さよならの朝に約束の花をかざろう(さよ朝)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『さよならの朝に約束の花をかざろう』とは、2018年に公開された日本のファンタジーアニメ映画である。「P.A.WORKS」が制作を担当し、「岡田麿里」が監督を務めた。この物語の内容は、普通の人間よりも遥かに長い寿命を持つ少女「マキア」が、普通の人間の赤ん坊「エリアル」を拾い、様々な困難を乗り越えながら育てていく物語である。長寿の母とそうではない息子との物語を描いた本作品では、「愛」や「命」の尊さが繊細かつ美しく表現されており、鑑賞した人々に大きな感動を与えた作品として評価されている。

『さよならの朝に約束の花をかざろう』の概要

『さよならの朝に約束の花をかざろう』とは2018年2月24日に公開された、日本のファンタジーアニメ映画である。

制作は『Angel Beats!』や『Charlotte』などと言った名作を生み出した会社「P.A.WORKS」が担当し、脚本、及び監督は『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』や『心が叫びたがってるんだ。』などで有名な「岡田麿里」が務めた。

出演している声優陣も非常に豪華であり、主人公マキア役には若手声優の「石見舞菜香」を、その息子であるエリアル役は『千と千尋の神隠し』の「ハク」の役などで有名な「入野自由」を起用している。またメインキャラクター以外にも、マキアの友人であるレイリア役には、本作の監督である岡田麿里が脚本を務めた『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のメインヒロイン「めんま」役を務めた「茅野愛衣」が担当。その恋人のクリム役には、大ヒット漫画『進撃の巨人』の主人公「エレン・イェーガー」役を務めていた「梶裕貴」が担当している。

約二年前に上映されていた大ヒットアニメ映画『君の名は』と比較すると、決して大ヒットを記録したアニメ映画ではない。しかし、アニメ雑誌『アニメディア』などのレビュー雑誌、及びレビューサイトでは多くの高評価を得ており、まさに「知る人ぞ知る名作」と言える作品だ。

受賞歴としては「第21回上海国際映画祭」での「金爵賞 最優秀アニメーション作品賞」。「第22回富川国際ファンタスティック映画祭」での「BIFAN子供審査員賞」。さらには「第51回シッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭」にて「ファンタスティック・ディスカバリー部門最優秀長編作品賞」も受賞している。

興行成績は2018年6月の時点で興行収入3.5億円、総動員数24.5万人を記録していた。また、世界規模では約180万ドルの興行収入を記録している。

この物語は、長寿の一族「イオルフの民」である主人公「マキア」が、普通の人間の赤ん坊「エリアル」を拾い、苦難を乗り越えながら育てていくといった内容である。マキアが暮らしていたイオルフの里がある日、人間の大国である「メザーテ王国」によって攻撃を受ける。マキアは何とか無事に逃げることはできたが、里から離れてしまい一人ぼっちになってしまう。そんな中、家族が山賊に殺されてしまい、どこにも行き場のない赤ん坊「エリアル」を見つける。マキアは一人ぼっちの自分と同じく一人ぼっちになってしまったエリアルに自分の姿を重ね、育てていくことを決意する。

しかし、現実は若干15歳の少女が子育てをしていくには厳しいものだった。「若くして子供を授かってしまったこと」や、「イオルフという特殊な一族である」ことなどに対する人々からの偏見により、生きていくことにさえ非常に困難を強いられる。また、いつまでも少女のままの姿であるマキアに対して、息子エリアルも徐々に違和感を覚えていき、いつしか衝突するようにもなっていく。このように、誰かを「愛する」ということには非常に多くの辛さや悲しみが付きまとう。そんな中で主人公のマキアは「愛する」ことの本当の意味について模索し、生きていくのであった。

本作はそんなマキアなどの登場人物たちを通して、「愛する」こととはどんなことかを教えてくれる作品である。

『さよならの朝に約束の花をかざろう』のあらすじ・ストーリー

イオルフの民

この物語の世界には、「イオルフ」と呼ばれる種族が存在している。彼らは人里から離れ「ヒビオル」と呼ばれる布を織り、暮らしていた。イオルフは普通の人間に比べて遥かに長寿で、寿命は約400歳までにも及ぶという。それに伴い、外見も10代半ばで成長は止まってしまうのだ。

また、この世界にはかつて「鳥のような翼をもった一族」「夜明け前に歌う花」などいったイオルフと同様に、人間を超越した存在は多くいたという。しかしそう言った存在達は皆、人間から奇異の目で見られ、利用され、そして要らなくなったら排除されていった。そんな姿から人々はイオルフのような存在を「別れの一族」と呼び、伝説としていた。

主人公のマキアはそんな伝説の一族であるイオルフの民の少女であり、いつものように布を織って生活をしていた。

メザーテによる侵略

そんなある日のこと、人間の大国である「メザーテ王国」が「レナト」と呼ばれる竜を使い、イオルフの里へ攻め込んできた。隊長である「イゾル」を中心にメザーテ軍はイオルフの民を容赦なく攻撃する。そして、マキアの友人であるイオルフの少女「レイリア」がさらわれてしまう。

一方、マキアは長老の元へ向かったはずが入れ違いになり、全身に高熱を帯びてしまう病気である「赤目病」により暴走したレナトに襲われていた。マキアは必死になって逃げたが、結果的にレナトと共に郊外へ飛ばされてしまうのだった。

赤ん坊との出会い

一人誰もいない森へ飛ばされてしまったマキアは、あまりの恐怖と不安に苛まれ、近くにあった崖から飛び降りようと考えてしまう。その時どこからか赤ん坊の鳴き声が聞こえ、その声のする方へかけつけると、そこには人間の集落のテントがあった。しかし、山賊の襲撃に遭ってしまっており、中では人が死んでいる。そんな中マキアは、母親の遺体に抱かれて唯一生き残っていた赤ん坊を見つけた。

そのテントの中には、泣き声の主である赤ん坊ともう一人、旅人である「バロウ」がいた。マキアがその赤ん坊に触れると、赤ん坊はマキアの指を掴んだ。その時、マキアはその子に一人ぼっちである自分を重ねた。そんな思いから母親の腕から赤ん坊を取り出し、抱きしめるのだった。そして15歳という若さで子育てをするという無謀さから、その場にいたバロウには反対されるも、マキアはその赤ん坊を育てることを決意する。

ミドたちとの暮らし

赤ん坊を拾った後、マキアたちは農家で暮らしていた女性「ミド」とその息子の「ラング」「デオル」に出会う。ミドは子育てに対して全くの無知であったマキアを見て、戸惑いはあったものの、心配に思い生活を共にしてくれるのであった。またマキアはこの時、その赤ん坊に「エリアル」という名前を付ける。その生活はとても穏やかなものであり、そのおかげでエリアルは順調に成長していった。

しかしある日、布を買い取ってくれていた「ダレル」の店にとあるヒビオルが持ち込まれていた。マキアはそれを読むと、そこにはメザーテ王国の王子とイオルフのレイリアが婚姻するという事実が書かれていたのだ。そのことを知ったマキアは、メザーテへ行くことを考え出す。

またその後日に、ミドの飼い犬である「オノラ」が寿命で亡くなってしまった。このことからマキアは「皆は自分より早く死んでしまうこと」を改めて理解し、エリアルは「命ある者はいつか必ず死んでしまうこと」を知る。あまりの辛さにマキアは泣き出してしまうが、ラングに「母ちゃんってのは泣かないもんなんだ」と訴えられる。そしてマキアは、眠ってしまったエリアルに対して「もう泣かない」ことを決意する。

レイリア奪還作戦

ダレルの店にあったヒビオルをきっかけに、マキアはエリアルを連れてメザーテ王国へと向かう。その船の中でマキアは同胞であるクリムと再会する。そこで彼からメザーテ王国はイオルフの血を使い、長寿の子孫を作るためにレイリアをさらったという事実を聞かされる。そして、後日に行われるメザーテ王子とレイリアの結婚を祝うパレードで、レイリアを奪還する作戦を行うということも聞き、マキアはそれに協力することとなった。

作戦は順調に進み、パレードからレイリアを連れ出すことに成功した。しかし、レイリアはすでに王子との子供を身ごもってしまっていた。そのことから、レイリアは初めから逃げることを諦めていたのだった。やがてマキアとレイリアは、メザーテ軍の兵士に見つかり、彼らはマキアを捕まえようとするがレイリアと以前集落で出会ったバロウの助けにより、マキアは逃げることに成功する。しかし、結果的にレイリアを取り戻すことは出来ず、作戦は失敗してしまい、レイリアと恋愛関係にあったクリムは非常にショックを受けてしまう。

その後、マキア以外のイオルフは引き続きレイリアを取り戻すため動くこととなったが、マキアは子供がいるため足でまといになるといった理由により作戦のメンバーから外されてしまった。そこからマキアとエリアルは、2人でメザーテの街で暮らしていくことになる。

街での暮らし

メザーテの街で暮らしてくために、マキアはまず仕事探しから始めた。しかし、少女のような見た目であることや、イオルフであることに対しての人々からの偏見により、思うように仕事は見つからない。

そんな疲れ果てた状態で宿へ帰ると、エリアルは宿でヒビオルを織っていた。帰ってきたマキアに対して、エリアルは織ったヒビオルを嬉しそうに見せるが、疲れていたマキアはそれに対して「仕事を増やさないで」と冷たく当たってしまう。そのことからエリアルは宿を飛び出してしまった。

自分の母親としての不甲斐なさを嘆いた後に、マキアは慌ててエリアルを探す。そして、エリアルを見つけ抱きしめるとマキアは「このまま大きくならなければいいのにな」と呟いた。それに対してエリアルは「嫌だ。大きくならないと母さん守れない」と言った。マキアはその発言に対して涙を流してしまったがすぐに、もう泣かないと言う。

この時に、マキアは「もう泣かないこと」、エリアルは「母さんを守ること」という「約束」が交わされた。

それぞれの葛藤

それから数年後、エリアルはすでに働くことのできる年まで成長していた。マキアは酒屋で、エリアルは鉄工場で働いており、そんな中、マキアの働いている酒屋でメザーテの軍人となったラングに再会する。後にマキアの家でお互いに積もる話をしていると、エリアルは不機嫌そうに出かけてしまう。そしてエリアルがいなくなった後、エリアルが自分のことを「母さん」と呼んでくれなくなったことをラングに打ち明けた。

一方、城に誘拐されていたレイリアは、娘の「メドメル」を出産するも会わせてもらえずに城に幽閉される日々が続いていた。そのため、レイリアの精神は非常に不安定な状態だった。また、イオルフの長寿を引き継ぐことのできなかったメドメルを煩わしく思う国王や、その解決策として新しいイオルフを誘拐するなどといった提案をする大臣たちの姿を見て、イオルフをさらった張本人であるイゾルは自分の行った行為に罪悪感を覚えていた。そしてレイリアはそんなイゾルに対して「イオルフのマキアを連れてきて」「一人ぼっちは嫌だ」と言い放つ。

後日、ラングはメザーテがマキアを探しているということをマキアに伝えた。それと同時にマキアへの想いも伝える。しかしマキアは「エリアルのことしか考えられない」と言い、断ってしまう。ラングはそれを受け入れるが、それでも「マキア達の力になりたい」「一人で抱え込まないでほしい」ということをマキアに話した。

その夜、エリアルは酒屋で酒を無理やり飲まされ、泥酔した状態でマキアのもとへ帰ってきた。その酔いの勢いでマキアに対して「反抗期」「恋心」「嫉妬」などが複雑に入り混じった感情をぶつけてしまう。そして最後にはそれらの感情による煩わしさから「俺はあなたの事を母親だなんて思ってないから」という、心にもない言葉をマキアに告げてしまうのであった。

そのような出来事から、エリアルはメザーテ軍に入隊したいとの旨をラングに話す。そこでラングにもマキアの事を「母親と思っていない」ということを話す。それに対してラングは激怒したが、エリアルも自分の中の「マキアを守りたい」という本当の想いをラングにぶつけた。ラングはそれを受け止め、エリアルの入隊希望を承認する。しかし、この会話の一部はマキアに聞こえてしまっていた。よって、マキアはエリアルが自分のもとから離れてしまうことを察してしまう。

結果的にエリアルはメザーテ軍に勤めることとなり、マキアとは生活を別にすることになった。マキアは笑顔でエリアルを見送るもエリアルが去った後、寂しさのあまり涙を流してしまう。そしてもういなくなったエリアルに対し「嘘つき。守ってくれるって約束...」と零したその時、何者かがマキアの家に侵入し、マキアは誘拐されてしまうのであった。

戦争

それからさらに年月が経つ。メザーテ王国はレナトが赤目病により次々と死んでいったため、かつての勢力を失いつつあった。エリアルは城の兵士として一人前に働いており、さらに幼少期の幼馴染であるディタと結婚していたのだった。そしてディタのお腹の中には、すでに子供もいた。

一方マキアはクリムの計略により、メザーテの敵対国に幽閉されていた。また、クリムはメザーテに対する憎しみから、マキアが囚われている国を中心にメザーテの隣国に呼びかけ連合軍を結成させ、戦争を起こすことを企んでいた。長い年月が経った今でも、彼はレイリアを取り戻そうとしていたのだった。

エリアルが仕事を終えディタの下へ帰ると、外で警鐘が響いた。クリムの計略通り、隣国の連合軍が攻め込んできたのだ。エリアルはお腹の中の子供はディタに託し、兵士として戦場に向かった。マキアもクリムと共にレイリアを救うため戦場へと向かう。そしてその道中でマキアとエリアルは再会するが、戦いに紛れすぐにはぐれてしまった。

クリムはメザーテの城にて、ようやくレイリアと再会する。そして彼女を連れ戻そうとするも、レイリアはクリムと共に帰るのではなく、娘のメドメルに会うことを望んだ。そのことにより絶望したクリムはレイリアと共に心中は計るが、駆け付けたイゾルが拳銃でクリムを撃ったことによりそれは阻止された。それにより、クリムは最期を迎えることとなる。

クリムとはぐれてしまったマキアは、丘の上で昔、エリアルの泣き声を聞いたように誰かの声を耳にする。その声の方へ駆けつけると、そこには出産寸前で苦しむディタの姿があった。必死で痛みに耐え、子供を守ろうとするディタをマキアは必死に介抱する。一方戦場のエリアルも、「マキアから離れて初めて作った居場所」であるメザーテを守ると誓い、必死になって戦う。その結果、子供は無事生まれ、戦争も終わるのだった。

再会

戦いにより倒れていたエリアルが目を覚ますと、そこにはマキアの姿があった。マキアはエリアルに、ディタとの子供はちゃんと生まれたことを伝える。そしてエリアルの本当の母親のこと、初めて出会った時のこと、エリアルがいたからここまで生きてこれたことを話した。それに対して目を逸らしてしまっていたことを悔やもうとするエリアルに、マキアは「エリアルは嘘つきじゃなかった」と続ける。「離れて、一人ぼっちになってしまっても、エリアルを思い出すことで自分でいることができた」こと、そして、「エリアルが私を呼んでくれるなら、それが母さんじゃなくてもいい」と伝えた。

丁度駆け付けたラングへ、マキアはエリアルをエリアルが帰るべき場所へと連れて行ってほしいと託し、その場を去ろうとする。そんなマキアにエリアルは「行かないでくれ!母さん」と叫ぶも、マキアはそのまま去ってしまった。また、エリアルがマキアを「母さん」と呼んだのは少年期以来であった。

戦争はメザーテの敗北という形で幕を閉じた。そんな中、メザーテの王子の娘であるメドメルは、これから今までとは全く違う生活が待っていることを覚悟していた。すると一人の女性がメドメルの前に現れる。その女性は母親であるレイリアであった。しかし、レイリアはメドメルを抱きしめることなく、マキアの乗るレナトに飛び乗る。そしてメドメルに「城での暮らしは、この朝の事はヒビオルには書かない」と告げ、去ってしまった。

マキアの背中でメドメルとの別れに悲しむレイリアであったが、それと同時に愛にあふれたこの世界の美しさを知るのであった。

そのころエリアルは満身創痍になりながらもディタのもとへ帰る。するとそこには赤ん坊の姿があった。エリアルは慣れない手つきでその子を抱くとディタは、ずっとマキアを妬んでいたこと話し、涙を流してしまった。だが、それをエリアルは優しく抱きしめた。そして、2人はこれから誰かを愛するであろう娘を育てていくことを決意する。

新たな「別れ」に出会う旅へ

メザーテ落城から数十年が経ち、マキアはエリアルが暮らしている農家(以前ミドたちと暮らしていた家)を訪れていた。そこにはエリアルの孫、娘、そして年老いたエリアルが暮らしていた。しかし、エリアルは寝たきりの状態になるまで衰弱しており、話すこともままならない状態であった。また、ディタは3年前に他界してしまったようだ。寝たきりのエリアルに対しマキアは涙を堪えながら優しく話しかける。そして「ただいま」と伝えると、エリアルは優しそうな瞳で「おかえり」と返した。それがマキアとエリアルの最後の会話だった。

エリアルの最期を見送り農家を去る時、マキアはエリアルとの日々を思い返していた。当然「泣かない」という約束の事も。しかし、あまりの辛さからその約束を守れず、マキアは泣いてしまった。

そしてバロウが待つ馬車へと向かう。馬車に揺られながらマキアは以前長老から受けていた「誰も愛してはいけない」という教えを思い出していた。それに対して「それでもエリアルを愛してよかった」とエリアルとの時間から思うのであった。

こうしてマキアはまた、新たな「別れ」に出会う旅へ出る。

『さよならの朝に約束の花をかざろう』の登場人物・キャラクター

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