自分ではどうにもできない理由で、あきらめた事はありますか?
映画『あん』は、ドリアン助川さんの原作を、河瀨直美監督が、映画化した作品です。
出演者は、故・樹木希林さん、永瀬正敏さん、内田伽羅さん、水野美紀さん、浅田美代子さん、故・市原悦子さん他。
徳江役の樹木さんの演技と、中学生・ワカナ役のその孫の内田さんの共演、河瀨監督作品ならではの、季節感たっぷりの映像美など、注目の点はいくつもあります。
ですが、まずは、何も考えず、初めの場面から、最後の場面での、永瀬正敏さん演じる千太郎の一言まで、
秦基博さんの主題歌『水彩の月』が流れ終わるまで、ただ『あん』を観ることをおすすめします。
『あん』の主要人物は三人です。
どら焼き店「どら春」の雇われ店長・千太郎。
ある日、「どら春」に現れる客・徳江。「どら春」の常連の中学生・ワカナ。
三人とも、人に言わない事情をそれぞれ抱えていました。
ある日、「どら春」に徳江が訪れてから、三人は関わりを深め、店も繁盛していきます。
三人のやりとりは、観る者の心をあたためてくれる、見どころの一つです。
それでも、店に危機がやってきます。思わぬことから、店の客足が減っていきます。
そこでの見どころは、危機を呼ぶきっかけの一人、「どら春」のオーナー役・浅田美代子さんの演技です。
本当にふらりと立ち寄ったような、そのふるまいに注目してください。
「善意」を持った、普通の人がそこにいます。
危機を経て、『あん』の物語の終わりには、桜が咲く時季を迎えます。
初めからこの映画を観た人には、そこでのワカナの歩みや千太郎の言葉に、感じることがきっとあるでしょう。
『あん』は、観る者の心の深いところに、いろんなものを残す映画です。
ぜひ一度、観てみてください。
そして、どら焼きを見かけたら、ひとつ食べながらでも、この映画を思い出して、何度でも、観てください。