海が走るエンドロール(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『海が走るエンドロール』とは、『ミステリーボニータ』にて2020年11号から連載中のたらちねジョンによる日本の漫画。
主人公・茅野うみ子は夫と2人で映画鑑賞するのがとても好きだったが、夫とは死別したばかりだった。久しぶりに映画館に行った際、かつて夫から言われた「映画が好きなのではなく、映画を観ている人が好きなんですね」という言葉を思い出し、ふと映画館内の客席を見ていたら映像専攻の美大生・海と目があってしまう。

『海が走るエンドロール』の概要

『海が走るエンドロール』とは、『ミステリーボニータ』にて2020年11号から連載中のたらちねジョンによる漫画。ジャンルは人間ドラマ。作者のたらちねジョンはどこか憂いのあるキャラクターと情緒ある風景描写が魅力の漫画家である。これまでに『グッドナイト、アイラブユー』『アザミの森の魔女』といった作品を描いており、本作が『ミステリーボニータ』での初めての連載である。コミックス1巻が発売日に作者のTwitterで第1話の試し読みが公開されると28万いいねを獲得し大きな反響を呼んだ。『このマンガがすごい!2022』オンナ編1位に見事に選ばれた作品である。

茅野うみ子は最近夫と死別したばかりで、夫とよく映画を観に映画館に行っていたことを思い出し、ふと数十年ぶりに映画館へ足を運んだ。うみ子はいつも映画館に入ると場内の客席を見るのがクセになっている。夫からも「あなたは映画が好きなのではなく、映画を観てる人が好きなんですね」と指摘されたことを思い出す。その後映像専攻の美大生、浜内海(はまうちカイ)に同じことを指摘される。そして海に「今からだって死ぬ気で映画を作ったほうがいいよ」と指摘されてしまう。

『海が走るエンドロール』のあらすじ・ストーリー

カイとの出会い

65歳を過ぎ夫と死別した主人公の茅野うみ子は、未だその傷は癒えぬままふと映画館に数十年ぶりに立ち寄ることになる。もう少し若い時はもっとちゃんとした服でくればよかったと思ったものだが、案外思い付きで映画館に来れることを改めて気付くことになる。劇場内の客席を見るのがうみ子のクセで、死別した夫からも「あなたは映画が好きなのではなく、映画を観ている人が好きなんですね。」と言われたことを思い出してしまう。
劇場で、うみ子は映像専攻の美大生、海(カイ)と偶然出会う。映像科の学生ならうみ子の自宅にあるビデオデッキを直してもらえると思い、半ば強制的にカイを引き止め自宅に招待することになる。無事に直ったビデオデッキでうみ子の自宅にある古い王道の映画を二人で鑑賞し始めることになる。そのような中でうみ子はカイに「映画を作りたい側なんじゃないの?ゾクゾクするからなんじゃないの?」と言われてしまい、波を打たれたかと思うくらいの凄まじい衝撃を受けことになる。

美術大学映像科に入学

カイがうみ子の家に筆箱を忘れてしまい、勢いでカイが通っている美大に届けることになったうみ子は、美大に通っている生徒を見てその魅力や面白さに気づいてしまう。その中で映像科が行っている上映会でカイの作品を鑑賞したうみ子は再び波にさらわれる印象を受けることになる。
その後無事にカイに筆箱を渡すことができたうみ子は家で料理をしながら晩酌をして、日中に鑑賞したカイの映像作品について考察し、「私が映画を撮るならばどう撮るか」と考え始めることになる。娘に「お父さんが生きていてもそのまま幸せだったろうけど、お父さんがいなくても新しい幸せを見つけても良いし人生何があるかわからないから好きなことをやった方がいい」と諭され翌日寝過ぎた朝に美大に願書を取りに行く。
入学の面接では、「現代は映像を学ぼうと思えばどんな手段もあり、本を読んでも学べるし、動画配信サービスでも学べる時代。大学は映像制作に関係ない基礎教養も必須だから純粋に映像を学ぶ為なら遠回りになるかも知れない。あなたはこの大学に入って何がしたいのですか?」と問われ、うみ子は「オープンキャンパスに来た時、初めて映画が好きで作りたいと本気で思っている学生と会いました。スクリーンに溢れる映画や私が好きな映画たちはこういう純粋な目を持つ人々によって作られているんだと実感できました。映画を撮りたいです。私はこの大学でなら実現できると思います。」と返答し入学することになった。

学生生活

入学2週目美大といっても基礎科目は必須であるため、うみ子は趣味を始めたようなものだと思い楽しんでいた。居心地の悪さはあるものの学ぶのは楽しいとも感じていた中、5人グループを作ってロケハンをしにいく映像実習で、うみ子は「年の功作戦」で監督を担当することになったが、気持ちはもやもやしてしまう。ロケハンに適している場所を見つけることができたが、各々スケジュールが合わずとりあえず解散してしまい、さらにもやもやは溜まっていくばかり。疲れを感じつつ下校の最中ふとカイのことを考えていたら、偶然カイに出会って思わず心臓が痛くなる。うみ子が行きたかった上映会の展示が終わってしまっていてモヤッとしている中、カイが自分の展示しているギャラリーに顔を出すのでうみ子も一緒にいくことになる。
電車でギャラリーで向かっている最中にふと外の景色を撮影しているうみ子にカイは興味を示し、うみ子の撮影している毎日の料理や日記みたいな動画を観たいと言う。その様子を見てうみ子は気持ちが少し軽くなった感覚になる。ギャラリーにはカイの友人が待っていた。その後カイの後輩でうみ子と同じクラスの山口も集まることになる。カイは「うみ子さんの作品フツーにすごい面白いから」とお願いし皆で観始める。うみ子は上映中にカイの表情がふと気になり「ありがとうカイくん」とお礼を言う。

カイの心情

大学校内でカイはうみ子の動画を観て昔の友人のことを思い出していた。お金がないためお菓子を朝食がわりに食べているところに後輩の山口が現れ、カイのお金のない理由について触れる。カイはたくさんバイトをしているがほぼ映画や大学の学費で無くなっているのだった。その後カイがふと山口に「人生で一番後悔していることってなに」と質問している最中、外でうみ子が歩いており慌てて飛び出してしまう。この間の展示時間に上映をしたことやこれからの予定を話している最中に、うみ子がカイの朝食が駄菓子である事に気付き栄養面が気になる。そんな中カイが「うみ子さんのご飯が食べたい」と言う。うみ子は掃除や買い出しをする元気がないながらも、せっかく懐いてきた猫みたいなカイのお願いを断ることもできず、夕方にうみ子の家に集まる約束をして解散し、この時初めて二人は連絡先を交換することになる。カイは聞きたい事があったのに何だかうみ子に甘えてしまった気がしていた。
うみ子が晩ごはんの支度を終えた頃、ふと人の為にご飯を作るのは何年振りになるかを考えていた。夫が亡くなって寂しさを感じていたことを実感したところにカイが訪問してきて、一緒に晩ご飯を食べることになる。改めてカイが「うみ子さんは後悔していることはありますか?」と質問する。その答えとしてうみ子は「特にないけど、カイくんはまだ若いからまだまだ取り返せるわよ」と言う。それに対してカイはどこか引っかかったらしく、「若さは関係ない」と思っている。「うみ子さんは映画は老後の趣味と言ってましたよね。そういう思ってもないこと言ってしまった時後悔しないんですか?それともうみ子さんはもう時間がないから諦めるんですか」と言って涙を流してしまう。カイは親から「映画制作は趣味でいいでしょ」と否定され続けていて、映画を一緒に撮っていた高校の頃の友人の佑介からも映画は趣味や遊びと言われてしまっていた。それから佑介とは気まずくなり話すこともなく高校を卒業した。カイはそんな過去をうみ子に話す。そのことが今でもトラウマで、「思い出してしまって泣いてしまった」とカイは語る。知らぬ間にうみ子は自分の発言がカイを傷つけていたことに気づく。

うみ子の決意

カイとうみ子が晩御飯を食べ終わった頃には天気が大荒れで、電車も警報で止まっていた。そのためカイは「明日の授業が午後からなので泊まっていいか」と尋ねる。うみ子は快諾し、そのままカイはうみ子の家に泊まることになる。寝る前にうみ子は「明日の朝、海に行かない?」と次の課題のロケハンのためカイを誘う。カイは一宿一飯の恩義ということで手伝うことになる。
翌日海に車でやってきたうみ子とカイは、晴れたのは良いが海が濁っていることに少し残念な気持ちになっていた。うみ子は携帯でアングルを撮るためカイにモデルをお願いし、撮影をする。その際に撮影に夢中になっていたうみ子は少し波で濡れて、「しょがない、映画のためだもねと」つぶやく。その言葉を聞いたカイはどことなくいい顔をしていた。うみ子はカイに「モノを作る人と作らない人の境界線て何だろうか」と問う。それに対しカイは「それは元々興味ないとか環境とかのいろんなものがあると思います、作りたくても作れない人も多分たくさんいるし」と返す。それに対しうみ子は力強く、「船を出すかどうかだと私は思う」と言い放つ。さらに「その船が最初からクルーザーの人もイカダの人もいて、それは年齢だったり環境だったりで変わるけど、誰でも船は出せる。」と続ける。
うみ子はカイがに言った「今からだって死ぬ気で映画作った方がいいよ」に対して「とてもゾクゾクした」と、改めて言葉で伝える事ができた。その時大きい波がカイを襲い、バランスを崩してカイは全身ずぶ濡れになってしまった。そしてカイは今までに見せたことのない笑顔を見せる。それを撮影していたうみ子は、「想像できた スクリーンで輝くあなたの顔」と心で想う。そして「カイくん、私はあなたで映画を撮るわ」と宣言し、うみ子の映画が始まった。

『海が走るエンドロール』の登場人物・キャラクター

茅野うみ子(チノ ウミコ)

本作の主人公で、夫と死別し一人暮らしをしている65歳。思いつきで映画館に行った時にカイと出会い、改めて映画の素晴らしさと映画が好きということを再認識する。そこからカイに影響を受け、映画を撮ることを決意し美大の映像科に通うことになる。料理が得意である。将来は映画館で自分の作品を上映するという夢を抱いており、カイで映画を撮ることを決めている。映画館に行くと映画を観ている人が気になり客席を見るクセがある。年齢にそぐわないハードなジャンル映画もよく観る。

濱内海(ハマウチ カイ)

美術大学で映像専攻している男子大学生で、無類の映画好き。うみ子とは映画館でたまたまぶつかって出会っている。うみ子がスクリーンよりも客席を見ていた事がカイと共通点であり、その事がきっかけでうみ子が映画を作りたい側の人間なのではないかと伝えた。うみ子が美大に入学した後も比較的気になっており、うみ子がいると積極的に会話や挨拶をしている。女の子に見えるほど中性的な顔立ちと雰囲気を持っていて、口数があまり多くなく基本的にマイペースな性格。両親にお金を借りている状態で大学に通っている。アルバイトはしているものの、アルバイト代はほぼ映画代で消えるため大学の学食も食べることができず、お菓子を食べる事が多い。

山口稿(ヤマグチ コウ)

美術大学で映像専攻している緑色のショートヘアの女子。うみ子と同じクラスで映像実習の時は同じグループになった。クラス内や先輩からは「グチ」の愛称で呼ばれている。基本的にクールな性格だが密かに想いを寄せているカイのことになると感情的になる少し子供っぽい面があり、うみ子とカイが仲良くしているところを見ていてジェラシーを感じている。とある件でうみ子と本音で語り合える関係になっている。実はコスプレが好きでアニメキャラの男装を得意としている。

佑介(ユウスケ)

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