幸色のワンルーム(漫画・ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ

『幸色のワンルーム』とは、無料マンガサイトpixivコミックで作者のはくりが不定期に連載を始め、書籍化もされている人気漫画作品である。朝日放送テレビ制作で実写ドラマ化もされた。この物語は、誘拐犯であるお兄さんと、お兄さんに誘拐されたことになっている家出少女の幸の2人の逃亡劇が描かれている。その中で、2人は探偵の松葉瀬やその助手の八代らと出会い、最初は利害の一致から始まった依存関係が信頼や愛情を含んだ2人の間だけで成立する特別な関係へと変化していく。

『幸色のワンルーム』の概要

『幸色のワンルーム』とは、2017年2月から無料マンガサイトpixivコミックで作者のはくりが不定期で連載を始め、書籍化もされている人気漫画作品である。最初『世の中いろんな人がいると言う話』のタイトルでTwitterに投稿されていたものが、『幸色のワンルーム』のタイトルでウェブサイトpixivにも公開されて累計閲覧数が6,200万となり、2017年2月に書籍化された。その後に重版され、同年6月に開催されたWEBマンガ総選挙では3位を獲得している。2019年7月時点で、累計売上部数が120万部を突破した。
このコミックス版はpixivコミックで不定期連載されていたものからコマの順序やセリフの加筆修正が行われていることに加え、コミックス版限定の描き下ろしエピソードも追加されているため、pixiv版とは内容が大きく異なる部分もある。作者のはくりはコミックス版を本筋としている。

物語の主人公は誘拐犯のお兄さんと誘拐された少女の幸(さち)の2人である。この物語ではその2人の人間同士の愛情が描かれている。最初、2人は警察と親から逃げるゲームという名目で共に逃亡生活をすることを決める。ルールは逃げ切れたら結婚、逃げ切れなければ一緒に死ぬというものだ。もし逃げ切り結婚することができれば、お兄さんは幸とずっと一緒にいることができ、幸も虐待をしていた親の元に戻らなくても良いという2人にとっての利益になる。逃げ切れなければ、お兄さんは警察に捕まり、幸は再び虐待をしていた親の元に戻らなければならず、2人にとっての損害になる。そのため、そうなるくらいなら一緒に死のうというのだ。しかし、共に逃亡生活を続ける中で、徐々に利害の一致のみで繋がっていた関係も変化していき、利害の一致のみでは説明できない関係になっていく。

2018年3月22日には、実写ドラマ化することが発表され、朝日放送テレビが制作して同年7月8日から9月23日まで毎日放送テレビ(ABCテレビ)で放送されているテレビドラマ枠『ドラマL』で放送された。

『幸色のワンルーム』のあらすじ・ストーリー

少女の新たな名前・幸

14歳のある家出少女はその少女のストーカーであるお兄さんに誘拐される。幸のことが好きで一緒にいたいお兄さんと、いじめや虐待を受けており元の生活に戻りたくない幸の2人はお互いの利害の一致という名目で共同生活を始め、「2人で逃げ切れたら(お兄さんの勝ちという意味で)結婚しよう、捕まったら(お兄さんの負けという意味で)一緒に死のう」という約束を交わす。その中で、お互いに本心は隠しつつも、徐々に心を通わせ恋愛とも家族愛とも違う感情を育んでいく。
そして、家出少女は「両親につけられた名前は捨ててお兄さんがつけた名前で生きたい。」とお兄さんに名前を付けてほしいと要求する。その要求にお兄さんは、幸せに生きられるようにと願いを込め「幸(さち)」と名付けた。

誘拐犯を名乗る男の登場

その後しばらく経ち、ニュースでも誘拐事件のことがだんだんと報じられなくなった頃、動画投稿サイトに誘拐犯を名乗った男の動画がアップされる。もちろんこの男はお兄さんではない。正体は幸の中学の担任である形切診であった。
形切は以前から幸に歪んだ愛情を抱いており、性的暴行を繰り返していた。その際に使われていた2人の合言葉である「いつもの時間にね。(=掃除用具庫に5時半)」という言葉が動画でも使用されており、それを聞いた幸はその正体が元担任の形切であると気付く。そこで幸は、お兄さんが買い物に出ている隙に動画内で示された待ち合わせ場所である幸の中学校の掃除用具庫に1人で向かうことにした。
買い物からお兄さんが帰ると、部屋の前に幸誘拐の件について聞き込み調査をしている警察官がいた。幸がいなくなっていることを知らないお兄さんは、部屋に幸がいると思い込んでいたため警察に部屋の中を見せることを拒む。しかし、そのせいで警察官から怪しまれることになってしまった。その時、部屋の中でお兄さんが忘れていった携帯が鳴ってしまいドアを開けざるを得ない状況になってしまったため、部屋の中を見られないようにドアを開けようとする。その時、ドアの鍵が開いていることに初めて気づき、部屋を見ると幸がいなくなっていた。また、幸が出ていくときに部屋一面に貼られていた写真を全て持ち出していたため、ストーカーや誘拐の証拠になりうる幸の盗撮写真や誘拐後に2人で撮った写真は1つも残っていなかった。
警察が帰った後、お兄さんは無視すればよいはずの動画を食い入るように見ていた幸の様子を思い出し、幸が誘拐犯を名乗る動画の男の正体に気付き1人で動画の男のもとに行ったのだと考えた。そして、お兄さんは今まで盗撮していた幸の写真データから動画の男を特定し幸の救出に向かう。
その頃、幸は掃除用具庫で形切と対峙していた。幸は動画が話題になれば事件の報道が長期化し警察から逃げきれる可能性が低くなると考えた。そこで「誘拐されて怖かった。先生と暮らしたい。」と嘘をつき形切に動画を消させてから逃げるようとするが、嘘が見破られてしまう。
未だに幸に歪んだ愛情を抱いている形切は「誘拐犯になり代わることが目的だ。」と語り幸を押し倒す。形切は自分が誘拐犯になり代われば、幸を自分のそばに置いておけると考えていたのだった。しかし、次の瞬間、動画の誘拐犯に扮したお兄さんが登場し、幸を救い出す。2人が逃げた直後、事前にお兄さんが呼んでいた警察が現場に到着し、形切は幸誘拐の容疑者として逮捕される。

幸とお兄さんの結婚式

その後、現場から逃げた幸とお兄さんは幸の提案で2人の家に帰る前に、幸が以前母親に家を追い出された際に一度行ったことがあるという廃ホテルへ向かうことにした。そして、幸がお兄さんに結婚式をしようと提案する。
幸は、形切の一件で、お兄さんが第三者にバレるリスクを冒してまで助けに来てくれたことで、お兄さんのくれる幸せだけではなくお兄さん自身にも興味を抱き始め、なぜ自分を誘拐したのかをお兄さんに尋ねる。しかし、お兄さんは「僕は幸のストーカーだから最初から幸を誘拐するつもりだった。」とはぐらかした。幸も最初からお兄さんが自分を好きで誘拐しようと思って自分を誘拐したわけではないことには薄々気づいていたため、はぐらかされたことにも気づくが、無理に聞くことを諦め、結婚式を続行することにした。幸は「お兄さん、あなたはどんな時も幸を愛し、幸のために生きて、『一生幸せにする』と言ってくれました。あの言葉は本当だと誓いますか?」とお兄さんに問いかけ、お兄さんに誓いの言葉を求めた。
お兄さんはこの誓いの言葉は幸の本心だと感じ、「この結婚式に意味があるとは思っていない。以前の幸ならきっと僕と同じことを思ったはずだよね。」と幸に告げた。そして、今の幸がお兄さんに幸せごっこではなく本当の幸せを求め始めていることを感じ、幸が本心を出したことに応えるように自らも幸誘拐の真相を語り始める。お兄さんは誘拐の前から幸に対して盗撮などのストーカー行為をしており、誘拐の際にも幸に対して「君が好きだから」と言っている。しかし、本心は幸が好きだからというきっかけではなく、目の前で自殺しようとしていた幸をただ引き留めようとしただけだったのだ。
この時、お兄さんは一方的に幸が変わったと思っていた。他人はおろか自分のことにも大して興味を持たず執着しなかった幸が、少なくともお兄さんの過去に興味を抱く程度には他人に興味を持ち、本当の幸せを求めるようになっていたからだ。しかし、幸に「目の前にいるから助けただけ、君が望むなら出ていってもいいと言っていたのに、なぜ自分の意志で(形切に会いに)出ていった私をリスクを冒してまで助けてくれたの。」と尋ねられ、「ただ幸を助けたい」と思い行動していた事に気付いた。この時、お兄さんは元々は幸の自殺を引き留めるためだけに始めた生活に、幸と同様に自分自身も依存しかけていることを気づかせられたのだった。
幸は「お兄さんはこのゲームを続ける気はあるのか」とさらに問いかけ、答えられないお兄さんに包丁を突きつけ殺すふりをした。その後、「私は私の『幸せ』のためにお兄さんを利用している。だからお兄さんも自分自身の『幸せ』のために私を利用して。もしあなたが死ぬ覚悟ができたら私があなたを殺してあげるから、その時まで私のために生きて。」と提案した。お兄さんもそこまで言う幸の必死さに負け「君の質問の答えが見つかったらこの生活は終わりにする。」と告げた。

今まではお兄さんが以前から住んでいた部屋で暮らしていたが、形切の一件で話題になってしまったことや、警察の取り調べがあったことから、このままここにいるといつか警察に見つかってしまうと感じたお兄さんは幸を段ボールの中に隠し、家の引っ越しを決行する。幸の母親から依頼を受け2人を調査している探偵の松葉瀬が2人が暮らしていたアパートを突き止めるが、一歩及ばず2人は引っ越した後であった。
お兄さんと幸は引っ越し先でしばらく平和な生活を送っていたが、偶然前の家の前ですれ違った松葉瀬に車のナンバーを覚えられており、そこから足がついてしまい新たな家はすぐにばれてしまう。松葉瀬は助手の八代と共に、お兄さんと幸の新たな家の隣に引っ越し、挨拶としてお兄さんにお菓子を手渡す。そのお菓子に違和感を感じたお兄さんは、盗聴器が仕掛けられている事に気付き動揺する。
すると、幸が何かを思いついたのかおもむろに話し始め、最初は動揺したお兄さんだが何も思いつかずに幸が話し始めることはないと思い幸に合わせるように2人で演技を始めた。その音声を隣の部屋で聴いていた松葉瀬は、お菓子を渡してから第一声が入るまでのタイムラグや盗聴器に入る雑音や波音から、2人が盗聴器に気付き演技をしていることと盗聴器を外に持ち出し海に向かっているのではと考えた。その予想通り 、お兄さんと幸は、松葉瀬達の様子を探るために部屋にカメラを仕掛けてから、自分たちの向かっている場所に気付かせ誘導するためわざと盗聴器を持ち出し海へ向かっていた。
松葉瀬達は、まずお兄さんと幸の住んでいる部屋に向かった。すると、入ってくださいと言わんばかりに部屋の鍵は開いており、中にはお兄さんと幸の仲の良さそうな写真が松葉瀬達に見せつけるように置かれていた。これはお兄さんと幸が自分たちは一般的な誘拐犯と被害者の関係ではないことを示唆するためにわざと置いていったものだった。松葉瀬はそれら全てのお兄さんと幸の意図に気付いた上で誘導に従い、助手の八代とともに海へ向かう。一方、お兄さんと幸の2人は松葉瀬達の目的を探り、邪魔者になりそうであればここで殺してしまおうと計画する。そして、幸は「お兄さんのことはまだ完全に信用していない。本当に信用してほしいならいざというときは松葉瀬らを殺して。」とお兄さんに告げた。

探偵との取引

その後、松葉瀬達が海へ到着すると、そこにはお兄さんの姿しかなく、お兄さんから「目的はなんだ」と問いかけられた。松葉瀬はその問いに「お前と×××を引きはがしに来た」と答えた。お兄さんはその答えを聞くと松葉瀬に「残念です」と告げ、それと同時に背後に潜んでいた幸が松葉瀬めがけてシャベルで殴りかかった。しかし、松葉瀬もとっさに護身用に持ってきていたバッグで幸の攻撃を防いだ。その後も幸は松葉瀬を襲い続けていると、松葉瀬が幸のシャベルをよけた拍子に転倒し、お兄さんの足元に転がる形となった。幸はこの絶好のチャンスに「お兄さん!とどめを刺して!!さっさと殺して!!」と声を荒げた。松葉瀬は、自分と幸が交戦している中で何度がお兄さんがその気になれば助手の八代を殺せる場面があったにも関わらず殺さなかった様子から、お兄さんに自分は殺せないと見越し「殺してみろよ」とお兄さんを煽った。結局お兄さんがとどめを刺せず躊躇っているところを背後から八代に手に持っていた瓶を奪われ、2人の計画は失敗に終わった。そして、松葉瀬達は自分たちは幸の母親に依頼されて2人を探していること、警察と違い2人を逮捕するためではなく自分たちの意志で一緒にいる2人を最後まで見届けるために探していたことを伝える。松葉瀬は理由について明確に発言してはいないが、幸が母親から虐待されていることに気付いていること、自分自身も子供の時に母親から虐待を受けていたことが大きく関係していると考えられる。
この海での一件の後、松葉瀬は警察の動向を伝えることもできるし、見届けるつもりで来たから困ったら頼ってくれとお兄さんと幸の2人に告げ、お隣さん生活の続行を提案した。この提案にお兄さんは「今すぐに街を出る」と、あくまでも隣で生活する気はないと答える。しかし、幸は松葉瀬達の部屋に監視カメラを置き、24時間幸の監視下のもとにいるのであればこれからも隣で暮らしてもいいと松葉瀬に告げた。その後、お兄さんと松葉瀬は同じ旅館でアルバイトを始め、幸と八代は家に残るという生活を続けていた。そんな中、松葉瀬が幸に「オレが公的手段でお前を引き取ってやる。」と提案し、「お前の好きな利害を考えたらオレとマスク(お兄さん)どっちをとるんだ。」と問いかけた。松葉瀬自身も幸と同じく虐待されていた過去を持っているため、松葉瀬なりに幸を救いたいと思っての発言だと考えられる。

『幸色のワンルーム』の登場人物・キャラクター

お兄さん

本作の主人公。幸のストーカーで自殺を止めようとして誘拐犯になる。本名、年齢などは不詳で、幸からはお兄さんと呼ばれている。警察官に話しかけられ、自身が犯罪者だと改めて実感するなど、根は普通の人間と変わらない様子である。世間では誘拐と騒がれているが、下心は一切無く、幸のことを何よりも大切に思っており、「両親から与えられた名前を捨てたい」という少女の希望で「幸せになってほしい」という理由から「幸」と名付ける。幸から「両親と警察から逃げられたら結婚しよう」と告白され、これを承諾して幸のために生きることを約束した。しかし、この時指切りはしておらず、少なくともこの生活の異常さには気づいており、お互いの好意で一緒にいるわけではないとも考えている。また、幸もそう思っているだろうと考えている。生活習慣はかなり規則正しく、家事が得意。料理は上手で幸からも絶賛された。本人は自覚していない様子だが、なかなかの美形である。アルバイトの契約などの際は偽装身分証を使っており、携帯も偽装した身分で契約しているようである。

幸(さち)

自らお兄さんに誘拐された少女。幸という名前は本名ではなく、1巻で「両親につけられた名前は捨ててお兄さんがつけた名前で生きたい。」と言いお兄さんにつけてもらったものである。なお、本名は一貫して×××と表記され明らかにされていない。普段は人懐っこく可愛らしいごく普通の少女に見えるが、両親からの虐待や同級生からのいじめなどの経験からかなり警戒心が強く、基本的に人のことは信用しない。お兄さんとの関係についても一貫して「利害が一致しただけだ。」と主張している。しかし、話が進んでいくにつれ本心ではお兄さんのことを信用したいと思っているようにも見える場面が増えてきている。

松葉瀬聖(まつばせ ひじり)

幸の母親から幸の捜索を依頼された探偵。松葉瀬探偵事務所所長。童顔と小柄な体型、落ち着きのない幼い行動からしばしば子供に間違われる。しかし、探偵としての洞察力や推理力は極めて優れている。また、自身も親から虐待を受けていた過去を持ち、幸の部屋を一度見ただけで母親が虐待の事実を隠している事に気付く。その後は、その優れた能力で幸とお兄さんの居場所を突き止める。2人の引っ越し先にお隣さんとして引っ越すなど大胆で先の読めない行動をとる。刑事をしていた過去もあるようだが、まだ詳しくは触れられていない。6巻では幸に「オレが公的手段でお前を引き取ってやる。」と提案し、「利害を考えたらオレとマスク(お兄さん)どっちをとるんだ。」と問いかけている。敵ではないことは確かだが、味方とも言い切れない絶妙な距離感で2人の関係を揺さぶる。2019年9月21日には7巻の発売と同時に松葉瀬が主役の初スピンオフコミック『幸色のワンルーム 外伝 正壊の名探偵』が発売された。

八代涼太郎(やしろ りょうたろう)

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