ヴァイスの空(SF冒険漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ヴァイスの空』とは、あさりよしとおが原作、カサハラテツローが漫画を手掛けたSF漫画。学習研究社が出版していた小学生向け科学雑誌『4年の科学』で2002年4月より連載が開始された。2003年にコミックが出版されるが一度絶版し、2009年にジャイブ株式会社から新装版コミックが発売された。近未来の都市を舞台に、「失われた空を見る」という夢を持った一人の少年ヴァイスと、その仲間たちの冒険を描いた王道ともいえるストーリー展開は、多くの少年たちの心を動かした。

ルージュ「…はああ…あっ…たかい…」

ネロを庇って黒の警察からの攻撃を受け、命を落としたルージュの最後の一言。
一人で農場に暮らし、食べるものには不自由しなかったが常にひとりぼっちだった、と吐露した彼女は笑顔を見せ、自身を抱きとめるネロの腕の温もりや周りの人の存在について「…はああ…あっ…たかい…」と言いながら事切れてしまった。
自身が孤独だったことを受け入れ、今そばにある存在に感謝している、という気持ちがこの一言に凝縮された名シーンだ

生まれて初めて「空」を見るラストシーン

命がけの冒険を乗り越え、地球へ帰還した彼らを出迎えたのは分厚い雲に覆われた空だったが、彼らは自身の目で青空を見るという夢を決して諦めていなかった。
今日こそ見られる気がする、という予感を抱いたヴァイスがいつもの場所にやってくると、そこにはノワールとネロの姿も。
そしてその予感は的中し、ヴァイスたちの冒険は、並んで空を見るラストシーンで締め括られることとなったのである。
自らの足で大地を踏みしめ、空を見つめる彼らのそばには、残念ながら生きて共に帰還することは叶わなかったルージュの墓標も並んでいた。

「分かりやすい」点が面白い・ヴァイスの夢

そもそもなぜ「空」が見たいのか、と言えば、ネロとの出会いがきっかけでした。元々好奇心が旺盛なせいか素行不良扱いされていたヴァイスがたまたまダクトに隠れ住むネロと出会い、彼の「住み家」で空の写真を見たのが始まり。雲も映っていましたが、その抜けるような青さに目を奪われて、じかに空を見るため独自のアイテムを作ったりするのです。もちろんそこには失敗もありますが、「夢の為に諦めない」姿勢は子供に対しての教訓だけでなく、大人に対してはノスタルジーのようなものを抱かせるものがあります。

ダクト、ロボットの警官など、機械的でどこか無味乾燥な世界に住むヴァイスにとって「空」は新鮮に映ったはず。現実の世界では、まず見向きもしないであろう空が、何だか貴重なものに思えてきませんか?

こちらがネロ。「父」と二人暮らしでしたが、一人で食糧調達できるようになったころ、「父」は姿を消しました。

「悪役」の理論と戦う理由

物語に欠かせない「敵」役も登場しますが、彼らが単なる悪党ではなく、それなりに納得のできる理論で動いる点も面白いかと。しかし根底にあるものが「人類のため」とはいえ、実質他の人種を強制的に冷凍睡眠につかせて自分たちが支配するというものじゃ納得いきませんよね。そこで、ヴァイスたちが立ち上がるのです。

現実世界では味わえない世界観の妙

この作品の舞台は単なる「未来世界」ではなく、宇宙コロニーの内部でした。そして人類は三つの方法で「種」としての人類の存続をはかっているのです。が、そのことを知るのは「黒の民」というコロニーの支配者的な存在のみ。この色で分けられた種の残し方がSF風です。

自分たちが住む世界に「空」がないことと、その理由を悟るシーン。

ヴァイスは自然交配で生まれる「白の民」という人種ですが、「黒の民」は「複製」というクローン培養で子供を残す人種(つまり、ネロは父シュヴァルツとまったく同じ遺伝子を持つ)。

名前が各人種の色からきてるのも面白いところ。ヴァイスはドイツ語で白です。

そしてもう一組、遺伝子操作の末に誕生した「赤の民」も存在。「赤の民」は自分の子供も複製も作らず、ある程度の成長の後また子供に戻ることを繰り返す不老不死の人種。記憶も完全にではないもののリセットされる模様。劇中に登場した「赤の民」の少女ルージュは人間が「地球」を捨て、離れることになった理由を思い出し、涙していました。

ルージュ。こう見えて結構な年だったりします。

総括

子供が活躍する冒険ものというだけでも胸熱なのに、そこに夢や友情未来世界というワクワク要素までぶち込んでます、それでいて、単なる子供だましでないのも侮れません。黒の民の陰謀を知った後はヴァイスもネロも自分たちの夢を一旦おいて、柔軟な思考で黒の民の持つ「やむを得ない選択」という名の陰謀に立ち向かいます。その様は爽快の一言に尽きます。「空はない」「余計なものはいらない」という現実にを突き付けられても諦めない姿勢に憧れつつも燃える、そんな作品です。

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