花宵道中(小説・漫画・映画)のネタバレ解説・考察まとめ
原作宮木あや子、作画斉木久美子による日本の漫画作品。女性セブンにて2009年から連載された、江戸吉原での遊女たちの恋愛や生活、商売の様子を描いた作品である。斉木久美子の可愛らしくも艶やかな絵柄で描かれる遊女たちの物語は、読み進めるのが止まらなくなる独特の世界観を作っている。山田屋という中規模の女郎屋に在籍する遊女が主人公となり、1部ごとに主人公が変わっていく。
『花宵道中』の概要
原作・宮木あや子、作画・斉木久美子による日本の漫画作品。江戸吉原の遊郭で起こる遊女たちの恋愛や生活を描いた物語である。元々は同名の小説作品であり、2006年に第5回R-18文学賞を受賞した。2009年から小学館発行の女性セブンにて、斉木久美子によりコミカライズされた。全6部構成であり、1部ごとで主人公が異なっている。2014年には第1部をベースにした物語を安達裕美主演で映画化した。
『花宵道中』のあらすじ・ストーリー
第1部 花宵道中
主人公の朝霧は、生まれも育ちも江戸の吉原。母親が死んで天涯孤独になったことで女郎屋である山田屋に引き取られた。夢も希望も持たずに毎日を過ごしていたある日、朝霧は半次郎と出会った。二人はかすかな恋心をお互いに持つが、あるとき朝霧の出向いたお座敷に半次郎が同席しており、彼の目の前で朝霧は馴染みの客である吉田屋に凌辱されてしまう。朝霧は嫌われてしまったと不安になるが半次郎は朝霧に惚れていることを告白し、二人は逢瀬を重ねていく。
そんな折りに、朝霧に身請け(借金を肩代わりして見世を辞めさせること)の話が持ち上がると同時に吉田屋が殺されたという知らせが届き、しかもその事件の容疑者は半次郎であった。もう半次郎に二度と会えないと思い身請けの話を受けることを朝霧は決めるが、半次郎は自分で染めた道中(客が待つお茶屋に豪華な衣装を着て客を迎えに行くために路を練り歩く行事)のための豪華な衣装である仕掛けを持ってこっそり戻ってきた。憧れの花魁道中を二人だけで行った後日に二人は駆け落ちしたが逃げ切る前に捕まってしまい、朝霧は監禁され、半次郎は処刑されてしまった。絶望した朝霧は朝顔が咲くのは幸せなのかという問いを妹女郎の八津にしたあと、吉原を取り囲むおはぐろどぶに身投げしてその生涯を閉じた。
第2部 薄羽蜉蝣
主人公の茜は朝霧に顔がそっくりな新造(まだ初見世を迎えていない遊女見習いのこと)である。もうすぐ初めて遊女として客をとる初見世(新造だった遊女が初めて客をとる日の呼称)という時期だが、好きでもない男に抱かれるという事実が納得できないうえ、船頭の平左に片思いをしてしまった。そのことを姉女郎たちに言うと、もちろん諦めろの一言。自分は器量も良くないしという劣等感も相まってふてくされてしまった茜だが、ある日、平左を眺めるために行った先で他の店の売れっ子、水蓮が平左と恋人同士であることを知ってしまう。徐々に二人の仲睦まじい様子に憧れを抱いた茜は、余計に道中もできない自分がみじめになり、同期の緑が道中の日に平左と水蓮が逢瀬を重ねているお茶屋に向かった。そこには水蓮がおり、茜が自分の気持ちを伝えると自分たちの睦み合いを茜に見せて落ち込んでいる茜を優しく諭してくれた。
見世に帰るともちろん叱られたが、八津が自分の初見世のために仕掛けを用意してくれたことを知り茜は自分が姉女郎に大事にされていることを実感した。初見世の客である唐島屋は茜を朝霧に重ねてではあるが優しく扱ってくれて、茜は女郎として年季(見世への借金を返す奉公)があけるまで働いていく第一歩を踏み出した。
第3部 青花牡丹
時代は朝霧の姉女郎、霧里が京島原で働いていたときにさかのぼる。霧里はその美しさから島原では評判の太夫であったが、客が霧里目当てに見世替えをしてしまうことを他の遊女に妬まれ、江戸の吉原に売られることが決定してしまう。霧里は唯一の身内である半次郎のたまの来訪と成長ぶりを心の支えにしており、半次郎もまた、幼いころから自分を守ってくれていた姉が大好きだった。母親が自殺し、父親が蒸発したときに陰間茶屋(男娼が所属している遊郭)に売られそうになった半次郎を自分が働くからと霧里は主張して、半次郎を養子に出したのだ。染物師として頭角を現していた半次郎は大店の絹問屋から縁談が来るほどの腕前になったが、縁談を断ったことで腕をつぶされ、あらぬ噂を流されて京都を離れることとなった。身を寄せた外国の布を扱う問屋の仕事として江戸に向かうことになり、愛しい姉に会えることを楽しみに旅立っていく。
一方霧里は美形だが高飛車すぎるという評判のなか、なんとか売れっ子として山田屋で活躍していた。菊由という親友もでき、新造の朝霧の面倒を見ながらささやかな幸せを感じながら仕事をしていたが、朝霧の初見世が近いあるとき、吉田屋の座敷に呼ばれ吉田屋が自分の蒸発した父親であることに気づいてしまった。その後吉田屋は、半次郎に殺されるその日まで霧里が自分の娘であることにはついに気づかなかった。
そんな折、菊由が結核に倒れてしまった。看病をしていた霧里自身も結核に感染してしまい、朝霧が独り立ちして立派になったことを見届けた後、半次郎が迎えに来てくれた幻を見ながらその生涯を閉じた。半次郎が行商のために江戸に着いたとき、霧里は既に亡くなっており彼は絶望する。何日も引きこもって泣き伏したのち、宿の主人に勧められて訪れた縁日で、朝霧と運命的な出会いをしたのだ。その後、仕事相手として対応していた吉田屋が自分の父親であることに気づいてしまう。霧里を抱いたうえ自分の娘だとかけらも気づかなかったこと、朝霧を目の前で凌辱されたことが重なって吉田屋を殺すという事件を起こしてしまった。京に逃げてそのまま命を絶とうとしていた半次郎だったが、朝霧のことを思い出し彼女を守りたいという思いから、朝霧との駆け落ちを決意した。
第4部 十六夜時雨
朝霧の妹女郎である八津は、幼いころに口減らしのため吉原に売られた。数年後同じ村の三津も偶然吉原に売られてきたため、二人は毎日ごはんが食べられることに満足しながら山田屋で遊女として暮らしていた。八津は朝霧が男のために身投げしたこともあり、恋は身を亡ぼすことにしかならないと悟っていた。そのため、髪結いの三弥吉が美男であっても三弥吉に惚れてしまった同僚を冷めた目で見ていた。自分の懇意にしていた客が河岸女郎をつれて歩いていたのを見てショックを受けた八津を、何も言わずに三弥吉がそばにいてくれたときにもその決意は変わらない。
そんなとき、客の一人から自分と同じ村の遊女を吉原で知っているかもという情報を貰う。それは大見世の売れっ子水蓮であり、しかも水蓮はひとさらいにあって行方不明だった八津の実の姉であった。なによりも恋人を選んだ姉を複雑な想いで見送った八津は、その後しばらくして三弥吉に想いを寄せられていることに気づき、自分も三弥吉のことを憎からず想っていることに気づいてしまった。八津を抱くために客として見世に揚がってくれた三弥吉は八津に駆け落ちを提案したが、八津は死んでいった遊女たちの分も生きて堂々と大門から外に出ていくという決意を打ち明ける。三弥吉は八津の気持ちを受け入れ、八津の年季が明けるまで自分も髪結いに通うことを誓った。
第5部 雪紐観音
桂山の妹女郎である緑は、その美しさと肌の白さから村では鬼の子扱いをされていた。母親が自殺したあと吉原に売られ、そこで周りから美しいと言われても以前の差別が忘れられず、桂山以外とは誰とも話ができない状態が続いていた。その状態のまま新造まできてしまった緑だが、三津の人懐こい人柄には安心して話せるようになっていった。しかし、ついに初見世も間近だというのに二人だけにしか話をしない緑を桂山は叱りつけてしまい緑は桂山とも話ができなくなってしまう。落ち込んだ緑が三津の部屋に行くと三津は優しく出迎えてくれ、二人は閨事のまねごとをしてお互いを慰め合った。実は三津の父親はひとさらいで生計を立てており、八津の実の姉をもさらって売り飛ばしたことを三津は八津に対して申し訳なく思っていた。そのため、三津のほうも人の温かさを求めていたのだ。
桂山と三津に守られて、緑は徐々に他の遊女たちとも少しずつ話せるようになっていった。その間も三津との秘め事は続いており、緑は三津を心の支えにして仕事をしていたが、三津はもともと病弱だったこともあり体調を崩した末に衰弱して亡くなってしまう。三津は自分自身が忘れられることを恐れており、その事を知っていた緑は三津の分も生きて長い間三津を覚えていられるように、年季を終えて堂々と遊女を引退することを決意した。宣言通り緑は看板女郎として活躍したのち、身請けの話も断って新しい人生を踏み出した。
第6部 大門切手
山田屋は、中見世ながら吉原では中堅どころとして看板を守ってきた。その女将である勝野は元々山田屋に働く遊女で、吉原に来たいきさつは他の遊女たちと同じくお金のため。14人兄弟の9番目だった勝野は、ある程度大きくなると両親に人買いへ売られたのだ。幼馴染の弥吉とは遊女と髪結いという関係で会うことができ、勝野は幼いころに年季が明けたら一緒になろうという弥吉の言葉をかすかに心の支えにしていた。
ついに年季が明けたが弥吉は既に所帯を持っていたため、勝野は行き所がなくなり吉原に戻ってきてしまった。遣り手として、女将としての仕事を学んでいく勝野は先代女将が引退を表明したことで正式に女将となる。見世のやりくりに天手古舞な勝野は、様々な遊女たちを受け入れ、見送っていくうちに年をとっていった。旧友の女将である白浜が引退したことで自分もそろそろ跡継ぎを捜しておかないといけないと思った矢先、弥吉から川の向こうに帰らないかと誘いを受けた。もちろん勝野は山田屋を引っ張っていかないといけないという使命感から悩むが、ちょうどその時、年季が明けて出ていったはずの江利耶が戻ってきたことで決心が固まり、1年後にお互い生きていたら一緒になろうという約束を交わした。
『花宵道中』の登場人物・キャラクター
朝霧(あさぎり)
第1部の主人公。山田屋の遊女で、本名はあさ。生まれも育ちも江戸吉原で、母親は鉄砲女郎だった。母親から折檻されたせいでキセルによる火傷のあとが体中に残っており、血行がよくなると火傷あとが花のように桃色に染まるためそれが遊女としての売りになっている。童顔で小柄なため、半次郎は最初子供だと勘違いしていた。姉女郎の霧里に京都島原の道中や芸を仕込まれていたが、お上からの規制により花魁道中はできなかった。遊女の仕事に対して夢も希望も感じずにこなしてきたが、半次郎に出会っておかみさんになるという希望を持つことができた。初見世の客は吉田屋であり、そのため席を断ることができない。
霧里(きりさと)
第3部の主人公で、朝霧の姉女郎。美しすぎて他の遊女の客が霧里に乗り換えすぎるという理由で京都島原から江戸島原に売られて来た。眉目秀麗の才色兼備であり、吉原の作法には従わずに島原の作法を貫いた。半次郎の姉であり吉田屋の実の娘であるが、正体は自分から明かさなかった。子供時代は半次郎をいじめてはいたものの、いざとなると弟を自分を犠牲にしても守ろうとしていた。親友の菊由が結核で倒れた際に看病していたことが原因で感染してしまうが、死ぬ直前まで床に臥せることはなかった。理由は、朝霧が看病にきて感染してしまうことを恐れたからである。最期まで他人のことを守ろうとする性格がうかがえる。
八津(やつ)
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目次 - Contents
- 『花宵道中』の概要
- 『花宵道中』のあらすじ・ストーリー
- 第1部 花宵道中
- 第2部 薄羽蜉蝣
- 第3部 青花牡丹
- 第4部 十六夜時雨
- 第5部 雪紐観音
- 第6部 大門切手
- 『花宵道中』の登場人物・キャラクター
- 朝霧(あさぎり)
- 霧里(きりさと)
- 八津(やつ)
- 三津(みつ)
- 茜(あかね)
- 江利耶(えりや)
- 緑(みどり)
- 桂山(かつらやま)
- 菊由(きくよし)
- 勝野(かつの)
- 阿部屋 半次郎(あべや はんじろう)
- 唐島屋 庄一郎(からしまや しょういちろう)
- 吉田屋 藤衛門(よしだや ふじえもん)
- 弥吉(やきち)
- 三弥吉(みやきち)
- 『花宵道中』の用語
- 吉原(よしわら)
- おはぐろどぶ
- 島原(しまばら)
- 馴染み(なじみ)
- 道中(どうちゅう)
- 仕掛け(しかけ)
- 初見世(はつみせ)
- 身請け(みうけ)
- 禿(かむろ)
- 新造(しんぞう)
- 陰間茶屋(かげまぢゃや)
- 鉄砲女郎(てっぽうじょろう)
- 『花宵道中』の名言・名セリフ
- 「お前はもう体に咲く花をほかのだれにも見せなくていい」
- 「いいかい。お開帳は愛しい人を心に思って、目をつむって、ほかの男に抱かれるんだ」
- 「あれはわしの…わしの自慢の姉ちゃんや」
- 「そうよ。だって姐さんは、この先も生きてゆくんだから」
- 「あなたがいてくれるだけでこの世はこんなにも静かに光りかがやく」
- 「お勝ちゃん、川の向こうに戻んねぇか」
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