ランウェイで笑って(アニメ・漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ランウェイで笑って』とは、猪ノ谷言葉による少年漫画作品。2017年から『週刊少年マガジン』で連載を開始。2020年1月にアニメ化。ファンション業界を描いた作品で、ファッションデザイナーを目指す少年「都村育人」と、トップモデルを目指す「藤戸千雪」の成長を描く物語。モデル事務所「ミルネージュ」の社長令嬢である千雪はパリコレに出るトップモデルを目指していたが、身長に恵まれなかった。高校三年生の春、千雪は学校でファッションデザイナーを目指す育人に出会い、お互いに刺激されあいながら夢を追っていく。

第一話ラストで起こる主人公の切り替え

出典: anicobin.ldblog.jp

第一話は千雪目線で語られる。

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第一話のラストに主人公が育人にバトンタッチする。

物語の始まりは千雪の「私、藤戸千雪がトップモデルに至るまでの物語。そして…」というセリフスタートする。
千雪は元々は歳の割には身長が高くモデルの素質が高かった過去を持っていたが、身長が伸びるのが人より早く止まり、むしろ人より低身長になってしまう。それでも夢を諦めたくなかった千雪はパリコレに行くのだとダダを捏ねるが、そのせいで事務所をクビになる。そこから千雪はミルネージュのオーディションを受け続け、落ち続けていた。
高校3年の時にクラスメイトの育人に出会う。千雪にとって都村育人は存在感が薄く大した興味も抱かなかったが、育人がファッションデザイナー志望である事を知り仲良くなっていく。千雪は夢と諦めの間に揺れる育人にシンパシーを感じ、育人に自分に似合う服を作ってもらう事にした。育人が作った服は千雪の雰囲気にピッタリなもので、千雪はその服を着てミルネージュのオーディションを再度受けた。
服の効果も相まって千雪はミルネージュのオーディションに合格し、もう一度プロモデルになることが出来た。
一方千雪が着ていた育人の作った服はSNSで拡散して話題になる。便宜上ミルネージュの服となっていたため、ミルネージュの社長・研ニは育人を呼び出しデザインの買取と、ミルネージュのデザイナーになる事を提案した。

そして、千雪が「そう。これは私…藤戸千雪が、トップモデルに至るまでの物語」と言って育人にハイタッチ。
続けて育人が「そして僕…都村育人が…トップデザイナーになるまでの物語」というセリフが入り第一話が終了する。
千雪が主人公のように進んでいたが、一話のラストで本作の主人公は都村育人なのだと明かされる。

キャラクターたちの苦悩と成長

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芸華大のファッションショーは心がグランプリを獲得。

千雪はモデルに最も必要である身長という才能が無く、ただその一点が無いだけに誰からも見向きもされずに苦戦を強いられる。代理で入ったモデルの仕事で心に出会い、一人だけ身長が合わないという理由で降ろされ、心に持参した手袋を貸すだけの役割になってしまう。その後単身でパリに留学するが、結局パリでも誰にも見向きもされずたった数メートル歩く姿すら見て貰えない状態であった。ステージに上がるだけで背が小さいと言われてしまう立場であるが、身長を感じさせない立ち居振る舞いを身に付け、周りに認めさせるために日々戦っている。

育人は母子家庭且つ母が入院中で家にお金もなく、長男という立場から自分の夢を優先できなかったり進学するお金が無かったりといった家庭環境に恵まれないため苦戦を強いられる。祖母が有名デザイナーで家庭に余裕があり、勉強する時間も沢山あって作業に没頭する事が許されるという、プロになるために育ったような遠とは真反対な存在である。予選で材料費の1万円すら惜しんだため、遠からは材料費をケチった事が敗因と評価される。その後母の手術費用を払うためアルバイトを掛け持ちし心身ともに疲れて行き、夢を叶えるために使う時間とお金が足りないことと戦うことになる。

心は高身長でスタイルも良いというモデルの才能は誰よりもあるが、それは心本人が本当にやりたい事ではない。突出した別の才能があるために他の可能性を捨てるように五十嵐から圧力を掛けられ、頭ごなしに否定される毎日を過ごしていた。五十嵐を認めさせモデルをキッチリ辞めるために、ショーでグランプリを取らざるを得なくなる。

遠は麻衣を祖母に持ち、自身もデザイナーの才能に恵まれていて金銭的に困っているわけでもない。しかし麻衣の存在が大きすぎるため、誰もが遠に対して麻衣の元で働くのが「成功」であると決め付けている。それ故に学生時代の麻衣を越え、祖母とは関係ない自分だけの実力を認めさせるという大きな目標を抱く事になった。在学中の三年間の間に麻衣の記録を超えるためにチームを作り、本気で服作りと向き合っていく。

このように夢を目指すキャラクター達とそこに立ちはだかる壁が描かれている。
千雪と心にとっての倒すべき相手は才能だけを重視する五十嵐であり、育人にとっての倒すべき相手は立場が真反対の遠であった。五十嵐は、低身長の千雪はモデルの才能が無く、モデルの才能がある心はデザイナーの才能が無いと否定する。千雪はモデルの才能を見せ付けるため、心はデザイナーの才能を見せ付けるため、2人は組んでファッションショーに出る事になった。結果は心がグランプリを取り五十嵐との約束通りモデルを辞める事ができ、千雪はランウェイで背の高い心よりも目立つ事ができた。2人にとっては勝利である。
一方育人は遠を倒すつもりでいたが、遠は本来はグランプリでありながら辞退し最下位となり、育人は11位という結果になる。遠にとってもショーは祖母を越えるための勝負の場であったが、結果は名詞が1枚分足りなかった。育人も遠も今回は苦い結果になったが、2人は対等のライバルという存在になるのであった。

ファッションショーのシーン

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千雪の憧れのモデルで現在のマネージャーの雫がパリコレに出た時のランウェイ。

「ランウェイで笑って」というタイトル通り、ランウェイを歩くファッションショーのシーンが何度も出てくる。
柳田が出た東京コレクションのシーンでは、柳田についてきた育人とたまたま代役になった千雪が現場で出会う。育人は千雪の背丈にあわせて服を作りなおすが、ミシンが使えないなどの道具の制限から苦戦を強いられた。しかし千雪に活を入れられ、千雪に似合う服を作るという点に集中した事でギリギリ服が完成する。柳田がデザインした本来の服とは全然違うものになったが、途中で服の形状が代わるなどのサプライズ演出もありショーは大成功に終わった。ランウェイを歩く千雪は他のモデルより明らかに小さく会場がざわつくが、育人の服の影響もあり悪い印象を与えずに終わる事ができた。
またこの東京コレクションを見に来ていた新沼は、場違いなほど背の小さい千雪に心を惹かれ、ファッションについて勉強する気になった。育人の服と千雪のウォーキングが1人の人間の価値観を変えたのである。

芸華大のファッションショーでは、予選を勝ち抜いた生徒達によるショーが開催された。それぞれが「わ」をテーマにしたショーをし、服のデザインや演出を競う。
育人は「男女の調和」というテーマで、世界の国の特徴をそのまま服にし、最後はシンプルなユニセックスの服で終了する。
心は「わくわく」というテーマで、ワンピースがスカートになったり、ズボンスタイルがスカートスタイルになったり、アウターを変えたりすることで服が段々と変化していくというものであった。
遠は育人と同じ「調和」がテーマであったが日常と非日常の調和で、奇抜なデザインと日常使いのデザインの二つをセットで出すというものであった。

こういったファッションショーのシーンの演出には特に力が入っており、審査員や観客の解説が所々で入るため素人でも何が行われているか分かるようになっている。

金銭面で不安のある育人と、その救済

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第一話で育人が千雪に作った服。雑誌に載りセイラがSNSで紹介した事で話題となった。

育人の家は元々は喫茶店を経営していたが、父親が死に母が過労で倒れて入院し、都村家は経済的に厳しくなってしまう。長男である育人は妹達のために夢を諦めて無難なところに就職し、妹達を進学させようと考えていた。ほのかは育人の自己犠牲的な態度に苛立ちを覚えており、育人を犠牲にして進学などしたくないと考えている。
葵もバレー部に入っているが、費用が出せないため遠征などには行けないでいた。育人が柳田の所で服の仕事をしてお金を貰うようになってからは、多少精神的な余裕が出てくる。しかし柳田のところだけで貰える給料では全てをやりくりできないのであった。さらに母が緊急手術をすることになり、その甲斐あって体調は回復に向かうが、今度は入院費と手術費の支払いという問題が迫ってきた。手術費は育人や百合子がコツコツ貯めたお金では到底足りず、育人はショーの準備をしながらバイトを掛け持ちしなければならなくなった。またバイトを掛け持ちするために遠と柳田の事務所を辞めてしまうのであった。バイトで忙しく家に帰ったら疲れて服が作れず、そのイライラを家族にぶつけるなど育人の状況は悪い方へと行っていた。
遠はお金を肩代わりするからショーに出るのを諦めて自分と組もうと育人を誘い、五十嵐は育人が心に引導を渡したら金を工面するという。どちらも育人の足元を見た悪魔の囁きであり受け入れがたかった。しかし遠の所であれば服の仕事にはありつく事が出来るため、心身ともに疲れていた育人はもうそれでも良いんじゃないかと思うようにもなっていた。
育人が柳田の事務所を辞めた事に驚いた心は、遠に電話して育人についての話を聞き出す。そして育人がお金に困っている事を柳田に伝えると、柳田はその話を研ニに伝えた。研ニは第一話で育人が千雪に作った服のデザインを200万円で買い取り、育人の金銭問題は解決となった。育人の夢の第一歩となった服と、育人が優しく接した心や師匠のような存在である柳田などの助けもあり、育人は金銭問題から救われるのであった。
そして問題が解決した事で純粋に服作りに集中できるようになった育人が向けた笑顔と言葉が、パリで挫折して帰って来た千雪を救うのであった。また、研ニは千雪を励ませるのは育人だけだと思っており、研ニが育人を救ったことで千雪も救われるという結果になった。

『ランウェイで笑って』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

ファッションを題材にした異色の作風

本作はこれまで漫画業界にあまりなかったファッション業界を題材にしており、ニュースサイト「東スポWeb」を立ち上げたライターの徳重辰典に「異色の漫画」と評された。作者はスポーツ漫画の友情や熱い感じが好きであり、男女の垣根なく競い合えるという理由からファッションを選んだ。ファッションに疎い読者もいるため、育人と千雪の将来像を示し物語のゴールをイメージさせやすくしている。1話では「育人と千雪が成功するまでの物語」と語られており、ハッピーエンドが約束された物語でもある。またファッションに興味が無い人でも興味が持てるように、ヒューマンドラマを中心に描かれている。

男性読者にも女性読者にも評価を受けるストーリー展開

本作は当初女性キャラクターの可愛らしさから20代男性から人気を集めていた。しかし夢に突き進む王道ストーリーは幅拾い層から人気を得るようになり、女性読者も増加した。低身長というハンデを背負う千雪や、お金がないというハンデを背負う育人が、夢を諦める理由を否定し反逆するストーリーが様々な人からの共感・感動を得ている。
本作のタイトルは『ランウェイで笑って』だが、実際にはランウェイでは笑わないものであり、ありえないタイトルとなっていると元ゲームプランナーのライターの森花リドは語る。その「ありえない」ものに挑む主人公達の姿はエモく、ハンデを言い訳にせず相手を認めさせて行く姿はヤンキー漫画にも通ずるところがあり、マガジンらしさを今時な表現にしていると、サブカルチャーの取材・執筆を手がけるライターの飯田一史は語る。

ファッション業界を描くリアリティ

ファッション業界に対する描写はリアリティを追及しており、コミックス7巻からはファッション監督にデザイナーのHASEGAWA KAZUYAや東京服飾専門学校といった専門的な分野に携わる人たちの監修が入っている。
ファッション業界の関係者からも注目を集めており、ファッションジャーナリストの増田海治郎は本作を「ファッション業界をリアルに描いていて、読み応えがある」と評価。
インスタグラマーとして活躍しファッションドリーマーという肩書きを持つDは2018年に本作とコラボしたファッションイベントを開催。アニメ化の際にはブラザー工業・ブラザー販売が協賛を表明。また、作者はリアリティを出す為に服飾専門学校・生地屋・コンテストを見学している。杉野服飾大学准教授の五月女由紀子は「コンテストで受賞として、デビューするのは簡単ではない」としながらも、「夢を見せるのも大事。学生の目標にはなるかもしれない」と本作に期待を示している。デザインを学ぶ学生らは、徹夜で作品を完成させたり納期に追われるシーンが現実と同じでありリアリティがあると語っている。

『ランウェイで笑って』の主題歌・挿入歌

OP(オープニング):坂口有望『LION』

作詞:坂口有望
作曲:坂口有望
編曲:江口亮
歌:坂口有望

Parfait55p5
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