蒼天航路 / Beyond the Heavens

『蒼天航路』とは、1994年10月から2005年11月までモーニングで掲載されていた原作:李學仁、作画:王欣太の漫画作品である。
2009年4月〜9月にかけてテレビアニメとして放映された。
緻密な資料の分析によるストーリー構成、王欣太氏の情感の籠った筆致によって描かれた歴史長編である。
漢の末期、三国時代をテーマに描かれた作品で、三国志演義に倣って、蜀を建国する劉備三兄弟を主人公に描く作品が多い中、劉備の好敵手とも言える魏の建国者曹操を主人公に据えて描かれた異色作。
ストーリーは、あくまで三国時代の歴史に脚色を加えながら描いているものなので、三国時代のことを知っている人にとっては新鮮味に欠けるかも知れないが、登場人物のキャラクター性がこの作品に華を添えている。
最も人に興味を持った英雄であり、万能の天才、破格の人であった曹操を始め、侠客であり、理で推し測れない人の情を大切にしつつ戦は弱い劉備、暴君でありながらどこかに王者の風をまとっている董卓、戦のことしか考えられない軍師の郭嘉、儒教で重視されていた五常(仁・義・礼・智・信)の体現であるかのような関羽など、数えきれないほどのキャラクターたちが登場する大作である。

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蒼天航路 / Beyond the Heavensのレビュー・評価・感想

蒼天航路 / Beyond the Heavens
9

『三国志』の新たな魅力がここに

日本、特に漫画における『三国志』というと、劉備を主とする蜀の国が中心となって描かれることが多いです。
桃園の誓い、水魚の交わり…情に篤い劉備とその仲間たちとの関係は善きもの。その一方で、魏の曹操は悪者として描かれがちです。
この漫画はその曹操を主人公とし、才気溢れる彼の生涯を非常に鮮やかに、魅力的に追い続けた作品です。

突拍子もないアイデアや行動で散々周りを振り回したかと思えば、歌舞音曲・書に詩・料理等々、あらゆる分野で類稀なる才能を発揮して人心を掴んで離さない。そんな曹操の姿に、読み手であるあなたも魅了されてしまうはずです。
ちなみに劉備はというと、人情というよりは任侠の人。騙されやすくもあるけれど、ひとたび冷徹な目をすれば、こちらが驚くような行動を見せます。曹操が主人公とはいえ、やはり彼に惹かれてしまう人も多いのではないでしょうか。

もちろん劉備だけではなく、人中の呂布・悪逆の徒董卓・孫一族や数多の武人・軍師など、良い者も悪い者も総じて読み手の心を揺さぶりその人生に涙せずにはいられません。
残酷な描写も多々ありますので、暴力的な表現が苦手な方には少々読み辛いかと思われます。しかし、巻が進むにつれ作者の画風も変化していき、終盤ではエグみの抜けた美しさを感じられます。長大な歴史の一幕を、また違った見方で学んでみませんか?

蒼天航路 / Beyond the Heavens
10

2000年以降の三国志再ブームの立役者であり、三国志の見方に変化を与えた意欲作

全36巻からなる本書は、従来の三国志に対する多くの日本人の印象が所謂「吉川三国志」「横山三国志」の史観、ひいていえば三国志演義をベースにした史観の影響を受けていたものを大きく変えるだけのインパクトを持った作品で、三国志に限らず歴史漫画の金字塔と言っても過言ではないでしょう。
大きな特徴は、従来悪役と捉えられていた曹操とその幕僚たちを中心に据え、董卓や呂布などの所謂悪役扱いの人物も実に魅力的に人物像を再構築している所にあります。
また、官渡の戦いや北伐など、重要でありながらも従来注目されてこなかった戦いや内政についても考察が行き届いており、しかもそれが理屈っぽくならず雄渾な物語としてすんなりと読者の腑に落ちてくるのは圧巻だと感じます。
また、これまた扱いが雑になりがちな呉軍の描写も有名な孫権の父である孫堅の黄巾の乱あたりからの活動から始まり呂蒙や陸遜にいたるまで要所要所でしっかりと書かれている事や、董卓や呂布を生み出した西域に近い涼州の情勢についても書かれている事も特徴的です。
現在でも沢山の三国志を冠したゲームタイトルがリリースされていますが、魏呉軍や涼州、また、北方南方などの勢力のキャラクターが大量に投入されるようになったきっかけとなる作品ともいえるでしょう。
一巻から読み始めると、元が青年男性誌に掲載されていた事もあり性的なシーンや残虐なシーンがあってそこで読むのを辞めてしまう方もおられるでしょうが、それも物語や人物像、世情を映し出すのに必須の装置であることに読み進めるほどに気づいてゆきますので、ぜひ読んでみて欲しいと思います。
ただ、上記の理由で、学習用や記憶の一助としてお子様に読ませたりしようとはなさらない方が良いと思います。

蒼天航路 / Beyond the Heavens
8

リアルとファンタジーの融合

某まとめサイトでこの漫画が面白いと単独記事があったことから、ネカフェで試し読みしたらはまってしまいました。
皆さんの初めに思い浮かべる三国志の漫画といえばあちらの方だと思いますが(僕もそうでした)僕がおすすめしたいのは断然こっちです。何といっても各キャラが濃ゆい!
基本的に劉備、曹操の2人を軸にストーリーが進んで行くんですが、お互い個性がすごくてどっちも好きになれます。

曹操…押しも押されぬ三国志の大ボス!とにかく全てにおいて完璧人間で、彼の語る言葉一つ一つがこの世の心理みたいに聞こえてきます。
終盤に進むにつれて段々と人間離れしていく様は見ていて圧倒させられます。
劉備…曹操とは対照的に彼は終盤までずっと人間です。
そりゃ多くの人民が付き従うわと思わされる器の大きさで多くの魅力的な部下と一緒に曹操と対峙します。

お互いの陣営の有能な部下たちにもちゃんとスポットが当たっていて、しっかり有能さをアピールし、こんな人物もいたんだ!と読者に思わせたところで壮絶な戦死を遂げていきます(笑)
絵の上手さや、セリフのかっこよさから考えて、横山三国志より蒼天航路を僕個人はお勧めします。
三国志について知っている人もそうでない人も読んでほしい作品です。

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