マルモイ ことばあつめ(韓国映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『マルモイ ことばあつめ』とは、2020年に日本で公開された韓国映画である。監督・脚本はオム・ユナで、第二次世界大戦中の朝鮮で実際に起きた「朝鮮語学会事件」をもとに制作された。日本統治下の朝鮮半島にある京城で貧しい暮らしをしていたキム・パンスは、ひょんなことから朝鮮語の辞書を編纂する朝鮮語学会の代表、リュ・ジョンファンと出会う。反目し合う2人だったが、さまざまな朝鮮語を集めるにつれ同志として固い絆で結ばれていく。この作品は、民族の誇りを胸に賢明に生きる人々を描いた物語となっている。

『マルモイ ことばあつめ』の概要

『マルモイ ことばあつめ』とは、2019年1月9日に韓国で、2020年7月20日に日本で公開された韓国映画である。『タクシー運転手 約束は海を越えて』で脚本を担当し、本作が初監督作品のオム・ユナが監督・脚本を務めた。主演は『LUCK-KEY ラッキー』『タクシー運転手 約束は海を越えて』のユ・ヘジン、『犯罪都市』『ゴールデンスランバー』のユン・ゲサンである。さらにその脇をキム・ホンパ、ウ・ヒョンなど豪華俳優陣が固めた。本作の日本での公開は当初2020年5月22日の予定だったが、新型コロナウイルス流行の影響で同年7月20日に延期となった。

映画『マルモイ ことばあつめ』は、1942年に実際に朝鮮半島で起きた「朝鮮語学会事件」をもとにして制作された。朝鮮語学会事件とは、朝鮮語の使用が規制されていた日本統治下の朝鮮において、朝鮮語の研究機関である学会のメンバーが罪に問われ検挙・投獄された事件である。この事件により、2人の朝鮮人が寒さと飢えで獄死している。本作では日本統治下で朝鮮人が日本語の使用を強要され、朝鮮語学会が辞書の編纂のために多くの犠牲を払ってきたことを背景に物語が進んでいく。

後のソウルである日本統治下の「京城」で貧しい暮らしをしていたキム・パンスは、ある日息子の学費のため、朝鮮語学会代表であるリュ・ジョンファンのカバンを盗もうとする。ジョンファンが代表を務める朝鮮語学会は、日本の弾圧に耐えながら朝鮮語の辞書を編纂しようとする団体だ。しかしひょんなことからその学会で働くことになってしまったパンスは、非識字者なこともあってジョンファンと反目し合う。朝鮮語を集める過程で次第に同志として絆を深めていく2人だったが、やがて朝鮮の日本同化を進める朝鮮総督府によって追い詰められていくこととなる。

この物語は「言葉は民族の精神を盛った器」という信念を胸に、朝鮮の独立と朝鮮語の確立を目指した人々のヒューマンドラマ作品となっている。

『マルモイ ことばあつめ』のあらすじ・ストーリー

出会い

日本統治時代の朝鮮半島内では、大日本帝国によって朝鮮語の使用が禁じられていた。その中で自国の言葉や精神が失われることを危惧した一部の人々は、朝鮮語を研究・整備するための「朝鮮語学会」を設立する。朝鮮語学会のメンバーは日本からの弾圧に耐えながら「ウリマル(我らの言葉)」の辞典を編纂し始める。

1941年、のちのソウルである京城(きょうじょう/キョンソン)では、朝鮮劇場という映画館に多くの人々が集まっていた。映画は京城の人々の数少ない娯楽なのである。そこでは、劇場で働くキム・パンスとその手下のパク・ポンドゥが集客のため大声で客寄せをしているところだった。しかし息子であるドクジンの学費に困っていたパンスは、客を装ったもう一人の手下であるチャン・チュンサムと共謀し、劇場内でスリを働いてしまう。パンスは結局上司にスリをしたことがバレてしまい、劇場での仕事もクビになった。

京城の鉄道の駅では、パンスがチュンサムやボンドゥとともにスリの餌食にするカモを物色していた。そこにメガネをかけた身なりの良いリュ・ジョンファンが通りかかる。パンスたちは隙を見てジョンファンのカバンを奪うが、ジョンファンも負けじと食い下がり警官が駆け付ける騒ぎとなる。カバンには地方で集めてきた貴重な方言集がしまわれていたため、ジョンファンも警察にも捕まるわけにはいかなかった。そのため、2人はそれぞれの理由から必死に警官から逃げ切った。

同志

ある夜、国民総力朝鮮連盟の理事たちが集まる会合が開かれていた。会の主催は朝鮮総督府の軍人で、朝鮮名から創氏改名して上田という日本名を名乗る男だ。そしてジョンファンの父で京城第一中学校の理事長である、リュ・ワンテクも列席している。しかしワンテクはその会で、息子のジョンファンが朝鮮総督府に敵対する立場の朝鮮語学会の代表をしていることをなじられてしまう。

ジョンファンはムンダン書房という小さな書店を営んでおり、その書店の地下で学会の仲間とひそかに辞典の編纂を進めていた。しかし朝鮮語の辞典を作ることは日本統治下の朝鮮では弾圧の対象になるため、資金も人手も足りなかった。すると学会員の一人で学者のチョ・ガプインが、以前からの知り合いで仕事を探しているという男を連れてきた。その男がパンスだったため、ジョンファンはパンスを雇うことに猛反対する。しかしパンスは京城第一中学校に通うドクジンの学費が必要で、なんとか雇ってもらえるように食い下がる。さらにその場にいた他の学会員もパンスの愉快な性格にほだされ、ジョンファンはしぶしぶパンスを雇うことになった。

ところがパンスは非識字者であったため、ジョンファンは一か月後に識字テストをし、合格しなければ即刻解雇することを宣告する。パンスは厳しい物言いをするジョンファンに反発する。しかし学会員の一人で紅一点のク・ジャヨンが、「代表も以前は冗談を言ってよく笑う人だったのに」とジョンファンを陰でフォローする。朝鮮語が虐げられて多くの同志が連行されていったため、別人のように人格が変わってしまったというのだ。

ある日、前日にチュンサムやポンドゥと酒を飲んで寝坊してしまったパンスは、職場を和ませようと娘のスンヒとともに出勤した。しかし、ムンダン書房はそんなことに構っていられる状態ではなかった。前日に上田が部下とともに書店を訪れ、これまで集めた辞典の資料が見つかってしまうところだったのだ。そのため、学会員総出で資料を地下の隠し部屋に移しており、大忙しだった。「何の資料だ?」と膨大な量の紙に驚くパンスに、ジャヨンが「マル(言葉)よ。10年かけて集めた」と答える。しかしパンスは朝鮮語がなくなろうが知ったことじゃないと、長い年月をかけて「マル」を集める意味を理解できないでいた。そんなパンスに、ジャヨンは「言葉というのは民族の精神を盛った器」であると言う。そうして、海外では自分が住む国のことを「私の国」と表現するが、朝鮮は「共同体」を重視する国柄のため「我らの国」という言い方をすることを例にあげる。それぞれの民族にとっていかに言葉が固有のもので重要なものなのかを諭すためだった。

その頃上の階では、ジョンファンがスンヒに本の読み聞かせをしていた。パンスに対する時とは大きく違い、やさしい顔と声色でスンヒもすっかり懐いていた。パンスはその様子を見ながらスンヒのことを自然に「ウリスンヒ(我らのスンヒ)」と呼ぶ。そしてパンスは「言葉は民族性をあらわすもの」という、先ほどのジャヨンの言葉を思い出すのだった。こうしてムンダン書房は資料を地下に移したことで安全になったかと思われた。しかし一方で、ジョンファンは父と上田から朝鮮語学会の解体と創氏改名を求められる。また、パンスの息子であるドクジンも朝鮮語学会で働く父を良く思うことができず、パンスに対してぎこちない態度をとるようになってしまっていた。

ある日、一人の朝鮮人作家が日本の朝鮮統治を肯定する声明を出したことで、ムンダン書房は暗い雰囲気になってしまっていた。朝鮮語学会の一員である記者のパク・フンは、同じく学会員で詩作家のイム・ドンテクを「同じ朝鮮人作家としてどう思うのか」となじる。しかしこんな時でも、朝鮮語学会は毎月発行している雑誌『ハングル』の原稿を印刷に回さなければならない。出来上がった原稿を印刷所に届けるのは、「渡すだけなら俺でも」と手を挙げたパンスだった。

パンスが印刷所に向かっていると、国民総力朝鮮連盟に汚物を投げつけようとしているイムを見かける。一方、ジョンファンはその日の夜になっても戻らないパンスに「信じた我々がバカだった」と、失望の念をあらわにする。書店に戻ったジョンファンはパンスを見つけ、印刷費を盗ったことをなじる。しかしパンスはイムの世話をしていて印刷所に行けなかっただけだった。言いがかりをつけるジョンファンに腹をたてたパンスは「貧乏人だからってバカにするなよ!」と大事に持っていた印刷費をジョンファンに投げつけ、書店を出て行った。

次の日、出勤してこなかったパンスの家にジョンファンが謝りに来る。「帰ってくれ」と言うパンスに、ジョンファンは「私が誤解を」と食い下がる。さらに「人が集まるところに言葉があり、言葉が集まるところに志があり…志が集まるところにやがて独立への道が開かれる。私が愚かでした。大切な同志なのに…許してください」と続けるジョンファンに、ようやくパンスは心を開くのだった。

パンスは順調に識字の勉強を続け、ジョンファンの教えもあって無事テストに合格した。飲み屋のメニューや小説を読めるようになり、パンスは上機嫌である。しかし一方で、朝鮮語の辞典作りは困難を極めていた。朝鮮語の中には方言が何種類もあるため、そもそも言葉の収集に時間がかかる。さらに朝鮮語の教師たちは、みな朝鮮総督府の目を気にして協力してくれないのだ。するとそこに、パンスが以前刑務所にいたときの仲間を大勢連れてやってくる。彼らはさまざまな土地の出身者であるため、何種類もの方言を一気に集められるのだ。

しかし同時期、朝鮮総督府は非公認の朝鮮語書店の廃業と、雑誌の廃刊を決定した。このままでは朝鮮語学会が解体されてしまうため、ジョンファンは「標準語の公聴会」を開きたい、と提言する。朝鮮語学会が解体される前に、学者や教師を一同に集めて朝鮮語の標準語を決定するのだ。公聴会に向けてさらに方言を集める必要がでてきた学会は、雑誌『ハングル』の最終刊で全国の読者に方言を送ってもらうよう広告を載せることにした。辞典を完成させるため士気を上げる朝鮮語学会の面々だったが、学会員の一人で一番年下のミン・ウチョルは浮かない表情である。実は数日前に上田がウチョルの元を訪れ、刑務所に収監されている妻を助けたければ朝鮮語学会の情報を横流しするよう脅してきたのだ。

『ハングル』の最終刊は、普段の3倍の売れ行きだった。しかし広告で呼びかけた方言の情報は、何一つ届かなかった。そんな中、ジョンファンとパンスが留守にするムンダン書房に、突然上田が部下を引き連れて押し入ってくる。辞典の原稿がどこにあるかを聞いても答えない学会員に、上田の部下たちは躊躇なく暴力をふるう。そしてついに書店の隠し部屋の存在がばれ、資料は全て没収されてしまった。このことを知ったジョンファンは父の元に行き、特に強く抵抗して連行されたガプインを返すよう要求する。しかしワンテクは取り合わず、朝鮮語学会員の命と引き換えに朝鮮総督府に従うよう言いつけるのだった。

一方その頃、ムンダン書房の地下を片付けるパンスにパク・フンがくってかかっていた。上田が部下とやってきたとき迷わず地下への入口を見つけたことから、パンスが情報を流していたのではないかと疑ったのだ。しかし実際は、ウチョルが妻を刑務所から助けるためにやったことだった。そんなウチョルの妻はすでに獄中死しており、上田によってその事実が隠ぺいされていたことがわかる。ウチョルは自分のしてしまったことに愕然とする。

ガプインが釈放されて病院に入院したと聞き、朝鮮語学会のメンバーが駆け付ける。しかしガプインはひどい拷問を受けており、みんなでジョンファンを支えるよう遺言を残し息を引き取ってしまった。悲しみにくれるジョンファンだったが、ガプインの妻から、生前のガプインが辞典の資料を全て書き写して自宅に保管していることを聞く。さらに、『ハングル』で呼びかけて送られてきた方言が郵便局員の努力で倉庫に保管されていることもわかった。こうしてパンスをはじめとする朝鮮語を残そうとする者たちの結束はさらに強固なものとなり、公聴会への道は開けたのだった。

公聴会

公聴会は朝鮮総督府の目を欺き、営業後の劇場内で一週間の予定で行われることになった。公聴会の出席者たちは劇場の最終上映を観たあと、そのまま劇場内にとどまり話し合いをするのだ。公聴会の初日、登壇したジョンファンたちは大きな拍手で出迎えられた。みな朝鮮語の辞典が作られることを心待ちにしているのだ。そして公聴会は白熱した議論が繰り広げられつつも、時にパンスの軽快なトークを挟みながら順調に進行していった。

その頃上田は、公聴会が行われている場所を探るためドクジンに目をつけていた。銃で脅されたドクジンは、とっさに公聴会が行われている劇場とは違う場所を答え、パンスの元に走る。「もう僕たちを置いて刑務所に行かない約束だろ」と、ドクジンはどうにかパンスだけを連れ出そうとする。しかしパンスは「二度と刑務所には行かない。約束する」と言い、劇場内にいる人々を助けるために戻ってしまう。

パンスが劇場に戻ると、ドクジンの嘘に気づいた上田が劇場に踏み入ろうとしているところだった。朝鮮語学会のメンバーや公聴会の出席者は、辞典の原稿とジョンファンをなんとか逃がそうとする。そしてジョンファン一人では危険だと、パンスも一緒に劇場から抜け出すことに成功する。しかし逃げる途中でジョンファンが銃で撃たれ、空き家に二人で逃げ込む。そこでジョンファンは自分が囮になるつもりで、パンスに「釜山に辞典を印刷してくれる印刷所があるから、そこに原稿を届けてくれ」と頼み込むのだった。「あなたになら任せられる。同志ですから」というジョンファンに、パンスはしぶしぶ了承する。わざと出ていくジョンファンを背に、パンスは泣きながら原稿を抱えて走る。しかし見つかりそうになってしまい、なんとか原稿を郵便局の倉庫に投げ入れる。そしてパンスは道の袋小路で、朝鮮総督府の軍人によって銃殺されてしまうのだった。

1945

時は流れて1945年、何とか生き延びつつも捕らえられていたジョンファンは、刑務所の中で韓国独立を知った。出所したジョンファンは朝鮮語学会のメンバーと再会し、パンスの遺体は朝鮮総督府によって処分されたこと、ドクジンとスンヒも京城を出たらしいということを聞く。パンスに預けた原稿もどこに行ったか分からなくなっていたが、ある日郵便局の倉庫から発見されたという知らせが舞い込んだ。そして2年後の1947年、ジョンファンは完成した辞典を持ってある学校を訪れていた。その学校では、パンスの息子であるドクジンが教師として働いているのだ。ドクジンの隣には中学生になったスンヒもおり、二人は原稿とともに残されていたパンスの手紙を読んでいる。そこには「辞典が完成したらお前たちに誇れる父親になれる気がするんだ。だから公聴会に賛同した」と記されていた。ドクジンとスンヒは涙をこぼしながら手紙と辞典を眺め、外ではジョンファンが笑顔で子どもたちと追いかけっこをするのだった。

「韓国語は固有の辞典を持つ言語の一つであり、第二次世界大戦後独立した国の中で自国の言語を回復した唯一の国家である」

『マルモイ ことばあつめ』の登場人物・キャラクター

主要人物

キム・パンス(演:ユ・ヘジン)

吹き替えは高橋ちんねん。
もともとはスリを生業にし、刑務所暮らしもしたことがある男。ドクジンという息子と、スンヒという娘がいる。日本統治下の京城にある劇場で働いていたが、手下のポンドゥやチュンサムと共謀してスリを行ったことがばれ、クビになった。息子の学費の支払いに困っているところを、以前からの知り合いであるガプインから朝鮮語学会で働くことをすすめられる。しかしはじめはジョンファンと折り合いが悪く、何度も衝突してしまう。ジョンファンら朝鮮語学会のメンバーと過ごすうち、次第に辞典を作ることの意義を理解するようになり朝鮮語学会になくてはならない存在になった。

リュ・ジョンファン(演:ユン・ゲサン)

吹き替えは福里達典。
朝鮮語学会の代表で、ドクジンが通う京城第一中学校の理事長リュ・ワンテクの息子。幼い頃にワンテクが周囲の人に朝鮮語を教えていた影響から、朝鮮語を研究・整備するために設立された朝鮮語学会で活動するようになった。もともとは明るく冗談も言うような人柄だったが、朝鮮語の研究者や教師が次々捕らえられていくのを目にしていくうちに笑わなくなった。スリをはたらき字も読めないパンスを当初は軽蔑していたが、次第に唯一無二の同志として認めるようになる。

朝鮮語学会の人物

チョ・ガプイン(演:キム・ホンパ)

吹き替えは西垣俊作。
朝鮮語学会メンバーの一人。学会の中ではナンバー2のような立ち位置で、他のメンバーの良き相談役となっている。笑わなくなったジョンファンのことを心配しており、パンスを学会に引き入れることで何か良い化学反応がないかと期待した。上田によってムンダン書房地下の資料が没収された際、捕らえられてひどい暴行を受けた。最終的にその時のケガがもとで死亡。死後に、それまで集めていた辞典の資料を全て書き写して隠して保管していたことがわかる。

イム・ドンイク(演:ウ・ヒョン)

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