県尋常中学校で英語教師を始めた。1896年9月からは帝国大学(現在の東京大学)で英文学を講じる。同年に日本国籍を取得して「小泉八雲」と名乗るようになった。1903年に帝国大学を辞してからは、早稲田で教鞭を執った。ちなみに、帝国大学での小泉の後任は、夏目漱石である。小泉が生徒から人気だったせいで、夏目は生徒から理不尽に反発されて苦労したという。
漫画版では登場しておらず、ドラマCDのみの活躍。天然でKYな元イギリス人として描かれ、非常に日本を愛している。怪談話に詳しく、写真を撮ると時たま何かが映り込むらしい。

菊池寛(きくちかん)

CV:八代拓
1888年12月26日生まれ、1948年3月6日没。『屋上の狂人』『父帰る』などの戯曲や、『忠直卿行状記』『藤十郎の恋』などの小説で知られている。人生観や思想を基盤とした明快な主題を打ち出した作風がが特徴である。実業家としても文藝春秋社を興し、芥川賞、直木賞、菊池寛賞の創設に携わった。若手作家や芸術家との交流を積極的に行い、後進の育成に尽くした。経済的に苦しい文士に対しては気前よく金銭的な援助を行っており、このような行為は日本の文壇の発展と継承に大きく貢献した。麻雀や競馬など賭け事が好きな一面もある。
漫画には登場せず、ドラマCDでのみ活躍している。作中では、作家であり、経営者として描かれる。しかし、お金にはシビアで、お金を借りに来るものに対して、相手を見てから貸す金額を計算していた。落ち着いた性格だが、菊池が第一高等学校3年生だった時に実際に起きた、マントを盗んで質に入れた友人の身代わりに退学となった「マント事件」の話を振ると、途端に不機嫌になる。

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