スプリット(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『スプリット』とは、2017年製作のアメリカ映画。日本公開は2017年の5月。23人もの別人格を持つ多重人格者に誘拐されてしまった女子高生たちが体験する、予想不可能な恐怖を描く。監督は「シックス・センス」「アンブレイカブル」「サイン」など、意表を突いたラストやどんでん返しで有名なM・ナイト・シャマラン。誘拐犯である多重人格者をジェームズ・マカヴォイが熱演し、主役の女子高生をアニャ・テイラー=ジョイが演じている。
「アンブレイカブル」との繋がり
本作のラストで、メインの物語が終了した後にエピローグ的なシーンが始まり、そこでシャマラン監督が2000年に監督した「アンブレイカブル」の主人公デヴィッド・ダンが登場し、「アンブレイカブル」の悪役「ミスター・ガラス」の名前を口にする。本作が、「アンブレイカブル」と世界観を同じくする作品であることが、最後の最後に分かる仕掛けになっている。尚、「アンブレイカブル」に登場したデヴィッド・ダン、ミスター・ガラス、「スプリット」に登場したケビン、ケイシーらが再登場する、同じ世界観を持った「シリーズ3作目」となるシャマラン監督作品「GLASS」が2019年に公開される。
「アンブレイカブル」とは

「シックス・センス」で注目されたM・ナイト・シャマラン監督が、「シックス・センス」の次に監督を務めた作品。脚本も「シックス・センス」に続いてシャマラン自身が務めた。「シックス・センス」の後だけに、この作品も「意外なラスト」が注目されたが、「アンブレイカブル」は「シックス・センス」とは趣きの異なる作品で、主人公のデヴィッド・ダンがスーパー・ヒーローとなるまでを描く物語であり、「ヒーローものの第一話を、極めてリアルに描いた映画」と言っていい内容になっている。
警備会社に勤める主人公デヴィッド・ダンは、131人もの犠牲者を出した悲惨な列車事故に巻き込まれるが、列車に乗っていた乗客の中で、ただ一人だけ無傷のまま生き残る。そんなデヴィッドに、イライジャ・プライスという男が接触してくる。イライジャは生まれつき骨が弱く骨折しやすい体質で、子供の頃から「ミスター・ガラス」をいうあだ名を付けられていた。イライジャは、「自分のように”壊れやすい体”を持った人間がいるなら、正反対の”決して壊れない、死なない体”を持った人間もいるはずだ」と常々考えており、列車事故でただ一人生き残ったデヴィッドがその「死なない男」と考え接触してきたのだった。更にアメコミファンのイライジャは、死なない体を持ったデヴィッドは、この現実世界に於けるヒーローとなる運命であると告げる。
最初はイライジャの話を信用しなかったデヴィッドだったが、自分の過去に遡って考えた時、確かにこれまでケガも病気も一度もしていないことを認識する。そしてデヴィッドは、悪意を秘めた人間に触れると、その悪意を感じ取ることが出来る能力を持っていた。しかもこれまで自覚していなかったが、人並み外れた身体能力も兼ね備えていた。唯一子供の頃にプールで溺れたことがあったが、イライジャからそれはヒーローに付きものの「弱点」であると聞き、デヴィッドはヒーローとしての活動を始めることを決意する。イライジャのおかげでヒーローとしての自分を見出したデヴィッドはイライジャに会いに行くが、実はイライジャがデヴィッドが遭遇した列車事故を始め、「決して死なない男」を見つけるために、数々の人身事故を故意に起こしていたことを知る。「ヒーローであるデヴィッド」を見出したイライジャは、同時にデヴィッドの宿敵たる「悪役」だったのだ。
17年後に製作された「2作目」
シャマラン監督は、本作に登場する多重人格者ケビンのキャラクターは、「アンブレイカブル」を製作した頃から構想にあったと語っている。しかし、スーパー・ヒーローたる主人公が、自分がヒーローであることを自覚するまでをリアルに描いた物語は、皆が「シックス・センス」のような「オチ」を期待していたこともあり、当時の観客になかなか受け入れられず、作品の評価自体も高いものではなかった。そのため、ヒーローであるデヴィッド・ダンの宿敵となる悪役、多重人格者ケビンを描いた物語は、長年に渡り作られないままだった。
しかしその後、クリストファー・ノーラン監督の「ダークナイト」のように、ヒーローがあえて自分が罪を被ることを決意するという、苦悩するヒーローをリアルに描いた映画が高い評価を得て、興行的にも成功を収めた。また、ノーランが製作に回りザック・スナイダーが監督したスーパーマンの映画「マン・オブ・スティール」も、若き日のヒーローの苦悩をリアルに描いていた。そして、「アイアンマン」「マイティ・ソー」「キャプテン・アメリカ」等の、マーベル・コミックに登場する複数の映画のヒーローたちが集結する「アベンジャーズ」が製作され、更にその後製作された、マーベル・コミックのヒーローたちが他のヒーローが主人公である映画の中に登場する、異なる映画のヒーローが「共演」する「マーベル・シネマティック・ユニバース」も成功を収めた。このマーベル・コミックの成功を受けて、ライバルであるDCコミックも、ヒーローたちが集結する作品「ジャスティス・リーグ」を製作した。
この経過を経て、世間が「ヒーローをリアルに描く映画」を受け入れる土壌が出来上がり、また複数の映画の主人公が1本の映画に出演する作品が何本も作られるようになったこともあり、シャマラン監督も「アンブレイカブル」で自分が描いた世界を、2017年になりもう一度製作することを決意したのではないかと考えられる。「アンブレイカブル」と「スプリット」の登場人物が交錯する世界を描いたこのシリーズを、マーベル・コミックに倣って「シャマラン・シネマティック・ユニバース」と呼ぶファンもいる。
「アンブレイカブル」に登場していたケビン

「アンブレイカブル」の劇中、自分の「人の悪意を察知する能力」を試そうとする主人公のデヴィッド・ダンが、行きかう人々と次々触れていく場面で、すれ違いざまに触れた子供が「ぶたないで、ママ!」と心の中で叫んでいるのを察知する。母親から虐待を受けているであろうと思われるこの少年が、本作に登場する多重人格者ケビンの子供の頃の姿だとされている。
ケビンの父親の死因は「アンブレイカブル」での地下鉄事故
「デニス」の人格となったケビンが「ビースト」に変貌する直前、地下鉄のホームに花束を手向けるシーンがあるが、これはケビンの父親が地下鉄の事故で死亡したことから来ている行動である。この地下鉄事故は、「アンブレイカブル」の冒頭でデヴィッド・ダンが遭遇した事故と同じ事故という設定になっている。
ヘドウィグが好きな「カニエ・ウエスト」との関連
9歳の子供の人格「ヘドウィグ」は、ヒップホップ・ミュージシャンのカニエ・ウエストが好きだという設定だが、カニエ・ウエストの曲「Through the Wire」の中に、「Unbreakable, what you thought, they’d call me Mr. Glass?」という、「アンブレイカブル」と「ミスター・ガラス」という名詞が登場する歌詞がある。
「24人のビリーミリガン」との関連
多重人格者を描いた物語として、ダニエル・キイス著「24人のビリー・ミリガン」が有名である。本作の多重人格者である「ケビン」も最終的に24人目の人格「ビースト」が現れることから、本作も「24人のビリー・ミリガン」の影響を受けているものと考えられる。また、「24人のビリー・ミリガン」にも、多重人格者の中のひとつの人格として「ケビン」という名前が登場する。
誘拐した女子高生が狙われた理由
「デニス」となった人格は、「ビースト」に捧げるために女子高生の誘拐を実行するが、誘拐する女子高生はランダムに選んだのではなく、最初から狙って誘拐したものと考えられる。精神科医フレッチャーが語る、「バリー」の人格をからかった「女子高生2人」が、誘拐されたクレアとマルシアという設定だとされている。真面目に働くバリーの手を自分たちの胸にあてがいからかうような真似をする女子高生は、ビーストの食料となる「不純な若者」として相応しいと、デニスは考えたのだ。また、冒頭の誘拐場面で、デニスが最初はクレアとマルシアだけに催涙スプレーを吹きかけ、その後に一旦マスクを外している(マスクを外した後、逃げようとしたケイシーにスプレーを吹きかけるため、再度マスクをし直した)ことからも、「狙いはクレアとマルシアの2人」だったことが推察出来る。
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目次 - Contents
- 『スプリット』の概要
- 『スプリット』のあらすじ・ストーリー
- 『スプリット』の登場人物・キャラクター
- デニス / パトリシア / ヘドウィグ / ビースト / ケビン・ウェンデル・クラム / バリー / オーウェル / ジェイド(演:ジェームズ・マカヴォイ)
- ケイシー・クック(演:アニャ・テイラー=ジョイ)
- カレン・フレッチャー医師(演:ベティ・バックリー)
- クレア・ブノワ(演:ヘイリー・ルー・リチャードソン)
- マルシア(演:ジェシカ・スーラ)
- 5歳のケイシー(演:イジー・コッフィ)
- ジョン叔父さん(演:ブラッド・ウィリアム・ヘンケ)
- ケイシーの父(演:セバスチャン・アーセラス)
- ジャイ(演:M・ナイト・シャマラン)
- デヴィッド・ダン(演:ブルース・ウィリス)
- 『スプリット』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 誘拐犯「ケビン」の人格の変化
- 人格と体格が「ビースト」へと変貌を遂げるシーン
- 「15年前の事件も犯人にあだ名が付いたのよ。何だったかしら?」「ミスター・ガラス」
- 『スプリット』の用語
- 解離性同一性障害
- ビースト
- ミスター・ガラス
- 『スプリット』の主題歌・挿入歌
- エンディングに流れる「アンブレイカブル」のテーマ
- 『スプリット』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 「アンブレイカブル」との繋がり
- 「アンブレイカブル」とは
- 17年後に製作された「2作目」
- 「アンブレイカブル」に登場していたケビン
- ケビンの父親の死因は「アンブレイカブル」での地下鉄事故
- ヘドウィグが好きな「カニエ・ウエスト」との関連
- 「24人のビリーミリガン」との関連
- 誘拐した女子高生が狙われた理由