ガンニバル(漫画・ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ
『ガンニバル』とは二宮正明による漫画作品、およびそれを原作としたドラマ。『週刊漫画ゴラク』(日本文芸社)にて2018年から2021年まで連載され、後に「Disney+」にて連続ドラマ化された。舞台は山間にある小さな村「供花村」。その地に駐在として赴任した主人公・阿川大悟が、供花村の「食人文化」の秘密に迫っていく。ホラーサスペンスの枠に収まらない、それぞれの思惑と葛藤がせめぎ合うヒューマンドラマだ。
『ガンニバル』の概要
『ガンニバル』とは漫画家・二宮正明によって『週刊漫画ゴラク』(文芸社)にて連載された漫画。「マンガ誌編集長が選ぶ2020年のイチオシ作品」にも選出された人気作品だ。2021年には「Disney+」でドラマ化され、主演には柳楽優弥が抜擢された。同ドラマで柳楽優弥は、2023年に開催された釜山国際映画祭のアジアエクセレンスアワード賞を受賞している。国内のみならず、アジアでも脚光を浴びる人気ドラマとなった。
物語は元刑事の阿川大悟(あがわだいご)が、駐在として供花村に配属されたところから始まる。それまでは刑事として一線で活躍していた阿川だったが、自然豊かな供花村に赴任したことで、妻と娘との3人暮らしを穏やかなものにしようと考えていた。そんな矢先、供花村で噂されている「食人文化」の疑惑を知り、阿川の元刑事としての血が騒ぐ。前の駐在の失踪、熊に襲われた老婆の遺体にあった「人間のものらしき」歯型。この村は何か隠している。その手がかりを掴もうと奔走する阿川に、さまざまな危険が降りかかる。
村随一の権力を持つ「後藤家」、失踪した駐在の家族。それぞれの立場の思惑と葛藤、そして覚悟がぶつかり合う。正しさとは何か。大切な誰かを守るとはどういうことか。アクションとホラーの融合したエンターテインメントであり、その息つく間もない展開の中に「生き抜くこと」の真理が織り交ぜられたヒューマンドラマでもあるのだ。
『ガンニバル』のあらすじ・ストーリー
供花村で耳にした食人文化の噂
刑事の阿川大悟(あがわだいご)は、当時担当していた事件の容疑者を射殺したことで左遷される。場所は山間の小さな村・供花村。妻の有希(ゆき)、娘のましろ、3人家族で引っ越してきた。供花村の駐在として穏やかな日々を過ごしていた阿川だったが、あるとき村人が山中で死亡する。被害者は、村の権力者と名高い「後藤家」の当主・後藤銀(ごとうぎん)だった。その凄惨な亡骸から、阿川と村人たちは「熊に襲われたのではないか」と結論づける。しかしよく見ると、彼女の遺体には人間の歯型らしきものが残っていた。阿川はその後、供花村で人を喰う習慣があるという噂を耳にする。
刑事としての血が騒ぎ、阿川は供花村に隠された秘密を突き止めるべく、単独で調査に乗りこむ。供花村の面々は表向きは穏やかなものの、裏では阿川に対して強い猜疑心と嫌悪感をもっていた。その陰湿さは、阿川の調査を阻むだけでなかった。妻の有希や娘のましろが住む家にも危害が加えられるようになる。阿川は供花村の人びとに勘づかれないよう、細心の注意を払って危険な捜査を続行する。
実は阿川の他にもう1人、狩野すみれ(かのすみれ)が供花村について調べていた。彼女は阿川の前に供花村の駐在だった狩野治(かのおさむ)の娘だ。そもそも阿川が供花村に配属されたのは、この狩野治が謎の失踪を遂げたからである。村人いわく「パチンコで借金を膨らませ、気を狂わせて失踪した」とのこと。のちに山中にて遺体で発見された狩野だったが、阿川はこの死に不可解なものを感じる。真実を突き止めるべく、現在は別の町の病院に入院しているという狩野の妻を訪ねた。しかし彼女の精神は崩壊しており、虚ろな顔で供花村の住民に対する気遣いの言葉を零すばかりだ。最後は我を忘れ、「逃げろ」と連呼し続ける。
阿川の疑念はますます深まり、本格的に供花村の謎について踏みこむ。
そんなある日、阿川は山中で背後から謎の大男に襲われてしまう。阿川はその男の獣臭さを、銀の葬列のときにも嗅いだと思い当たる。病院で目覚めた彼は、その事実を供花村の面々に伝える。しかし彼らは何か隠したようすで、阿川の言葉を一笑に付すのだった。後にこの謎の大男が、村では「あの人」と呼ばれる後藤銀の息子・白銀(しろがね)であることが発覚する。
供花村の秘密を握る後藤家
供花村の食人文化には、どうやら後藤家が深く関与していると結論づけた阿川。村一番の権力を持つ後藤家に、危険をかえりみず単独で向かう。迎えるのは、後藤銀の死によって新たに当主となった後藤恵介(ごとうけいすけ)を中心とした後藤家の人々。阿川のような「余所者」に対して、ひときわ警戒心を滲ませる一派である。なんとか協力を持ちかける阿川だったが、横の結びつきが強力な彼らの絆はなかなか解けない。
しかし意外にも、最初に協力の姿勢を見せはじめたのは後藤家・当主の恵介だった。阿川を敵対視する一方で、他の後藤家の人間にはない彼なりの仁義を感じさせる振る舞いを、たびたび見せるようになったのだ。後藤家の人間は「後藤家を守る」ことを最優先する。しかし恵介は、当主として「後藤家を守り、村をより良いものにする」ことまで見据えていた。村で囁かれる食人疑惑や、それに関与した物騒な事件。それらを更地にするために、警察官である阿川は大きな力になると感じたのだ。
後藤家の捜査と並行して、阿川はもう1つの謎に迫るべく、前駐在の狩野治が死ぬ直前に通話していたとされる寺山京介(てらやまきょうすけ)との接触を試みる。
顔を食べられた男の証言
寺山京介と接触した阿川。寺山の顔は左半分と鼻がもがれた状態で、寺山は自身の顔について「供花村の人たちが人間を喰っている証拠だ」と語った。彼は幼少期に、供花村の奉納祭で生贄として捧げられた子どもだった。生贄はあの人(白銀)に喰われる運命にある。しかし寺山は、その儀式の最中に、前当主・銀の娘で、現当主・恵介の母である後藤藍(ごとうあい)によって助けられた。彼女は以前から後藤家のやり方に反感を抱いており、寺山が食われる瞬間を目の当たりにしたことで覚悟を決めた。寺山を助け、自身も村から飛びだしたのだ。以降、供花村から離れた町で寺山と密かに暮らしていた。
阿川は供花村の食人文化の証拠人物として、寺山と藍に捜査の協力を申し入れる。今後の捜査がより危険なものになると予測し、阿川は妻の有希と娘のましろを刑事である元上司に預けることに。しかし機を同じくして、阿川の捜査を止めるべく後藤家の面々も動きはじめていた。警察に匿われていた阿川の妻子を拉致し、やがて突入してくるであろう警察部隊との戦闘準備に入ったのだ。当主である恵介は、自身の正義と仲間たちの義憤のはざまで葛藤する。やがて村だけでなく、事態は警察を巻きこんだ大規模な死闘へと発展していく。
後藤家の破滅と警察部隊との全面戦争
当初は「阿川vs供花村」だった構図が「供花村vs警察部隊」に変貌する死闘が始まる。長年に渡って食人文化をひた隠していた後藤家の人間を拘束すべく、警察部隊は生死を問わず村人を制圧し、後藤家へと侵攻を進めていった。後藤家も応戦し、山は村人と隊員たちの血に染まっていった。その中で阿川は単独で山奥へ乗りだす。後藤家に攫われたましろが生贄として、白銀に捧げられようとしていた。
一方、追い詰められるにつれ、後藤家は内部分裂を起こしはじめていた。後藤家の存在を正義とし、外部の人間を無条件に排しようとする者。警察部隊によって撃ち殺されていく仲間に心を痛め、改心の兆しを見せる者。後藤家から始まった食人文化は、多くの犠牲者・被害者を生みだしたことに変わりはない。過ちを認めれば、もう仲間の死を見ずに済む。恵介の弟である洋介や、村の宮司である神山宗近(かみやまむねちか)を中心とした一部の者たちの心の変化。それが後藤家の内部分裂を促し、統制が崩れはじめたのだ。長らく戦闘態勢を取っていた後藤家だったが、やがて警察部隊によって制圧されることになる。
別の地点にて、白銀にとどめを刺すべく格闘する阿川。そこに居合わせた恵介は、当主として究極の選択を迫られることになる。白銀を救わなければ、後藤家の歴史は終わる。しかし呪いを断ち切らなければ、供花村に未来はない。そしてましろの姿に、愛する恋人・狩野すみれのお腹に宿った自分の子どもを重ねずにはいられなかったのだ。
そして最後まで戦いの意思を捨てなかったのは、恵介の幼馴染の後藤岩男(ごとういわお)である。後藤家の習わしに洗脳された岩男は、深手を負った状態で半狂乱に陥っていた。その痛ましくおぞましい姿に、恵介は「後藤家の呪いを断ち切らなければいけない」と決意する。そして阿川との共闘の末、岩男を彼の命とともに呪いから解放した。
長く続いた戦闘は終わった。自分たちの犯した過ちを受け入れ、それでも遺された身として生きていくしかない。新たな覚悟を胸に、恵介は警察に身柄を拘束された。
こうして後藤家を中心とする「食人文化」の事件は解決したかに思えた。後日、阿川は供花村駐在として最後の日を迎える。近所に住む老婆と和やかに立ち話をした。しかしその折、咳きこんだ老婆の口もとから、人間の指らしきものが垣間見えたのである。「まさか、後藤家だけではないのか」と、新たな疑念と恐怖に駆られる阿川だった。
『ガンニバル』の登場人物・キャラクター
阿川家
阿川大悟(あがわだいご/演:柳楽優弥)
本作の主人公。娘のましろが関わった事件で、容疑者を射殺した過去がある。その事件がきっかけで供花村の駐在として派遣された。妻の有希と娘のましろを何よりも大切にしている。その家族愛に負けず劣らず正義感も強く、警察官としても人としても並外れた豪胆の持ち主。基本的に明るく前向きな性格だが、自分の正義に反するものに直面すると怒りを抑えられなくなる。供花村で抱いた「この村の人間は人を喰っている」という疑惑を解明すべく、重要な手がかりを持つとされる後藤家の調査に踏みこんでいく。
阿川有希(あがわゆき/演:吉岡里帆)
阿川大悟の妻。その美しい外見から、過去にストーカーの被害を受けた経験がある。そのときの事件の担当刑事が、のちの夫となる阿川大悟だ。あっけらかんとした気さくな性格の持ち主。新たな住まいとなった供花村では、持ち前のコミュニケーション能力で供花村の人びと(特に男性陣)との交流を深める。警察官としての夫を支える一方、彼が疑惑を解明するために向こう見ずな行動をとることには賛成していない。これは以前、阿川が容疑者を射殺した事件で、娘のましろが精神的ショックにより言葉を失ったからである。
阿川ましろ(あがわましろ/演:志水心音)
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目次 - Contents
- 『ガンニバル』の概要
- 『ガンニバル』のあらすじ・ストーリー
- 供花村で耳にした食人文化の噂
- 供花村の秘密を握る後藤家
- 顔を食べられた男の証言
- 後藤家の破滅と警察部隊との全面戦争
- 『ガンニバル』の登場人物・キャラクター
- 阿川家
- 阿川大悟(あがわだいご/演:柳楽優弥)
- 阿川有希(あがわゆき/演:吉岡里帆)
- 阿川ましろ(あがわましろ/演:志水心音)
- 後藤家
- 後藤恵介(ごとうけいすけ/演:笠松将)
- 後藤銀(ごとうぎん/演:倍賞美津子)
- 後藤藍(ごとうあい/演:河井青葉)
- 後藤洋介(ごとうようすけ/演:杉田雷麟)
- 後藤岩男(ごとういわお/演:吉原光夫)
- あの人/後藤白銀(ごとうしろがね/演:澤井一希)
- その他の重要人物
- 神山宗近(かみやまむねちか/演:田中俊介)
- 狩野治(かりのおさむ/演:矢柴俊博)
- 狩野すみれ(かりのすみれ/演:北香那)
- 寺山京介(てらやまきょうすけ/演:高杉真宙)
- 『ガンニバル』の用語
- 供花村
- 食人文化
- 来乃神神社
- 奉納祭
- 『ガンニバル』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 後藤恵介「誰かの為に手ぇ汚せん奴はゴミや」
- 阿川有希「だから惚れたんだった」
- 後藤銀「生まれて初めて生きた心地がしとる」
- 後藤藍「あなたもきっとかわいそうな人だったんでしょうね」
- 阿川大悟「なんもできるかよ。俺は只の駐在だぞ」
- 『ガンニバル』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 供花村のホームページが創設される
- 二宮正明と柳楽優弥の対談実現
- メイキング映像は30分超えの大作
- 『ガンニバル』の主題歌・挿入歌
- テーマ曲:ブラウアン・ディオリベイラ「Theme Music」