2000年以降の三国志再ブームの立役者であり、三国志の見方に変化を与えた意欲作
全36巻からなる本書は、従来の三国志に対する多くの日本人の印象が所謂「吉川三国志」「横山三国志」の史観、ひいていえば三国志演義をベースにした史観の影響を受けていたものを大きく変えるだけのインパクトを持った作品で、三国志に限らず歴史漫画の金字塔と言っても過言ではないでしょう。
大きな特徴は、従来悪役と捉えられていた曹操とその幕僚たちを中心に据え、董卓や呂布などの所謂悪役扱いの人物も実に魅力的に人物像を再構築している所にあります。
また、官渡の戦いや北伐など、重要でありながらも従来注目されてこなかった戦いや内政についても考察が行き届いており、しかもそれが理屈っぽくならず雄渾な物語としてすんなりと読者の腑に落ちてくるのは圧巻だと感じます。
また、これまた扱いが雑になりがちな呉軍の描写も有名な孫権の父である孫堅の黄巾の乱あたりからの活動から始まり呂蒙や陸遜にいたるまで要所要所でしっかりと書かれている事や、董卓や呂布を生み出した西域に近い涼州の情勢についても書かれている事も特徴的です。
現在でも沢山の三国志を冠したゲームタイトルがリリースされていますが、魏呉軍や涼州、また、北方南方などの勢力のキャラクターが大量に投入されるようになったきっかけとなる作品ともいえるでしょう。
一巻から読み始めると、元が青年男性誌に掲載されていた事もあり性的なシーンや残虐なシーンがあってそこで読むのを辞めてしまう方もおられるでしょうが、それも物語や人物像、世情を映し出すのに必須の装置であることに読み進めるほどに気づいてゆきますので、ぜひ読んでみて欲しいと思います。
ただ、上記の理由で、学習用や記憶の一助としてお子様に読ませたりしようとはなさらない方が良いと思います。