『はいからさんが通る』とは、大和和紀による少女漫画作品、およびそれを原作としたテレビドラマ、アニメ、実写映画、舞台などのメディアミックス作品。大正時代を舞台とし、大正デモクラシーやシベリア出兵、関東大震災という激動の時代に翻弄されながら互いを想う一組の男女と、彼らを取り巻く周囲の人々の姿を描くラブコメディ。大正時代に流行した民間風俗や、連載当時に人気を博したサブカルチャーを織り交ぜ、恋愛漫画でありながら鋭いギャグや大胆なパロディを含む作風が人気を呼んだ。
『はいからさんが通る』の概要
『はいからさんが通る』とは、大和和紀による少女漫画作品、およびそれを原作としたテレビドラマ、アニメ、実写映画、舞台などのメディアミックス作品。1975年から1977年にかけて『週刊少女フレンド』で連載され、1977年(昭和52年)度、第1回講談社漫画賞の少女部門を受賞している。番外編を含めコミックス全8巻、文庫版全4巻が出版された。1978年から1979年にかけてはテレビアニメが放送され、1979年には宝塚歌劇団の生徒たちを起用してのテレビドラマ版が放送された。1985年と2002年にも単発ドラマとして放送されて人気を博し、1987年には南野陽子主演の実写映画も公開されている。
このように原作漫画の連載当時から様々な媒体でメディアミックスがなされてきた本作だが、放送枠や尺の都合で原作のラストシーンまでが描かれたことはなく、特に忍のシベリア出兵後の展開は、大幅に省略されていることが多くなっている。
2017年と2018年には作者の大和和紀の画業50周年を記念し、前編、後編に分かれた劇場版アニメが公開された。この劇場版アニメでは、メディアミックス作品では初めて、原作のストーリーを最後まで描いていたことが話題となった。さらに、主人公の花村紅緒(はなむらべにお)役を演じる早見沙織が見せた「酒乱シーン」の演技にも絶賛の声が集まっている。
大正時代を舞台とし、大正デモクラシーやシベリア出兵、関東大震災という激動の時代に翻弄されながら互いを想う一組の男女と、彼らを取り巻く周囲の人々の姿を描くラブコメディ。
設定年代当時に流行した民間風俗や、連載当時に人気を博したサブカルチャーを織り交ぜ、恋愛漫画でありながら鋭いギャグや大胆なパロディを含む作風が人気を呼んだ。
『はいからさんが通る』のあらすじ・ストーリー
婚約と婚約者の死
17歳の少女、花村紅緒(はなむら べにお)は、規格外に男勝りな性格で喧嘩も強く、父でも手を焼くほどのおてんば娘だった。そんな紅緒の前にある日、祖父母の代から決められていた許嫁として、陸軍少尉である伊集院忍(いじゅういん しのぶ)が現れる。
女から縁談を断ることは許されない時代だが、親の決めた結婚は避けたかった紅緒は、わざと忍に嫌われようとする。しかし、忍は動じることがなかった。
花嫁修業として伊集院家に入った紅緒は多くのトラブルを引き起こすが、忍は紅緒の筋の通った性格に惹かれていくようになる。そして紅緒もまた、優しい忍に恋心を抱くようになっていった。
そんなある日、酔った紅緒が忍の上司と喧嘩したことを理由に、忍は九州の小倉への転属を命じられた。自分を省み、涙ながらに自分を責める紅緒に忍は愛していると伝え、小倉へと旅立っていく。見送る紅緒は、忍が帰ってきたら自分も彼を愛していると伝えよう、と決意するのであった。
当時、日本軍は戦争でロシアへと出兵しており、忍も派兵されることになった。それからほどなくして、紅緒の元には、前線に取り残された部下を助けようとした忍の訃報が届く。
亡き婚約者に似た男
忍の死後も伊集院家に残った紅緒は、家の厳しい経済状況を考え、仕事に就くことにした。彼女の新たな職場は小さな出版社。社長の青江冬星(あおえ とうせい)は極度の女嫌いだったが、女らしくない、サッパリした紅緒の性格を気に入って採用したのである。
紅緒は仕事に打ち込み、そんな日々の中で迎えた大正10年。
ロシアの貴族であるミハイロフ侯爵とその夫人・ラリサが日本に亡命してきた話題が日本中を揺るがした。彼らを取材することになった紅緒の前にいたのは、まるで忍の生き写しのようなミハイロフの姿だった。
別人なのだろうと割り切りつつも、紅緒は冬星に事情を話し、ミハイロフの身辺を調べてみたいと申し出る。
裏工作をして屋敷へ忍び込んだ彼らは、ミハイロフの子供時代のアルバムを発見。そして、忍とは似ても似つかない性格をした彼を目の当たりにした紅緒は、やはり忍とは別人だろう、と推測しつつ、それでもやはり同一人物であるという可能性を捨て去ることはできなかった。
冬星の告白とミハイロフの真実
母から政略結婚をさせられそうになった冬星は、紅緒を婚約者として家に連れていき、ショックを受けた母は倒れてしまう。婚約者のふりをすることを聞かされていなかった紅緒は抗議したが、冬星は紅緒を本当に愛していると告白する。
忍のことを一途に愛し続け、引きずっていたものの、冬星の告白に紅緒はときめいてしまうのであった。
冬星の告白を受けて数日後、忍が最期に助けようとした部下の鬼島が帰国。大切な話があると言って、紅緒の元を訪れる。
そこで紅緒は、忍が実はハーフで、ミハイロフとは異父兄弟であることを聞かされる。彼の母は満州で亡くなったため、鬼島は伊集院家に訃報を知らせるために帰国したというわけだった。ミハイロフが忍という一縷の望みを捨てきれずにいた紅緒は、話を聞いて落胆する。
紅緒と対面した鬼島は、実母の最期を伝えるためにミハイロフ邸へ向かった。
報告を済ませた彼がその場を辞そうとすると、ミハイロフは実は自分が忍本人であるという事を密かに明かす。忍は、妻のラリサが結核を患って余命が幾許もないこと、そして、ロシアで重傷を負った自分を助けてくれたのが彼女自身で、本物の義弟であるサーシャは既に故人であることを明かす。
優しく誠実な忍は、それゆえにラリサを見捨てることができない、という苦渋の決断を下していたのだ。
逮捕された紅緒
反政府主義者の思想犯だと勘違いされた紅緒は、警察に逮捕されてしまう。
紅緒を助けようと動いていた冬星は、ミハイロフの正体が忍であることを知る。怒りを露わにした冬星は忍に対し、忍が紅緒を傷つけるようなら絶対に容赦しない、という宣戦布告ともとれる言葉を投げかけた。忍は運命を呪いつつも、紅緒のために動くことを決意する。
冬星はこれに、世論を動かす形で対応。一方、軍へ戻り、軍部からの口添えで紅緒を助けようと奮闘していた忍は、それでも紅緒が釈放されないと知ると、反政府主義者のアジトへと殴り込み、紅緒の無実を証明するよう訴える。
無謀ともいえる行動でなんとか紅緒が無罪である、と一筆書いてもらうことに成功した忍だが、怒った組織の構成員に刺されてしまうのであった。
忍が命がけで手に入れた証書が決定打となり、紅緒は無事に釈放された。ミハイロフが忍本人だったことを知って動揺する紅緒だが、そこに現れたラリサが自身の抱える事情と共に、忍が身分を偽って紅緒に会っていた事情を話してくれる。
心から夫を愛していたがために、彼に瓜二つの忍を身代わりにしていた、と涙ながらに話すラリサを紅緒は慰め、「婚約者がありながら浮気をした忍を許すわけにいかないので、どうぞお幸せに」と伝えてその場を去るのであった。事情を知った忍は、後ろめたさもあって、紅緒を追いかけることができなかった。
紅緒は惜しまれながらも、生家である花村家へと戻ることにした。忍とラリサが揃って伊集院家で暮らすためだ。忍の性格上、恩人を放って幸せになるわけにはいかないと思ったのだろう、と考えた末の結論だった。
紅緒はもう彼を待たないと決意し、偶然忍の姿を見かけるたびに決心を緩めそうになる自分を戒める日々を送ることになった。この一方、忍もまた「紅緒に嫌われた」と思い込みながらも、彼女の姿を探してしまう自分に気が付いていた。
結ばれた紅緒と忍
大正12年。冬星の母の手によって、伊集院邸が借金のカタとして取り上げられることが決まった。胸を痛める紅緒のことを思い、冬星は母に伊集院邸は諦めるよう頼む。条件として家を継ぐことを強要された冬星は、紅緒のためだけにその条件を受け入れた。
事情を知った紅緒は冬星の元を訪ね、自分を娶ってほしいと申し出る。冬星は忍を忘れられずにいる紅緒を気遣うが、彼女は既に気持ちに決着をつけ、冬星を大切にしようと心に決めていた。
紅緒と冬星の結婚式は、この年の9月1日に執り行われた。互いに愛を確かめ合い、指輪の交換をしようとした時だった。轟音とともに、大きな揺れが彼らを襲う。後々にまで語り継がれる大災害、関東大震災が発生したのだ。
伊集院邸では、忍を庇ったラリサがシャンデリアに押しつぶされていた。忍はラリサを助け出そうとするが、彼女は忍に「絶対に紅緒を取り戻せ」と言い残すと息を引き取ってしまう。忍は紅緒の元へと駆け出した。
一方、冬星は何とか脱出に成功していたが、紅緒は崩れ、燃えている教会の中に取り残されてしまっていた。倒れた紅緒の元に駆け付けたのは忍だった。
ラリサを助けに行くように告げる紅緒だったが、忍はそんな彼女にラリサの遺言を伝える。互いにもう離れることはない、と誓い合った彼らは抱き合って唇を重ねるのであった。
震災から間もなくして、忍と紅緒は結婚式を挙げていた。冬星からはお祝いにと、取り戻した伊集院邸の登記書が届いていた。冬星は身を引き、2人のために伊集院邸を守ってくれたのだ。
式の後、ラリサの墓前を訪れた紅緒は、心の中で彼女に感謝を伝える。回り道の末に結ばれた2人は、生涯を共に生きることを誓い合うのであった。
『はいからさんが通る』の登場人物・キャラクター
主要人物
花村 紅緒(はなむら べにお)
劇場アニメ版の紅緒
CV:横沢啓子(現・よこざわけい子)(テレビアニメ版)/早見沙織(劇場アニメ版)
テレビドラマ『宝塚テレビロマン・はいからさんが通る』版演者:花島いつき
1985年フジテレビドラマ版演者:三田寛子
テレビドラマ『モーニング娘。新春! LOVEストーリーズ』版演者:石川梨華
実写映画版演者:南野陽子
本作の主人公。黙っていれば気立てがよく、見目もそれなりに愛らしいものの、かなりのじゃじゃ馬で腕っぷしも強い。気が強いため周囲の人々とも衝突しがちなトラブルメーカー。しかし芯の通った性格をしており、忍の訃報が届いた際には想いを伝えられなかったことを深く悔いて、彼の葬儀には白い喪服で参列し「夫は生涯忍だけ」という意思を表明した。その後も伊集院家の女主人として家に残り、ギリギリの家計を支えるために自らも働きに出た。忍が生きており、ラリサと結婚していたことを知って激しく動揺するが、彼らのために伊集院家を離れ、支えになってくれた冬星からのプロポーズを受けて結婚を決意。挙式を挙げたものの、その最中に関東大震災に巻き込まれる。
特技は剣道と槍術で、軍人である忍と互角に渡り合えるほどの実力を持っている。
伊集院 忍(いじゅういん しのぶ)
劇場アニメ版の忍
CV:森功至(テレビアニメ版)/宮野真守(劇場アニメ版)
テレビドラマ『宝塚テレビロマン・はいからさんが通る』版演者:平みち
1985年フジテレビドラマ版演者:野口五郎
テレビドラマ『モーニング娘。新春! LOVEストーリーズ』版演者:沢村一樹
実写映画版演者:阿部寛
紅緒の許嫁で、陸軍に所属する歩兵少尉。紅緒からは「少尉」と呼ばれている。皮肉屋だが朗らかで人付き合いがうまく、端正な容姿もあって社交界の花形として知られていた。伊集院伯爵の息子である宗一郎とドイツ人女性の間に生まれたハーフであり、祖父母に育てられている。当初は育ての親である祖母を失望させまいと紅緒との結婚を決めていたが、次第に彼女の筋の通った人間性に惹かれるようになる。
シベリアに派兵された際、部下の鬼島を庇って重傷を負い、その後の消息が不明となる。
青江 冬星(あおえ とうせい)
劇場アニメ版の冬星
CV:井上真樹夫(テレビアニメ版)/櫻井孝宏(劇場アニメ版)
テレビドラマ『宝塚テレビロマン・はいからさんが通る』版演者:剣幸
実写映画版演者:田中健
小さな出版社「冗談者」の社長兼編集長。遊び好きで浪費家だった母の影響で極度の女嫌いだが、ある意味女らしくない紅緒を気に入り彼女を採用。徐々に恋心を抱くようになる。
彼女が忍を忘れるまでは踏み込むまい、と誓って長く支え、結婚にこぎつけるも挙式の最中に関東大震災に見舞われる。最後は身を引き、紅緒と忍を祝福した。
目次 - Contents
- 『はいからさんが通る』の概要
- 『はいからさんが通る』のあらすじ・ストーリー
- 婚約と婚約者の死
- 亡き婚約者に似た男
- 冬星の告白とミハイロフの真実
- 逮捕された紅緒
- 結ばれた紅緒と忍
- 『はいからさんが通る』の登場人物・キャラクター
- 主要人物
- 花村 紅緒(はなむら べにお)
- 伊集院 忍(いじゅういん しのぶ)
- 青江 冬星(あおえ とうせい)
- 花村家の関係者
- 花村少佐(はなむらしょうさ)/花村 正悟(はなむら せいご)(『モーニング娘。新春! LOVEストーリーズ』版)
- ばあや/あごなしばあや(テレビアニメ版/実写映画版)
- 伊集院家の関係者
- 伊集院伯爵(いじゅういんはくしゃく)/伊集院 博文(いじゅういんひろふみ)(『モーニング娘。新春! LOVEストーリーズ』版)
- 伊集院伯爵夫人(いじゅういんはくしゃくふじん)/伊集院 蔦子(いじゅういん つたこ)(『モーニング娘。新春! LOVEストーリーズ』版)
- 如月(きさらぎ)/如月 ふみ(きさらぎ ふみ)(『モーニング娘。新春! LOVEストーリーズ』版)
- 藤枝 蘭丸(ふじえだ らんまる)/蘭子(らんこ)
- 牛五郎(うしごろう)
- 天丸(てんまる)/地丸(ちまる)
- 狸小路伯爵家の関係者
- サーシャ・ミハイロフ
- ラリサ
- エリナ・ミハイロブナ(先代ミハイロフ夫人)
- 狸小路(たぬきこうじ)
- 冗談社の関係者
- 袋小路 つめ子(ふくろこうじ つめこ)
- 古美 売太(こび うりた)
- 高屋敷 要(たかやしき かなめ)
- 江戸川端 散歩(えどかわばた さんぽ)
- 辺面 岩男 (へつら いわお)
- 愛相 良雄(あいそ よしお)
- 帝国軍関係者
- 鬼島 森吾(おにじま しんご)
- 印念(いんねん)
- 大河内(おおこうち)
- その他の登場人物
- 北小路 環(きたこうじ たまき)
- 花乃屋 吉次(はなのや きちじ)
- 羅鈍のお定(らどんのおさだ)
- 冬星の父
- 冬星の母
- 『はいからさんが通る』の用語
- はいからさん
- 冗談社(じょうだんしゃ)
- 花村家(はなむらけ)
- 伊集院家(いじゅういんけ)
- 狸小路家(たぬきこうじけ)
- 『はいからさんが通る』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 紅緒と忍の出会いのシーン
- 北小路 環「私達はひとりの人間として、女性として、ひとりの殿方を選ぶのです。平塚らいちょう先生もそう申されています。「元始、女性は実に太陽であった。真正の人であった。今、女性は月である。他に依って生き、他の光によって輝く…」私達は殿方に選ばれるのではなく、私達が殿方を選ぶのです。そのための勉強ならいくらでもいたします。」
- ラリサの最期
- 『はいからさんが通る』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 作中にちりばめられた「パロディ要素」の数々
- 有名人にも人気の「はいからさん」スタイル
- 『はいからさんが通る』の主題歌・挿入歌
- テレビアニメ版(1978年)
- OP(オープニング):関田昇介『はいからさんが通る』
- ED(エンディング):関田昇介『ごきげんいかが?紅緒です』
- 劇場版アニメ『はいからさんが通る 前編 〜紅緒、花の17歳〜』(2017年)
- 主題歌:早見沙織「夢の果てまで」
- 劇場版アニメ『劇場版 はいからさんが通る 後編 〜花の東京大ロマン〜』(2018年)
- 主題歌:早見沙織「新しい朝」
- 実写映画版『はいからさんが通る』(1987年)
- 主題歌:南野陽子「はいからさんが通る」
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