憂国のモリアーティ(憂モリ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『憂国のモリアーティ』とはコナン・ドイル作の小説『シャーロックホームズシリーズ』を原案とし、構成を竹内良輔、作画を三好輝が担当するミステリー漫画である。2016年に月間漫画雑誌『ジャンプSQ.』で連載開始され、アニメ・小説・ミュージカル・舞台と多様なメディアミックスを行っている。
原案の小説では敵役として登場するジェームズ・モリアーティを主人公に据え、彼とその仲間たちによる腐敗した国を相手取った壮大な計画と名探偵ホームズとの緻密な頭脳戦が描かれていく。

『憂国のモリアーティ』の概要

『憂国のモリアーティ』とはコナン・ドイル作の小説『シャーロックホームズシリーズ』を原案とし、構成を竹内良輔、作画を三好輝が担当するミステリー漫画である。
2016年に月間漫画雑誌『ジャンプSQ.』に連載が開始され、2018年には「第13回全国書店員が選んだおすすめコミック」の一般部門2位を獲得するほど人気を博した。原案の小説では主人公シャーロック・ホームズの最大の敵として位置づけられ、「犯罪界のナポレオン」と称されたジェームズ・モリアーティにスポットをあてた作品である。

物語は19世紀末・大英帝国時代のロンドンにて、孤児の主人公が慈善活動で孤児院に来ていた貴族のモリアーティ家の長男・アルバートにその頭脳明晰さを気に入られて弟のルイスと共に引き取られたことから始まる。
階級制度によって差別が行われる現状に異を唱え、国を相手に戦う野望を秘めている主人公とルイス。自らも貴族でありながら国と共に腐敗した貴族に辟易としていたアルバートは2人と手を組み、実の家族と屋敷に従事する関係者含めたモリアーティ家の人間全員を火事に見立てて殺害する完全犯罪を実行する。この日から主人公は火事で亡くなったモリアーティ家の次男ウィリアム・ジェームズ・モリアーティになりすまし、ルイスは養子の末弟として、長男のアルバートと共に3人で理想の世界を作る決意を固めた。そして理想の世界を作るために国を相手にした壮大な計画が動き出す。

『憂国のモリアーティ』のTVアニメは分割2クールでTOKYO MXなど複数の局で放送された。第1クールは2020年10月~12月、第2クールは2021年4月~6月に放送され、2022年4月27日には新作のOVAの発売がされることも決定している。

ミュージカル版は「MUSICAL『憂国のモリアーティ』」・通称『モリミュ』と称され、第1弾は2019年5月に東京と大阪の2か所で上演された。
2020年7月~8月に第2弾「MUSICAL『憂国のモリアーティ』Op.2(オーパスツー)-大英帝国の醜聞-」、2021年8月には第3弾「MUSICAL『憂国のモリアーティ』Op.3(オーパススリー) -ホワイトチャペルの亡霊-」が上演され、3作とも鈴木勝吾が主演を務める。

舞台版は舞台『憂国のモリアーティ』・通称『モリステ』として、第1弾が2020年1月~2月に東京と大阪で上演された。第2弾「舞台『憂国のモリアーティ』case 2(ケースツー)」は2021年7~8月に上演され、2作とも主演は荒牧慶彦が務める。

小説では主人公ウィリアムをはじめとした登場人物の日常や事件など、漫画では描かれていないオリジナルストーリーが綴られている。
1作目の『憂国のモリアーティ "緋色"の研究』が2018年11月に発売され、2019年11月に『憂国のモリアーティ 禁じられた遊び』、2020年10月に『憂国のモリアーティ 虹を視る少女』と続いている。

『憂国のモリアーティ』のあらすじ・ストーリー

最初の事件・モリアーティ伯爵家の火事

孤児の主人公とその弟のルイスはある日、慈善活動で孤児院に来ていたモリアーティ家の長男・アルバートに気に入られモリアーティ家の養子となる。しかし大英帝国の階級制度の中でも最下層の人間である2人は、アルバート以外のモリアーティ家の人間からは見下され不当な扱いを受けていた。
孤児院にいる頃から階級制度により生まれながらにして差別される現状に異を唱え、悪い貴族を倒し国を相手に闘うことを企てていた主人公とルイス。自らも貴族でありながら、身分ばかりを気にする周りの人間に強い不快感を感じていたアルバートは二人の思想に賛同する。優れた知能を持つ主人公の計画に、貴族である自分の地位や財産などの必要な力を与えるために養子として引き取ったのだった。

アルバートの実弟でモリアーティ家の次男・ウィリアムの誕生日前日、アルバートは主人公に「理想の為に人を殺せるか」を問う。それはアルバートから主人公への最初の依頼であり、国を相手取った壮大な計画の第一歩だった。主人公はその依頼のため、優れた知能で火災事故に見立てたモリアーティ家全員を殺害する計画を企てる。そうして完全犯罪を成し遂げた主人公とルイス、アルバートの3人。その日から主人公は火災で亡くなったモリアーティ家の次男"ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ"を名乗る。

ダブリン男爵の死

モリアーティ家の火災から13年後、3兄弟はダラム市内にある屋敷と領地を買い、ウィリアムはダラム大学に数学教師として勤めていた。
教師の仕事の他に、市民の相談や悩みを聞き解決に導く私立相談役(コンサルタント)を生業にしているウィリアムは、町の人からこの地の現状を聞き出す。それはダラムの地は代々二つの名家が治めており片方は数年前に途絶えたが、もう一つの名家であるダブリン男爵家は、今でも地代でこの地の住人の収益までもむしり取り奴隷のように扱っているという話だった。
自分たちの領地の地代を下げ住民からの評判も上がり始めていた頃、ウィリアムは町でとある夫婦の子供が3年前に死んだ話を聞く。町医者が不在の日に子供が熱を出し、ダブリン男爵家専属の医者に診てもらおうと訪ねたが医者の診察はおろか薬も水ももらえず、そのまま子供は命を落としたのだった。

モリアーティ家が地代を下げたことに憤慨したダブリン男爵は、自分の屋敷にモリアーティ家を招待し話し合いの場を設けた。ウィリアム達はその場に小作人の代表として3年前に子供を亡くしたバートンを、そしてゲストとしてその妻のミシェルも参加させる。2人は子供を見殺しにされた恨みから、それぞれで犯罪相談役(クライムコンサルタント)であるウィリアムにダブリン男爵の断罪を依頼していたのだった。
ウィリアムの誘導によりミシェルが昔自分が見捨てた子供の母親だと思い出したダブリン男爵は動揺し、さらにこの一連の流れをウィリアムが企てた事だと打ち明けられると、興奮状態のためか持病の心臓病が悪化し薬を飲まなければならない状態になる。
見殺しにした子供への謝罪と「自分の死亡後は土地を無償で小作人達に譲り渡す」という遺言書を書くことを条件に薬を飲ませてもらえたダブリン男爵だが、その直後に眩暈と頭痛で倒れそのまま死亡する。それはバートンからの土産として受け取りデザートに使われたグレープフルーツに含まれる物質と、心臓病の薬の成分が混ざり合うと薬の効果が強力になる仕組みを利用したウィリアムによる完全犯罪だった。

ウィリアム誘拐事件

ロンドンで陸軍中佐の任についているアルバートは、陸軍省の会議でロンドンを拠点とするマフィアがアヘンを製造し流通させているという情報を報告する。しかし貴族が関わっている可能性があるため、会議は難航し軍に出撃許可が出ることはない。そのことに憤慨した同僚から軍情報部の特務機関創設の噂を聞いたアルバートは、ウィリアムに一通の依頼を送り、自身は軍情報部の長官であるマイクロフト・ホームズと接触する。

ウィリアムは数学の学会に出席するためにダラムからロンドンまで来ていたが、見知らぬ男たちに声を掛けられそのまま誘拐されてしまう。ルイスからウィリアムが誘拐されたことを聞いたアルバートは、偶然ロンドン市内に自らが率いる中隊と共に駐屯していた。そして救出部隊の指揮権を得て、ウィリアムの救出に向かう。
ウィリアムを誘拐したのは、陸軍の会議で話題に上がっていたアヘン流通組織"マリーン"。アルバートは弟の救出と共に、偶然アヘン組織の始末にも成功する。

実はこの一連の事件は、アルバートの依頼によりウィリアムが企てたものだった。ウィリアムがアヘン組織に誘拐されたことも、アルバートの中隊がロンドン市内に駐屯していたのも、全てウィリアムの計画の一部だったのである。そしてこの結果を見越してマイクロフトに接触していたアルバートは、公には存在しない軍情報部の第6課"MI6"の設立とその指揮官である"M"の座を手に入れた。

ノアティック号事件

アルバートを指揮官とするMI6が設立されたことで、計画を進めるために必要な実働部隊を手に入れたウィリアムたち。準備が整った彼らは、犯罪によって国を変えるため大きく動き出す。その最初の標的となったのは、趣味の鹿狩りを隠れ蓑に浮浪者や子供を攫って殺す"人狩り"を行っているという噂があるブリッツ・エンダース伯爵だった。

豪華客船ノアティック号を今回企てる事件の舞台としたウィリアムたちは、それぞれ乗客や船員になりすまして乗船していた。乗客の貴族としてエンダースと接触し様子を探っていたウィリアムは、突然知らない男に自分の職業が数学者だと言い当てられる。その相手は偶然乗船していた探偵のシャーロック・ホームズだった。
ウィリアムの作戦により様々な不運に見舞われたエンダースは、苛立ちのあまりストレス発散のために自分の客室に一般人を連れ込み刺殺する。そしてウィリアムの策略により、自分が殺したはずの一般人が生きていると思い込まされ、もう一度殺すために死んだはずの相手を探し始めた。知らず知らずのうちに船上オペラの舞台裏まで誘導されていたエンダースは、そこで自分が殺害した死体を見つけ二度と生き返らないように再びナイフを刺した。動揺により殺害に夢中だったエンダースは自分と死体が乗っている舞台装置が動いていることに気づかず、遂に殺害している様子を観客全員に見られることとなった。

ウィリアムたちの手により貴族の悪行として世に知れ渡ったノアティック号の事件だが、唯一シャーロックだけはエンダースが殺人を犯すように仕向けた第三者の存在に気づく。そしてシャーロック本人からその推理を聞かされたウィリアムは彼に興味を持ち、二人は互いを意識するようになった。

大英帝国の醜聞

国の最重要機密にあたる文書が、元人気舞台女優で高級娼婦のアイリーン・アドラーに盗まれた。アルバートは上官のマイクロフトを介して、ヴィクトリア女王からMI6へ文書の奪還とアイリーン抹殺の命令が下され、文書の内容を明かされぬまま任務に就く。
一方、アイリーンは盗んだ文書の内容が自分の手に負えないものだと分かり、身の安全を確保して政府と交渉するためにシャーロックと接触していた。アイリーンの策略に嵌ったシャーロックは不本意ながらもしばらく行動を共にすることになり、彼女の本当の目的を探っていく。

交渉の場としてアイリーンを仮面舞踏会に招待したアルバートは、彼女から「100年前のフランス革命を英国が陰から操っていた」という機密文書の内容を聞き出した。そして自らは政府からアイリーンを抹殺するようにとの命令を受けていることを本人へ伝え、そのうえで自分であれば救うことが可能だと告げる。アイリーンは過去の経験から、世界を正すために女の武器を使って貴族の弱みを握って取り入り、恵まれない人々へ援助を施すように仕向けていた。過去について調べ上げ、これを事前に把握していたアルバートは彼女に自らが世間を騒がしている犯罪卿なのだということも明かす。

アイリーンの真意を見抜いたシャーロックは文書の場所を突き止め、その内容を確認すると彼女の取引相手が犯罪卿だということに勘付きアイリーンを救うために動き出す。取引現場まで尾行し犯罪卿と相対するが、アイリーンを守れるのは犯罪卿だけだと結論を出し、彼女の命を守るという条件で文書とアイリーンの身柄を渡し取引を終えた。
その後アルバートに連れられてウィリアムたちと合流したアイリーンは"犯罪卿"が個人ではなく組織であることと、その核がウィリアムであることを察してその場でウィリアムに忠誠を誓う。

回収した文書とアイリーンを連れてマイクロフトの元へ訪れたアルバートは、確認した機密文書の内容の秘匿を条件に"沈黙"を要求する。
"沈黙"とはMI6の私的利用、つまり望む相手を自由に殺すことの容認だった。その理由を問いただすマイクロフトに、アルバートは自由と平等のため今までの貴族殺しを行ったことを告白し、その場にウィリアムとルイスも現れ自分たちが"犯罪卿"だと明かす。そして自分たちが貴族と市民両方から忌み嫌われる"共通の敵"となり対立していた両者を団結させ、最終的には"共通の敵"である自分たちが抹殺されることで幕引きとなるモリアーティプランを語る。

ロンドンの騎士

庶民院の議員であるアダム・ホワイトリーは「平等の実現」を自らの使命とし、より多くの市民が投票権を得られるように改正選挙法案を出し続けていた。その正義感溢れる姿勢は、国の救世主として労働者階級の市民から絶大な支持を受け、ウィリアムたちも一目置き彼の人間性を見極めようとしていた。

ホワイトリーの人間性を確かめたウィリアムたちは、貴族院でもあるアルバートから改正選挙法案を貴族院に認めさせる材料になり得る"貴族院の不正の証拠"を彼に渡す。そしてホワイトリーは貴族院の正式な代理人だというチャールズ・オーガスタス・ミルヴァートンと接触し、その証拠を取引材料として交渉を試みた。しかし、卑劣な手段で人が悪に堕ちる姿を見ることを楽しみ"脅迫王"の異名を持つミルヴァートンは、貴族院からホワイトリーの処分を依頼され実行に移そうとしていた。

帰宅したホワイトリーを待ち受けていたのは、最愛の弟や秘書を含めた愛する家族たちの死だった。そして護衛を務めていた警察官のスターリッジが家族を人質に脅迫され殺害したと自白し、怒りと悲しみを抑えきれなかったホワイトリーは彼を殺してしまう。スターリッジを脅迫したのも、自白してホワイトリーに殺人を促すよう指示したのも全てミルヴァートンであり、ホワイトリーはミルヴァートンの思惑通り殺人犯となってしまったのである。
その日の夜、ホワイトリーは直接不正の証拠を返却するためにアルバートを呼び出した。そこで先程殺人を犯してしまったことと、自分の犯罪が公になると平等実現への道が閉ざされることを危惧して自首できていないことを明かす。

後日国会議事堂の前に現れたホワイトリーは、「家族と護衛の警察官までもを」何者かに殺されたと民衆に告げた。それでも不平等を正すために戦い続けることを誓い民衆から歓声が上がる中、突然"犯罪卿"として現れたウィリアムに刺殺される。そして"犯罪卿"はホワイトリーの家族や警察官を殺したのも自分だと言い放つ。これはホワイトリーにこの国の救世主のまま死んでもらうためのウィリアムの策だった。自分の望む結末を作り上げてくれたモリアーティ兄弟にこの国の未来を託し、ホワイトリーは涙を流しながら息を引き取った。

犯人は二人

シャーロックの相棒ジョン・H・ワトソンの婚約者であるメアリー・モースタンは、学生時代の反社会勢力との繋がりをネタにミルヴァートンに脅迫されていた。それを知ったシャーロックは、脅迫の材料となる証拠品を盗み出すためにジョンと共にミルヴァートンの屋敷に忍び込む計画を立てる。
一方、ウィリアムたちは卑劣な手段で人々の破滅を楽しむミルヴァートンの抹殺を計画するが、調べていくうちにミルヴァートンは自身が死亡した際に「ウィリアム・ジェームズ・モリアーティが犯罪卿である」という情報を各メディアに拡散するように指示していたことが分かった。それでも自分たちの革命計画であるモリアーティプランは予定通りだと判断し、ウィリアムはミルヴァートン抹殺の計画を実行する。

悪天候の夜、シャーロックとジョンがミルヴァートンの屋敷への侵入を実行しようとした瞬間、屋敷内で銃声が聞こえた。シャーロックはすぐさまジョンに警察を呼んでくるように頼み、自身は単独で屋敷に忍び込む。すると、そこには屋敷の主であるミルヴァートンと、彼を始末しに来たウィリアムの姿があった。
"犯罪卿"であるウィリアムと探偵のシャーロック、そしてミルヴァートンの三人が一堂に会したのは全て自分の策略だと話すミルヴァートン。そしてウィリアムには大人しく捕まれば犯罪卿という正体は隠し何も不自由のない軟禁生活の提供を、シャーロックには犯罪卿を逮捕すればメアリーの脅迫の証拠品を渡すという条件を提示した。
自分の命を狙うウィリアムを逮捕させることで身の安全と勝利を確信したミルヴァートンだったが、未だ冷静さを失っていないシャーロックに「お前は読み間違えた」と指摘される。ウィリアムに向かって親し気に話しかけるシャーロックに、犯罪者である"犯罪卿"と探偵であるシャーロックに接点があるとは思っていなかったミルヴァートンは動揺を隠しきれないまま、射殺よりは生還の可能性があると考え窓から飛び降りることを目論む。しかしその前にシャーロックに銃弾を撃ち込まれ、そのまま崖下の海に転落することとなった。

初めて"犯罪卿"としてのウィリアムと邂逅したシャーロックは自分の望む形で必ずウィリアムを捕まえると宣言し、この場では捕まえることなく別れると同時に、自分が殺されなかったことからウィリアムの計画の中ではまだ自分の役割があることを確信する。そしてウィリアムはこれを機に、計画の最終段階を実行する決意をするのだった。

最後の事件

ミルヴァートン殺害の容疑者としてシャーロックが拘留されている頃、各メディアで"犯罪卿"の正体はウィリアムだと報道され、同時にウィリアム自身はスコットランドヤード宛てに貴族殺しの犯行声明を出していた。
報道後は全員で屋敷を離れ作戦を遂行するはずだったが、ウィリアムだけが犯罪卿として身を隠し他の者は屋敷を維持する形に計画を変更し、計画の最終段階を"最後の事件"と名付けて実行に移した。リストアップしていた貴族を次々と殺害するウィリアムがロンドン中に混乱を招いている中、兄でありMI6の長でもあるアルバートはヴィクトリア女王から直接ウィリアムの逮捕を命ぜられる。しかしアルバートは「弟と言えども犯罪卿、犯罪卿であっても弟」と語り、女王の命令に背きMI6の辞職を申し出た。

ホワイトリーを殺したことで貴族だけでなく民衆からも怒りを向けられ、ウィリアムの目論見通り全ての矛先となり人々の共通の敵となっている"犯罪卿"。計画は順調だと思われていたが、ウィリアムを慕い、犯罪相談役の窓口として共に計画を進めてきたフレッドは、ウィリアム一人が犠牲になる事にどうしても納得ができなかった。その思いに賛同を示したルイスと共に、フレッドはウィリアムを救うためシャーロックに相談を持ち掛けることを決意する。
同じ頃、犯罪卿の蛮行を止められない政府に、ヴィクトリア女王は藁にも縋る思いで拘留中のシャーロックを呼び出しこの状況の解決を依頼する。この話はメディアにより国中に広まり、シャーロックは希望の光として注目されていた。そんな中、シャーロックは良き相棒として、友人として、大切な事を教えてくれたジョンに自分の知り得るウィリアムの計画全てを話し、自らもウィリアムの友人として彼を救ってやりたいという気持ちを打ち明ける。
そして直後に接触してきたフレッドとルイスに会い、ウィリアムが自ら死を選ぼうとしていることを確信したシャーロックは二人にもウィリアムを救う決意を話した。

その日の夜、シャーロックのもとに訪れたウィリアムは"ジェームズ・モリアーティの物語"を終わらせること、つまり自らの始末を彼に依頼する。この展開を予測していたシャーロックが何故自分を選んだのかと問うと、ウィリアムから二通の封書が渡され片方には最後の事件を終わらせる場所と時間、もう片方にはかつてウィリアムが暮らしていた貧民街の住所が書かれていた。
シャーロックは封書にあった住所の廃墟で今までのウィリアムの犯罪計画書と一通の封書を発見する。封書の中にはウィリアムからシャーロックへ宛てた手紙が入っていたのだった。

手紙を読み、ウィリアムも自分のことを友人のように思ってくれていたことを知ったシャーロックが外に飛び出すと、"犯罪卿"の手により至る所で火災が起きていた。
消火活動を通じて貴族と民衆が身分の差を超えて協力し合い、ウィリアムたちの望んだ平等な世界の一端が見えた時、ロンドン中の人々が注目する中で"犯罪卿"ウィリアム・ジェームズ・モリアーティと探偵シャーロック・ホームズが現れる。

人々を川沿いに誘導し閃光で一気にその目線を自分たちに集めたこと、火災から街を守らせることで階級の垣根を取り払ったこと、そしてロンドン中の怒りや憎しみを全て"犯罪卿"に集約したこと。その全てを理解し、ウィリアムが死を望んでいることも分かった上で、シャーロックは"探偵"ではなく"友人"としてウィリアムを説得した。
どんな結末でも受け入れて生きる覚悟をしたルイスや例え死ぬことであってもウィリアムの願いならば叶えてやりたいと思うモラン、様々な思いを抱えた仲間も見守る中で、それでもウィリアムの気持ちは揺るがず一人で死ぬことを決意しテムズ川に落下する。
ウィリアム一人を死なせることを良しとしなかったシャーロックは、自分も飛び降りウィリアムの体を抱きしめながら「生きよう」と告げたが、その後落下した二人が見つかることはなかった。

空き家の冒険

最後の事件から3年後、ウィリアムが望んだ平等な世界は実現しつつあった。
贖罪のためにロンドン塔へ幽閉されることを選んだアルバートに代わりMI6の新たな"M"となったルイス。ある日、MI6は機密情報である潜水艦の設計図を敵国に売り渡そうとしてるロナウド・アデア卿から、設計図を回収せよとの任務を受ける。革命のためとはいえ、人の命を身勝手に奪い続けたルイスたちは贖罪としてその身を国に捧げ、MI6も自由に人の命を奪う組織ではなくなっていたため、殺害しないことが前提の任務だった。
設計図を回収し任務を終えようとしていたルイスたちだったが、標的のアデアが何者かに狙撃され即死してしまう。銃弾と狙撃の技術を考慮し、犯人は最後の事件から行方不明になっているモランだと確信する。

後日、ルイスたちはアデアと敵国の仲介人をしていた人物が駐仏大使のバルモラル卿だという情報を得る。バルモラルの企てとモランによる暗殺の両方を阻止しなければならないという難題に向き合う彼らの前に突如、3年前に死んだと思われていたシャーロック・ホームズが姿を現した。
自分が生きていたことに驚く面々を前に、シャーロックはウィリアムと共にテムズ川に落ちた後、ビリー・ザ・キッドと名乗るアメリカ合衆国の司法省の青年に助けられたことを語る。そしてウィリアムも生存しており、彼からMI6に協力してほしいとの依頼を受けて帰国したという経緯を告げた。

シャーロックの知恵も借り、バルモラルとモランの両方の阻止に成功したルイスたちは、モランを説得し再び仲間として受け入れウィリアムの存命も伝える。
一方同じ頃、幽閉されたロンドン塔の中で全てのきっかけを作ってしまった自分の大罪を懺悔していたアルバートのもとにウィリアムが訪れていた。「全ての責は私にある」と謝罪するアルバートに向かってウィリアムは自分が望んでやったことだと言い切り、兄弟になれたことが誇りだと告げる。そして互いに贖罪のために国に命を捧げることを誓う。
3年ぶりの帰国に、ウィリアムとシャーロックはそれぞれ大切な人との再会を果たしたのだった。

『憂国のモリアーティ』の登場人物・キャラクター

tofucold1
tofucold1
@tofucold1

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