生きるって辛い
不本意な不自由さを味わう人々の人生模様が「どら焼き」を通して描かれています。樹木希林さんが演じる徳江さんは、温かくてチャーミングな人でした。演技とは思えないほど自然で、人生を積み重ねてきた人間にしか出せない深みがありました。どら春を去る時のなんとも言えない表情が忘れられません。
徳江さんはいつも、食べ物や植物、風などに話しかけ、耳を澄ましています。様々な声が聞こえてくるそうです。気づかずに過ごしてしまっているけれど、気づかないほど当たり前になっている日々の生活の中に感動やメッセージがあるのかもしれないと感じました。「私たちはこの世を見るために、聞くために生まれてきた。だとすれば、何かになれなくても、私たちには生きる意味があるのよ。」これが、徳江さんがこれまでの壮絶な人生を経て、未来ある者たちに伝えようとした「生きる意味」なのです。
私も徳江さんを見習いたい。この世をよく見て、よく聞いて、生きる意味を全うしたいと思いました。カゴから放したカナリヤのように、ハンセン病患者が閉ざされた世界から解放され、差別なき世の中になることを心から祈ります。本当に見て良かったと思える作品に出会えて、幸せです。