新暗行御史(漫画・アニメ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『新暗行御史』は、『サンデーGX』で連載されていた史実を元にしたファンタジー漫画およびそれを原作としたアニメ映画。
作者は原作・尹仁完、作画・梁慶一の二人の韓国人。
聚慎(ジュシン)という国の滅亡後、訳あって暗行御史となった元将軍文秀(ムンス)が放浪の旅でお供の山道(サンド)や房子(バンジャ)に出逢い、行く先々で遭遇する問題を解決していく。
道中で聚慎滅亡・親友・恋人の死全ての原因となった阿志泰(アジテ)に再会。
過去への葛藤を乗り越え、悪魔の圧倒的な力に勇敢に立ち向かう様を描く。

『新暗行御史』の概要

『新暗行御史-SHIN ANGYO ONSHI-』とは、2001年から2007年まで『サンデーGX』で連載していたファンタジー漫画およびそれを原作とした映画作品である。
作者は二人の韓国人で、原作・尹仁完(Youn In-Wan)、作画・梁慶一(Yang Kyung-Il)。
暗行御史(作中ではアメンオサと読む)は李氏朝鮮(1392年から1897年にかけて朝鮮半島に存在した国家)で実際にあった官職。
正規の地方官を秘密裡に監視する国直属の官吏である。
『新暗行御史』は、史実に悪魔や悪獣、幽幻兵士(ファントムソルジャー)などを交えアレンジしたファンタジー漫画となっている。
2004年12月4日には初の日韓合同製作のアニメ映画も公開されている。
聚慎滅亡後、亡き親友に託された暗行御史究極の三馬牌(サンマハイ)を手に放浪の旅をしていた主人公文秀が、お供の剣士山道と従者房子と共に様々な問題を解決していく。
道中聚慎で共に戦った仲間や恋人の姉、聚慎滅亡・親友・恋人の死の原因となった仇敵・阿志泰と対峙し、その度に徐々に明らかになっていく文秀の過去の苦悩と葛藤。
その一方でこの世では嘘と真実が複雑に絡み合い、理屈では解決できない難問が立ちはだかる。善と悪とは人間とはなんなのかをめぐり様々な人間模様が重なり縺れ合う我々の根本を揺るがす物語である。

『新暗行御史』のあらすじ・ストーリー

序章:暗行御史の登場

いにしえの時に、東方に聚慎という大国があり、そこには「暗行御史」と呼ばれる隠密要員がいた。
暗行御史は王の特使として秘密裡に地方を巡り、悪政を糾弾し、庶民を救う聚慎の特殊官吏であった。
いわばその世界の水戸黄門のような存在である。
しかし、その聚慎が滅んだ今、いまだ一人の暗行御史が浮き世をさすらっていた。
煙が立ち上り、荒れ果てた村に旅装束姿の男が立ち寄る。
その惨状に呆然としていると、この地域を治める領主の臣下と名乗る文秀に捕らえられそうになる。
この村の村長の娘ロロが割って入ったが返り討ちにされ、見逃してもらうために旅人は家紋入りの家宝を文秀に渡す。
宝に免じて見逃して貰った後、2人はベンチに座り文秀の悪行について話をする。旅人はロロから、文秀が値上げした税金を払わない理由だけで村に火を放ち村人を追い出した事、それをやめさせようとして村長が連れていかれた事、悪政から救ってくれる救世主・暗行御史が現れるのを待っている事を聞かされた。
領主の城では、文秀が旅人から奪った家宝を献上しようとしていたが領主は不在だった。文秀は臣下になって1カ月経っても領主に会えないとぼやきながら地下牢へと足を進める。そこにはロロの母親である村長が捕まっていた。
村長は明日処刑となることが決まり、それを知ったロロは「どうして暗行御史はまだ現れてくれないの!」と泣きじゃくりながら旅人の元を訪れる。
「最後まであきらめないこと。たとえ暗行御史がいなかったとしても、あなたがあきらめなければ、そこに希望はある。私たちがお母さんを助ければいいじゃないか。」と旅人は優しい表情でロロに希望を持たせる。

ところがロロは今度は焦りだし、領主は魔術を使う魔女だと言う。
不安がるロロに気にするなとウインクする旅人と共に処刑場に向かう。
処刑場に現れた村長の姿を見たロロは武器を手に村長奪還に踏み切る。
しかしあっけなく捕まりこれでいっかんの終わりと絶望したその時、「感動した」と言いながら旅人がロロの前に躍り出る。
ロロをはじめとして周りの群衆は、もしやこの旅人が暗行御史なのでは?と一抹の希望を持つ。しかしその矢先、旅人の奪われた家宝に書かれた家紋が、城のシンボルと同じだと言うことが明らかになる。そして文秀は、「旅からのご帰還歓迎いたします、領主様!」と旅人の格好をした領主を労わる。
裏切られ、絶望したロロの前に変身を解いた魔女の領主は「私は民に希望と絶望を同時に与えるために、旅人を装って旅をしていたんだ。」と辛辣な一言を投げかける。

絶望と恐怖で震える群衆の前で、いよいよ村長とロロの処刑が執行されるという時、文秀はロロに「まだ希望を持ってるかい?」と尋ねる。「そんなこと絶対にない…希望も勇気もみんな戯言だ!」そう泣いて訴えるロロに、「そうかそれはよかった。これから起こることはすべて偶然だ!だから2度とこんなことが起こるなんて思うなよ。」と文秀が返すと同時に、村長の首に斧が振り下ろされる。
しかし村長は偽物で煙と共に”暗”と書かれた紙になってしまう。
文秀は幽幻兵士を蘇らせる究極の三馬牌を出し、「さあ暗行御史の出頭(おでまし)だ!!」と叫ぶと悪獣との戦争で死滅した聚慎の特殊部隊を召還し、領主の臣下を全員倒してしまう。
本来の姿になった領主も、文秀は巧みな口車で意表を突き怪我を負いながらも銃で倒す。
戦いに勝利した後、文秀に言われた通り裏山に行くとそこには本物の村長の姿が。
ロロと母親は感動の再会を果たした。

山道・春香(チュンヒャン)との出会い

道に迷い砂漠で死にかけている文秀を、水を与え救ったのが獣医・夢龍(モンリョン)。
彼は新しくやってきた領主に恋人春香を奪われ、取り戻すために日々暗行御史の勉強をしているという。
しかし砂漠の食人鬼・サリンジャーに殺されてしまう。
妖怪には幽幻兵士は役に立たない為、文秀は銃と夢龍の遺体を盾にその場を脱出し、彼のヘアバンドとお供をしていた蝙蝠を連れて春香を救出に向かう。
夢龍の村の領主は暗行御史にびくびくしながら毎日を過ごし、日ごろから最強の傭兵を募集していた。
募集の張り紙を手に領主の元へ向かった文秀は、領主の臣下を幽幻兵士で一掃する。
暗行御史の登場に、湧き上がる市民たちだが、「これは偶然だ、救いだけを求める奴らに奇跡はない。」と市民も粛清しようとする。
そこに領主によって洗脳され、右手に大きな爪を付けた春香が立ちふさがる。
春香は、文秀の撃った銃弾を幽幻兵士から奪った剣で斬り、弾道の先にいる文秀を攻撃しようとした。
しかし文秀の着けているヘアバンドを見た瞬間、春香の頭の中に夢龍との暖かい思い出が駆け巡り、洗脳が溶け文秀の腕の中に崩れ落ちる。
臣下を失った領主は、今まで見下していた民に首を斬られてしまう。
戦いが終わった後、夢龍の墓で「原因不明の呪いにかかっている。少しでも激しく動くと呼吸が苦しくなる。…一生この呼吸器(おまもり)に頼らなければならない。」と文秀は自分の病について春香に打ち明け、「自分の身を守るのに精一杯で、夢龍を死なせてすまん」と謝る。
春香は「全国を旅して貧しい民を救うんだ。」という夢龍の言葉を思い出し、暗行御史を守る闘士(スレイヤー)、山道(サンド)となり、あなたを守ると宣言する。

奇跡(ペテン)の鍼

夜の砂浜で出逢った青年浚(ジュン)の島には鍼術で死んだ人を生き返らせる”奇跡の人”がおり、その正体は黒い翼を持つ悪魔だという。
かつて聚慎を滅亡させた阿志泰にも黒い翼があり、文秀は悪魔は阿志泰だと確信し、助けを求める浚について島に向かう。
島人は一年前全員奇妙な伝染病で一度死んでしまったのだが、黒い翼を持つ柳義泰(ユイテ)の鍼術で生き返って元気に暮らしていた。
文秀は柳義泰を炙り出すために島人を全員銃で撃ち殺してしまう。
しかし柳義泰の正体は阿志泰ではなかった。
柳義泰の持つ鍼は、曼陀羅華という薬草から出来ており、おのれの見たいものを望みどおりに見せ、本人の望む世界に思う存分生きる事ができるという。
島人達も奇跡的に生き返ったと錯覚させられ、魂を身体にとどめられた為、生きる屍として動き回っていた。
柳義泰を倒した文秀と山道は、阿志泰捜索の手掛かりになるかもしれないと曼陀羅華の鍼を持って、自分も島人と同じく死んでいた事に気づいた浚が魂が天に還るのを見送ってからその場を後にした。

房子との出会い・聚慎の仲間たちとの再会

森の温泉で休息を取っていた文秀と山道は、仕えていた暗行御史を亡くした房子と出会う。
文秀が暗行御史と知ると、いくら仕えることを拒んでも房子はしつこくついてくる。
付きまとわれたまま次にたどり着いた町で、文秀はかつて聚慎で仲間だった乙巴素(ウルパソ)・元述(ウォンスル)・元暁(ウォンヒョ)と再会する。
三人は強大な力を持つ阿志泰の元、この町を統治しているという。
町は溶路(金属を溶かす路)を建設するという建前で、罪人を利用して楊貴妃(ヤングイヒ)という麻薬を栽培させており、それに気づいた文秀は調査と厄介払いの名目で房子を潜入させる。
清々したと酒場に足を向けると、最強の剣士部隊「花郎(ファラン)」出身の元述と棒術使いの乙巴素が姿を現し、幽幻兵士を召還しようとした隙に三馬牌を元述に真っ二つにされてしまう。
敗北を確信した文秀は山道を逃がし、自分は捕まってしまう。
夜が更け山道は文秀奪還に向かうが、待ち伏せをしていた元述と対峙する。
元述の見えざる剣「殺形刀(サルヒョンド)」は己の気を様々な形にして剣にまとわせる為、常人ではその形を見ることが出来ない。
山道も苦戦を強いられるが、元述が一瞬動揺した隙に渾身の一撃を当てる。
脱出した文秀も合流し、「将軍の言う通り、自分を導いてくれるのであれば誰でもよかった。ですが、どうして貴方は自分の前に現れてくれなかったのか。」と当時憧れていた上官の文秀へ言葉を残し、元述は息を引き取る。

この町の領主である元暁は人間ではなく悪獣である。
かつて悪獣の長・快惰天(カイダテン)との闘いで魔法の力を使い果たし、人間の形をとる為に定期的に月の儀式という名目で生贄の生気を吸い取っている。
月の儀式が行われる場所へ向かった文秀は元暁と遭遇、死闘の末その場に居合わせた房子の手助けもあり勝利する。
その後元暁が産み落とした悪獣たちに襲われるが、文秀より先に潜入していた暗行御史ミス黄(ファン)の4馬牌により、殲滅される。
これをきっかけに、悪獣を目覚めさせた乙巴素は、懲らしめられミス黄の僕となった。

別れと再会

文秀一行は元述に斬られてしまった馬牌を直す為、ミス黄の馬牌をパワーアップさせた鍛冶屋を地図を頼りに探し始める。
山小屋でひっそりと暮らしている鍛冶屋の弥土(ミト)は元大魔法士で、暗行御史制度を作った当人。
領主・平袁(ピョンウォン)の娘で虚言症を患う平岡(ピョンガン)を幸せにするという試練をクリアすれば馬牌を直してやると言われ、苦戦しながらもなんとかクリアし更に強く生まれ変わった馬牌を手にする。
弥土(ミト)の元には、かつて阿志泰の手下であった聚慎一の足拳道(テコンドー)の達人英實(ヨンシル)がおり、文秀と一悶着する。
悪魔の力を使う阿志泰に恐怖から仕えていた英實だが、「人間は人間とだけ付き合うべきと悟った」と改心したことを打ち明け、武器を改良したりコートの防御力を上げたりと文秀の手助けをする。
阿志泰の情報と場所を知る英實の案内で山を歩いていると、ミス黄の房子になった乙巴素に「わが暗行御史様をお助け下さい!」と頼まれ、乙巴素を追ってきた活貧党(ファルビンダン)の太儒(テユ)とドルソに襲われる。
合気(ハブキ)の使い手である太儒とドルソに、英實と山道は圧倒的な力でねじ伏せられてしまう。自分の力に自信を無くした山道は文秀の元を離れ、夜な夜な町に出没し手強そうな武人達に勝負を挑んではなぎ倒す日々を送る。
山道が離れてすぐ、死んだはずの元述が文秀の前に現れる。
元述の魂は阿志泰の手で体に固定され、生きる屍として文秀を監視、阿志泰の元まで導く手助けをしにきたのだった。

活貧党と洪吉童(ホンギルドン)

文秀はミス黄が捕らえられている金海(キムヘ)と呼ばれる土地へ向かう。
金海は膨大な量の地下金脈を有しており、聚慎最大の黄金保有地。
今回活貧党は『要求した黄金を寄越せ、さもなくば金海一帯を火の海にする』と領主に脅迫状を送り付け、居合わせたミス黄は一人立ち向かうも返り討ちにあってしまった。
活貧党は盗賊集団だが、富を貧しいもの達に分け与える義賊である。
総裁は文秀の死んだ恋人桂月香(ケウォルヒャン)と名乗っているが、実際は母違いの姉洪吉童。
文秀は桂月香と同じ謎の呼吸器系の病に身体を蝕まれており、パイプ(吸引機)が無いと思うように身体が動かせない。
そこで今回一時的に発作を抑える薬を服用し、全力で活貧党に立ち向かっていく。
桂月香を文秀が殺めたと思っている洪吉童は活貧党の仲間たちに文秀を殺してと命じるが、文秀はしぶとく食らいついていく。
そこで活貧党の1人で洪吉童の恋人の白龍(ベリョー)が合気を使い、戦闘をしていた仲間の船ごと海に沈めてしまう。
一方監視役の漱(ス)が寝ている間に檻から脱出したミス黄は、海に沈んでいく文秀を救い出す。
ミス黄は文秀に、活貧党は義賊である事を話し、自分たちと同じ目的を持った彼女たちを裁けるのかと迷う心を打ち明けた。
「いくら腹が減っても、パンを盗んだガキは…そのケツを引っぱたかなきゃならねぇんだ。所詮は盗賊の集まりじゃねぇか。」そう一刀両断した文秀はミス黄と共に洪吉童の元へ向かう。
そこにはミス黄から奪った馬牌を構えた洪吉童と領主、領主を救出しようとする金海の兵士たちと房子が睨み合っていた。
馬牌は正義を行う者だけが幽幻兵士を召還出来る筈が、盗賊である洪吉童の号令に召還され、文秀の幽幻兵士と対峙する。

洪吉童が金海の兵士に殺されそうになったその時、白龍がその場にいる兵士と幽幻兵士を消し去り洪吉童を助ける。
その直後、不意を突かれた白龍は領主の刀に首を斬られてしまい、文秀によってとどめを刺される。
恋人・仲間を失った洪吉童は剣を持ち、文秀を殺そうとする。
文秀は真に裁かれるべきは自分だとまるで洪吉童に殺されるのを望むかのように動かない。
過去に洪吉童の義理の妹である桂月香を結果的に自分の手で殺してしまったからだ。
それを見た房子が洪吉童の足にしがみ付き「不幸な人がいない、そんな世の中をつくろうって言ったじゃないですか!」と叫ぶ声をきき、敵の筈の文秀が自分と同じ志を持っていると知る。
洪吉童は桂月香を文秀が故意に殺していない事を察し、文秀を刺そうとしていた剣を捨て、どうして彼女を守れなかったのかと泣き崩れる。
領主が彼女の死罪を求めたことで、文秀の目の前で洪吉童が自らの胸に剣を突き立て自害する。
自分の見ることが出来なかった夢を文秀に託し洪吉童は息を引き取る。

肺が潰れかかり、苦しそうに喚く文秀の元に阿志泰が姿を現す。文秀の最期を誰も邪魔しないように、阿志泰に付き従う狂気の黒魔術師・ルウに「後片付けを頼む」と命じると、生き残っていた周りの人間が殆ど殺されてしまう。
阿志泰は虫の息である文秀に近寄り「人間の善と悪の概念を消し去り、新しい世をつくる」と楽しそうに話す。
「文秀は阿志泰の胸倉を掴むと「たとえこの世がブッ壊れようが絶対にお前の好きにはさせねぇ!」と宣言する。
阿志泰が去った後泣きわめく房子に文秀は、手掛かりにと持っていた柳義泰の曼荼羅華の鍼を自分の体に打つよう命じたのだった。

曼荼羅華の夢

鍼を打たれた文秀の身体は心臓も呼吸も止まっているのに腐敗せず、曼荼羅華の力で過去へ過去へと時間を逆行する。
自分が安らげる場所を見つけたらそこで永遠に生き続けるのだが、文秀には安らげる場所などなく、夢の最後に現れた阿志泰によって目覚める事が出来た。
文秀が眠っている間に、阿志泰による、人間を無に帰す作業が金海を根城に進んでいった。
伝説の軍人達と悪獣の筆頭である快堕天を蘇らせ、先人に定められた善と悪など様々な束縛から解き放ち自由に生きるという全人類の悪魔化改革で世は混沌に陥っていた。
目覚めた文秀は己を蝕んでいた病が嘘のように治癒していたが、弥土はそれは蝋燭の風前の灯だと危惧し、いつ死んでもおかしくない状態だと文秀に告げる。
そんな中旅の途中で親しくなった国の兵達と、文秀の旧知の仲であるルシード将軍の兵を集め、文秀軍と阿志泰率いる悪魔軍で人類の未来を懸けた戦争がはじまる。

日食

文秀軍の野営地に突如として阿志泰が単独で乗り込んでくる。
宣戦布告をするつもりだった阿志泰だったが、文秀は全く動じず「数日後の日食の日に行くぜ。一匹残らず、根絶やしにしてやる」と追い払った。
日食まであと一日という夜、巨大な悪獣が野営地を襲う。
その正体は快惰天に弄ばれた元述であった。
文秀は悲痛の思いで足元にある火薬庫を爆破させ、元述を逝かせた。
それから兵たちの雰囲気は重苦しいものになり、「自分は阿志泰に勝てるのか」と文秀の表情からは余裕が無くなった。
日食の日、戦争は開始された。
襲いくる悪獣達に、サイコロを振って出鱈目な軍の侵攻をする文秀。
しかし、日食が終わり太陽が顔を覗かせると悪獣たちの目を眩ませ、その一瞬の隙に文秀軍が反撃にまわる。
ミス黄の山道が快惰天の首を斬り悪獣達は消滅した。
城内へと侵攻する文秀と房子の前に、文秀達の元を離れてから阿志泰の元で修行し、暗示にかけられた山道が立ちはだかる。

阿志泰と決着

阿志泰に操られた山道は文秀たちに容赦なく襲い掛かる。
文秀の言葉に心が揺らぐも房子の腹を斬り、文秀の左腕を肘から斬りおとしてしまう。
なおも攻撃を仕掛ける山道の足元に文秀のヘアバンドが取れて転がり、それをみた山道は夢龍や文秀と過ごした日々を少しずつ思い出す。
葛藤の中、山道は再度文秀の左腕を根元からバッサリ斬り落としてしまうが、阿志泰の洗脳を解きなんとか自分を取り戻す。
ごめんなさいと泣きわめく山道と三人で再会を喜ぶも、阿志泰が目の前に現れ戦闘中の人間たちの殆どを消し去ってしまう。

阿志泰の圧倒的な悪魔の力は10年前聚慎滅亡の時、文秀だけには通用しなかった。
10年前、文秀が快惰天との戦争に勝利し、西洋へ旅に出た際押しかけ女房のようについてきた桂月香と甘酸っぱい幸せな日々を送っていた。
しかし彼女がずっと抱えていた謎の病が悪化し、余命幾ばくかになってしまう。
その頃聚慎で不穏な動きをする者がいた。
文秀の親友であり聚慎の王・解慕漱(ヘモス)はわざと反乱を起こさせ反逆者を炙り出し一掃する為に、一時的に王座を離れ西洋に赴いていた。
医術でなくてもいいから彼女を助ける方法はないのかと焦る文秀に、「桂月香のためならなんでもできるか」と解慕漱は問う。
その結果、解慕漱に同行していた文秀の部下・阿志泰に、桂月香の病と文秀の健康を入れ替える黒魔法を行わせる。
黒魔法のお陰で阿志泰の悪魔の力は通用しなかったのだが、曼陀羅華の鍼で目覚めた文秀にはもう黒魔法の力は残っていない。
阿志泰は今までのように一瞬では殺さず、文秀の左腕と右目を潰してしまう。
それでも死なずに歩みを進める文秀に、何故死なないのだと恐怖に叫ぶ阿志泰。
目の前まで来たところで、阿志泰を鋭い眼光で睨み立ったまま文秀は息絶える。
それに安堵した阿志泰に山道が襲い掛かる。刃を避けようとするが文秀の目に一瞬怯み、その隙に服の端を踏まれ動けずそのまま切り裂かれ命を落とす。

エピローグ

戦争が終焉して2か月後、房子は亡き文秀に手紙を書く。
仲間のそれからや国の事が書かれており、かの地で手紙を読む文秀が笑み桂月香に呼ばれ、先に命を落とした仲間たちの元へ歩いていく。
房子は暗行御史を見つけてはしつこくお供し、山道は困っている人を見つけては助ける日々を送る。

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