春の呪い(漫画・ドラマ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『春の呪い』(はるののろい)とは、2016年1月から2017年1月まで小西明日翔が『月刊コミックZERO-SUM』(一迅社)にて連載していた恋愛漫画である。テレビドラマ化され、2021年5月からテレビ東京系列で放送された。主人公の「立花 夏美(たちばな なつみ)」は最愛の妹の「立花 春(たちばな はる)」を癌で亡くし、妹の恋人であった「柊 冬吾(ひいらぎ とうご)」と交際することになる。春への罪悪感の中で惹かれ合う二人の複雑な心情が魅力的な作品である。

『春の呪い』の概要

『春の呪い』(はるののろい)とは、2016年1月から2017年1月まで小西明日翔が『月刊コミックZERO-SUM』(一迅社)にて連載していた恋愛漫画である。第6回「NEXTブレイク漫画RANKING BEST50」では9位に選ばれ、「このマンガがすごい!2017」ではオンナ編2位を受賞した。テレビドラマ化され、2021年5月からテレビ東京系列で放送された。夏美を演じたのは、テレビ東京系ドラマ初出演・初主演となった髙橋ひかる。妹の春は桜田ひより、冬吾は工藤阿須加が演じた。テレビドラマ化するにあたり、漫画とは設定が変わっている部分もある。
主人公である「立花 夏美(たちばな なつみ)」は最愛の妹「立花 春(たちばな はる)」を病気で亡くしてしまう。春は親同士が決めた見合いで恋人同士になった「柊 冬吾(ひいらぎ とうご)」のことを心から想っており、結婚を前提に交際をしていたが、その結婚も叶うことがなく19歳という若さで死んでしまった。春の葬式の後、冬吾は「妹が死んだのならその姉と付き合ってみてはどうかという話になった」と夏美に交際を持ちかける。夏美は春と二人で行った場所に自分を連れて行く条件を出し、二人の交際が始まった。
死んだ妹の恋人と付き合っている罪悪感や、死んでしまった春と残された二人の複雑な三角関係など、重く切ないストーリーが魅力的な作品である。

『春の呪い』のあらすじ・ストーリー

春の死

主人公の「立花 夏美(たちばな なつみ)」は最愛の妹「立花 春(たちばな はる)」を19歳という若さで亡くす。春は癌を患っており、闘病の末、死んでしまった。夏美は「…お姉ちゃんが行くまで待ってて。すぐ行くからね」と、春の棺に冬吾と春が仲良く写っている写真を入れる。

夏美は妹の恋人であった「柊 冬吾(ひいらぎ とうご)」と旧相馬(そうま)庭園へと出かける。この庭園は冬吾と春が一緒に出かけた場所であった。冬吾と春は親が決めた見合いで出会い、結婚を前提に交際をしていた。立花家はごく普通の中流家庭だったが、父親の血筋だけが普通ではなかった。夏美と春の父親は、銅商で財を成した立花財閥(たちばなざいばつ)の子孫で、本家の長男にあたる。昔は金融業にも手を広げていたようだが、明治維新をきっかけに没落した。一方見合いの話を持ちかけてきた冬吾の母親は、江戸時代に両替商で財を成した財閥である相馬家(そうまけ)の分家、柊家の奥方であった。立花家の元を辿ると相馬家の女系子孫だったようで、冬吾の母親はその血筋が目当てで見合いの話を持ちかけたのであった。見合いの場には夏美と春が呼ばれたが、柊家の目的は夏美より大人しく、頭がいい春であった。
親同士が決めたことであったが、冬吾の容姿と人柄から春はすぐに冬吾のことが好きになり、夏美から見てもお似合いのカップルであった。

春の葬式の後、冬吾はうなだれている夏美に交際を申し込む。冬吾は両親の間で「妹が死んだのならその姉と付き合ってみてはどうかと言う話になった」と言う。淡々とそれを告げる冬吾に夏美は血も涙もない鬼畜生だと思ったが、夏美は一つ条件をつけて冬吾との交際を受け入れることにした。その条件は「春と二人で行った場所に夏美を連れていく」というものだった。

夏美は春のことを「わたしにとってたった一人の家族」と言い、大切に想っていた。実の母親は天真爛漫、悪く言えば奔放な性格で、夏美が小5のときに家を出ていった。実の母親に容姿や性格が似ている夏美は父親からあまり好かれていなかったが、それでも父親に好かれようと勉強も運動も頑張って褒めてもらおうとしていた。そこに新しい母親がやってきて、父親ときっかり半年後に再婚し、一年後には弟の「立花 海斗(たちばな かいと)」が生まれた。新しい母と弟ができたことで夏美は心が折れ、自分には春しかいないと思うようになった。実の母親がいなくなったことで不安になっている春に「…春 いつかお姉ちゃんと一緒に二人で暮らそうか。お姉ちゃんお金貯めるからさ。二人で」と夏美は言う。春も「じゃあ春もお金貯める!」と嬉しそうであった。いつか二人で暮らす、この約束を支えに生きてきた二人は「辛いことがあってもいつか二人で暮らそうね」と言って慰めあっていた。「春のためならなんでもできた。結婚なんかしなくてもいい。ずっと二人でいられればそれでいい」と思っていた夏美だったが、冬吾が現れて一瞬にして春のことを奪っていってしまった。夏美は「春がわたしを置いて行ってしまう」と冬吾のことを殺してやりたいとまで思っていた矢先に春が死んだ。夏美は自分の思いが春を殺したのではないかと罪悪感で気が狂いそうになっていた。

夏美は春の最期を思い出す。意識が混濁してもう言葉も上手く話せなくなった春が、最後に呼んだのは夏美ではなく冬吾だった。夏美は自分が誰よりも春のことを幸せにできると思っていたが、春が望んでいたのは冬吾であった。そのことを思い出す度、いっそ死んでしまおうかと考える夏美は冬吾と庭園に行った帰り道、踏切に吸い寄せられそうになった。寸前のところを後を追ってきた冬吾に助けられる。冬吾は「お前が死んだら俺も死ぬぞ。それでもいいのか」と脅しのような言葉をかける。その言葉にはっとして「…勘弁してください…あなたが死ぬと春が悲しむ…」と夏美は肩を落とす。冬吾に「春に対して何も思っていないのか」と尋ねると、冬吾は「…春には…申し訳ないと思っている」と言う。薄々感じ始めていた冬吾からの好意を感じ、夏美はまた春の最期の言葉を思い出す。その言葉が夏美の頭から離れず「呪いみたいだ…」「この際呪いでもいい。春の声を忘れないでいられるならば」と思い、夏美は乾いた笑みを浮かべた。

冬吾の嘘

冬吾は親に敷かれたレールの上の人生を一度も歯向かうことなく順調に歩んできた。自分のやりたいことや将来への願望も何もなく、ただ言われるがままの人生でも不満はなかった。立花家との見合いも春との交際もあっさりと受け入れる。そのときに初めて会った夏美のことは「自分以上に無口で暗い女」と思っていた。春との交際は順調であったが、春から聞く姉の話にはいつも違和感を感じていた。春から聞く夏美は「底抜けに明るく、社交的で行動力がある」そういった人物を彷彿とさせるが、冬吾自身が見た夏美とは印象が違っていたのであった。

春が体調を崩すようになり、冬吾は春を見舞いに病院に訪れる。そのときに夏美と話すことはあったが、夏美は徹底して冬吾と目を合わそうとしなかった。冬吾は夏美の様子を見て、自分は嫌われているのかと思っていたが、差し入れや見送りで親切にしてくれる夏美を見て、「嫌われてはいないようだ」と安心する。同時に嫌われていないのであれば、なぜ目を合わさないのかという疑問も生まれた。春のことを「いつでも春の陽気を纏(まと)っているような女」と思い、夏美のことを春とは対照的な「明朗(めいろう)な快活(かいかつ)さと、ふとした瞬間それに矛盾した暗さを見せる夏の終りのような女」だと思っていた冬吾は、春との交際を続けながらも夏美のことを気にしていた。

春の葬式のあと、冬吾は夏美の矛盾の理由を知った。春が死んでからずっと俯いている夏美を見て、冬吾は明るい姉を演じる必要がなくなったのだと悟った。うなだれている夏美に親が決めたことだと伝えて交際を申し込むが、本当は冬吾自身が夏美と付き合えるように仕向けたのであった。「春と二人で行った場所に…わたしを連れて行ってくれませんか…」という夏美に、冬吾は「…なぜだ」と聞く。夏美は「春のことが好きだから」とうなだれたまま答えた。「それが家族の愛なのか恋愛の愛なのかはわからない」と言う夏美を見て、冬吾は「不自然なほど姉らしく振る舞うのも、時折全てを諦めたように遠くを眺めるのも、全てはそれが理由だった」と全てを理解した。夏美はスッと立ち上がり「…今まで散々失礼な態度をとってすみませんでした」と冬吾をまっすぐ見ながら謝罪をする。そのとき初めて夏美とまともに目があった冬吾は、鈍器で殴られたような衝撃とめまいに襲われる。それが死んだ春への罪悪感だったということを、そのときはよく理解できていなかった冬吾であった。

夏美と冬吾は条件の通りに春と冬吾が出かけた場所へと訪れる。
当時大学生だった冬吾と高校生だった春は、ほとんどの時間を図書館か、大学と高校のちょうど中間にある喫茶店で勉強をして過ごしていた。その喫茶店に夏美を連れてきた冬吾は「お前からの条件を満たせなくなった。つまり今日限りで俺とお前の交際は終わりということになる」と夏美に告げる。夏美は自分が出した条件に「終わり」があるとは考えていなかった。冬吾の両親から交際を持ちかけたと思っていた夏美は、「私たちが別れると…ご両親から何か言われたりとか…その大丈夫ですか?」と聞く。「…大丈夫もなにも、喜々として受け入れるだろうな」という冬吾に夏美は「ではなぜ冬吾は自分と付き合っているのか」と混乱する。夏美が混乱しているのを悟った冬吾は「…お前と交際できるよう、母を説得したのは俺だ」と打ち明ける。夏美は冬吾からの好意に気づいていたが、冬吾が自分の前で笑うことがほとんどなかったので、自分のうぬぼれなのではないかと思い始めていたところであった。ますます混乱する夏美に、冬吾は「お前は明日にでも死ぬつもりなのではないか」と言った。「わたしが死んでも死なないでください」と言う夏美に、冬吾は「妹が好意を寄せていた男を殺すわけにはいかないということか。馬鹿馬鹿しい。死んだ人間などに哀情など存在しない」と厳しい言葉を吐く。夏美は「違います冬吾さんが死んだらわたしが悲しいんですよ!死んでも死にきれない!」と必死になって叫んだ。この言葉に動揺した冬吾は「…人の情につけ込むような嘘を吐くな。…お前もお前だが、そんな嘘一つでお前に振り回される自分が情けない…ッ」と言い捨て、喫茶店を去って行った。

死んでから知る春の本音

冬吾と別れてからインターネットで姉に恋人を盗られた人の心情などを調べていた夏美は、あるSNSのアカウントを見つける。闘病日記のようなもので、姉とよく病院に行っていたことなどが書かれていたので、春と似ていると思っていた。採血や輸血、通院の曜日を見て、夏美は手帳を取り出し、春の通院の日程と照らし合わせてみる。すると見事に一致しているのであった。夏美は春のSNSを見つけた。
SNSには闘病生活の様子と、春の気持ちが書かれていた。「はやくお姉ちゃんみたいになりたい」春は夏美のようになれば、冬吾から子供扱いされずにすむのかと思っていたようであった。冬吾が夏美を意識していることに気づいた春は「冬吾さんがお姉ちゃんのことを好きになったらどうしよう…冬吾さんがお姉ちゃんと結婚したら…どうしよう?」「お姉ちゃんが羨ましい。お姉ちゃんが妬ましい。…お姉ちゃんみたいになりたい」とSNSに綴る。
「本当はわたし以外の女の人と結婚しないでほしい…。ずっと一緒にいてほしい…死んでも離したくない。…でも一緒に死んでほしいとは思わない。もし二人を引き離せるのなら…どちらかを連れていけるならわたしは姉を連れていく。姉を地獄に道連れにしてでも…彼には生きて幸せになって欲しい。だから写真だけでいい 写真だけでもわたしは彼を連れていきたい」。春は夏美に写真を自分の棺に入れてほしいと言ったが、それは夏美よりも冬吾の幸せを願ったからであった。「…まさか 死んだ人間にフラれるとは…」と死んだ後に春の本音を知る羽目になる夏美だった。

冬吾の母親は冬吾を再従姉妹(はとこ)と結婚させようとしていた。仲介役として冬吾の家に来ていた親戚の「柊 篤実(ひいらぎ あつざね)」に「大変だったんだろ?叔母さんから聞いたぞ。少し前までおかしな女に付き纏(まと)われてたって、最近やっと別れられたんだろ?」と言う。冬吾は言葉の意味が理解できず、何度も聞き返す。篤実は「叔母さんが言ってたよ。あんまりしつこく言い寄られるもんだから断れずに付き合ったって」と冬吾の母親が嘆いていたと話した。冬吾はそれに反論することなく「…そうですか」と答えるだけであった。

冬吾は母親が仕組んだ再従姉妹とのデートに来ていたが、「何もかもが面倒だ…この女の相手をするのも、母親の期待を背負うのも、何もかも」と冬吾は取り繕うことを面倒だと思うようになっていた。冬吾は事あるごとに夏美のことを思い出しては自己嫌悪に陥っていた。帰り道、冬吾は近くの踏切で飛び込み自殺があったと耳にする。飛び込んだのは若い女の人だという事を聞き、冬吾の頭には踏切で死のうとしていた夏美の姿が浮かぶ。冬吾は急いで踏切へと向かうが、踏切に飛び込んだのは女子高生であった。冬吾は飛び込んだのが夏美でないことに安心したと同時にまた自己嫌悪に陥ってしまい、事故の野次馬からはじき出された人にぶつかって車道に転倒してしまった。

夏美は家を出ようとひっそりと荷物の整理をしていた。夏美が週末に出かけなくなったり、荷物の整理をしていることに違和感を持っていた義理の母親は、夏美が冬吾と会っていることに薄々感づいていた。「あなた…春に似てきたわ」と言い、「春はもういない」と諭す母親に、夏美は「だいたいそれならお義母さんもお父さんもわたしと似たようなもんじゃない!!だって二人とも離婚する前からずっと付き合ってたんでしょ?あたしのお母さんあなたのこと許したの?許せないから離婚したんでしょ?」と胸の内に秘めていたことを言い、家を飛び出してしまった。
気まずい思いを抱えながら家に帰った夏美は、海斗に冬吾が事故にあったことを聞く。夏美は冬吾に連絡しようとするが、春への罪悪感や冬吾を心配できる立場でないのだろうかという疑問が渦巻いていた。「このまま部屋に入って、寝て、明日からまたいつもどおり生活する。それでいいじゃないか」と夏美は自分に言い聞かせる。でももし春と同じくして冬吾が死んでしまったら、「――あの人まで死んでしまったら」と思ってしまった夏美は、急いで冬吾がいる病院を探すことにした。

冬吾と夏美の本音

冬吾は車と軽く衝突しただけでかすり傷で済んだが、頭を打ったので検査入院していた。たった一人の人間にこんなにも振り回されることに憎らしくも思ったが、それと同時に「俺はあいつに会いたいのか」と自覚する。そこに相馬系列の病院を全部当たったという夏美が飛び込んできた。
冬吾を見るなり夏美は「生きててよかった…」と泣き崩れる。夏美は春のSNSを見つけたこと、春が自分の代わりに夏美が冬吾と結婚するんじゃないかと怯えていたことを打ち明けた。そして「あなたのことを思うとけっきょく死ねなかった…!」「どうせ死ぬならあなたと一緒にいて死にたい。春はたった一人の家族なんです。妹に呪い殺されるなら、本望です」と夏美は本音を打ち明ける。その様子に冬吾も自分のことを話し始める。
「…俺は…春が死ぬその瞬間まで本気でアイツと結婚するのだと思っていた…。周囲が期待しているその通り春が大学を卒業すれば結婚して、子供をつくり仕事をこなし、それなりの人生を送るのだと…それでよかったのに、春が死んでそこから全てが狂ってしまった…!」「生きる目的なんて考えたこともなかったのに、お前と一緒にいるとだんだんとお前に会うことこそが生きる目的になってしまって お前に会える週末のために仕事をして、別れた後は来週の週末のためにまた仕事をしていた」。
「お前は一体なんなんだ…!別れさえすれば昔の自分に戻ることができると思っていたのに…お前といると欲ばかり出てきてしまう…!」と夏美を抱き寄せて言う。「夏美 お前が好きだ 俺はお前が欲しい…!」と冬吾の言葉に夏美は春のことを思い出すが、「好きです…わたしも…あなたが…っ」と言い、冬吾を抱きしめ返したのであった。

冬吾の検査入院が終わり、夏美が迎えにきた。夏美は家を出ることを決めたと冬吾に言う。ずっと迷っていたが、「冬吾さんと一緒にいたいならそれくらいしないと」と決心がついたのであった。その言葉に冬吾も「…実は俺も近々家を出ようと考えていた」と明かす。一人暮らしをするという冬吾に家事はやったことがあるのかを聞く夏美だったが、冬吾は「いざとなったら水と塩さえあれば生きていける」とあまり考えていないようであった。「…こうなったら二人暮らしします?」と夏美は冬吾に持ちかける。親不孝を重ねているのだから、冬吾がいいのならいいという夏美に冬吾は「お前と一緒にいると確かにイライラするかもしれんが…楽しそうだ」と初めて笑顔を見せた。冬吾はその日のうちに親に話をつけ、家を出ると言う。示し合わせて家出することに「なんだか私たち遅れてやってきた反抗期みたいじゃないですか?」と笑う夏美に「むしろ分別がある分それよりタチが悪いな」と冬吾も笑ったのであった。

夏美は冬吾と二人で暮らすことになったと母親に打ち明ける。「お父さんには私から話す。多分死ぬほど怒られるから、その間お母さんは海斗とどこかに逃げててよ」と怒られることを覚悟する夏美だったが、母親は怒らなかった。「…行きたいなら行きなさい。もう止めないわ。でもお父さんが帰ってくる前に出ていきなさい。お父さんにこんな話をしたらお前は今後一切家から出してもらえなくなる。お母さんからお父さんに話します。お母さんがあなたを勘当します」と夏美の手を握りながら母親は言った。母親は心からは好かれていないとわかっていたが、10年間ずっといい娘でいてくれた夏美と春を大切に思っていた。「10年前は急に娘二人が出来るなんてと思ったのに…まさかこんなにも急に娘二人がいなくなるなんて…」と母親は涙して言う。夏美は「今からでもうまくやっていけるのかもしれない…このまま、この家で家族四人で…」思うが、脳裏に冬吾の姿が浮かび「ごめん…ごめんお母さん…」と言って母親を抱きしめた。
冬吾も家を出ることを母親に話す。「後悔するわよ」「あなた 私達から受けた恩も投資も、何もかもかなぐりすてるわけ」と冷たく言う母親に、冬吾は「…そうだな もしかしたら何もかも上手くいかず、後悔するかもしれない。ただ一つ言えるのは、俺はここには戻ってこない」と決心した面持ちで言った。夏美とは相対して、冷たく淡々と会話をする冬吾と母親だった。

家を出ると決めたその日の夜に待ち合わせた二人だったが、夏美はまだ春への罪悪感が拭えず、「春は今のわたしを見て何を思っているんだろう…?」と考えて立ち止まってしまう。そんな夏美の手を取った冬吾は「人が死ねばどうなるかなど、死んでみなければわからない。俺もおまえも、本当は呪われてなどいないのかもしれない。…だがそれが解ける瞬間は恐らく一生来ることはない。俺にもおまえにもな」と言う。その言葉に涙をこらえた夏美は冬吾の手を握り返し、新天地へと向かうべく歩きだしていった。

『春の呪い』の登場人物・キャラクター

主要人物

立花 夏美(たちばな なつみ/演 :髙橋ひかる、11歳時:白鳥玉季)

ガサツで男勝りな主人公。顔と性格は実の母親に似ており、そのことで父親には好かれておらず、妹の春のことをたった一人の家族と言い溺愛していた。夏美が高3のときに春の病気が発覚し、看護師になれるほど頭がよくないからと言い大学の栄養科に進学した。春が入院しているときは大学へ行きながらバイトもし、春が寂しくならないようにと毎日春に会いに行っていた。春のことしか頭になく、一時は恋愛として春のことが好きなのかと悩んだこともあったが、わからないまま春は死んでしまった。
弟の海斗とはよく野球やキャッチボールをしていて運動神経は良く、冬吾とのデートに折りたたみ自転車で現れることも多かった。

柊 冬吾(ひいらぎ とうご/演 :工藤阿須加、幼少期:後藤成貴)

親に敷かれたレールの上の人生をただ進んできた柊家の三男。母親に言われるがままに進学、就職をし、銀行勤めをしている。両親が一方的に決めたお見合いで立花家の妹、春と交際するようになった。春との交際も順調で、春が死ぬ寸前まで自分は春と結婚すると思っていた。自分が見ていた夏美と、春から聞く夏美が別人ではないかというくらい違っていて、無意識に夏美のことを見ていたことも多かった。
正直な性格だが、言葉や感情をオブラートに包んで誤魔化したりはしない。今まで両親の言うとおりに育ってきたせいか、表に出す感情さえもあまり無かった。春が死んで、夏美に交際を申し込んだ時、初めて夏美とまともに目が合った。冬吾は鈍器で殴られたような衝撃とめまいがして立ちくらみを起こしたが、冬吾にとってこれが初めて他人に対して罪悪感を感じた瞬間であった。

立花 春(たちばな はる/演 :桜田ひより、幼少期:田中乃愛)

夏美の妹で冬吾の婚約者。高校生のときに癌が見つかり、闘病生活の末、若くして死んでしまった。
夏美と違い、大人しくて料理好きで子供が好きで頭が良かった。昔から保育士になりたいとピアノを習っていた。姉の夏美のことが好きで、とても尊敬していた。
冬吾の容姿や人柄に惹かれ、すぐに冬吾のことを好きになった。冬吾は自分を大切にしてくれているが、どこか子供扱いしていると思っており、大人な立ち振舞ができる夏美のことを羨ましがっていた。また冬吾が夏美に好意を寄せていることは薄々感じていた。

立花家と柊家の人々

夏美と春の父(演 :飯田基祐)

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