江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』とは、1969年公開の石井輝男監督のミステリ―映画である。主演は吉田輝雄。作家江戸川乱歩の作品の中から、断片的なイメージを集めて映像化した作品である。
理由もわからぬまま、精神病院に監禁されている医者の卵である主人公が、命を狙われたり殺人の濡れ衣を着せられたことによって、自らの出生の秘密を暴いていく。謎を解く鍵は、無人島で奇形人間を製造している実の父がにぎっているのだった。

島に向かう広介(左)、静子(中央)、蛭川(右)

劇中広介の記憶にある子守唄が、この物語の重要な部分である。そしてこの子守唄は、裏日本の子守唄だというセリフが何度か登場する。
太平洋側にある地方を表日本と呼び、それに対して日本海側にある地方を裏日本と呼んでいた時代があった。現在では使われない為耳慣れない言葉である。
表裏については、なんら否定的な意味合いを持たないものの、侮蔑的なイメージを持つ場合も少なからずある。その為当時は天気予報などで使われていた言葉であるが、苦情が寄せられたため1960年代末頃から差別的・侮蔑的であるとして「裏日本」という用語を使わなくなったとされる。

シャム双子

人工的シャム双子にされた秀子(左)と猛(右)

劇中何度も登場するシャム双子と言う言葉が登場する。結合双生児または、シャム双生児とも呼ばれ、一卵性双生児で、対称的体部で体が結合している双生児のことである。
およそ5万〜20万出生あたり1組程度の割合で発生すると言われている。東南アジアとアフリカで発生率はやや高くなるという。
チャン&エン・ブンカー兄弟は、シャム(現在のタイ)で1811年に産まれた。2人は胸部と腹部の中間付近で結合していた。2人はアメリカのサーカス団に長年参加し、シャム双生児という呼び込み名が与えられた。言葉の由来となったのがこの兄弟である。
臓器や器官の一部または大半を両者が共有しているのが特徴である。このため、現代の医学をもってしても、分離は容易ではない。

『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』の名言・名台詞/名シーン・名場面

広介「おかーさーん」

「おかーさーん」と叫びながら宙を舞う広介の頭

父親違いの妹秀子を愛してしまい、そればかりか肉体関係まで持ってしまった広介。それでも秀子と離れられず、思い詰めた広介は花火の様に美しく散りたいと言う遺書を残した。遺書の通り空中で花火の様にバラバラになって散る広介と秀子が、頭だけとなり空を飛びながら叫ぶ言葉が「おかーさーん」である。養子に出されたせいで本当の母親と一緒に過ごせなかった広介も、産まれてすぐにシャム双子にされ母親に会えなかった秀子も、母が恋しかったのがわかるセリフである。衝撃的なシーンであるが、短い単純な言葉だが印象深いセリフの一つである。

明智小五郎「弾は抜いておきましたよ」

広介に奇形人間を作らせようとする丈五郎

丈五郎は、自分の理想郷である奇形人間の島を作ろうとしていた。その為には広介の外科手術の技術が必要であった。人工的に奇形人間を作り、自分の夢であった島の守り神である馬頭観音を、広介に作らせようとしていたのだ。いくら言っても丈五郎の頼みを受け入れようとはしない広介に、銃を使って脅そうとする丈五郎であった。しかし明智小五郎によって既に弾丸は抜き取られていたのだ。危機一髪のところで、かっこよく決めた明智のセリフが「弾は抜いておきましたよ」である。いつ抜かれたのか分らぬほどの手際の良さと、紳士的な立ち振る舞いに名探偵を感じさせた一言である。

人工的奇形人間たちのシーン

奇形人間に草を与える丈五郎(左)

丈五郎は理想の島を作る為、無人島で奇形人間を製造している。奇形人間たちが王様になり、沢山の美女たちと幸せに暮らすという理想がある。
正常な赤子や老人を奇形人間にしてきた成果を広介に見せるシーンである。
目を覆いたくなるような、様々な改造奇形人間が登場する。顔が動物の様であったり、肌の色が異常であったり、獣のような鳴き声だったりする。そんな奇形人間たちに草を食べさせている丈五郎の、奇妙な動きも強烈なインパクトを残すのである。そしてなにより、自らも奇形である丈五郎の、苦しみから故の行動でもある部分がわかるシーンでもある。

『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

和製カルト映画の誕生

島に連れて来られた女たち

当時は内容の過激さから、エログロシーンは少なめだったものの成人映画とされた。しかもタイトルに江戸川乱歩の名がついている事から、こんなのは乱歩の作品ではないと批判もあった。公開時は出来の良くないポルノアニメとの併映となり、客の入りも悪かった。興行成績も悪く公開して10日で打ち切りとなった。夕刊紙からも紹介を断られるほどであった。
しかし1970年終わりに名画座(旧作映画を主体に上映する映画館の総称)で上映されると興味本位でお客が押しかけ、口コミによって話題となった。
更には1980年代アメリカからカルト映画という概念が入り、本作は和製カルトとしてその名を轟かしたのである。
2003年にはイタリアのヴーディネ極東映画祭では、石井監督特集の上映があり、本作も上映された。本作は大好評であった。
現在カルト映画として、多くのファンを獲得している。ラストのシーンは伝説のシーンとして話題にされることも多い。

丈五郎を演じた土方巽

岩場に立つ丈五郎

この映画で、最も強烈な個性を放っていたのは菰田丈五郎である。風貌よりその奇怪な動きや踊りに、インパクトがあるのである。一度見ると忘れられない個性を放つ菰田丈五郎役は、土方巽という男である。
土方巽は、日本の舞踏家、振付家、演出家、俳優である。 暗黒舞踏の創始者として、大野一雄とともに国際的な知名度の高い舞踏家なのである。
暗黒舞踏とは、昭和30年代に確立された前衛舞踊の様式で、前衛芸術の一つである。民俗的・肉体的な題材が多く用いられ、多くの芸術家に影響を与えた。因みにここで使われている前衛(アバンギャルド)の意味である最先端に立つ人と言う解釈より、前衛芸術とは革新的実験的と言う意味が近い。一般的に全身白塗りスキンヘッドで、局部を隠すのみの下着を着用しているイメージが強い。ダンスを単なる「動きの芸術」ではなく「肉体の質感の提示」とした。
独自の表現をしてきた土方巽は、本作にて奇妙かつ悲しい丈五郎を見事に演じたのである。

『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』の主題歌・挿入歌

OP(オープニング):鏑木創「東映マーク~メイン・タイトル 」

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