春の夢(ポーの一族)のネタバレ解説・考察まとめ

『春の夢』とは、吸血鬼一族の物語を描いた萩尾望都によるファンタジー漫画『ポーの一族』の40年ぶりの新作漫画である。『月刊フラワーズ』2016年7月号で発表され、2017年3月号から7月号にかけて連載された。1940年代、第二次世界大戦下の欧州を舞台に、バンパネラのエドガーとアランがウェールズでドイツ人少女ブランカと出会う物語を描く。一族の謎や戦時中の生活に焦点を当てており、2016年の発表時には掲載誌が完売・重版される社会現象を巻き起こした。

『春の夢』(ポーの一族)の概要

『春の夢』(はるのゆめ)とは、1972年から1976年まで『別冊少女コミック』(現:ベツコミ)で連載された萩尾望都の名作『ポーの一族』の、40年ぶりとなる新作ファンタジー漫画である。本編『ポーの一族』では、バンパネラ(吸血鬼)の一族であるエドガーとメリーベルの兄妹、そしてアランという少年たちの数奇な運命を描いている。その本編終了後、2016年7月号の『月刊フラワーズ』にて発表され、2017年3月号から7月号にかけて連載された。

物語の舞台は第二次世界大戦が起こった1940年代の欧州。一族の村を離れて旅を続けるエドガー・ポーツネルとアラン・トワイライトの二人がウェールズを訪れ、そこでドイツからやって来たブランカという少女と出会う内容が描かれている。
前作では語られなかったポーの一族の謎や、ポーの村の成り立ち、吸血鬼として永遠の時間を生きるエドガーとアランの1940年以降の生活に焦点が当てられている。
タイトルは、作中で歌われるフランツ・シューベルトの歌曲集『冬の旅』の第11曲「春の夢」にちなむ。

40年ぶりの続編掲載は、平均発行部数約3万3000部の『月刊フラワーズ』に問い合わせが殺到し、増部したにもかかわらず完売するという異例の事態を招いた。当初は電子書籍配信のみの予定であったが、読者の要望に応える形で雑誌の重版も決定。重版分が全国の書店に並び、あわせて電子書籍も配信されるなどの大きな社会現象となった。本作は『このマンガがすごい! 2018』オンナ編で第2位にランクインするなど、時代を超えて高い評価を獲得している。

作者・萩尾望都のプロフィール

執筆中の萩尾近影。

萩尾望都(はぎお もと)は、1949年5月12日生まれ、福岡県大牟田市出身の漫画家である。本名同じ。血液型はO型。女子美術大学客員教授、日本SF作家クラブ名誉会員、日本漫画家協会理事、日本芸術院会員を務めるなど、多方面で活躍している。

1969年に『ルルとミミ』でデビューし、1972年からは代表作の一つである『ポーの一族』を連載。1976年には同作および『11人いる!』により第21回小学館漫画賞を受賞した。同時期に連載された『トーマの心臓』も大きな人気を博し、少女漫画に革新をもたらして黄金時代を築き上げた。竹宮惠子、大島弓子、山岸凉子らと共に、その生年から「花の24年組」と呼ばれ、その代表格として「少女漫画の神様」とも評されている。
作品のジャンルはSF、ファンタジー、ミステリー、ラブコメディー、バレエもの、心理サスペンスなど極めて幅広い。1997年には『残酷な神が支配する』で第1回手塚治虫文化賞マンガ優秀賞、2006年には『バルバラ異界』で第27回日本SF大賞を受賞。さらに2011年には第40回日本漫画家協会賞・文部科学大臣賞を受賞している。その作品性は文学的、あるいは文学を超えているとも言われ、多くの文化人が批評の対象としてきた。

長年の功績に対し、2012年春には少女漫画家として初となる紫綬褒章を受章。2019年秋には女性漫画家で初となる文化功労者に選出された。2022年には日本人として7人目となるアイズナー賞「コミックの殿堂」を受賞し、同年には旭日中綬章を受章するなど、日本を代表する芸術家として国内外で極めて高い評価を得ている。

『ポーの一族』について

「ポーの一族」とは、「バンパネラ(吸血鬼)」の一族のこと。
美しい吸血鬼が織りなす儚くも美しい物語である。

『ポーの一族』とは、萩尾望都によるファンタジー漫画、およびそれを原作としたメディアミックス作品の総称である。18世紀初頭から21世紀にわたる長い時間を背景に、永遠に少年の姿のまま生きる吸血鬼一族「バンパネラ」の物語を描いている。

1972年から『別冊少女コミック』で断続的に連載され、1976年に完結。少女漫画の枠を超えた文学的な評価を受け、第21回小学館漫画賞を受賞した。2016年には40年ぶりの新作「春の夢」が『月刊フラワーズ』に掲載され、大きな社会現象を巻き起こすなど、世代を超えて愛され続けている名作である。

物語は1744年、森に捨てられた幼い兄妹エドガーとメリーベルが、吸血鬼一族である老ハンナ・ポーに拾われるところから始まる。一族の秘密を知ったエドガーは、妹を巻き込まないことを条件に、成人後に一族に加わる約束をさせられる。
しかし1754年、正体を見破られた老ハンナが消滅した際、エドガーは大老(キング)ポーによって無理やり一族に加えられてしまう。その後、再会したメリーベルも自ら望んで一族に加わり、二人はポーツネル男爵夫妻を養父母として100年以上の時を過ごす。
1879年、正体を知った人間によってメリーベルと養父母を失ったエドガーは、絶望の中で孤独な少年アラン・トワイライトを一族に加え、以後100年近くを共に旅することになる。しかし、1976年には彼らにも避けることのできない永遠の別れの時が訪れる。

「永遠にこどもであるこどもを書きたい」という着想から生まれた本作は、200年以上の時間が交錯する重層的な構成が特徴である。舞台は18世紀の貴族の館から20世紀のギムナジウムまで多岐にわたり、西洋の吸血鬼伝説をベースに、成長の代償として失うものや、大人になれない少年の孤独と葛藤が叙情的に描写されている。

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『春の夢』(ポーの一族)のあらすじ・ストーリー

戦火のウェールズでの出会いと「赤い家」の休息

1944年1月、第二次世界大戦の激化によりロンドンで被災したエドガー・ポーツネルとアラン・トワイライトは、ウェールズ地方アングルシー島にある「赤い家」へと避難する。そこで二人は、ナチスの迫害を逃れてドイツからやってきたユダヤ人の少女ブランカと、その弟ノアに出会う。

エドガーは、レコードから流れるシューベルトの旋律に誘われて家を訪ねてきたノアをきっかけに、ブランカたち姉弟と親交を深めていく。一方、心身の消耗により眠り続けるアランを救うため、エドガーは1925年のパリ万博で知己を得た異種の吸血鬼(ヴァンピール)であるファルカを呼び寄せる。紅ルーシ出身のファルカは、漏れ出す「気」を封じ込める特殊な能力を持っており、アランの窮地を救う役割を担った。

一族との契約と「目」の覚醒

エドガーのもとに「ポーの村」の使者であるクロエらが現れ、チェスターのサンタルチア・ホテルで会合を持つ。エドガーは大老ポー直系の血を継ぐ者として、一族に「気」を分け与える代わりに、自身の独断でバンパネラにしたアランの安全を保障させるという契約を結んでいた。

この時期、エドガーはファルカから「目」と呼ばれる特殊能力を教わる。これは「空気の滝(スキマ)」を通り抜け、瞬時に目的地へ移動できる空間転移の術であった。かつて地方領主として戦に敗れ、妻子を失った過去を持つファルカとの対話を通じて、エドガーは不死の一族が抱える孤独と、新たな力に触れていく。

オットマー家の呪いと「ルチオ」の正体

ブランカたちが身を寄せるオットマー家には、代々40代半ばで発狂し死に至る「眠れない病気」という過酷な呪いが伝わっていた。主のダンもまた重体に陥るが、その背後には別の不死の一族「ルチオ」の影があった。

ダンの通夜に現れた謎の男サルヴァトーレは、200年前の先祖であり、ダンが死ではなく永劫の生へと至る眠りについていることを告げる。大老ポーによれば、ルチオはギリシャ系の一族であり、ポーの一族とは数百年にわたり互いに協力・管理し合う関係にあった。ダンは人間としての生を終え、不死者として目覚め、ベニスへと旅立っていった。

クロエの反逆とブランカの悲劇

若返りを切望するクロエは契約を破棄し、アランを人質にとってエドガーの血を要求する暴挙に出る。しかし、そこへ現れた大老ポーによってクロエは制裁を受け、永遠に地下へ閉じ込められることとなった。

一族の紛争が収束した直後、平穏な日常に最大の悲劇が訪れる。エドガーがブランカたちを送り届ける途中、濁流により弟のノアが行方不明となる。錯乱したブランカを救った運転手のアシュトンは、彼女への歪んだ愛情から襲いかかり、塔の窓から突き落としてしまう。エドガーは覚醒した「目」の能力で駆けつけるが、彼の異形を目撃したブランカは恐怖のあまり白髪となり、絶命の危機に瀕する。エドガーは彼女を救うため、ファルカに彼女を仲間(ヴァンピール)にするよう託した。

旅立ちと数年後の再会

ファルカは「オレの花嫁」としてブランカをパリへ連れ去り、エドガーとアランもまた彼らを追ってウェールズを後にする。その後、行方不明だったノアは無事に発見されたが、姉との再会は叶わぬまま時が流れた。

数年後、大学生に成長したノアが再び「赤い家」を訪れた際、林の影からそっと彼を見つめる白い髪の女性の姿があった。それはファルカと共に生きる、かつての面影を残したブランカであった。彼女は静かに涙を流しながら、再び別々の時間を歩む弟の姿をその目に焼き付けるのだった。

『春の夢』(ポーの一族)の登場人物・キャラクター

主要人物

エドガー・ポーツネル

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