風が強く吹いている(風つよ)のネタバレ解説・考察まとめ

『風が強く吹いている』とは箱根駅伝を舞台にした、三浦しおんによる青春小説。2006年9月に刊行され、2007年に漫画化・ラジオドラマ化、2009年1月に舞台化、同年10月に実写映画化する。また、2018年にテレビアニメ化された。元天才ランナーの大学1年生蔵原走(カケル)は、万引きの逃走のために夜道を軽快に走っていた。その走りに魅了された同じ大学の4年生清瀬灰二(ハイジ)は自転車で並走しながら「走るの好きか」と聞く。ハイジによる寄せ集め10人の大学生たちが箱根駅伝を目指して走る物語。

ハイジがカケルと出会った時に初めてかけた言葉。足を壊して走ることが難しくなったハイジは、自分が恋焦がれた理想の姿であるカケルの走りを目の当たりにした夜、叫びたいほどの衝撃だった。子供のように目を輝かせてハイジのかけた「走るの好きか」は、カケルにとっても走る中で何度も思い出す言葉だった。

王子:「みんなと走れなかったら。この場所に来られなかったら。そんな自分はもっと嫌いだ!」

第1区の終盤に差し掛かって、周囲の選手が一気にペースを上げる中、王子も必死に食らいついて走っていた。その時の王子の言葉である。走ることが大嫌いなことは箱根駅伝を走っても変わらないけれど、陸上を諦めることは決してしなかった王子の負けず嫌いで頑固な性格が「みんなと走れなかったら。この場所に来られなかったら。そんな自分はもっと嫌いだ!」にはあらわれている。

ジョータ:「大切な魂の片割れを、ようやく解き放す時が来たんだ」

箱根駅伝を走るジョータが双子の弟、ジョージを想った時の言葉。ずっと一緒に成長してきたが、自身と弟との違いの中に走ることへの才能を練習中に感じていたジョータ。同じ学年で天才的なカケルの走りに純粋に憧れ、追いかけるジョージがこれからもっとランナーとして成長すると考えるジョータは、弟が別々の道へ進むことを心から応援する気持ちでいた。その気持ちが現れたのが「大切な魂の片割れを、ようやく解き放す時が来たんだ」である。

カケル:「なぜ俺たちは、こうまでして走り続けるんだろう。こんなにも辛くて、こんなにも苦しいことをどうしてやめられないんだろう。仲間、目標、自分のため、意地と誇り。わからない、きっと誰にも。だからみんな目を逸らせないんだ。だから心に刺さるんだ」

5区を高熱にうなされながら一歩ずつ走る神童の姿を、箱根の往路ゴールで待つカケルがモニターで見ながら感じたこと。何度も足を止めながら、監督の制止を振り切りながらユラユラと必死に前に進む神童の姿に胸を打たれた瞬間でもある。カケルが走るための「強さ」を感じた素晴らしい走りだった。「なぜ俺たちは、こうまでして走り続けるんだろう。こんなにも辛くて、こんなにも苦しいことをどうしてやめられないんだろう。仲間、目標、自分のため、意地と誇り。わからない、きっと誰にも。だからみんな目を逸らせないんだ。だから心に刺さるんだ」にはカケルの感動があらわれている。

ニコちゃん先輩:「俺は走ることが好きだ。愛してる」

「俺は走ることが好きだ。愛してる」はユキから襷を受けたニコちゃん先輩が、箱根駅伝を走る中で改めて実感した走ることへの愛情が溢れでた言葉。高校時代に体格から記録が伸びなかったニコちゃん先輩だが、ワクワクして思わず笑ってしまいそうになるほどの陸上の高揚感は何年経っても変わることはなかった。

キング:「頼んだ」

「頼んだ」は箱根駅伝8区を走るキングが、9区を走るカケルに襷を渡す際にかけた言葉。大学生活では周りに馴染めず、無理に強がって笑っていたキングだが寂しい気持ちや孤独に素直になれなかった。走る間は周りのために自分を偽る必要がなく、本当の自分でいられることを知り、アオタケメンバーも自分にとって代えのきかないものになっていった。孤独や寂しさ、本当の自分を愛せるようになったキングが、誰かに頼る言葉を言えるようになったことがわかる場面でもある。

『風が強く吹いている』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

ヒューマンドラマのようなアニメ

アニメの監督である野村和也は、声優陣に収録に入る前のレクリエーションで「ヒューマンドラマの部分を強く描きたい」と話している。野村監督はアニメ化の前に舞台化や映画化をしている本作の他メディアを見ずに、原作だけを見て制作に臨んでいる。竹青荘の声優陣もその言葉通り、会話のキャッチボールの中で芝居をより自然にしたりして竹青荘の面々のナチュラルな生活感を出している。

リアル竹青荘な声の収録現場

本作アニメの竹青荘の住人を演じる声優たちの年齢差や性格が、どこか演じているキャラクターに似ているとハイジ役の豊永らは語る。ニコちゃん先輩役の星野は背が高く髪も長かったため、後ろ姿はそっくりだったそうだ。また、カケル役の大塚はアニメの声優が初ということもあって、現場では緊張と物静かな性格からほとんど喋らなかった。しかし、王子役の入野や神童役の内山、双子役の榎木と上村の話を聞いてクスッと笑っているらしく、口下手だが次第にメンバーに打ち解けていったカケルと重なる部分がある。役者がメインの仕事だったムサ役の株元も声優たちからしたら別世界から来た「留学生」のような感覚だったらしい。

アニメ化スタッフは青春群像劇にぴったりの布陣

本作の監督を務める野村和也は過去に『攻殻機動隊』や『ジョーカーゲーム』を手掛けており、また、シリーズ構成・脚本は第36回日本アカデミー賞を受賞した映画『桐島、部活やめるってよ』の喜安浩平が起用されている。アニメーション制作は、『ハイキュー!!』や『黒子のバスケ』を制作したProduction I.Gが担っている。さらに、アニメのサウンドトラックは『ハイキュー!!』シリーズや『僕のヒーローアカデミア』シリーズの音楽を担当している林ゆうきが制作した。ハイジ以外のキャラクターにも人物の背景を掘り下げてしっかりと焦点が合わせられ、群像劇としての箱根駅伝が丁寧に描かれている。陸上競技としての面白さと、大学生たちの人間関係や複雑な心境を爽やかに彩る疾走感あふれる音楽も魅力的である。

『風が強く吹いている』の主題歌・挿入歌

OP(オープニング):UNISON SQUARE GARDEN『Catch up, latency』(第1話 - 第11話)

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