ヴァイスの空(SF冒険漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ヴァイスの空』とは、あさりよしとおが原作、カサハラテツローが漫画を手掛けたSF漫画。学習研究社が出版していた小学生向け科学雑誌『4年の科学』で2002年4月より連載が開始された。2003年にコミックが出版されるが一度絶版し、2009年にジャイブ株式会社から新装版コミックが発売された。近未来の都市を舞台に、「失われた空を見る」という夢を持った一人の少年ヴァイスと、その仲間たちの冒険を描いた王道ともいえるストーリー展開は、多くの少年たちの心を動かした。

『ヴァイスの空』の概要

『ヴァイスの空』とは、学習研究社(学研)が出版していた小学生向けの科学雑誌『4年の科学』で2002年4月から2003年3月まで連載されたSF漫画。
原作は代表作に『まんがサイエンス』などを持つあさりよしとお、作画は『アトム ザ・ビギニング』を手掛けたカサハラテツローが務めた。
連載終了後の2003年6月2日に学研ノーラコミックスよりコミック版が発売になるも絶版となり、2009年1月5日、タカラトミーの系列であるジャイブより新装版が発売された。
少年漫画の王道ともいえる、「夢のために決してあきらめない」という少年少女の冒険譚は、子どもに対しての教訓だけでなく、大人に対してはノスタルジーのようなものを抱かせる、王道のジュブナイル(少年少女向け)SF作品として高い評価を獲得している。

物語の舞台となるのは遥か未来の世界。そこでは厳格なルールが設けられ、従わないものは黒の警察(ポリツァイ)から厳しい刑罰を受けるとされていた。
そんな社会の中を生きている一人の少年、ヴァイスは「子供は絶対に学校に行かなくてはならない」というルールに囚われることなく、自らの「空というものを直接見てみたい」という気持ちに従い、毎日監視の目を潜り抜け、試行錯誤を繰り返しているのである。
ある日、友人のネロと共に黒の警察の本拠地らしき場所に入り込んだヴァイスだが、そこで黒の警察を引き連れたノワールという少女に出会ったことで、自分たちに課された運命や、世界の秘密を知っていくことになる。

『ヴァイスの空』のあらすじ・ストーリー

空を見たい少年

高い建造物に覆われ、空が見えなくなった時代のこと。好奇心旺盛な少年、ヴァイスは、友人であるネロのねぐらで見た空の写真に心惹かれ、自身も直接空を見ることを夢見ていた。
しかし、ヴァイスたちが生きる社会には市民を監視するカメラがそこかしこに設置され、厳格に定められたルールから逸脱することは決して許されない。
ヴァイスは厳しい監視の目を掻い潜りながら学校をサボり、発明が得意なネロの作った道具を手に、毎日試行錯誤しながら高い建物に覆われた向こう側を目指していた。

「ノワール」との出会い

ある日、ネロと共に上へ向かうリフトを目指していたヴァイスは、そこで黒の警察を従えた少女に出会う。
計画の遂行を断念した2人がネロのねぐらへ戻ると、そこでは黒の警察と一緒にいた少女、ノワールが昼寝をしていた。
市民の生活を見てみたい、というノワールに頼まれ、街の中を案内したヴァイスは自身を捕まえに来た様子のないノワールと少し打ち解けるも、彼女から「空は存在しない」ということを聞かされる。
そして、ノワールはその直後、権限のない市民に機密を話した「管理者法違反」として、黒の警察に捕縛され、連行されてしまうのであった。

ルージュの森と新たな仲間

ノワールを救出するために黒の警察の本拠地へ乗り込んだヴァイスとネロは、不思議なエレベーターに行先を尋ねられ「食い物のあるところ」を指定したために謎のジャングルへ放り出されることになってしまう。
襲ってくる猛獣たちから逃げながら腹ごしらえをしていると、そこにルージュという少女が現れる。ルージュはそのジャングルにただ一人で暮らしていたようで、ヴァイスたちは食事を共にしたことで意気投合する。
しかし突然黄色の警察が「余計なエリアを潰す」と宣言して工事を始め、3人はなんとか脱出するものの、ルージュが暮らしていた森は跡形もなくなってしまう。

世界の真実

囚われたノワールを救出したヴァイスたちは、ノワールと同じく黒い服に身を包んだ「黒の市民」であるアトルムから、自らの暮らす世界の真実についての話を聞かされていた。
遥か昔、死の星と化した地球を脱出した人類は、宇宙空間に作り上げた「ガイア」という巨大な建造物の中に住んでいて、ヴァイスたち「白の市民」はノワールやアトルムたちを始めとした「黒の市民」によって厳重に管理されながら暮らしていることを知るが、ネロの個人情報が見当たらなかったことを理由に、アトルムから攻撃を受けてしまう。
その窮地を救ったのは、黒の警察に成りすまし、姿を眩ませていたネロの父、シュバルツだった。

陰謀と地球への帰還計画

ヴァイス達を救ったシュバルツは、アトルム達黒の市民が、ガイア存続を目的としたエネルギー削減の一角として、白の市民を生きたまま固め、標本化しようと目論んでいることを明かす。
ヴァイス達はシュバルツとその協力者たちと共に計画を阻止しようとするが、一瞬の隙をついてネロとルージュがアトルムの手先に囚われ、人類標本化計画も実行されてしまった。
シュバルツはガイアの中で何よりも優先される「地球帰還プログラム」を作動させることで人類標本化を阻止することを決意し、ヴァイスとノワールは協力してネロとルージュを救出するが、ルージュが命を落としてしまう。
仲間を失った悲しみを抱きながらも、彼らは街頭ビジョンを通じ、この世界の真実と、全員で地球に帰ることを全人類へ向けて力強く宣言する。

ヴァイスの見た空

人類が帰還した未来の地球は、分厚い雲に覆われた星になっていた。
それでもヴァイスは夢を諦めず、毎日仲間たちに咎められながら学校をサボり、青空を待ち続けている。
そんなある日、今日こそ空が見られる気がする、という予感を抱いたヴァイスがそう伝えると、同調した数人の子供たちがその後をついてくる。
少し開けた場所に建てたルージュの墓標近くまで向かうと、そこではノワールやネロも待っていた。
今日こそきっと見られる、そう期待に胸を高鳴らせる彼らの頭上で、とうとう夢にまで見た美しい青空と、明るい太陽の光が顔を覗かせるのであった。

『ヴァイスの空』の登場人物・キャラクター

主要人物

ヴァイス

よく言えば好奇心旺盛。でも周りからは問題児扱い。

本作の主人公。具体的な年齢の表記はないが、同じくらいの年頃の子どもたちと共に学校に籍を置いている。後ろ髪だけを長く伸ばした茶髪で、スラっとした体躯の少年。
好奇心旺盛な性格をしており、冒険が大好き。肝試しのために侵入した「怪物が出る」という噂を信じて立ち入り禁止区域のダクト内に侵入したところ、そこに住んでいたネロと出会い、友人関係になる。その際に彼のねぐらに貼られていた青空の写真の美しさに感心したことで、空を見たいという夢を抱くようになった。
以降は市民の義務である学校をサボり、手先が器用なネロ作の発明品を手にして、毎日空を見るために奮闘するようになった。
黒の市民が使用するリフトに忍び込んだ際に出会ったノワールが「空なんてない」という一言を漏らし、目の前で捕縛されるのを見て、彼女を救うべく奮闘。
自分たちが生きる世界の真実を突きつけられるが、待ち受ける運命を乗り越えるために人類全員で地球に帰還することを前向きに促してこれを達成、自らの目で空を見るという悲願を果たした。
仲間思いでポジティブだが、少年らしく浅慮で向こう見ずな面も目立ち、監視カメラに向かって立ちションをし、後にノワールに局部を見られたことが発覚して恥ずかしがるような場面もあった。

ネロ

「怪物が住む」と噂されていた立ち入り禁止区域のダクトに住みついていた少年。長くボサボサの黒髪が特徴の小柄な少年。自身の居住スペースに忍び込んできたヴァイスと友人関係になった。
ヴァイスに負けず劣らず向こう見ずで少年らしい性格をしているが、手先が器用でメカニック方面に造詣が深く、様々な発明品でヴァイスの「空を見たい」という夢をサポートしている。
一緒に暮らしていた父がある日突然行方不明になったために一人暮らしで、そうした環境で生きてきたせいかムラサキイモムシや羽の生えたトカゲ(ハネチョロ)などのゲテモノばかりを食べており、いつもお腹をすかせている。
本人が語る「シュバルツの息子」という情報以外の詳しい出自は一切不明で、それを理由にアトルムから命を狙われることになったが、物語終盤でシュバルツ自身が登場し、親が自らのクローンの子供を作り出すことで種を存続してきた「黒の市民」であることが判明する。
おそらく「ダクトの中に住む怪物」の正体であるポルポという謎の生き物をペットとして飼っており、常に一緒に連れて歩いている。

ノワール

本作のヒロイン。黒髪で黒い服を身に付けた美しい少女。ヴァイスたち「白の市民」を管理する側の「黒の市民」という種族だが、彼に対して空は存在しないことを明かし、当初からやや協力的な姿勢で接していた。
ヴァイスに秘密を明かしたため「管理者法違反」の罪で投獄されていたが、自身を助けに現れ、一緒に来るよう説得しにきた彼の説得に心を動かされる。
その後は自身の仲間であるアトルムに捕らわれたネロとルージュを救出すべく、ヴァイスと一緒に宇宙空間へ飛び出していって彼に知恵を貸し、地球に帰還することを人類に発表する際にはヴァイスの横に並んで街頭ビジョンに出演するなど、最後まで仲間として共闘する。

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