風と木の詩(アニメ・漫画)のネタバレ解説・考察まとめ
『風と木の詩』とは、1976年から82年まで『週刊少女コミック』『プチフラワー』にて連載された竹宮惠子による日本の漫画作品。
BL界のバイブル的存在として、知識人たちからも高い評価を得ている。
舞台は19世紀末のフランス。 自由奔放なジルベールと誠実で純粋なセルジュ、二人の少年を中心として繰り広げられるはかなくも激しい青春物語である。
主人公の一人で、フランス屈指の名家コクトー家の養子(実質は性奴隷)オーギュと、コクトー家の跡取りペールの妻アンヌマリーとの間に生まれた不義の子。
生まれる前からアンヌマリーには「生まれなければいい」とののしられ、実の父であるオーギュからは子としてではなくペットとして、虐待まがいの教育と屈折した愛情を受けてきた。 その偏った教育によって、大人向けの社交辞令は得意だが年相応の付き合いが全くできない子供に育つ。 生まれ持った美貌によって男たちを虜にし、その一人ボナールにレイプされる。 その時受けた精神的ショックはオーギュに抱かれることで克服したが、それ以来ジルベールはオーギュ抜きで生きられなくなっていく。
オーギュの命令でラコンブラード学院に編入する。 セルジュと出会ってからはオーギュへの依存をなくしていくが、オーギュの妨害によってセルジュとの仲を引き裂かれそうになる。 そうなって初めてジルベールはオーギュに逆らいセルジュとともに駆け落ちするが、働いてお金を稼ぐことも知らないためセルジュの苦労を無視して享楽的な生き方を望むばかりだった。
最後は売春組織にとらわれアヘン中毒にされた挙句組織から追われ、馬車にひかれて死亡する。 享年17歳。
その後音楽家デビューしたセルジュの楽曲は、ジルベールを知る者が聞くとジルベールをイメージしてしまい、スピンオフ作品「神の子羊」ではセルジュはジルベールに似た女性と結婚する。 オーギュはジルベールの死後物語に登場しないが外伝「幸福の鳩」の中でロスマリネとジュールは、オーギュもきっとジルベールを大切に思いながら生きているだろうと語り合う。 ジルベールは死んだことにより、セルジュとオーギュの魂を支配したのだ。
セルジュ・バトゥール
主人公の一人で、バトゥール子爵家の跡取りアスランと高級娼婦パイヴァの間に生まれた。 純朴でまっすぐな気性に育つ。
5歳の時に両親が立て続けに死亡、彼の祖父であるバトゥール子爵も死亡したため後継者として引き取られる。
母親がジプシーだったためとび色の肌をしており社交界から差別を受けていたが、父親譲りのピアノの才能を子供のころから発揮していた。 いとこのアンジェリンを傷つけたことが原因でラコンブラード学院に入学し、ジルベールと出会う。
ジルベールの中に自分と同じ孤独を見たセルジュは、拒否されつつも彼の面倒を見る。 時が過ぎる中次第にジルベールと打ち解け相思相愛となるが、ジルベールを支配するオーギュの妨害を受けるようになる。
二人は駆け落ちをしパリに逃げるがジルベールの生活に対する無頓着さに幻滅し、別れたほうがいいのかもと思うようになる。 ジルベールがアヘン中毒になったことに気付いた直後、セルジュはジルベールを失う。 1年後、セルジュは音楽家としてデビューするが彼の楽曲は全てジルベールをイメージしたものになり、20歳でジルベールに似た女性イレーネと結婚する。
パスカル・ビケ
ジルベールとセルジュの関係を最後まで見守った親友。 セルジュたちと同級生だが年齢は3つ上。 その理由は学院を首席で卒業するタイミングを計るため、わざと留年し続けたから。 あくまで主席にこだわるのは父親から平凡な人生を強要された反抗心のためである。 その反抗心のおかげで勉強する時間が増え、科学医学数学理工学から占星術、育児に至るまでありとあらゆる知識を学び、その知識を自分の息子に託す夢を持つことができたとは気付いていない。
普段は飄々としてジルベールが具合を悪くすると自分の知識の実験台として治療し、セルジュに哲学的な助言をするインテリである。
10人以上の兄弟がおり、お気に入りは妹のパトリシアと末の弟のミシェル。 体が弱く、一人だけ愛人の子供であるミシェルを放っておけずにかわいがっていたが、氷の張った湖でミシェルが溺死したときは家族に当たり散らし、学院にしばらく戻らなかった。
ジルベールとセルジュの駆け落ちの後も二人の様子を気にかけていたがジルベールのアヘン中毒を知り、ジルベールを養護施設に入れるようセルジュに助言する。 それをジルベールが聞いてしまったことが彼の死の原因になったと悔やむが、パトリシアに励まされて立ち直った。
カール・マイセ
ジルベールやセルジュたちの監督生。 成績は優秀だが生真面目で色恋ごとに過剰反応する。 一般常識や規則を優先する融通の利かない面もあるが、苦難にぶち当たると隠している酒を一気飲みする。 飲酒癖のあるパスカルにも認められるほどの酒豪である。
セルジュのことは物おじせず受け止められるがジルベールの奔放さには翻弄され、一度だけ説得を試みたが失敗する。 それ以来ジルベールとは距離を置き、セルジュと親密になっていく。
神の定めた社会の常識こそ善だと信じているため、同性であるジルベールとセルジュが恋愛関係に陥ることを本音では疎ましく思っている。 周囲が二人の交際に好意的な理由を、オーギュという権力に逆らう英雄へのあこがれや興味本位や暇つぶしでしかないと見抜いているが、その風潮を止められない自分の無力さを恥じている。 自分もまたジルベールやセルジュのことを本気で救う気もないし、救う方法も知らないことを自覚しているからだ。
パスカルとともにジルベールとセルジュの脱走に協力するが、内心失敗するだろうと高をくくっていた。 卒業後は大学ではなく神学校へ行くと決めたがパスカルにもその理由を語ってはいない。
セルジュにあこがれる生意気な弟、セバスチャンがいる。
パトリシア・ビケ(パット)
パスカルの妹で、美人コンプレックスを持つ少女。 眼鏡をかけ多少そばかすはあるが、本人が気づいていないだけで美人である。 パスカルからは姉妹の中で唯一の淑女だと認められている。 セルジュに恋するようになったら眼鏡をはずし、淑女らしいドレスを着るようになる。
顔はきれいじゃないが体はきれいだと思っており、きれいなうちに絵に書き留めておこうとパスカルの部屋に忍んで自分の裸体を描いているところを、たまたまパスカルの部屋で昼寝をしていたセルジュに見つかってしまう。 その時自分のことをきれいだと言ってくれたセルジュを敬愛する。
セルジュが自分ではなくジルベールを好きになったと知っても嫌悪せず応援できる度量を持ち、二人が駆け落ちしたことを知ると惜しげもなく協力する。 兄のパスカルがジルベールを殺したのは自分だと落ち込んでも叱咤激励し、再起不能になったセルジュのためにバトゥール子爵家に談判するなど、男たちを奮起させていく。 将来は新聞記者志望。
アンジェリン・カーライル・マディソン(アンジュ)
アスランの姉リザベートの娘で、アスランと同じ日に生まれた。 母であるリザベートとは違い初めからセルジュに好意的で情熱的な愛情を抱いていたが、セルジュはどうしても妹以上としてみることができなかった。 そのことを知ったリザベートは、元からセルジュが気に入らない上に愛娘に恥をかかせたことも加わりセルジュを折檻しようとしたが、アンジュはそれをかばい暖炉の火で顔にやけどを負ってしまう。
セルジュはその償いとしてアンジュと婚約するというがそれを拒否、二度と顔を見せないでと突っぱねる。 セルジュを嫌ったのではなく、誇りを失ったセルジュを見たくなかったからである。 彼女の意に従いセルジュはラコンブラード学院に行くのだが、それがジルベールとの出会いのきっかけとなった。
その後オーギュの政略結婚の相手として選ばれるが、初めからジルベールとセルジュを追い詰めるためだけの婚約だったのですぐ破棄される。 それを苦にすることなくアンジュはその後もセルジュを気にかけ、田舎にひきこもった母やセルジュ不在の間バトゥール子爵家を後見している。 ジルベールの死後再起不能になったセルジュを迎えに来る。 その際一緒にいたパットもセルジュに惹かれている事を見抜くが、怒るどころかパットを励ます。
アリオーナ・ロスマリネ
コクトー家の遠縁にあたるロスマリネ家の跡取りで北欧人の血を引き、学院ではオーギュの後輩にあたる。 オーギュの跡を継いで生徒総監となり「白い王子」と呼ばれ、品行方正を絵にかいたように紳士然としている。
現在ロスマリネ家はコクトー家の配下にいるが、ゆくゆくはコクトー家を支配するためにオーギュに近づく。 しかし逆に支配される羽目になり、オーギュに薬を盛られレイプされる。 その現場をジュールに見られて以来極度の潔癖症となり、そのことを何も言わないジュールへの信頼を確固とする。 普段から手袋を着用し、人に触れることすらできなくなっている。
自分と同じプラチナブロンドとすみれ色の瞳を持ち、オーギュに支配されているジルベールに対しては、自分を映す鏡であることやオーギュへの憎悪を晴らすかのように激しく憎悪し何度も鞭で殴打している。 ジルベールとは逆に品行方正でオーギュの支配をはねつけるセルジュには一目置いており、彼を気にかけることで最終的には自分自身が変わるきっかけになる。 ジュールのことは「親友」だと信じきっており、彼の感情にロスマリネへの敬愛と憎悪、両方含まれていることには気付いてない。
ジルベールとセルジュがオーギュの支配に逆らい続けている姿を見ているうちに、自分もオーギュの支配からぬけだせるかもしれないと思うようになり、最終的には二人の駆け落ちを見逃し馬車代を持たせてくれた。
物語外伝「幸福の鳩」によれば、セルジュの帰りを待つかのように一年浪人してから大学に進学したのち、ジュールの妹と交際を始める。
ジュール・ド・フェリィ
没落貴族の嫡男。 姓は変わらないままロスマリネ家の養子になっている。 妹は別の家の養女となり数年後その養父の後妻となる。
ロスマリネとともにラコンブラード学院に入り、参謀となって不良生徒の元締めをしている。 一見紳士的だが、学院中の不良たちは彼の名を聞くだけで震え上がるほどの権力を持っている。 幼少期から下働きの子供たちとともにロスマリネにこき使われていたころに、鼻つまみ者の扱いを学んでいる。 ロスマリネの父と自分の母が昔引き裂かれた恋人同士で、互いが結婚した後も密会していたことを知って落ち込んでいるのをロスマリネに慰められて以来敬愛と憎悪、両方の念を持っていた。
ロスマリネがオーギュにレイプされた現場を見た時、ロスマリネの弱っているところを見たことでやっと自分はロスマリネと対等になれたと感じるようになり、彼を支配しようという気がそがれる。 ちなみにジュールがその時ロスマリネを訪れた理由は、ロスマリネが金を使って首席の地位を買ったことに文句を言うためだった。
ロスマリネと同じプラチナブロンドとすみれ色の瞳を持つジルベールに興味を持ち、ロスマリネの身代わりとして世話を焼く。 セルジュにはジルベールを守れないことを最初から見抜いており、何度も忠告するがジルベールは耳を貸さなかった。
物語外伝「幸福の鳩」によれば、ロスマリネとともに一年浪人してから彼とは別の大学に進学したのち、かつてのフェリィ家の執事で今は大手の印刷会社経営者の娘と婚約する予定である。
クルト・スタックラー
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目次 - Contents
- 『風と木の詩』の概要
- 『風と木の詩』のあらすじ・ストーリー
- 出会い
- オーギュの過去、そしてジルベール
- アスランの過去、そしてセルジュ
- ラ・ヴィ・アン・ローズ
- 『風と木の詩』の用語
- ラコンブラード学院
- コクトー家
- バトゥール子爵家
- シオン・ノーレ
- ココット
- 『風と木の詩』の登場人物・キャラクター
- ジルベール・コクトー
- セルジュ・バトゥール
- パスカル・ビケ
- カール・マイセ
- パトリシア・ビケ(パット)
- アンジェリン・カーライル・マディソン(アンジュ)
- アリオーナ・ロスマリネ
- ジュール・ド・フェリィ
- クルト・スタックラー
- レオンハルト・マネス
- オーギュスト・ボウ(オーギュ)
- アスラン・バトゥール
- フランソワ・ワッツ
- ルイ・レネ
- ジャン・ピエール・ボナール
- ルノー
- 『風と木の詩』の名言・名セリフ
- ぼくを満たしてくれるものは あのあつい肌と肌のふれあい ときめく心臓 愛撫さながらの呼吸(いき) (コミックス一巻)
- ぼくを否定する人間たち、たとえそれがぼくを正しい道とやらに導こうとするものでも…ぼくは許さない。 ぼくが何者かも知ろうともせず、そんな汚(きたな)らしい思いで近寄ろうとするものならなおさら この体の中へ引きこんでやる!!(コミックス一巻)
- 憎しみで人が殺せたら! (コミックス二巻)
- わたしだって何も知らなかった!!(コミックス三巻)
- 子ども! またしても子どもだ! なんのために生まれてくる…(コミックス四巻)
- そうだ きっと 初夏には花が咲いて…この草原の中から顔を出す。 そしてまた秋に実が。 くりかえしくりかえしーそう きっと草の中にたくさんの実があって…きっとー!(コミックス四巻)
- おまえさまはだれのものです?(コミックス五巻)
- なにもおかしくなどない。 だれもが無垢の意味を知らないだけだ…そうして彼のせいで他人が己を省みてあぜんとすればそれでよい。 そのためにならわたしはなんだってする!(コミックス六巻)
- きみと…あの男とが死ねば忘れられる(コミックス六巻)
- ジルベール きれいだよ(コミックス十巻)
- 風と木の詩を象徴するポエム
- 『風と木の詩』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 安彦良和(機動戦士ガンダムのキャラクターデザイン&作画監督)が監督として参加
- 他作品とのスターシステム