大魔神(Daimajin)のネタバレ解説・考察まとめ

1966年に大映で制作された「大魔神」「大魔神怒る」「大魔神逆襲」の3作からなる特撮を駆使したシリーズ時代劇映画。「大魔神」とは劇中に登場する守護神の名称で、普段は柔和な表情をしているが、ひとたび怒ると憤怒の表情に変わる。3作共に舞台設定を戦国時代におき、悪人の陰謀で民衆が虐げられると石像だった大魔神が動き出し、破壊的な力で悪人を倒すという構成は一貫しているが、各作品毎に独立したエピソードを持つ。

『大魔神』の概要

「大魔神」「大魔神怒る」「大魔神逆襲」の3作からなる映画「大魔神」シリーズは、3作とも1966年に大映(現・KADOKAWA)が製作・公開した日本映画の特撮時代劇である。
大映が東宝怪獣映画の向こうを張って大成功を収めた「大怪獣ガメラ」の勢いに乗り、1966年のGW番組として「大魔神」はガメラシリーズ第2弾「ガメラ対バルゴン」と同時上映された。特撮怪獣映画の本家である東宝も成しえなかった特撮物の2本立て公開で大きな話題を呼んだ。そして同年7月に第2弾「大魔神怒る」、12月に第3弾「大魔神逆襲」とシリーズ化されることになった。
各作品に独立したエピソードを持ち登場人物も異なるが、舞台設定を日本の戦国時代におき、悪人が陰謀をたくらみ、民衆が虐げられると、穏やかな表情の石像だった大魔神が動き出し、クライマックスで破壊的な力を発揮して悪人を倒すという構成は共通している。

時代劇の本場であった大映京都撮影所で制作され、当時の大映を代表するベテラン監督、安田公義、三隅研次、森一生がそれぞれ1本ずつを担当。そして脚本は大映専属の脚本家で「座頭市」「赤胴鈴之助」シリーズの吉田哲郎が3作すべてを執筆、時代劇としても重厚なリアリティを持たせている。
また、本編と特撮の撮影を担当した森田富士郎と特撮監督の黒田義之は、小学校の同級生という名コンビぶりを発揮。彼らの代表作となった見事な特撮技術は、直後に円谷プロからの誘いが掛かったそうである。
音楽は東宝の「ゴジラ」シリーズなど多数の映画音楽を作曲し、日本を代表する作曲家である伊福部昭が担当。当初伊福部は「神々しいイメージでいたところ、映像を見たら、青黒い顔に血走った目玉がギョロギョロ動いて睨みつけるというものだったので、これはえらいことになったと、驚きながら作曲した」と語っている。彼はこの魔神に三音階から成る非常に印象的なテーマ曲を与え、作品世界に重厚な奥行きを構築している。

「大魔神」の原型となる企画案が提出されたのは1965年に大映本社で開かれた企画会議だった。企画案のタイトルは「大魔神現る」。チェコスロバキアの幻想スペクタクル映画「巨人ゴーレム」(1936年、ジュリアン・デュヴィヴィエ監督)で描かれたゴーレム伝説を翻案した、異色特撮時代劇として提案されたものである。その頃、大映京都撮影所は日米合作の航空特撮映画「あしやからの飛行」(マイケル・アンダーソン監督)を制作、この作品でブルーバック合成を駆使した特撮技術を完成させたことが、企画案を提出するきっかけになったといわれている。

『大魔神』のあらすじ・ストーリー

第1作「大魔神」

戦国時代、丹波の国の花房領で領民達による魔神封じの祭が行われていた夜、家老の大館左馬之助一派の下剋上によって、領主花房忠清は妻共々斬られ、その子である幼い忠文・小笹兄妹の命も狙われる。 だが忠臣・猿丸小源太の手で二人は助け出され、追手が来ない神域である魔神の山に逃げ延びるのだった。

そして十年の月日が流れ、忠文と小笹はそれぞれたくましい若者と美しい娘に成長していた。彼らは魔神を封じた武神像の近くに小源太の叔母である巫女のしのぶに匿われて隠れ住んでいた。
一方領地では、左馬之助が領民たちを砦の建設のために苦役を強いて暴虐の限りを尽くしていた。 一刻も早く憎き左馬之助を討ちたい忠文だが、まずは小源太が領地の様子を探りに里に下りる。 領民に紛れた小源太だったが正体を見破られ捕らえられてしまう。その様子を見ていた領民の子供・竹坊が領地を抜け出しお山に助けを求めに来る。小源太のことを知った忠文はしのぶと小笹に黙って密かに山を下り助けに向かうが、左馬之助一派の犬上軍十郎の罠にかかり、自らも捕らえられてしまうのだった。
そして今度は、巫女のしのぶまでもが自ら領地へ出向き、左馬之助に「このまま領民たちを苦しめ続けたら魔神による神罰がある」とお告げをするが、元々武神像の信仰を快しとしない左馬之助は、しのぶの言葉を嘲笑い、「神罰があるなら見せてみよ」としのぶを斬り殺してしまう。さらには左馬之助から武神像を破壊する命を受けて魔神の山に上がって来た軍十郎に、運悪く小笹と竹坊が見つかってしまう。そこで小笹は、忠文と小源太が明朝に処刑されることを知る。そして小笹の目の前で武神像の額に深々と杭が打ち込まれた時、像の額から血が流れ、神風が吹き荒れ雷鳴が轟いた。 そして軍十郎ら左馬之助の手の者たちは次々に地割れに飲み込まれていく。やがて小笹が気付くと辺りは何事も無かったかのように穏やかになっていた。小笹は武神像の前で「兄と小源太をお助けください」と必死に祈り、ついには滝の流れ落ちる崖の上から自らの身を捧げようとする。 と、その時、武神像が歩き始めた。穏やかな顔を恐ろしい魔神に変えるのだった。

領地では忠文と小源太の磔の刑が執行されようとしていた。小笹と竹坊も駆けつけ、只々神に祈る領民たち、そして勝ち誇った顔の左馬之助。だがその時、突如暗雲がたち込め風が吹き、一条の光が地上に落ち、突如それは巨大な魔神の姿となった。魔神は砦を突き破り、城下へ侵入する。必死にこれを止めようとする城兵たちも次々に踏みつぶされ、破壊された建物の下に消えていく。忠文と小源太は花房家の者たちによって救出される。魔神は兵を蹴散らし、左馬之助を追う。鉄の鎖を絡めても、岩をぶつけてもその歩みは止まらない。 周りを炎で囲んでも腕の一振りで消し去ってしまう。そしてついに左馬之助も逃亡むなしく魔神に捕まった。魔神は左馬之助を磔台に押し付け、魔神の額に打たれている鏨(のみ)を引き抜いて左馬之助の胸に深々と突き通すのだった。
しかし魔神の怒りはなおも鎮まらず、領民たちが逃げ惑う中をさらに進もうとする。 忠文が止めようとするが突き飛ばされ、次いで竹坊も止めようとすると、魔神は竹坊を踏み潰そうとする。 小笹は思わずその身を投げ出して竹坊を守る。すると魔神の動きが止まった。
小笹は決死の思いで魔神に怒りを鎮めるように頼む。 そして小笹の清い涙が魔神の足に落ちた時、魔神は自らの顔を穏やかな武神に変え、やがて崩れ去り、土となって風の中に消えていくのだった。

第2作「大魔神怒る」

戦国時代、人々が圧政に苦しむ御子柴領。そこでは隣国の千草領に逃げようとする者が絶えなかった。
八雲の国、千草領と分家の名越領の間には美しい八雲の湖があり、そこには武神像が守り神として祭られていた。
御子柴領の武将・御子柴弾正は、その美しい湖をどうしても手に入れたいと考えていた。

ある夜、弾正は 不意を突いて千草領に攻め込んだ。総崩れとなる千草領。かろうじて千草の領主・十郎は家来の隼人のお供でその場を脱出、行方知れずとなる。そこで弾上は十郎が名越に逃げ込むと思い、名越領に攻め込み領主を殺害し、さらにその嫡男の勝茂を人質に捕らえる。 勝茂の妹であり十郎の許婚でもある早百合は弾正の手を逃れ、下男の度々平と共に湖に浮かぶ神の島にある武神像へ向かうと、お家再興と平和を祈るのだった。
そんな中、弾上の配下である玄藩が湖にやってくると、大量の火薬を仕掛けて武神像を爆破しようとする。 それを止めようと早百合と度々平が武神像に駆け寄った瞬間、大爆発が起きる。 瓦礫と化した武神像は湖に中へ崩れ落ちるのだった。祟りも何も起こらずいささか拍子抜けして引き上げる玄藩。早百合と度々平は不思議にもかすり傷ひとつ負わなかった。そこへ一艘の小船が揺られて来た。そこには十郎と隼人が怪我をして倒れていた。 早百合に手当てを受けた十郎はすぐに勝茂を救いに千草へ行こうと隼人と共に船を出す。 しかし、玄藩の手の者を乗せた船が十郎を探しに近付いて来た。お互い遭遇したその時、湖に突如高い波が起こり、玄藩の船は湖の底へと消えてゆくのだった。
神に助けられた十郎は、そのまま千草に戻り、一度は弾正を捕らえるのだが、隙を突かれて逃げられてしまい、十郎は領民の安全を考えてひとまず逃げることにする。 弾正は十郎が名越に逃げ込むと思い、名越の者たちに、十郎を差し出さねば人質の勝茂を斬ると言い放つのだった。そして勝茂が処刑される朝、湖のほとりにボロボロの船が流れ着く。そこには石像の杭で胸を突かれた玄藩の手の者の姿があった。その騒ぎに紛れて勝茂は勇気ある領民の少年によって助け出され、小船で神の島へ逃げる。 その頃、神の島では弾正の手が回り、早百合が捕えられていた。勝茂を乗せた船は、神の島近くで偶然戻って来た十郎の船と出会うのだが、その瞬間、弾正の手の者に囲まれていた。 そして全員が捕らえられ、処刑されることになる。

千草では領民たちが見守る中、十郎以下捕らえられた者たちが磔にされていた。辺りに響く弾上の高笑いとともに、早百合が火あぶりにされることになる。 早百合は自らの命を捧げて皆を守ってくれるよう涙を流して神に祈る。
と、その時、湖の底から武神像が姿を現し、怒りの形相になって魔神に変貌する。 そして湖は二つに割れて道となり、魔神はその道を悠々と進んでいく。
処刑の場に突風が吹き、火が消える。慌てる弾上たちの元に、重い足音が響き渡ると、石壁を崩し、魔神が現れた。
魔神はまず、早百合の磔台を折ってそっと地面に置くと、キッと弾正を睨み付ける。城に立てこもろうとする弾正。城からの必死の応戦も魔神の前には何の役にも立たず 辺りを瓦礫の山と化す。大量の火薬とともに吹っ飛ばそうとするが、魔神には傷ひとつ付けられない。
そして弾上は一人船に乗り湖へ逃れようとするが、魔神に追い詰められると魔神の怒りの炎が湖上を走って船を燃やす。帆柱の上へ逃れようとする弾正だったが、船の上で火あぶりにされる格好となって炎に包まれ、やがて燃え尽きるのだった。
辺りは何事もなかったかのように晴れ渡り、 早百合の感謝の涙が湖に落ちると、魔神は元の穏やかな武神像の顔に戻り消えていくのだった。

第3作「大魔神逆襲」

戦国時代、大雪・洪水などの災害が全て魔の山に棲む荒神の神技と信じられていた頃、瓜生の里の村では、男衆たちが正月を迎えるために山仕事から帰って来るのでそれを迎える準備をしていると、三平という男衆の一人が息も絶え絶えに走って来た。
三平の話によれば、戦で近隣諸国制覇を目指す瓜生の里の武将・荒川飛騨守が、地獄谷に火薬を作る工場を作るため、山仕事をしていた村人を捕らえて強制労働させているという。何とか地獄谷から逃げたいが、どこも敵の目が光っていてとても無理なので、祟りがあると言われ誰も近付かないとされる魔神のお山を越えるしかないのだ。自分はそこを超えて逃げて来た。だからもう一度地獄谷へ行ってそのことを捕えられている者たちへ伝えたいのだと。だが三平は、村人にすべてを話し終わると息を引き取ってしまう。女子供と年寄りしか残っていない村で、もうすぐ雪になるお山を越えられるものなどいない。だが、父を待つ鶴吉、兄と二人きりの大作、死んだ三平の弟・金太の3人の子供が、村人に内緒で魔神のお山へと出発するのである。

いよいよ魔神の山に入ろうという所で、鶴吉の幼い弟・杉松が後方から呼び止める。ずっと後をつけてきたのだ。鶴松は仕方なく仲間に加え、ついに4人は魔神のお山に入っていった。険しい岩山を上っていると頭上から岩が崩れ4人は崖下へ落ちて気絶するのだが、突風によって起こされると、すり傷ひとつなかった。上空を見上げると一羽の大きな鷹がその様子を見守っていた。そして何とか無事に魔神の山の頂上に到着。そこには巨大で優しい顔をした魔神の像があった。4人は「これからこのお山を越えることをお許しください」と祈りを捧げる。するとさっきの鷹が空中を旋回した。この鷹は魔神の使いであった。暫く歩いてから、持ってきた握り飯を食べていると、逃げた三平を捕まえるために飛騨守に使われた追手の3人の侍に見つかってしまう。追手は皆、火縄銃を持っていた。4人は力を合わせて追手を振り切ると、ついに魔神のお山を越えるのだった。

一方、地獄谷では、鶴吉の父・吉兵衛や、大作の兄・庄八らが、いつまでたっても三平が戻らないことに業を煮やし、庄八が二番手として逃走を図るが失敗し、彼は皆の目の前で見せしめとしてグツグツと煮え立つ硫黄の泉に落とされてしまうのだった。
そんなことは知るはずもない鶴吉たち4人の子供たち、なおも先に進むと、川原に出るが道が無い。鶴吉の発案でいかだを作って川を下るのだが、途中から急流となり、ついには岩に衝突していかだが壊れ、4人とも川に投げ出される。鶴吉・大作は無事だったが、足を怪我した金太は、杉松を助けるとそのまま急流に流されてしまうのであった。夜になり、硫黄の匂いがするから地獄谷は近い、明日の朝早く発とうと火を焚いて野宿をしていると、雪が降り始め、一晩で辺りは銀世界となってしまう。

雪の積もる地獄谷では工事が終了していた。 飛騨守は隣国に攻め込むべく、村人たちに国に抜ける道を教えろと迫るが、「この雪では無理だ」と取り合わない村人に対し、言わなければ硫黄の泉に連れて行くと脅迫するのだった。
鶴吉たち3人は雪道と疲れでフラフラだった。大作と杉松は雪山の途中で倒れてしまう。鶴吉は、眠ると死んでしまうので何とか起こそうと大作と杉松を揺さぶっていると、追手の侍たちに見つかってしまう。侍たちが火縄銃を構えたその時、鷹が飛んできて侍たちを次々に襲うが、鷹は撃たれてしまうのだった。鶴吉は、死んだ鷹を雪で埋めて自分のお守りを乗せると、崖の上に立ち、金太の死や大雪が魔神のお怒りならその怒りを鎮めて欲しいと願い、その代償に自分の命を投げ出すことを誓って谷間へ身を投げた。すると、魔神の山の巨大像が突然動き出し、怒りの顔に変貌すると光に包まれる。大作と杉松が目を覚まし、鶴吉が身を投げた場所が光り輝くと、そこから鶴吉を手に持った大魔神が姿を現したのだった。

地獄谷では、口を割らない村人たちが硫黄の泉に落とされようとしていた。 その時、神の使いである鷹が鳴くと共に猛烈な吹雪舞い、地響きを立てて大魔神が現れた。兵を蹴散らし、突き進む大魔神。 飛騨守は完成したばかりの砦に逃げ込み大魔神を迎え撃つ。 丸太落としや大筒で攻撃するもその歩みを止めることはできない。 砦は次々に崩れ去り、もはや逃げ惑うしかない飛騨守。 大魔神は剣を抜き地に突き立てると、大地が割れ崖崩れで兵は全滅する。追い詰められた飛騨守はついに大魔神に掴み上げられ、剣でひと突きにされるとそのまま硫黄泉の中へと沈んでいった。
嵐は去った。 鶴吉と杉松は無事に父親と再会、皆は大魔神に祈りを捧げる。 すると大魔神は優しい武神像の姿に戻り、辺りが晴れ渡ると武神像は雪のように舞い散っていくのだった。

『大魔神』の主な登場人物・キャラクター

第1作「大魔神」

花房小笹(演:高田美和)

丹波の国、花房領主・花房忠清の娘。
幼い時に両親が殺され、兄の忠文と共に魔神の山に逃げ延び、やがて美しい乙女に成長する。
自らの命をも省みない強い祈りと清らかな涙で魔神の心を動かす、第1作のヒロイン。

花房忠文(演:青山良彦)

花房家の若君で小笹の兄。
小笹と共に魔神の山に逃げ延び、やがて立派な青年に成長する。
両親を殺した憎き大舘左馬之助を討つため、密かに山を下りるが、左馬之助一派の罠にかかり、捕らえられてしまう。

猿丸小源太(演:藤巻潤)

花房忠清の忠臣。
幼い忠文・小笹兄妹を連れて魔神の山に逃げ延び、二人の成長を見守る。
領地の様子を探りに山を下り、領民に紛れたが左馬之助一派に正体を見破られ、捕らえられてしまう。

第2作「大魔神怒る」

千草十郎時貞(演:本郷功次郎)

八雲の国、千草領の若き領主。
分家である名越領領主娘・早百合とは夫婦を誓い合った仲である。
千草領が隣国である御子柴領の武将・御子柴弾正に攻め込まれて脱出を図る。
その後、何度も弾正に立ち向かうが最後は捕らえられてしまう。

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