ランウェイで笑って(アニメ・漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ランウェイで笑って』とは、猪ノ谷言葉による少年漫画作品。2017年から『週刊少年マガジン』で連載を開始。2020年1月にアニメ化。ファンション業界を描いた作品で、ファッションデザイナーを目指す少年「都村育人」と、トップモデルを目指す「藤戸千雪」の成長を描く物語。モデル事務所「ミルネージュ」の社長令嬢である千雪はパリコレに出るトップモデルを目指していたが、身長に恵まれなかった。高校三年生の春、千雪は学校でファッションデザイナーを目指す育人に出会い、お互いに刺激されあいながら夢を追っていく。

『ランウェイで笑って』の概要

『ランウェイで笑って』とは、猪ノ谷言葉による漫画作品である。2017年5月に『週刊少年マガジン』で連載を開始し、2020年1月~3月に全12話でアニメ化された。

2018年に「マンガ大賞2018」6位、同年「次にくるマンガ大賞 2018」のコミック部門で12位を獲得し、2019年には「第64回小学館漫画賞」の少年漫画部門にノミネートされた。

少年漫画であるが、ファッションを題材にしており「異色の漫画」と評された。また、物語がヒロインの「藤戸千雪」が主人公であるかのように始まり、一話の終わりに「都村育人」が主人公であると明かされる構図も話題を呼んだ。ファッションが題材の漫画であるため、ファッション業界のリアリティーを追及している。
作中の洋服のデザインにも拘らなくてはならず、コミック7巻からはファッション監督にデザイナーのHASEGAWA KAZUYAと東京服飾専門学校と言った専門家の監修が入っている。ファッションに興味が無い人のために、ヒューマンドラマを軸にする方針で描かれており、登場人物の悩みに読者が共感できるリアリティを持たせている。

タイトルは『ランウェイで笑って』であるが、実際にランウェイでモデルが笑う事はない。元ゲームプランナーのライターの花森リドはタイトルを「ありえない事」を意味していると述べている。そして、そのありえない事に挑戦して行く育人と千雪が困難にぶつかり成長して行く姿を描いたものになっている。

モデル事務所「ミルネージュ」の社長令嬢の「藤戸千雪」は、将来トップモデルになる事を夢見ていた。しかし千雪の身長は158センチで止まってしまい、高身長である事が条件のモデルになるのは絶望的であった。千雪は事務所をクビになるが、諦めず何度も何度も事務所のオーディションを受けていた。高校3年の春、千雪は同級生の「都村育人」に出会い、育人がファッションデザイナーを目指している事を知る。千雪は育人に自分に似合う服の製作を依頼すると、育人は千雪が想像していた以上の服を作ってみせた。自分のためだけに作られた育人の服を着る事で普段異常の自信と輝きを得た千雪は、事務所のオーディションに合格するのであった。育人は金銭を理由にファッションデザイナーになるという夢を諦めようとしていた。しかし千雪の父であるミルネージュの社長に千雪のために作った服を高く評価され、「柳田一」というデザイナーの元で働く事になる。
その後育人は服飾芸華大学のファッションショーに出ることになり、この芸華大で柳田の元で一緒に働く事になる「長谷川心」や、後にライバルとなる「綾野遠」などのキャラクター達と出会っていく。
また、アニメの話数の数え方は「1話、2話…」ではなく、「1着、2着…」となっている。

『ランウェイで笑って』のあらすじ・ストーリー

千雪と育人の出会い

モデル事務所「ミルネージュ」の社長の娘「藤戸千雪」は、将来パリコレで活躍するショーモデルになるのが夢であった。
10歳で158センチと高身長で、ミルネージュに所属してモデルとして活躍し、将来有望なモデルとして周囲の期待を集めていた。しかしそこから身長が伸びる事は無く、周囲は千雪への期待を失くしていく。だが千雪は何を言われても諦めなかった。

高校三年生になった千雪はある日直の日の朝、クラスメイトの進路票を集めていた。この時、クラスメイトの都村育人が「書き直したい」と言っていったん千雪に渡した進路票を持っていく。今まで育人とは話したこともなかった千雪だったが、友人によれば彼は貧乏な家の子であるらしかった。
育人の進路票には一度東京デザイナー専門学校と書いて消した形跡があり、千雪は育人がファッションデザイナー志望である事を知る。しかしほのか、葵、いち花という三人の妹たちの進学のために、育人はその夢を諦めようとしていた。自身と同じく、生まれ持った理由から夢を諦めようとしている育人に千雪は共感し、「父の事務所からパリコレに出るモデルになりたい」という己の本来の夢を思い出す。
もう諦めずにやれることは全部やると決めて吹っ切れた千雪は、その足で育人の元へ行く。そして育人に「私が一番魅力的に見える服作って!」と言う。

育人の母の百合子は入院しており、彼が千雪の服を作ることになったと聞くと喜ぶ。ほのかもまた育人が就職を選んだ事に納得しておらず、自分のしたい事をした方が良いと言う。
千雪には進学はしないと言ったが、育人は本心ではファッションデザイナーになりたいのであった。

ミルネージュの社長で千雪の父「藤戸研二」は、何度も来る千雪をオーディション出禁にはしなかった。それは千雪が、自分が諦めるまでは諦めない子であるためであった。
この日もオーディションに千雪がやってきた。雫は千雪を落とすつもりであったが、現れた千雪に一瞬目を奪われる。
千雪は育人に作ってもらった「千雪に似合う服」を来て現れたのだ。その姿は千雪の低身長を感じさせず、モデルが服より目立つわけでもなく、モデルが服に着られてる状態でも無く、服とモデルが調和したものであった。雫は158センチでパリコレに出られるわけがないと思いながら、千雪が現れた一瞬千雪がパリコレにいる姿が見えたような錯覚をしていた。
「1%だけ可能性を見たわ」と言って、雫は千雪を合格させた。
ミルネージュは、千雪が生まれた年に出来た事務所で、研二は事務所の名前を人生で一番大事な愛娘「千雪」と同じ意味のフランス語「ミル・ネージュ(千の雪)」にした。
その事を思い出しながら、千雪はついに自分の力でミルネージュに合格した事を噛み締めながら涙する。

契約書を書きながら、雫は千雪に事務所を通さない仕事はしてはいけないと話す。千雪は気まずそうに、オーディションに来る途中で街角スナップで撮って貰ったことを話す。
街角スナップでも服を褒められ、どこのブランドか尋ねられたが、素人の友人が作った服とは言えずに「ミルネージュで買った」と言ってしまったのであった。
後日、このスナップが載った雑誌が発売され、千雪の写真は「ミルネージュの春コーデ」と紹介されていた。人気モデル「セイラ」は、気まぐれに千雪のスナップを写真に撮ってSNSに「この服かわいい」と紹介。フォロワーが3900万人もいるセイラの呟きは瞬く間に拡散され、ミルネージュには服についての問い合わせが殺到してしまう。
研二は千雪から事情を聞き、育人を事務所に呼び出した。
いきなりの呼び出しに緊張する育人に、研二は服のデザインを買い取らせて欲しいと申し出る。育人のデザインをミルネージュのものだと社会に認識させてしまった事を謝罪し、改めてミルネージュから育人のデザインした服を発売したいという。育人が了承すると、研二は育人に「うちでデザイナーをしてみないか?」と言う。研二は育人にデザイナーとしての才能を見出したのだった。

柳田の登場と、東京コレクション

研ニは千雪から育人が芸華大生だと聞いていたが、芸華大生というのは千雪の付いた嘘で、本当は高校生である事を知ると雇えないと言い、育人もこれを素直に受け入れる。
自分を夢の舞台に導いてくれた育人が己の夢からは遠ざかることに千雪は納得できず、彼を翻意させようと説得する。彼女に感化された育人は自分用の勝負服を用意し、その服を着る事で自信を付けて意識を変え、もう一度研ニに会いに行った。研ニが育人を雇えないと言ったのは、まだプロになるために勉強する事が沢山あるからという意味で、育人に才能が無いという意味では無かった。育人が雇って欲しいという気持ちを伝えると、研ニは育人に勉強の場としてプロデザイナー「柳田一」の事務所で働いてみないかと提案する。

柳田は「HAZIME YANAGIDA」を主宰するプロデザイナーで、実力者であるが性格に難がある人物であった。
しかし事務所へ赴くと、柳田は育人が専門的な勉強をしていない17歳の高校生である事を知って面食らい、彼に「帰れ」と告げる。育人はここで帰ってしまっては千雪に顔向けが出来ないと思い、仕事を手伝わせてほしいと何度も頼み込む。
柳田がピリピリしているのは、柳田が参加する東京コレクションが明日に控えているからだと柳田の元で働く「森山久美」が育人に教える。結局育人はそのままなし崩しに手伝うことになり、森山と共に徹夜で作業となった。

柳田はショーのために忙しく動き回っていたが、モデルが1人来ないというトラブルが発生してしまう。そして代役として現れたモデルは千雪であった。
森山と育人が服を千雪に合わせて調整することになったが、森山が突然鼻血を出して倒れてしまう。森山は何日も徹夜しており体が限界だったのである。育人は咄嗟に自分に縫わせて欲しいと言う。他に代案も無く、育人は千雪が着る服の修正を任され、これをギリギリで間に合わせる。
観客たちは突然背の小さいモデルが出てきた事に驚き疑問を抱くが、きっとそういう演出なのだろうと各々解釈していた。育人は千雪が緊張で躓くだろうことを計算に入れており、その際にミニのスカートがロングに変わる仕掛けを施していた。これが好評を博し、ショーは成功に終わる。柳田は拍手喝采に放心してる育人に、ショーの成功の半分は育人のものだと言い、「かけらほどはデザイナーに向いてる」との言葉をかける。ぶっきらぼうで性格に難のある柳田から育人への最大限の賞賛である。
千雪が育人を労っていると、ショーのフィッターとして参加していた女性「木崎香留」があくまでショーは柳田のものであり、拍手は39着の素晴らしい服があったからで、育人が直した1着への物では無いと釘を刺す。育人はその通りだと事実だと受け止め、ほつれそうな部分を千雪がポーズでカバーしていた事にお礼を言う。

服飾芸華大学の登場と、心や遠との出会い

森山が親に反対されて柳田の事務所を辞める事になり、柳田のブランドの展示会には育人がついて行くことになった。展示会には有名モデルのセイラや、日本最高峰のファッションブランド「Aphro I dite(アプロ アイ ディーテ)」の社長「綾野麻衣」などが来ていた。柳田の展示の試着モデルには、高身長でスタイルが良く冷たい印象のある女の子が担当していた。柳田の服は2週間で400着の発注を受け、服飾芸華大学(略:芸華大)の学園長に「生徒を助っ人に入れて欲しい」と頼むことになった。
学園長「高岡祥子」は、先日の柳田のショーを見ており、それを支えた育人の才能を高く評価していた。高岡は生徒を1人柳田の事務所に助っ人に入れる代わりに、育人に大学が開催するファッションショーに参加してみないかと言う。育人は高岡に芸華大に連れて行かれ、そこで綾野麻衣の孫であり、高岡が見てきた生徒たちの中でもファッションデザイナーとしてトップクラスの才能を持つ若き天才「綾野遠」に出会う。ふとした交流の中で育人の才能に気付いた遠は、彼に興味を抱いて助っ人の件を了承する。

後日、柳田の事務所に遠と展示会でモデルをしていた「長谷川心」が現れた。育人は心をモデルだと認識していたが、心は芸華大生徒でファッションデザイナー志望であった。
心は初めはモデルを目指していたが、初めての撮影で日本のトップデザイナーである綾野麻衣の服を着た際、彼女の服と自信に満ち溢れた言動に惹かれてデザイナーを目指すようになったという。育人は初めての撮影で綾野麻衣の服を着る心は、モデルとして凄い存在なのではないかと気づく。一方で心は、そのモデルとしての高い資質から「デザイナーの道は諦めろ」と所属事務所の人間に迫られており、彼女にとってどうすることが一番良い道であるのかは育人にとっても気がかりな話となっていく。

芸華大のファッションショーの予選

育人は芸華大へ行き、大学が開催するファッションショーの説明を生徒達と共に聞く。ショーのグランプリ受賞者にはブランド立ち上げの補助とパリへの留学権利があるという。

芸華大祭のショーは予選と本選があり、選ばれた生徒だけが最後のファッションショーに出られるという物である。育人の予選会場には「木崎香留」と、木崎の友人の「江田龍之介」が居た。
予選は参加費が1万円。予選の内容は、3分の1スケールドールの衣装を予算1万円で2日間で作るというもので、テーマは「モデルのセイラに似合うおしゃれな服」というものであった。参加費として、家族の大切な生活費の中から1万円を捻出してもらっていた育人は、それが予算でもあると知るとなるべく安い生地で服を作ろうとする。

しかししばらく作ってから「安い生地で作った服がセイラに似合うはずがない」とはたと気づいて焦る。育人は衣装のイメージが出てこなくなり、千雪の家に行ってセイラについて尋ねる。
千雪によれば、セイラはバラエティーでは天然キャラとして売り出しているが、モデルとしてはストイックで聡明だと言う。帰り際、育人は千雪の家着姿から強いインスピレーションを受け、衣装のイメージが沸いてきた。翌日、育人が千雪にデザイン案を見せると、彼女は「着てみたい」と称賛する。
千雪は、育人は夢の他にも家族の事やお金の事など色々向き合う事が多いのに、その全てを捨てずに頑張っていると高く評価し、彼を尊敬しているからこそ自分も夢に向かって頑張らなければと、自費でパリへ修行に行く事にした。

予選審査は担当教官と高岡、そして生徒達の中から選ばれた3人の合計5人が審査員となり、選ばれた生徒3人は随時交代制となっている。審査する生徒の中には遠もいた。育人の作品は「パジャマ」で、その理由をセイラはSNSで私服は載せても部屋着は載せないから、載せたくなるような部屋着を作ったというものであった。このインスピレーションは育人が千雪の家に行った際に、千雪の家着を見て思いついたものであった。高岡は大学の生徒にはない育人の柔軟な発想力に微笑んだ。
審査は遠・木崎・江田で行われ、特に遠には周りから笑われる程の批判を受けてしまう。しかし遠は心の中では育人の裁縫の成長を喜んでおり、裁縫技術を高く評価していた。

審査後、手直しの時間を与えられるが、手直しの必要がないと思う者は多目的教室に行くように誘導された。育人は手直しをするか迷ったが、千雪が「着てみたい」と言ってくれたことを信じ、手直しをせず多目的教室へ向かった。すると審査で非難されても手直しを選ばなかった生徒全員が合格となり、18名が合格となった。
合格者の中には、育人から「ショーに出て事務所の人たちを見返そう」と励まされた心もいた。さらに審査員の先生たちが選んだ1、2、3位の生徒は2次予選免除だと言う。育人は3位に入っていた。

帰り道、遠は育人に今回の敗因は生地代をケチった事だと言う。遠は、柳田のところで働いてもなおそんなにお金が足りないならうちで働かないかと切り出す。
遠は既に「Aphro I dite」で働いているが、祖母に実力が認められれば自分のブランドを立ち上げるつもりで、現在独立する準備をしている。そこで一緒に働かないかと育人に言うのである。育人は誘いを了承した。

育人がショーに向けて工夫を重ねる一方、千雪も様々なオーディションを受けようと努力を続けていた。しかし背の低さがここでも足を引っ張り、現場でたまたま鉢合わせた心がその長身だけで注目され、あまつさえ「自分のせいで誰かが傷つくのが耐えられない」と言ってモデルの役目を譲ろうとするのを見て激怒する。「私の覚悟をなんだと思っているのか」と心を糾弾する千雪だが、話を聞いている内に彼女が本当はデザイナーを目指していることに気付く。
その心のマネージャーである五十嵐も、かつてはモデルをしていた。しかし「才能がない」という理由で次第に干されていき、それでも自身が憧れたモデルという世界から離れがたく、それを支えることを仕事とするようになった。彼女からすれば、優れた才能の持ち主はそれを活かすことが最高の幸せで、モデルとしての資質に恵まれた心がデザイナーを目指すことは罪悪であるようにすら感じていた。

育人は遠のアトリエに招待される。
遠は周りから祖母・麻衣のブランドで働く事が成功だと言われるが、遠は祖母のデザインと自分が作りたいデザインは違うため、自分のブランドを立ち上げたいと思っている。
麻衣は芸華大出身で、当時芸華大祭のショーで学生の身でありながら52件の買い付け注文を得たという。その記録は40年間破られておらず、遠はこれを抜く事が出来たら祖母に認められた証しにするという。そして今年が挑戦できる最後の年になるため、最高の布陣で挑みたいと育人をパタンナーとして誘う。

これを受けるということはデザイナーとしてショーには出られないということであり、育人は断った。遠は誘ったのは冗談だと笑うが、育人の反応を見て脈があるか試しているようであった。
遠は別れ際、心が二次審査を通って本戦にきたら育人は戦えるのかと聞く。育人は心は本戦ではライバルであるが、彼女には報われて欲しいと思っていた。

本戦に出場する事になった育人と心は、説明会に出る。
テーマは「わ」で、「わ」からインスピレーションを得たものであれば「和」や「輪」など何でもいいと言う。モデルは学園で用意したモデルを使ってもらうが、希望があれば外部のモデルでも良いという。育人は千雪に出てもらいたいと思っていた。
そんな頃、病院では百合子の様態が急変し、緊急手術が行われていた。

母の緊急手術と医療費への問題を抱える育人

育人は今が大事な時期であり、ほのかは母の容態について彼に秘密にしようとするが、結局はこれを知られてしまう。幸い手術は成功するが、次に問題になったのは退院したら請求される入院・手術の費用であった。
貯金では到底賄えず、都村兄妹が頭を抱える中、千雪は1人パリのファッション界に挑戦するために日本を出立する。

育人はまず遠の所へ行き、アルバイトを掛け持ちしなければならないから遠の所の仕事を辞めたいと言う。育人から詳しい事情を聞いた遠は、彼に正式に自分のブランドに入ることを提案。つまりそれはショーの本戦への出場を諦め、遠のパタンナーになるということである。母の入院費用のために夢を諦めることを要求され、育人は悔しかったが何も言い返せなかった。
帰り道、大学近くで育人を待っていた五十嵐が現れた。五十嵐は最近の心の様子がおかしい事から周辺(特に育人の事)を調べ、育人の母が入院しその費用が払えないという事を知ったのだという。五十嵐は、心にとって育人は影響力が大きい人であるという認識をしており、育人に金を工面する代わりに心にデザイナーを諦めるよう引導を渡して欲しいと言う。
遠も五十嵐も、育人に対して金と引き換えに魂を売れと言うのである。

一方その頃、育人は柳田の元にも仕事を辞める連絡をしており、柳田の事務所に居た心もその事を知る。いよいよ追い詰められた育人の下に、ミルネージュの社長で千雪の父・研二から電話があった。
事務所へ行くと、研ニは千雪がパリから帰ってきたが、どこにも相手にされずにとても落ち込んでいるから励まして欲しいと言われる。育人は柳田の事務所を辞めた事を研ニに謝ると、研ニは育人がお金が無い事を柳田から聞いたという。心が遠に電話して育人の事情を聞き、心から柳田へ、そして柳田から研ニに話が伝わったのだ。

研ニは、前に約束した千雪へ作った服のデザインの買取を今しようと言い出し、買取額200万を用意したと育人に言う。この金があれば百合子の入院費用が工面できる。育人が感極まりながら、「僕はファッションデザイナーになれると思いますか?」と聞くと、研ニは「ならない方が驚きだよ」と優しく言う。さらに続けて「千雪のことをよろしく頼んでもいいかな?」と言った。
育人はパリから帰ってきた千雪に会うなり、「僕のショーに出てくれませんか?」と言うと、千雪は涙しながら「もう、しょうがないな」と笑った。

育人と心のファッションショー

ショーで作る服は全部で10着で、モデルは複数人必要であるが、千雪がメインのモデルとなる。育人は夢を叶える為にある人に認めてもらおうと頑張っている人(心の事)の話を千雪にする。千雪は、育人には認めてもらう相手ではなく見返してやりたい相手は居るのかと尋ねると、育人は遠のことを考えながら「いる」と答えた。ショーについての話をしながら、千雪は育人が手術費用の件からまだ柳田に会ってない事を知り、育人を無理やり事務所へと連れて行くことにした。

その日、柳田の事務所には柳田はいなかったが代わりに心が事務所にいた。心はこの後撮影だと言ってそのまま事務所を出て行く。千雪は心が本当はデザイナーを目指している事を知っており、先ほど育人が言っていた「認めてもらおうと頑張っている人」が心の事だと直感し、彼女の後を追う。本気でモデルを止めてデザイナーになるつもりなら、惰性でモデルを続けずにデザイナーに専念すべきだと千雪は考えていた。
後から来た育人が千雪に追いつくと、そこにいた五十嵐は先日育人に心を自分のショーでモデル起用して引導を渡すように言ったことをこの場で話し、育人にとって千雪は足手まといだと言う。五十嵐は育人が千雪ではなく心をモデルにしてショーに出れば育人はきっと成功し、心は育人の提案ならデザイナーを諦めてモデルに専念し、千雪は無駄な努力を諦めると思っているのである。

千雪は五十嵐の話に怒り、五十嵐にとってモデルの才能が無い千雪とデザイナーの才能がない心がペアになって1位を取れば認めてくれるかと問う。五十嵐は千雪の提案を飲み、心がトップを取ったら認めるが、取れなかったら大学を辞めてモデルに専念するという約束を心にさせた。
2人にこそ勝って欲しいと思う育人に、当の千雪と心は自分たちに遠慮しないで全力で戦って欲しいと言う。前に遠が言っていた、心とライバルとして戦えるのかという問題に育人はまだ答えが出せていなかった。
母・百合子はお見舞いに来た育人に、死ぬ前にやりたい事を書いた自分の遺書を見せる。遺書と言っても百合子の病気は完治に向かいつつあり、退院後にやりたい事のリストのようなものであった。その中に育人のショーを見に行くというものがあり、育人はショーまでに母が見に来てくれるなら絶対に負けるわけには行かないと決意する。

育人・心・遠はそれぞれの思惑を胸に、ショーで使う服作りを全力で行う。
そしてついにショー当日となった。

育人のショーモデルは学園が用意したモデルと、千雪の後輩のモデルになった。育人は遠にも心にも、そして千雪にも負けないつもりでいる。
ショーの審査員は、モデルのセイラ、カリスマデザイナーの周防一哉、ファッション誌の編集長の紙居絹、芸華大の高岡祥子学園長の4人である。ショーを見に来た観客の中には綾野麻衣、都村家、雫、そして五十嵐の姿があった。

遠のファッションショーと、ショーの結果

遠が目指しているのはショーでトップを取ることではなく、麻衣の発注件数52件を越えると言う所にあった。遠のショーが近くなると、会場には人が多くなった。
買い付けを目的とするショップ店員なども来ていたのだ。育人はセレクトショップの店員・市原里美に名刺を渡され、ショーに出した服をいくつか売って欲しいと言われる。
同じデザインの普段着と強烈なデザインの二つが同時に出てきて、買い付けに来た店員たちの需要にも応えていた。様々なデザインの服が次々登場し、他の生徒とは比べ物にならない完成度であった。
ショーが終わった後ロビーで遠はバイヤーに囲まれていたが、市原は遠目に遠を見て名刺を渡すか迷ったが、そこまで好みではなかったのか名刺を渡さなかった。

ショーが全て終わり審査が始まる。結果、遠は本来1位であったが棄権して最下位となり、グランプリは心となった。7位に木崎が入り、育人は11位で壇上にも呼ばれない順位に終わる。
心には五十嵐から「いつでも帰ってこい」というメールがあり、つまりこれは約束通り心を認めたという事であった。

育人は11位という結果に悔しくて涙していると、遠のパタンナーが育人を連れて行く。パタンナーが、遠が完成できなかった1着を着てどこが悪いかと尋ねると、育人は一目見ただけで袖のふくらみが出てない事を指摘し、何ミリ縫い直せば良いかまで答えた。パタンナーは育人がパタンナーになってさえ居れば遠の目的である発注53件を達成できたのにと育人を責める。
遠の元には名刺が52枚あり、これは麻衣と同じ記録であった。しかし遠は麻衣を越えると約束したため1枚足りず、目的達成ならずとしてショーを棄権したのであった。

市原が育人を選び、遠に名刺を渡さなかったがための結果でもある。麻衣は遠に対して自分との勝敗に拘らず自由にしたら良いと思っているが、遠は自らで作った約束だからと独立せずに今後も「Aphro I dite」で働く事を決めた。高岡は今まで遠は天才ゆえに孤独であったが、育人というライバルが出来たからもう孤独では無いと安堵する。そして育人に芸華大の入学案内を渡し、年上と対等に戦った育人を褒め、育人が芸華大に来る事を待っていると言った。
育人の元に千雪が来て、審査員をしていた紙居絹に女子高校生向けのティーンズファッション誌の専属モデルにならないかと持ちかけられたと話す。育人は千雪が一歩早く夢に近づいた事を悔しがり、もう誰にも負けたくないと思った。

その後、心はパリへ留学し、千雪は雑誌モデルとして活躍する。
柳田は育人を仕事に復帰させたが、「Aphro I dite」のデザイナーに誘われたため一端「HAZIME YANAGIDA」を畳むという。
育人もまた「Aphro I dite」で働くことにし、そこにはライバルの遠もいた。育人がトップデザイナーになるまでの物語と、千雪がトップモデルになるまでの物語はこの先も続いていく。

『ランウェイで笑って』の登場人物・キャラクター

主要人物

都村 育人(つむら いくと)

Parfait55p5
Parfait55p5
@Parfait55p5

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