刻刻(漫画・アニメ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『刻刻』とは堀尾省太によって、『増刊モーニング2』に2008年から2014年まで不定期連載されていたSFサスペンス漫画、および漫画を原作としたアニメ作品である。主人公である佑河樹里は、ある日兄と甥を誘拐したという脅迫電話を受ける。2人を助けるため祖父は止界術を使い、時が止まった世界へと行くがそれは誘拐を指示した宗教団体の罠だった。窮地に追いやられる樹里だが、隠れていた不思議な能力が発動する。予想できない展開と刻々と変わる状況に目が離せない、最後まで引き込まれる物語である。

『刻刻』の概要

『刻刻』とは、『増刊モーニング』(講談社)で2008年第10号から2014年11月号(第86号)に不定期に連載された、堀尾省太による日本のSF漫画である。2014年47号の『モーニング』(講談社)では『プレミアム読み切り劇場REGALO』の枠で『刻刻 番外編-300日後-』が掲載された。
アニメーション制作会社のジェノスタジオが制作を担当しアニメ化もされる。2018年1月から3月までTOKYO MXほかにて放送されており、同年5月25日に全12話を収録したBlu-ray BOX(TEXA-001〜4)が発売された。
日常生活を送るどこにでもいるような普通の家族が、ある石を所有していることによって大きな事件に巻き込まれていく。主人公である佑河樹里と祖父であるじいさん、父親の佑河貴文はその石を狙う宗教団体の画策により、石の力で止界という時の止まった世界へ行くことになる。純真実愛会という名の宗教団体は、佑河家が石を使う瞬間を狙っていた。
教祖である佐河順治を中心に会員たちと雇われた男たちは、佑河家から石を奪おうと襲い掛かってくる。時の止まった世界で活動するには「霊回忍(タマワニ)」と呼ばれる、クラゲのようなものが体内に入ることで可能となり、物語の中で重要な役割を担っている。
止界を自由に行き来出来る止界術のためには石が必要だが、佐河の狙いは止界術を使い何百年も生きて、世界の行く末を見ることだった。目的のためには信者や雇った人間の命も厭わず樹里たちを追い詰めていくが、冷静な判断がゆえに事態は思ってもいない方向へと進む。
日常の時間が停止しているリアルな描写と、現実世界には存在しない異形の存在が物語をより混乱へと導く。刻々と変化する状況に次の展開が読めないスリルをもたらす作品である。

『刻刻』のあらすじ・ストーリー

止界へ

一見普通に見える佑河(ゆかわ)家の人々は、実はそれぞれに少しずつ問題を抱えていた。主人公である佑河樹里(ゆかわじゅり)は28歳ながら就職活動中で恋愛も上手くいっておらず、兄の翼は引きこもりだった。父親の貴文は会社をクビになり中年ニートと自虐している。どこか諦めムードの空気が定着したのは樹里の妹である早苗が父親を明かさず子どもを産んでからだった。
そんなある日、樹里は早苗に甥っ子である真の迎えを頼まれたが、ゲームばかりしている兄の翼に行かせることにした。久々に外に出て真を迎えに行った翼だが、帰り道で突然真と共に誘拐されてしまう。
佑河家には身代金を要求する電話が来たが、指定された時間に到底間に合うものではなかった。追い詰められた中、樹里の祖父であるじいさんは息子の貴文と樹里を呼ぶ。そして「努力」「両国国技館」と刻まれた石を持ち出し、手のひらを切って流した血を石の穴に入れると、クラゲのような浮遊したものが樹里たちの中に入ってきた。クラゲのようなものは「霊回忍(タマワニ)」と呼ばれるもので「止界」という、止まった世界で活動するために必要な存在だった。
驚く貴文とは裏腹に、樹里は自身が幼い頃に祖父と止界に入っていたことを思い出す。
過去に樹里はじいさんに連れられて止界へと来ていたことがあった。当時飼っていた愛犬のアンドレが寿命で死にそうな時、アンドレの死を樹里に受け入れさせるために時間を止めて説得していたことがあった。そのことは夢だと思い込まされていたが、同じ状況となり当時の記憶が蘇る。
そうして止界に入った樹里たちは翼と真を助けに向かう。しかしこれは佑河家に止界術を使わせる作戦であり、止界を信仰の対象とする「真純実愛会」という宗教団体が仕組んだものであった。実愛会が持つ石は属石と呼ばれエンジンのない貨物列車と例えられている。「努力」と書かれた石は本石と呼ばれ、実愛会の狙いは本石を佑河家から奪うことであった。

強襲

実愛会の罠だと知らず翼と真の救出に向かい、3人は急襲される。貴文は背後から頭を殴られ意識を失い、樹里とじいさんも襲われ絶体絶命となってしまう。
じいさんは瞬間移動を使い樹里と共に逃げ出した。瞬間移動は長年止界術を受け継いできた佑河家の血にみられる能力で、実愛会の教祖である佐河とナンバー2の柴田はじいさんを「本弟子」と呼んだ。
瞬間移動は短距離しか飛べず、方向も不安定なためうまくいかない。
逃亡を阻止しようと雇われ組の阿南が「止者(ししゃ)」となっている真を人質にし、殺そうとすると背後に巨大な異形が現れた。それは一本足に二本の長い腕があり、首から上は木の枝が生い茂っているかのような姿だった。
じいさんはそれを「管理人」と呼び、止界で止まっている人間である止者への殺意に反応して出現するのだという。
阿南は管理人に気づかず真へ殺意を向けたため頭を握りつぶされ殺されてしまう。
その隙に樹里とじいさんは逃げ出すことに成功するが、自分たち以外に動く人間はいないはずの世界に佐河たちがいたことで混乱していた。

その頃、気を失っていた貴文はそのまま実愛会に捕らえられてしまっていた。止者となっていた翼だが、死亡した阿南の霊回忍が翼の中に入り意識を取り戻す。
実愛会では「大円行記」と呼ばれる経典があり、管理人を「神ノ離忍(カヌリニ)」と呼んだ。
翼が様子を窺っているところに間島と呼ばれる女が現われ、佐河から第二班への伝令を伝えられていた。

一方、樹里たちは貴文を助けるため行動に移す。貴文を救出した後、止界に入り直し翼と真を助け出す算段をつけ、じいさんは貴文の救出へ、樹里は石を確保しに行くことになった。
樹里は家へ向かい、じいさんは実愛会に連れられて行く貴文を見つけ後を尾ける。

能力の覚醒

翼は状況が呑み込めないまま一人取り残されていた。縛り付けていたガムテープを自ら破り真の元へ行く。動かない真を抱えて、病院へ行くためその場を後にした。

第二班と呼ばれる雇われ組と実愛会の会員は佑河家を占拠していた。
じいさんのいた離れでは雇われ組の潮見が部屋中に取り付けた盗撮カメラを回収していた。そこへ間島が到着する。
間島は班員を集め、一人だけ特務として佐河の元へ行くよう指示し、間島に興味を示していた男が行く事となった。男は特務を受けることにより他のメンバーより優位に立てる狙いがあった。

じいさんは佐河たちが本部の建物に入っていくところを尾け、そこが宗教団体の施設であることを知る。そこへ特命を受けた男がやって来た。
男は中庭の真ん中に案内され、縛られたまま止者となっている会員を処分をするように命じられる。何も知らない男は止者に殺意を向けたため、神ノ離忍に殺されてしまう。
その隙にじいさんは本部内へと侵入し中へと進んで行く。じいさんが二階の大広間の部屋へ来ると、佑河家にある石に似た石を見つける。そこにはモニターも置いてあり、自分たちが止界術を使う映像で止まっていた。じいさんは以前から実愛会に狙われていたことを悟った。

一方、佑河家で待機している帽子をかぶった男は用を足すため外へと出た。
同じ頃にやってきた樹里は家へ入る前に帽子の男を見つけ、襲ってきた輩の仲間であると考え、その目的が石であることに気がついた。
樹里を捕まえようと一気に動き出す第二班だが、先に樹里が乗り込んで行き、石を探し出す。
会員に捕まり押さえつけられた樹里は絶体絶命の中、目が白く光り出し手を当てると会員の霊回忍を強制的に追い出し止者にした。突然の事態に困惑し戸惑う相手を次々と止者にしていき、石を持ち出し逃げることに成功する。その一部始終を見ていた間島は22年前の出来事を思い出す。

22年前のある日、間島は両親と兄の4人で母親の叔母の形見分けに行った帰りだった。間島は形見として珍しい石をもらっていたが、偶然石を発動させてしまったのだ。それと同時に樹里とじいさんも術を発動させていた。
佑河家の石が発動したことにより間島の石が呼応し、間島家は突然止界に閉じ込められてしまった。
状況が全く呑み込めない一家は不安に耐え切れず、次々と神ノ離忍化し宙に消えていってしまった。
1人になった間島は泣きながら彷徨っているところを、樹里に出会いその能力によって止界から出された。しかし佑河家の止界術に巻き込まれたことによって間島は両親と兄を失うことになってしまったのである。

じいさんの胸の内

一方、樹里に逃げられた第二班の潮見は佐河に報告へ向かった。間島は神ノ離忍となった家族が樹里の能力により、助け出すことが出来ないかと微かな希望を持っていた。
報告を受けた佐河は動き出し、人質として捕えていた貴文を呼び出し交渉を始める。佐河は言葉巧みに今回の騒動は佑河家側に原因があり、実愛会の正当性を訴えた。困惑する貴文を柴田は容赦なく暴力で追い詰めていく。

その頃じいさんは家へ石を取りに行った樹里が危険であることに気づき、まずは集合場所へと急いでいた。
そこに石を持つ樹里がやって来たが、襲われたことを知ったじいさんは、石を取って来させた自分を責めた。
そして初めから止界術のために石を狙っていたことを話す。樹里はなぜ止界の事を黙っていたのかをじいさんに問いただした。
じいさんは貴文と翼は心もとなく術の事は伝えない方がいいと判断し、そこで試しに樹里を止界に連れて行こうと思い立ったが、樹里のカッとなりやすい性格を考え伝えることはしなかったという。

佑河家で待機している第二班では、帽子の男が止界を出ると主張し怒り始める。
嗜めるリーダー格の加藤と言い争いになり、ヒステリーを起こした男は止者を殺そうとしたところを神ノ離忍に殺されてしまった。
しかし登場するたび力を使って小さくなっていた神ノ離忍はとうとう崩れ落ちてしまう。崩れた砂の塊のような中から、丁髷を結った人間がミイラ化した状態で現れた。
神ノ離忍の存在を知らなかった加藤と雇われ組の迫は、驚く様子を見せない間島に疑問を投げかける。間島は加藤と迫に22年前に自身が体験したこと、家族が神ノ離忍になったことを話し、樹里の力を使い家族を止界から解放するための協力を仰いだ。
間島の事情を知った加藤と迫は協力しようとするが、家へと戻ってきた樹里とじいさんにより、加藤は止界から追い出され止者となってしまう。

家族の救出作戦

本部の前では貴文がじいさんの説得役として入り口で待機していたが、一向にじいさんと樹里の姿は現れない。
本部へとやって来た間島と迫からの報告を聞いて、佐河は神ノ離忍に興味が尽きない様子だった。
神ノ離忍がいなくなったことを知った柴田は止者を人質に取り、見せしめに一人殺してじいさんと樹里の投降を促せばいいと提案をする。
過激な提案に間島は神ノ離忍が一体だけとは限らないと主張した。その主張に佐河は食いついた。神ノ離忍がまた出るかどうか佐河自身が止者を使い呼び出すこととなった。

中庭にそのまま置かれていた会員に対し佐河はナイフを突きつけた。中々出現しない中、柴田は何かに気がついた。
そこには上半身だけの小さな神ノ離忍が浮いていた。そこにいる全員が息をのむ中、柴田は嘲笑いだしその神ノ離忍を蹴り飛ばし、止者にナイフを向けた。
小さな神ノ離忍は柴田の腕に掴みかかりへし折ろうとする。すると今度は大きな神ノ離忍が現れた。
腕を握り潰され悶える柴田に、もう一体の神ノ離忍は巨大な腕を振り上げ頭を弾き飛ばした。頭が吹っ飛び建物の窓に当たって落ちたところを、さらに巨大な神ノ離忍が現われ握り潰した。
3体の神ノ離忍は間島の家族の服がところどころ見られ、そのまま砂のように消えていった。
その場にいた全員が放心状態の中、間島は動揺を隠しきれず、やりどころのない怒りを貴文にぶつけた。
一部始終を見ていたじいさんと樹里は貴文を瞬間移動で連れ去る。追いかける会員たちの中には迫と間島の姿もあった。

その頃、翼と霊回忍が入り動けるようになった真は家へと帰って来ていた。しかし佑河家には会員が1人潜んでおり、翼に襲い掛かる。
翼は取っ組み合いになりながら真に逃げるようにと叫ぶ。とっさに首を絞め会員は動かなくなってしまった。
そこへちょうど樹里たちが家に到着し翼を発見するが、真の居場所が分からなくなり精神が不安定になった翼は神ノ離忍化しかけていた。樹里が寸でのところで霊回忍を追い出し、神ノ離忍化を阻止した。

樹里たちを追っていた間島と迫は隠れていた真を発見する。真には翼を助けるためと言いくるめ、一緒に行動するように説得した。真を人質にして樹里たちに言う事を聞かせ、家族を助け出す作戦だった。
ビルの屋上から真に大声で樹里を呼び出させ、間島と迫の作戦は始まった。
間島は駆けつけた樹里を脅し、神ノ離忍を呼び出すから樹里に霊回忍を追い出すように指示する。
間島は神ノ離忍を呼び出すために止者に向けて殺意を向ける。しかし一向に神ノ離忍が出る気配はなかった。そこへ貴文がどの程度の殺意までなら大丈夫なのかを試そうとしたところ、すぐさま神ノ離忍が現れる。樹里は神ノ離忍に飛び乗り、霊回忍を追い出すと神ノ離忍は砂のように崩れ落ちた。そしてその中から出てきたのは変わり果てた両親の姿だった。
しかしそこには生きている子供の姿のままの兄が立っており、霊回忍が出ていき止者となった。
目的を達成し、協力体制となった佑河家と間島たちは、真を守る役目となった貴文を残し佑河家へと向かう。

佐河の目的

佑河家にやって来た実愛会の会員は佐河と潮見を残し二手に分かれて石を探し始めた。佐河は止者となった翼を見て神ノ離忍になりかけていたことを悟る。佐河はこれまでの情報を照らし合わせ、神ノ離忍化の要因はその人間の精神状態に起因すると結論づけた。

間島の目的も家族の解放であることを薄々気づいていたが、気にもかけず興味は神ノ離忍に向けられていた。そして佐河は潮見に己の本当の目的を話し始めた。
佐河の目的は止界術を世の中のためや人助けに使うのではなく、自分自身のために何百年も生き、この世の行く末を見ることだった。自分に協力すれば実愛会を潮見に譲るとし、そのかわり自身の肉体の管理を頼む考えを示した。それを陰で聞いていたのが狂信的な信者の宮尾だった。
佐河の裏切りを話した宮尾だが、引き続き飛野と石を探していると、飛野が街路樹の茂みに浮かせて隠されていた石を見つけた。

一方で佐河は体内にいる霊回忍をコントロールしようと試みていた。潮見と共に家から出ようとしたところに、石を持った宮尾と飛野、他の会員が家へとやって来た。
全員何も知らないふりをしていたが、宮尾は湧き上がる感情をコントロールできず、佐河へ実愛会の存在意義を問う。佐河ははっきりと実愛会の教義の教えを否定し、止界術の使用を禁じた。宮尾は佐河との決別を決心し、ナイフを取り出した。
佐河は好機とばかりに自身の霊回忍をコントロールし自我を保ちながらの神ノ離忍化を始め、宮尾に反撃し、他の会員までも殺した。

負傷した宮尾を連れとっさに逃げ出した飛野だが、宮尾は槍を作りだし再び佐河の元へ行こうとする。
一部始終を見ていた樹里たちは、佐河は消耗したエネルギーを補給するためにスーパーに行ったと推測し、一緒に連れ出された翼を救出するために同じ場所へと向かう。間島が潜入するが、佐河にスーパーの屋上まで追い詰められてしまう。間島は殴られ倒れこむが、ナイフで佐河のアキレス腱を切り事なきを得る。屋上から落ちた佐河は使いものにならなくなった足首を引きちぎり、動けなくなっているところに宮尾たちが遭遇し、さらに佐河を追い詰める。
しかし佐河は神ノ離忍の力で不完全だが足を再生させ反撃する。佐河に奪われた槍は飛野を貫通することになる。致命傷を負った飛野だが、佐河も消耗しその場を去った。その隙に樹里たちは翼を回収し、宮尾とも一時休戦となり佐河を共通の敵とした。

樹里の覚悟

貴文は真を連れ安全な所にいるはずだったが、石の主導権を握り止界術を自分の欲のために使おうと考えていた。そのため石を探そうと真を連れて家へと向かっていた。
樹里たちは潮見を止界から出そうと佐河の前へ行き、潮見を誘き出す作戦を実行した。しかし失敗に終わりじいさんはナイフで手を切ってしまう。そのナイフを置き樹里たちはまた家へ向かう。

その頃、死に面した飛野は神ノ離忍と化す。そして家についた真の元へ一直線に向かってきた。真には神ノ離忍を操る能力があったのだ。
ちょうどそこへやって来た樹里たちは貴文が神ノ離忍を操っていると勘違いし、神ノ離忍化した飛野を佐河と戦わせることを思いつく。
作戦を立てているとおもむろに佐河がやって来た。間島と真が避難しようとその場を離れると神ノ離忍も真について行ってしまい、混乱の最中に貴文は真を連れてどこかへ行ってしまった。
1人佐河と対峙した宮尾は腕を切り落とされてしまうが、そこに潮見がじいさんの血が付いたナイフを持ち現われて、佐河と共に消えていった。

宮尾は戻ってきた樹里たちに応急処置をされ、佐河と潮見の話していた「じいさんの血を見つけた」こと、「石はあっち」と聞いたことを話す。間島はじいさんの血を使い止界から追い出すつもりだと感づき、佐河たちが行った方へと向かった。
潮見が石の穴へじいさんの血を入れると術が発動を始めた。佐河と潮見は巻き込まれないようにその場から離れ、じいさんの体から霊回忍が抜け始める。ピンチを悟った樹里は、じいさんの瞬間移動で石の元へ行くことに成功し、術を止めるには石を破壊するしかないと判断し、実行した。
それは止界から出る術が樹里の能力しかなくなり、樹里は止界に取り残されることを意味した。

佐河と潮見は異変に気がつき、現場に向かうと破壊されている石を発見する。潮見はすぐさま止界から出る方法が樹里に頼るしかないことを悟り、佐河もまた潮見が佑河家に寝返ることを読み取って瞬く間に二人は対立した。潮見は樹里の元へ行き、じいさんの瞬間移動で佐河から逃げ出した。
樹里が止界から出られなくなったことに絶望するじいさんを横目に、殴られて腫れた顔をした潮見は淡々と佐河の目的や情報を伝える。
じいさんと樹里が、行方知れずになっていた貴文と真の元へ瞬間移動で行くと、貴文と神ノ離忍を操って佐河と戦闘をしている真がいた。
追い詰められた佐河は神ノ離忍化した飛野の中身を食らい肉体の回復を図り、飛野は外殻が崩れやせ細った姿となってしまった。まだ回復しきっていない佐河は逃げていくが、樹里はチャンスを逃すまいと追い詰めていく。
一軒家の子ども部屋まで追い詰めたところで、佐河は休戦を提案する。そのかわり樹里を止界から出すというものだった。追いついたじいさんはその言葉に翻弄される。さらに佐河は自身の過去を語りだした。

教祖の息子という特殊な境遇だったことから、同年代との関わりが薄い佐河だったが、同い年の会員の息子とは友情を築いていた。しかし親同士の不倫を知り、佐河と友人の関係を歪めることとなった。
それから5年後、父親が病死した時に友人は教祖を継ぐ立場にある佐河を利用しようとしたのだ。やりきれない感情を神棚にぶつけると偶然にも壊れた神具の中から石が出てきた。それは実愛会に伝わる文献に登場する石に酷似しており、佐河は止界の存在を発見した。止界の存在を心の拠り所とし、止界の研究にのめり込むようになる。

佐河は自分がいかに平凡で人間臭いかを語り、樹里が説得に応じるように仕向けるが、樹里の意思は固かった。佐河から霊回忍を追い出そうと能力を使うが佐河も抵抗し、簡単には追い出されない。そこへ貴文が乱入し模造刀を佐河に突き立てた。貴文はいまだに石の主導権を握ろうとし、模造刀を何度も突き刺し、自分が頼りになることをアピールする。
あっけにとられるじいさんと樹里の横で、体が崩れ落ち死んだように見えた佐河だったが、目玉と脳だけが残り砂煙と共に逃げていってしまった。

樹里のゆくえ

逃げた佐河を追う樹里たちは、民家と民家の間に糸を張り巡らし目玉と脳、そして肺まで再生している佐河を発見する。貴文は止めを刺そうと模造刀を振り下ろすが、糸の強度はカミソリのように鋭く、貴文の指は切り落とされてしまう。樹里はとっさに貴文を止界から出すが、佐河はさらに糸に囲まれ繭の状態になってしまった。
全く変化を感じられないと思われた佐河だが、見張っていた間島が異変を感じ始める。糸の範囲が伸びていたのだ。佐河がさらに追い詰めてきたかと思われたが、樹里は繭の中が胎児になっていることに気がつく。
間島はそれを聞き効率よく肉体を再生するために霊回忍がそのように作り始めたと推測した。一度はひるむがそれでも決着を付けようと霊回忍を追い出そうとする。しかし予想以上の成長速度により胎児は繭から生まれ出てしまう。

じいさんと樹里と赤ん坊だけになった止界は静かだった。霊回忍を追い出すのは衝撃が強いため、赤ん坊の首が座るまでは止界で育てることにしたのだ。
じいさんは樹里と止界にいようと決心していたが、決別する気がなくなってしまうのを恐れた樹里は寝ている間にじいさんを止界から出した。

再び時間が動き出し、じいさんは元の世界へ戻ってきたことを理解した。だが樹里の姿はどこにも見当たらなかった。
じいさんは泣き叫ぶ赤ん坊と、樹里が書き残したノートを見つけた。ノートの最後には「ちょっと遠出します。帰ってきたらまた書くね」とだけ書かれていた。

止界の中で赤ん坊の世話をしているうちに5か月になり、樹里は葛藤する。
止界から出せる程成長したが、赤ん坊の存在が樹里の決心を鈍らせていた。しかし意を決し止界から出すと樹里は家を出ることにした。自分なりに止界で暮らしていくため心を整えようとしての事だった。
樹里は止界の事を考え始めると次第に思考が止界に取り込まれ始め、神ノ離忍へと姿を変え宙へと浮かび上がっていく。
混濁しつつある意識の中、小さな光を見つけ最後の力を絞り、光の方向へと向った。それに触れた瞬間意識が途切れ、起きた時は見知らぬ女性が飛野を成仏させていた。
その女性は創始者の嫁だと言う。樹里から顛末を聞いた女性は自身の生い立ちを教える。彼女は生まれつき霊回忍が体内にある状態で歳を取らず、殺されかけたところを一緒に逃げてくれたのが夫だったと言う。「マリヤ」と書かれたキャバクラの名刺を渡し樹里を止界から出してくれたのだった。

それから約5年後と見られるある日、佑河家には平和な日常が戻っていた。止界の中で生まれた赤ん坊は成長し5歳くらいになっていた。貴文とテレビゲームをし、孫のように可愛がられていた。引きこもりだった翼は独り立ちをしていた。樹里は離れで寝そべっていたが、そこにじいさんの姿はない。起きてじいさんの写真を眺めていると、佐河の面影を残す子どもは「ママ」と樹里を呼ぶ。仲のいい親子の姿は希望にあふれていた。
時計は佑河家の平和な日常を刻んでいく。

『刻刻』の登場人物・キャラクター

佑河家

佑河 樹里(ゆかわ じゅり)

CV:安済知佳

佑河家の長女で28歳。アニメでは次女(21歳)という設定に変更されている。
本作の主人公であり、6歳の頃にじいさんに連れられ止界へ行っている。その時は樹里が飼い犬のアンドレが死んでしまうのを受け入れられず、じいさんが説得するためと同時に、樹里が止界術の後継者にふさわしいかどうかを試すために止界へと連れてきていた。だがじいさんの説得を素直に聞かず、樹里は高ぶった感情をじいさんに向け、止界から追い出す能力が発現してしまった。間一髪で止界に留まったじいさんだが、樹里のカッとなりやすい性格を危険だと判断し、止界の事は夢だったと思い込ませた為に樹里は止界の事は知らずに生きていた。
同じ時に止界に迷い込んだ間島とも接触しており、一連の事件が起きるまで忘れていたが、間島も樹里の能力で追い出された一人である。
カッとなりやすい性格の上、行動力があるので突っ走ることが度々あるが、その判断力の高さと覚悟の強さで数々のピンチを乗り切っていく。
止界での樹里の特使能力は相手に触れ「霊回忍」を追い出し止者にすることである。それは「神ノ離忍(カヌリニ)」にも有効であり、間島の家族を止界から解放することにも成功した。この能力は佑河家にとって強力な武器であり、止界から脱出できる手段にもなった。
原作では翼に「男に捨てられたうっぷんをヒトに向けるなよ」と言われており、就職活動中であることから私生活はあまり上手くいっていないことがうかがえる。
愛情深く、家族思いの所があり、赤ん坊になった佐河に対しても惜しみなく愛情を注いだ。

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