歪みの国のアリス(歪アリ)のネタバレ解説・考察まとめ

『歪みの国のアリス』とは、携帯電話向けホラーゲームである。サンソフト内のGセクション部が「ナイトメア・プロジェクト」名義で開発。2006年に配信を開始し、2015年にスマホ向けリメイクされた『歪みの国のアリス~Encore(アンコール)』を配信。配信当時の携帯電話向けゲームの中でも有名なヒット作となった。主人公「葛木亜莉子(かつらぎありこ)」通称「アリス」は、目を覚ますと学校の教室にいて、フードを被った男「チェシャ猫」と共に「シロウサギ」を探す事になる。

『歪みの国のアリス』の概要

『歪みの国のアリス』とは、サンソフト(サン電子株式会社)内のGセクション部が製作した携帯電話向けホラーアドベンチャーゲーム。
Gセクション部が開発したゲームの総称を「ナイトメア・プロジェクト」と呼び、同様に公式サイト・運営スタッフの事も指す。
本作は『不思議の国のアリス』をモチーフにしたサウンドノベルゲームで、選択肢によってルート分岐するマルチエンディングになっている。
2006年に配信を開始し、2015年にスマートフォン向けにリメイクされた「歪みの国のアリス~Encore(アンコール)」を配信開始。
全8章の構成で、1~4章までが前編のプロローグ、5~8章が後編の完結編となっている。
最終章まで辿り着いたエンディングが「TRUE END」で、5種類のトゥルーエンドはそれぞれが繋がっている。
それ以外のエンディングは「NORMAL END」で、その殆どが主人公・亜莉子が死ぬ展開になり、一部例外を除きバッドエンドにあたる。

2006年に配信以降、ホラーテイストの世界観・独特のコミカルさ・キャラクターの濃さなどから、二次創作が行われる程の高い人気を誇る。
ナイトメアプロジェクトからも二次創作のルールが発表され、そのルールに則れば二次創作が認められている。
開発部は公式グッズの製作・着せ替えアプリや着メロなどの製作・コラムの発表・イベントを行うなどファンの要望に応えるなど活動的。
2014年には公式ノベライズが発売し、2015年には「ナイトメア・プロジェクト公式ガイドブック」が発売した。
ダウンロード時に料金が発生する有料ゲームアプリであったが、リメイク作「歪みの国のアリス~Encore(アンコール)」では毎日配布されるアイテムを使用することで無料化。
コラムや番外編が読める課金コンテンツなども充実している。

主人公「葛木亜莉子(かつらぎありこ)」は、放課後の自習室で目を覚ます。
目の前にはローブを被った男「チェシャ猫」がいて、亜莉子を「アリス」と呼び「さぁ、シロウサギを追いかけよう」と言う。
自分の置かれた状況が掴めない亜莉子であるが、チェシャ猫と一緒にシロウサギを探す事になっていく。
物語は全ての詳細を語りきってはおらず、プレイヤーが考察する部分も多くなっている。

『歪みの国のアリス』のゲームシステム

本作はサウンドノベルで、選択肢によって行動が変わるマルチエンディング。
プレイヤーはストーリーを読み進めながら、時折出てくる選択肢を選び物語を進めていく。
全8章で構成され、1~4章までが前編のプロローグ、5~8章が後編の完結編となっている。
エンディングはバッドエンドにあたる「NORMAL END」が10種、最終章後の後日談「TRUE END」が5種ある。
「NORMAL END」になった場合は直前の選択肢を選びなおす事が可能。
「NORMAL END」は殆どのエンディングが亜莉子が死ぬ展開になっている。
「TRUE END」は後日談で、5つの物語が繋がっており全て読むことで一つのストーリーになっている。
ゲーム中に探索やアイテムを使うなどの要素は無く、シナリオを読み選択肢を選ぶだけのシンプルな操作となっている。

リメイク版「歪みの国のアリス~Encore(アンコール)」では、1日4枚配布される「緋色の羽根」というアイテムを消費して無料で読むことが出来る。
緋色の羽根は課金して買うことも出来る。
おまけコンテンツ「カーテンコール」では「カーテンコール招待状」というアイテムを使うことで、コラムや番外編を読むことが出来る。
リメイク版からはフローチャートが完備され、読んだシナリオと未読のシナリオが分かるようになっている。

『歪みの国のアリス』のあらすじ・ストーリー

第1章 終わらない放課後

亜莉子が目を覚ますと目の前にはフードを被った人物「チェシャ猫」がいた。

主人公「葛木亜莉子」は、自習室で親友の「雪乃」とテスト勉強をしていた。
亜莉子はいつの間にか寝てしまい、目を覚ますとニッタリと笑ったような顔をしフードを深く被っている人物が亜莉子の机の上に座っていた。
周りには雪乃も他の生徒達もおらず、雪乃はどこへ行ったのだろうと亜莉子が考えていると、フードの人物は「ユキノはいないよ」と低い声で言った。男性のようである。
亜莉子は状況は掴めないが、目の前の人物が不審者であることを察し、先生に伝えようと自習室を出ようとする。
亜莉子が自習室を出る瞬間に後ろを振り返ると、机の上にいたフードの人物は亜莉子のすぐ目の前にいて、亜莉子は驚いて腰を抜かしてしまう。
亜莉子が「あなたは誰ですか」「私に何か御用ですか」と尋ねると、フードの人物は自分の事を「チェシャ猫」と名乗り、「さあアリス、シロウサギを追いかけよう」と言った。
亜莉子は自分の名前はアリスでは無いと言い、人違いだと話す。
しかしチェシャ猫は自分達はアリスを間違えないと言う。
亜莉子はとにかく自分はアリスでは無いと強くいうが、チェシャ猫は話を聞いているのかいないのか「さあアリス、シロウサギを追いかけよう」と答えた。
亜莉子が自習室を飛び出すと、何故か廊下は果てなく続いており、他の生徒や教師もいなかった。
大声で人を呼びながら亜莉子は果ての無い廊下を歩くが、やはり周りには人気がなかった。

亜莉子が廊下を進んでいくと、教室の真ん中に人影を見つけ、亜莉子は駆け寄ろうとする。
しかしその人影はサラリーマンのような格好をしているが頭が白いウサギであった。
亜莉子が正面からシロウサギを見ると、赤子ほどのサイズの血塗れ人形を抱いており、その人形には腕・足・頭がなかった。
そして胴体だけの人形をあやすように「ウデ ウデ ウデ♪ ウデはどこだろ♪ ウデがなくっちゃ♪ 僕にふれてもらえない♪」と歌い、「足りないなぁ」と呟いた。
シロウサギは亜莉子の存在に気づいていない、又は見えていないのか、「アリス」と呟いて教室を出て行った。
シロウサギが居たところを見てみるとそこには血溜まりが出来ており、血痕は廊下に続いていた。

亜莉子は血痕を辿って廊下に出て、また果てしない廊下を歩き続けていくと、ついに廊下の壁に辿り着いた。
壁には20センチほどの小さなドアがあった。
ドアを開けて中を見てみると、まだ廊下が続いていたが階段があるのが見えた。
しかしこの小さなドアを人間の亜莉子が通る事はできない。
亜莉子はカーテンを結んでロープのようにして窓から外に出るしかないと思い、近くの教室に入った。
すると教室は誕生日会のようにやペーパーフラワーなどで飾り付けられ、黒板には絵と「おかえり 僕らのアリス」と光る文字で書かれていた。
亜莉子がふと視線を教壇にやると、そこにはバスケットが置かれており「私を食べて」と描かれた紙が置いてあった。
サンドイッチやクッキーが入っているのだろうかと、亜莉子がバスケットの中を見てみると、中には切断された人間の腕が入っていた。
思いも寄らない物に亜莉子は戦慄しその場から逃げ、廊下を走った。
腕は子供の腕ほどのサイズであり、亜莉子は思い出して吐き気を催し疼くまっていると、「廊下は走らないんだよ」という声が聞こえた。
亜莉子が声の方を見ると、掃除用具の上にチェシャ猫がニンマリと笑い蹲っていた。
亜莉子は気が抜けてそこで何しているのかと言うと、チェシャ猫質問には答えず、掃除用具の上からが降りてきた。
亜莉子は逃げる気も失せ、チェシャ猫に何故廊下がこんなに長いのか、何故誰も居ないのか、これは一体どういう事なのか尋ね、おまけにやっと見つけたドアは小さすぎて通れないと自暴自棄になり叫んだ。
チェシャ猫は質問には答えなかったが、「おいで」と言って歩き出した。
チェシャ猫のあとを付いて行くと、先ほどの人間の腕があった教室へ辿り着いた。
亜莉子は教室に入りたくないと拒むが、チェシャ猫はバスケットの中にあった腕を亜莉子の目の前に突きつける。
目の前の生々しい腕に胃酸が逆流し吐きそうになりその場に蹲るが、チェシャ猫が亜莉子の肩にポンと手を置くと暖かさを感じ、吐き気が消えていた。
そしてチェシャ猫は「お食べ」と、切断された腕を突き出してきた。
亜莉子は思わず「はい?」と顔を上げ、腕を食べろと言って来るチェシャ猫に恐怖を覚え、「人間の腕を食べるなんて!」と抵抗した。
チェシャ猫は「ニンゲンじゃないよ、パンの腕だよ」と言う。
亜莉子はその言葉に思わず腕をまじまじ見ると、リアルに作られているが腕の切断面に骨が無く、血だと思っていたのはジャムであった。
バスケットに入っていたのは切断された人間の腕ではなく本当にパンなのであった。
しかしパンだとしてもそんなグロテスクな形状のものを口に入れたくないと亜莉子が抵抗したところ、チェシャ猫はパンを千切って亜莉子の口に突っ込んで鼻と口を手でふさぎ、亜莉子がパンを飲み込むのを確認すると手を離した。
亜莉子は視界がグルグル周り、気が付くと布に囲まれ、自分は服を身に纏っていなかった。
どういうことなのかと驚くと、チェシャ猫は「ストロベリージャムパンを食べたから体が小さく縮んだ」のだと言う。
亜莉子は制服のスカーフを体に巻いた。
そしてチェシャ猫に会ってからおかしな事ばかり起きると思い、チェシャ猫から逃げるために小さくなって通れるようになったドアを開け通りぬけた。

亜莉子が追いかけることになるシロウサギ。胴体だけの人形を抱き、足りないパーツを探しているようだ。

ドアを通り抜けたものの、小さくなって階段を登ることができず、ドアを背にして座り込んでいると、「どうしましたあ、お嬢さん?」という声が聞こえてきた。
目の前にはクマのような生き物が居て、亜莉子が「あなたは誰ですか、クマですか」と尋ねると、首を振りハリネズミだと答えた。
亜莉子が小さくなったため大きな生き物に見えたが、確かにハリネズミであった。
ハリネズミに何故こんな所にいるのか、何故日本語が話せるのか尋ねると、ハリネズミは悩んでしまったので質問を止めた。
ハリネズミは亜莉子の至近距離まで近づき、アリスかと尋ねる。
亜莉子が否定するとしょんぼりしてしまったので、チェシャ猫という人からはそう呼ばれたと話すと、ハリネズミは「僕らのアリス、お帰りなさい!」と言って亜莉子に抱きついた。
ハリネズミは自分は若いからアリスに会った事がなかったと話し、アリスの服があるから一緒に来て欲しいと言う。
ハリネズミは亜莉子を連れてとある教室に入る。
亜莉子がここは被服室じゃないかと尋ねると、ハリネズミは「ここは仕立て屋だ」と答えた。
教室の中には沢山の服があり、ハリネズミのあとを付いて行くと、威勢の良い全身絆創膏だらけの絆創膏男が現れた。
絆創膏男はハリネズミに「親方」と呼ばれ、服の仕立てをしている最中であった。
ハリネズミは親方にアリスを紹介すると、親方は「お帰りッ俺達のアリスー!」と叫びながらアリスに向かって突進するように走ってきたため、亜莉子は思わず避けてしまい、親方は机から床へ落下した。
親方はアリスの服を持ってきたが、子供服であり、現在の縮んだ亜莉子には大きすぎる服であった。
大きすぎるという主張は聞き入れて貰えず試着室に押し込まれ、亜莉子は無理だと思いながらも冗談で袖を通してみると、服が縮まり現在の亜莉子のサイズになった。
亜莉子が渡された服はシックな赤い服・白いエプロン・黒い靴・下着であった。
現在亜莉子はお金を持っていないが、お代はいくらかとおずおずと尋ねる。
すると親方は口ごもり、ハリネズミは代金なんていらないと言うが、続けて「代金はいらないが一本欲しい」と言う。
亜莉子は何も持って居ないが、何を一本欲しいのかと尋ねると、ハリネズミはにこやかに「腕、一本下さい」と言う。
「二本もあるんだから一本くらい良いでしょう」と言ってハリネズミは亜莉子の腕を掴んだ。
親方とハリネズミはアリスの肉は甘くてとろけると言い、逃げようとする亜莉子を床に押さえつけた。
ハリネズミは裁断バサミを持ってきて亜莉子の腕を切断しようとする。
亜莉子は恐怖で気絶しそうになるが、今気絶したら腕がなくなると思い、その場で思いっきり暴れた。
すると「ぐえ」という嗚咽と、「ぎゃあ」という悲鳴が聞こえてきた。
一つは亜莉子が親方を蹴った事で出た親方の嗚咽で、もう一つは親方の持っていたまち針がハリネズミの頭に刺さってしまった悲鳴であった。
ハリネズミは涙ぐんでぷるぷると震えだし、親方は焦ってハリネズミを宥めようとするが、ハリネズミは全身の針を逆立てた。
親方は逃げ出し、ハリネズミは大声で泣くと同時に全身の針を放出した。
嫌な予感がしていたもののとっさに動けなかった亜莉子は目を瞑って腕で頭を庇ったが、痛みは全くなかった。
目を開けると目の前に親方が立っており、亜莉子は親方が自分を庇ったのかと思ったが、そうではなく親方は頭をチェシャ猫に摘み上げられ亜莉子の盾にされていた。
親方は全身針だらけになりチェシャ猫にぽいっと捨てられると、血を流しながら怒り出し、我に返ったハリネズミを怒鳴りつけて追いかけて行った。

取り残された亜莉子はチェシャ猫に「さあアリス、シロウサギを追いかけよう」と言われる。
亜莉子が嫌がりそっぽを向くと、チェシャ猫は「皆アリスが好きだから、一人で居ると食われるよ」と言う。
亜莉子は素直に一緒に行く事にすると、チェシャ猫は「いい子だねアリス」と頷いた。
チェシャ猫のことはまだ気味が悪いし信用して良いか分からないが、一人で居たら食べられてしまうかもしれないし、少なくともチェシャ猫は自分を助けてくれた。
一人でいるよりは良いだろうと思った亜莉子は、チェシャ猫に「私は美味しくないから食べないでね」と言うと、チェシャ猫は「僕はアリスを食べないよ」と答えた。
しかしそのあとに「おいしそうだけどね」と続け、亜莉子はやはり油断ならないと思った。

亜莉子の前に現れたハリネズミ。のんびりした性格で、アリスに会うのは初めて。

第2章 狂騒のホテル ブラン・リエーヴル

結婚パーティをしてから12年間ずっと食べ続けている公爵夫人。

親方とハリネズミからシロウサギの目撃情報を聞き、亜莉子とチェシャ猫は学校を出た。
外は普段通りの街並みであったが、やはり一人も人間がいなかった。
亜莉子は口裂け男と小人娘の異色コンビが街を歩いてたら目立つため、シロウサギを探し歩くにはむしろ人が居ない方が都合が良いのではないかとポジティブに考えた。
亜莉子はチェシャ猫の肩に乗って移動し、二人は目的地「ホテル・ブランリエーブル」に辿り着いた。
ホテルにはやはり人は居なかったが、奥から何かが割れた激しい物音が聞こえてきた。
奥へ進むとレストラン「イナバ」があり、そこには大きすぎて全貌が見えない謎の巨大生物がいた。
レストランの端まで行くとようやく全身を確認できるようになり、天井まで届くほどの巨体の女性が一心不乱にご馳走を頬張っていた。
亜莉子がチェシャ猫に彼女は誰なのかと問うと、チェシャ猫は「公爵夫人」だと教えてくれた。
公爵夫人はテーブルの上の料理を皿ごと食べ終わると、次の料理を持ってこいと言わんばかりに催促のベルを鳴らした。
すると厨房からカエルのサービスマンが料理を運んできてテーブルを料理でいっぱいにし、公爵夫人はまた料理を一心不乱に食べ始めた。
亜莉子は公爵夫人の向かいの席に人が居る事に気づくが、その人物は机に伏せてピクリとも動かなかった。
どうしたものか考えた末、亜莉子は厨房へ行ってシロウサギについて聞いてみる事にした。

厨房へ行くと沢山のカエルたちが床に横たわっていた。
一匹のカエルが助けを求めチェシャ猫のローブを掴みチェシャ猫の顔を見ると驚き、さらに亜莉子を見ると飛び上がり「アリス」と叫んだ。
すると横たわっていたカエルたちが次々に起き上がり、「お帰り!僕らのアリス!」と歓喜の声を上げてアリスに飛び掛ってきた。
チェシャ猫は亜莉子をつまみ上げ、亜莉子はカエルたちに埋もれずにすんだ。
亜莉子はカエルたちにどういう状況なのか尋ねた。
カエルたちは、ホテルで公爵と公爵夫人の結婚祝賀パーティーがあったが、夫人がいつまでも満腹にならずに12年間ずっと食べ続けていると話す。
何故満腹にならないのかと聞くと、それは公爵夫人だからという理由で片付けられた。
カエルたちはこのままでは自分も公爵も死んでしまうと訴える。どうやら机に伏せていたのが公爵のようである。
カエルたちの懇願に戸惑った亜莉子は自分はシロウサギを探しているだけだと言うと、カエルたちは「せっかく戻ったんだ」「シロウサギなんか探してはダメだ」「アリスはずっと…」と口々に言い始めるが、チェシャ猫の顔を見た途端皆黙ってしまった。
カエルの一匹がシロウサギなら公爵が見たと言っていたと話す。その瞬間公爵夫人の鳴らした料理を催促するベルが鳴った。
カエルたちは一瞬凍りつき、ふらつきながら料理を運んで行く。
亜莉子は放って置けないし、シロウサギの事もあるから公爵夫人をどうにかするしかないのかな、とチェシャ猫に尋ねると、チェシャ猫は「僕らのアリス、君が望むなら」とニンマリと笑ういつもの顔で答えた。

食堂に戻り、亜莉子は公爵に事情を話すと、公爵は夫人を止めてくれたらシロウサギの情報を話すと約束してくれた。
亜莉子はどうやって夫人を止めるかを考える。
力ずくで止めるのは、公爵夫人の美貌が傷つくからダメだと公爵が言う。
脅して止めるのは、既に公爵が実行済みだが効き目が無かったという。
料理を強制的に止めるのも、既に実行済みであり、その時は支給係のカエルが食われたという。
無理じゃないかと思う亜莉子の手を握り公爵は見捨てないでくれと泣き付く。
そして亜莉子に対して「昔より小さくないか」と尋ねてきた。
亜莉子は一度も公爵に会った事は無いため、人違いじゃないかと言う。
公爵は夫人もこのくらい小さければと独り言を言い、亜莉子はその言葉に夫人を小さくしてしまえば良いのではないかと気づく。
亜莉子が小さくなったのと同じように、あのストロベリージャムパンを夫人に食べさせればどうにかできるのでは無いか。
亜莉子がチェシャ猫にストロベリージャムパンは何処にあるかと尋ねると、チェシャ猫はパンはパン屋にあると答えた。
ではパン屋はどこにあるのかと尋ねると、ホテルの地下街にあると公爵が言う。
「そんな近くにあるなら自分で行けばいいのに」と亜莉子は言うが、公爵は胃が弱く「あんな所に行ったら死んでしまう」と答え、「アリスは丈夫そうだから大丈夫」と言う。
その言葉に釈然としない亜莉子であるが、地下街へ向かった。

ボディビルダーのようなあんぱんたち。

亜莉子とチェシャ猫は地下ショッピングモールに辿り着く。そこもやはり無人であった。
乙女像がついた噴水の脇を通ると、下町的な雰囲気の「鶴岡パン店」と、洋風で小洒落た「ベーカリー・カメダ」という二件のパン屋があった。
一番近くにあった鶴岡パン店へ行くが鍵が掛かっており、亜莉子が扉を叩くと人の気配はあるが返事は無かった。
諦めてもう一軒へ行こうとすると、扉から「あんぱんといえば」という声が聞こえてきた。
質問の意味が分からずに戸惑っていると、「こしあんかつぶあんか」と聞いてきた。
こしあんとと答えると「お命頂戴!」という声と共に刃が閃いた。
すると瞬間銃声のような音が聞こえて、何者かが亜莉子を抱えてスライディングした。
亜莉子を抱えた男はベーカリー・カメダに入って行った。
ベーカリー・カメダの中で亜莉子はベーカリーの中に居た男達から「こしあん支持者だ」と声援を受けた。
亜莉子がこの状況に戸惑っていると、この男たちはあんぱんであるといつの間にか店に入っていたチェシャ猫が教えてくれた。
何故パンが喋ったり動いたりするのかと言う亜莉子に、チェシャ猫は「パンは動くし喋るものだよ」と答えた。
そして「彼ら(あんぱん達)は真実のあんぱんは、こしあんかつぶあんかの争いをしている」と言い、「第二次あんパン戦争」とチェシャ猫が呟いた。
呆れた亜莉子が思わず「どっちでもいいじゃない」と口走ると、あんぱんたちは一斉に銃を亜莉子の向けた。
亜莉子は慌てて「どっちも好き」と答えるとさらに激昂し、「スパイだ!殺せ!」と騒ぎ出す。
亜莉子はチェシャ猫に助けを求めると、そのやり取りからあんぱんたちは亜莉子がアリスだと気づき、口々に「お帰り!僕らのアリス!」と叫んだ。
するとこしあん派のリーダーが現れ「アリス様、貴女は私達の救世主。さぁ、こしあんパンこそ正義であると仰って下さい」と言う。
その瞬間ベーカリー・カメダの扉が破られ、鶴岡パン店のつぶあん派のあんぱんたちが攻め入ってきて、「アリスを独占する事は許さぬ!」と刀を構えた。
一触即発の中、あんぱんの戦争に巻き込まれるなんて情けない死に方は嫌だと亜莉子は停戦を訴え、チェシャ猫が「アリスの言葉は天の言葉」と言ったため、亜莉子はこの争いに裁定を下すことになった。
場所を噴水前に移し、亜莉子は乙女の像の手の上に乗せられた。
亜莉子はそもそも自分はアリスでは無いというと、あんぱんたちはアリスの名を騙ったと怒り出し、1人が刀で切りかかってきた。
亜莉子には当たらなかったが、乙女の像の腕が切り落とされたため、手の上に乗っていた亜莉子は噴水の泉へ落下した。
水面にはこしあん派の銃が待機しており、チェシャ猫は亜莉子の足を引っ張って水の中に引き込んだ。
溺れてしまうと反論しようとするが、水の中でも呼吸が出来た。
そして「お帰りなさい、わたくし達のアリス」という声が聞こえ、チェシャ猫はこの声が「水」の声だと教えてくれた。
水たちは口々に「会えて光栄ですわ、わたくし達のアリス」「あんパン達は単細胞で困ってますのよ」などと言う。
あんぱんたちが亜莉子を捕まえるために縄を泉に投げ込んだが、水たちがあんぱんに何らかのお仕置きをし、パンだけに水分が苦手なのかあんぱんたちの悲鳴が聞こえてきた。
水たちは亜莉子にこのままストロベリージャムパンのある鶴岡パン店まで連れて行くと言い、亜莉子はその好意に甘え連れて行ってもらった。
鶴岡パン店のシンクに辿り着き、亜莉子のビショビショだった体や服から水たちが自主的に帰って行き、亜莉子は普段の乾いた状態になった。
厨房の奥に「ストロベリージャムパン焼き立て」という扉があり、開けて見るとそこには牢に閉じ込められた真っ白な少年達が大勢居て、皆口々に「僕を食べて!」と言う。
亜莉子が何故牢に閉じ込められているのかと聞くと、チェシャ猫は少年達こそがストロベリージャムパンだと答える。
そしてストロベリージャムパンは食べられたいという衝動が強く、昔ドードー鳥を集団で襲って満腹死させたことがあり、同じ被害を出さないために牢屋に居るのだと言う。
食べられるのは嫌じゃないのかと聞くと、チェシャ猫は「パンは食べられるものだよ」と答え「早く食べないとカビだらけになるよ」と付けたした。
亜莉子は誰か一人を選んで連れて行こうと思うが、全員同じ顔であるため選びにくい。
すると部屋の隅に大きなクーラーボックスがあり「ハイキ」と書かれていた。
亜莉子がクーラーボックスを開けると、中から緑や青い斑点と悪臭がある人物が飛び出し、亜莉子を捕まえて喉元にフォークを突きつけてきた。
助けてくれる様子の無いチェシャ猫を見た亜莉子は、要求は何かと尋ねると、その人物は「俺を食え。うまそうに、だ」と言った。
貴方は誰かと問うと、チェシャ猫がストロベリージャムパンだと答え、色や匂いが違うのは廃棄されたパンだからだと言った。
檻の中にいたストロベリージャムパンたちは悪臭からか、怯えて部屋の隅で怯えていた。
クーラーボックスから出てきた廃棄パンは「食わなければ殺す」と言うため、亜莉子は廃棄パンもとい「廃棄くん」の話を聞く事にした。
どうやら彼は元々は良く出来た極上のストロベリージャムパンだったが、不慮の事故で床に落ちて廃棄パンとなった。
それでも誰かが自分を食べたいと言ってくれるはずだと諦めきれずに廃棄回収車に乗るのを拒み、カビが生えてしまったのだという。
理不尽な運命や来るはずの無いいつかを夢見る事に亜莉子は共感し、気づいたら涙を流していた。
チェシャ猫は亜莉子を「泣く事は無いんだよ」とあやすが、亜莉子は泣き止まない。
二人のやり取りで亜莉子がアリスだと気づいた廃棄くんは、「アリスが俺達のために泣いたりしたら意味が無い」と言って亜莉子をたしなめた。
そして諦めるきっかけをくれた事に感謝し、次の廃棄回収車に乗ると話した。
亜莉子は「諦めなければならないの?いつか、私も?振り切れない想いが叶う事は決して無いの?」と思い、廃棄くんの決断を拒絶し、公爵夫人の元に連れて行くと言う。
それでいいかと亜莉子がチェシャ猫に聞くと「僕らのアリス、君が望むなら」と返事が返ってきた。
レストランに戻る道中、亜莉子は廃棄くんにこしあんのあんぱんとつぶあんのあんぱんどっちが好きかと尋ねると、「好きだったら共食いだ」と言われた。
チェシャ猫にも同様の質問をすると、「猫はパンを食べない」と言うが、「アリスが入っていたら食べる」とも言った。
レストランに着き、公爵夫人を紹介すると廃棄くんは嬉しそうに屈伸運動をした。
チェシャ猫は拾ってきたあんぱんの指を亜莉子に渡し、食べたら大きくなるという。
亜莉子があんぱんの指を食べると元のサイズに戻り、今まで大きく見えていた廃棄くんは子供くらいのサイズになった。
亜莉子は廃棄くんを抱きしめ、廃棄くんは亜莉子にお礼を言い、自ら公爵夫人の口の中へ飛び込んだ。
廃棄くんを食べた夫人はみるみる小さくなり、マッシュポテトの入ったボウルの中にぽかんと座り込んでいた。
公爵に約束通りシロウサギの事を聞こうとすると、夫人は歓喜の悲鳴を上げ、マッシュポテトの山に頭を突っ込んでまた食べ始めた。
夫人は小さくなっても食欲は収まらなかったようで、それどころか自分が小さくなった事でもっと食べられると喜んでいた。
約束と違うと怒る公爵であるが、今度は夫人の呻く声が聞こえ、お腹を抱えてボウルの中を転げまわっていた。
「食中毒」とチェシャ猫が呟く。
夫人はトイレに行きたいと言い、公爵はとりあえず食事が止まった事に喜び亜莉子にある扉を指差し、夫人を連れてトイレへ行った。
公爵が指差した扉は、これまで夫人が大きすぎて見えなくなっていた扉であった。
夫人が食べるのを止めた事でカエルたちも休む事ができ、全員眠りこけていた。

ストロベリージャムパンであったが廃棄パンとなった「廃棄くん」。

亜莉子が扉を通ると、扉が勝手に閉まり扉自体が消えてしまっていた。
チェシャ猫がまだ扉を通る前で、亜莉子はドアのあった所に向かってチェシャ猫の名前を呼ぶがどうにもならず、一人で道を進んだ。
裸電球があるだけの打ちっぱなしのコンクリートの上を一人で歩いていくと、前方から誰かが歩いてくる気配があった。
現れたのは顔を包帯でグルグルに巻いた女であった。
驚いた亜莉子は躓いて転び、足元には焼け焦げた機械仕掛けの子犬のぬいぐるみが転がっていた。
包帯の女は右の脇腹が血だらけで、包丁を片手に持ち「お前の…せい…」「アリ…おまえのせ…」と呟きながら近づいてくる。
亜莉子は恐怖で動けなくなり、わけも分からずごめんなさいと謝る。
女が包丁を振り下ろしたため亜莉子は目を瞑るが、痛みはやってこず、目を開けると包帯の女も焼け焦げた人形もなくなっていた。
亜莉子はその場から駆け出してからも謝り続けた。何に対して謝っているのか自分でも分からなかったが、ごめんなさいという言葉だけが頭に駆け巡った。
通路の突き当たり扉があり、亜莉子はその扉の中に躊躇無く飛び込んだ。

亜莉子を追いかけてくる「包帯の女」。

第3章 見慣れた街の見慣れぬひとたち

亜莉子の親友「雪乃」。

扉を抜けると、ホテルの裏路地と思われるところに出た。
街にはいつも通りに人が居て、亜莉子がぼんやり人々を見つめているとこちらを見つめる見知らぬ男と目があった。
男は亜莉子を追って来た。
チェシャ猫やシロウサギをはじめとする非日常の人物がいる空間を、亜莉子は「歪みの国」と呼んでいた。
追って来る男もまた歪みの国の住人なのであろうか、亜莉子は混乱する。
すると「逃げて」という声が頭の中に響き、亜莉子はその場から逃げ出す。
男が追って来る気配が消えると、道端で親友の「雪乃」に出会った。
亜莉子は雪乃に誰かに追われている事を話すと、雪乃は周りを見たあと亜莉子の顔を見て険しい顔をした。
亜莉子の頬には叩かれたような跡が出来ていた。
しかし亜莉子に覚えは無く、特に叩かれたわけでもどこかにぶつけたわけでもなかった。
雪乃は亜莉子をファーストフード店へ誘った。
【エンディング分岐あり。誘いを断るとEND1 「仲間はずれ」へ】

亜莉子は雪乃と共にファーストフード店へ行った。
雪乃は亜莉子の誕生日にとびきりのプレゼントがあると話す。
しかし亜莉子は小さい頃自分の誕生日のあとすぐに父親が亡くなったため、それ以降誕生日を祝うという習慣がなく、誕生日プレゼントという物にピンと来なかった。
亜莉子は雪乃にその話や、母が武村という男と再婚する話をする。
雪乃はその話の直後トイレへ行き、亜莉子が一人窓の外を見ると街中にシロウサギの姿を見た。
「追いかけて辿り着かなきゃ」という先ほどと同じ声が頭に響き、突然右脇腹に痛みを感じた。
トイレから帰ってきた雪乃に謝り、亜莉子はシロウサギのあとを追った。

シロウサギは高架線の裏路地あたりに行く。
手にはやはり人形を抱いていたが、胴体だけではなく今度は両腕がついていた。
シロウサギは「アシ アシ アシ♪アシはどこだろ♪アシがなくっちゃ♪僕と一緒に歩けない♪」と歌い、側にあった煤で汚れたビルへと入っていた。
亜莉子もビルに入り、階段を上がり三階へ行くと一つだけ明かりがついた部屋があった。
ノックしてみると返事があり、若い男が出てきて亜莉子を招き入れた。
部屋にはダイニングテーブルと椅子一つ、明かりはキャンドルの炎だけであった。
男に言われるがまま椅子へ座ると、シチューとパンが出てきた。
亜莉子はシロウサギの話をするが、男は構わずシチューとパンを亜莉子に薦めた。
仕方なく亜莉子がシチューを食べると案外美味であったが、食べた直後急激な眠気に襲われ、亜莉子は気を失った。

亜莉子は幼い自分が泣いている夢を見る。
幼い亜莉子の横には誰かが居て、「泣かなくていいんだよ、謝らなくていいんだよ」と声をかけ、亜莉子を抱き上げてあやした。
泣きながら誰かに謝り続ける亜莉子に、亜莉子をあやす誰かは「わるいことは ぜんぶ けしてあげよう」と言う。
その言葉を聞くと同時に、亜莉子は目が覚める。
先ほどまでいた謎の男はおらず、テーブルの上にはパンとシチューもなかった。
廊下から誰かの足音が聞こえてきたため、亜莉子は驚いてドアの鍵をかける。
足音の主はドアノブを捻ったが、開かないと分かると階段を下りていった。
窓の隙間から亜莉子が様子を伺うと、足音の主は先ほど亜莉子を追いかけてきた男であった。
安堵した矢先、きな臭い匂いが鼻につく。
亜莉子が廊下に出てみると打ちっぱなしのコンクリートの建物なのに廊下は火の海になっていた。
そしてその炎の中から顔を包帯で覆ったあの女が現れ、炎を身に纏いながら亜莉子に近づいてきた。
亜莉子は階段を下って逃げるが、一階は火の海になっていたため地下へと逃げる。
地下にはもう逃げ場は無く、亜莉子は一瞬で火に包まれ悲鳴を上げる。
すると「そうだ滑稽に踊れ、その身に償えない罪を背負って」と頭の中で声がする。
不意に視界が闇に包まれ、次に目を開けると火の手はなく、包帯の女もおらず、元の地下倉庫にいた。
周りを見渡すとチェシャ猫がおり、いつものようにニンマリ笑っていた。
火事が起こっていた事を話すと、チェシャ猫は「火は良くないね」と言って亜莉子の手を取った。
チェシャ猫の手が暖かくなり、それと同時に亜莉子の動悸は治まる。
不思議に思った亜莉子はチェシャ猫になにかしたかと尋ねると、チェシャ猫は突然顔を手で覆って呻いた。
亜莉子は驚きチェシャ猫を心配するが、チェシャ猫は大丈夫だと言う。
「なにをしたか」という質問はうやむやになってしまった。
亜莉子はビルを出ようと提案するとチェシャ猫は頷き、「そうだね。急がないとお茶会に遅れるよ」と言った。

0tRoom373
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