大人が読んでも燃えるSF冒険漫画『ヴァイスの空』
『学研』に連載されていた、いわゆる小学生向けの作品なんですが、それだけで舐めプして読まないのはもったいない!子供向けだからこそわかりやすい王道であり、同時に胸打つ作品だと思います。
あらすじ・ストーリー
「空が見たい」。そんな「夢」を皆から馬鹿にされる少年、ヴァイス。何故彼は空が見たいのか?何故そのことを馬鹿にされるのか?舞台は未来と思しき時代の、とある街。天高くまでそびえたつ塔のような建造物のせいで「空」は見えず。それでも、ダクトに隠れ住むように暮らす少年ネロと共に「空を見る」ための道具を創ったりの試行錯誤を繰り返す。そんな中出会ったのはノワールという少女。彼女はネロがどこにいるか尋ね、「空なんてない」ことをヴァイスに告げる。
「分かりやすい」点が面白い・ヴァイスの夢
そもそもなぜ「空」が見たいのか、と言えば、ネロとの出会いがきっかけでした。元々好奇心が旺盛なせいか素行不良扱いされていたヴァイスがたまたまダクトに隠れ住むネロと出会い、彼の「住み家」で空の写真を見たのが始まり。雲も映っていましたが、その抜けるような青さに目を奪われて、じかに空を見るため独自のアイテムを作ったりするのです。もちろんそこには失敗もありますが、「夢の為に諦めない」姿勢は子供に対しての教訓だけでなく、大人に対してはノスタルジーのようなものを抱かせるものがあります。
ダクト、ロボットの警官など、機械的でどこか無味乾燥な世界に住むヴァイスにとって「空」は新鮮に映ったはず。現実の世界では、まず見向きもしないであろう空が、何だか貴重なものに思えてきませんか?
「悪役」の理論と戦う理由
物語に欠かせない「敵」役も登場しますが、彼らが単なる悪党ではなく、それなりに納得のできる理論で動いる点も面白いかと。しかし根底にあるものが「人類のため」とはいえ、実質他の人種を強制的に冷凍睡眠につかせて自分たちが支配するというものじゃ納得いきませんよね。そこで、ヴァイスたちが立ち上がるのです。
現実世界では味わえない世界観の妙
この作品の舞台は単なる「未来世界」ではなく、宇宙コロニーの内部でした。そして人類は三つの方法で「種」としての人類の存続をはかっているのです。が、そのことを知るのは「黒の民」というコロニーの支配者的な存在のみ。この色で分けられた種の残し方がSF風です。
ヴァイスは自然交配で生まれる「白の民」という人種ですが、「黒の民」は「複製」というクローン培養で子供を残す人種(つまり、ネロは父シュヴァルツとまったく同じ遺伝子を持つ)。
そしてもう一組、遺伝子操作の末に誕生した「赤の民」も存在。「赤の民」は自分の子供も複製も作らず、ある程度の成長の後また子供に戻ることを繰り返す不老不死の人種。記憶も完全にではないもののリセットされる模様。劇中に登場した「赤の民」の少女ルージュは人間が「地球」を捨て、離れることになった理由を思い出し、涙していました。
総括
子供が活躍する冒険ものというだけでも胸熱なのに、そこに夢や友情未来世界というワクワク要素までぶち込んでます、それでいて、単なる子供だましでないのも侮れません。黒の民の陰謀を知った後はヴァイスもネロも自分たちの夢を一旦おいて、柔軟な思考で黒の民の持つ「やむを得ない選択」という名の陰謀に立ち向かいます。その様は爽快の一言に尽きます。「空はない」「余計なものはいらない」という現実にを突き付けられても諦めない姿勢に憧れつつも燃える、そんな作品です。