逆境ナイン(島本和彦)のネタバレ解説・考察まとめ

『逆境ナイン』とは、熱血漫画家として名高い島本和彦による、高校野球を題材とした漫画。略称は『GK9』。いかにも漫画らしいコメディ色の強い荒唐無稽な内容だが、その中で語られる数々の名言が胸を打つ傑作として知られる。2005年に実写映画化された。
野球部の廃部を告げられた野球部主将の不屈闘志は、「甲子園で優勝したら廃部撤回」という約束を校長相手に一方的に取り付ける。無理だ無茶だと訴える部員たちを励まし、猛練習に励み、時に自身が「もうダメだ」と泣き叫びつつ、不屈は甲子園の優勝を目指して突き進む。

不屈の増長を止めたのは、彼の父親だった。父親は不屈の成し遂げたことを大絶賛しつつ、「わしはもっとすごいことをやったぞ」と力強く言い切る。これを聞いた不屈は、「調子に乗っている場合ではなかった」と考えを改めて、再び練習に打ち込んでいく。
実際に何をやったのかは一切ないが、こうまではっきり言われると黙るしかない不屈の父の名セリフ。不屈が確かにこの親の血を引いていることも感じられる。

不屈「確かに蛙は大海を知らなかったかもしれない だが 通用しなかったとはいってない!!」

甲子園の1回戦を明日に控え、不屈は部の仲間たちに「相手も同じ高校生、恐れることは無い」との言葉をかける。これに安藤が「井の中の蛙大海を知らず」という格言を持ち出して調子に乗り過ぎだと釘を刺すと、不屈は「確かに蛙は大海を知らなかったかもしれない だが 通用しなかったとはいってない!!」と雄々しく反論。自分たちは大海を知らない蛙かもしれないが、その力は全国大会でも必ず通じるはずだと主張する。
未知の世界とは恐ろしいものである。何をすればいいのか、どこまでやればいいのか分からないまま、実力の半分も出せずに敗れ去る者がほとんどだ。だが、実力も出せずに倒れるくらいなら「自分の力は通じる」と信じて全力でぶつかる方がうまくいくこともある。そう思わせてくれる名言である。

ハギワラ「男の価値は“昔どうだったか”できまるもんじゃねぇ “今現在どういうやつか”できまるもんよ」

交通事故に巻き込まれて記憶を失い、それでも決勝が行われる甲子園球場までやってきた不屈。そんな彼に、ハギワラは「男の価値は“昔どうだったか”できまるもんじゃねぇ “今現在どういうやつか”できまるもんよ」と話しかけ、昔のことを覚えていない今の不屈と共に決勝を戦いたい旨を打ち明ける。
「男らしさ」を猛烈に主張する作品だけにこういう形になってはいるが、“人”と言い換えても十分通じる名セリフ。過去の栄光にすがるのではなく、常に今を切り開いていく者こそ、新しい何かを手に入れる力と資格を持っているのだ。

不屈「そんな小さいもののために戦っているのではないっ!! ひっこんでいてもらおうか」

甲子園決勝戦。記憶の無い不屈を中心にチームが再び動き出したことに気付いた校長は、彼らに最後の試練を与えるべく、「約束は約束だ、ここで勝てなかったら野球部は廃部にする」と観客席から叫ぶ。これを聞いた不屈は、「ふざけるな」と校長を一喝。「そんな小さいもののために戦っているのではないっ!! ひっこんでいてもらおうか」と言い放ち、目先の勝利や廃部ではなく仲間との絆を証明するため戦うまでになったかと校長を驚かせる。
一夏の経験を通して、弱小野球部の廃部に汲々としていた不屈が大きく成長したことを証明する名セリフである。

『逆境ナイン』(島本和彦)の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

桑原のモデルは酒井法子

物語途中から登場するヒロインの桑原のモデルは、連載当時大人気だったアイドルの酒井法子である。
名前の方にもモデルになった人物が存在しており、これは当時作者の島本和彦が編集者との打ち合わせでよく使っていたファミレスのウェイトレスだという。

結末を決めずに描かれた日の出商業との地区大会決勝戦

野球漫画史上空前の逆転劇となった日の出商業との地区大会決勝戦は、結末を決めずに描いたものであることを作者の島本和彦が明かしている。島本和彦は「自分の中で“これなら納得できる”という逆転への流れを思いつかなかったら、不屈たちは普通に負けて連載もそこで終了」と思い決めて執筆しており、よくよく読み込むと「不屈が目を覚ました時点の会話で、“勝っても負けてもそれなりに話をまとめられそうな伏線”が張られている」、「不屈のテンションの上下がこれまでにも増して激しい」、「調べが不十分なまま透明ランナー制を適用している」など当時の制作状況がうかがえる箇所が見て取れる。

小学館の忘年会に出掛けて原稿を落としかけた第17話

本作の第17話には、作者の島本和彦が年末進行だというのに締め切り前にこっそりアシスタントを引き連れて小学館の忘年会に出掛けた結果、危うく原稿を落としかけたというエピソードがある。この顛末は、漫画的誇張を施された上で同作者による漫画家漫画『燃えよペン』でも紹介されている。

島本和彦の漫画作品の記事まとめ

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