ほとばしるロケット愛!あさりよしとおの「ロケット」漫画
かわいい絵柄にアウトかセーフかギリギリのネタを打ちこむ漫画家、あさりよしとお氏。学研で『5年の科学』をとっておられた方なら、多少なりともご存じと思います。実はこの人、ファンの間では大のロケット好きとして知られており、ロケットに関する深い愛と造詣を込めた作品を持世に送り出しているのです。アニメ化されてもおかしくない出来の「あさりロケットワールド」を、ご紹介させていただきます。
神様の知識で宇宙へ行こう!『まんがサイエンスⅡ』
「小学生向け」と侮ってはいけません。ハイレベルです。まず登場人物が凄いです。科学漫画なのに、「神様」が出てきちゃうんですから。といっても、「神様が降りてきてぱぱっと宇宙に連れてってくれる」なんて展開じゃありません。元々教育漫画なので「自分でやろうね」という教訓もあるのでしょう、神様は知識と道具を与えるだけの存在なのです。読み手と同じ視点に立つのは二人の小学生。よしおくんとあやめちゃんです。そして、ここからが凄い。実際にロケットづくりの基礎を考案し、作り上げた偉人が4人も登場するのです。
二人は宇宙へ行くため奮闘します。偉人4人が辿った失敗を、何度も重ねて。この辺りから、あさり氏の愛やこだわりを感じます。先生たちも神様も、とぼけたシーンこそあっても最後「帰って」いくシーンは本当に格好いいです。神様の「呼んだ?」のシーンは頼りがいを感じ、先生の最後のセリフも、後進の成長を期待する含みが込められています。
登場キャラ
【よしおクン】小学校の科学クラブに所属する5年生。比較的常識人。史実上の試作型ロケットを人が乗れる大きさにして乗る、エンジンをたくさん積めば飛び上がれると閃きはよく、「教えてもらってばかりなのも癪」として自習するなどの勤勉家ではありますが、皆失敗に終わります。早く宇宙に行きたい(人工衛星として、軌道上に乗る)がために別の偉人に協力を依頼するせっかちな面も。エンジンのせいで重みが増して上がれないなら、使い終わったエンジンは捨てればいいという考えから、多段式という、下から順に切り捨てるロケットの製造に着手。試行錯誤の末、多段式ロケットで宇宙へ行くことができ、神様から激励の言葉を受けました。一度は地球への戻り方が分からず万策尽きるも、神様の助言で帰還。ただ、彼の乗ったロケットは海に落下するタイプで、帰還カプセルに乗った状態で日本を探し海上をさまよう羽目になりました。第二部では、月ロケットサターン五型に搭乗。アポロの乗組員が残した月面カーや足跡が風化せずそのまま残っている点に一抹の寂しさを覚えて地球に戻る途中、同行したフォン・ブラウン以外の偉人を載せた「まだできていない」宇宙船に乗せてもらい、最後は帰還カプセルに移動。去り行く神様や偉人たちと別れます。小さなペンシルロケットしか手に入らなくなりましたが、先生たちの夢のゴール、即ち月を目標にするのでした。
【あやめちゃん】よしおクンとは同じクラブの仲間。他の巻ではあてずっぽうで物を言ったりひどい目に遭ったりしていますが、この巻では常識的な言動が見受けられよしおクンより先に宇宙行きを果たしました。その方法は、束ね式という、エンジンを本体の周りに括りつけたようなデザインのロケット。空になったエンジンを一気に切り捨てることで本体は軽くなるという方式や、地球への帰り方が分からないことをよしおクンより先に思いつきました。ひどい目に合うのは主によしおクンでしたが、神様に対する言動がひどいものだったため「お返し」として実験台にさせられるシーンも。第一部ラストではどこぞの山中に着陸し、よしおクン同様遭難状態でした。第二部で月ロケットに乗りますが、月に降り立つ為の着陸船が二人乗りということから、留守番役をさせられそうになります。「大人一人に子供二人なら、設計上大丈夫」ということで、一番に月に降り立ちました。「どうして人間は宇宙に行きたがるんだろうか」というよしおクンに対し、「人類とは、宇宙に出る為に生まれた生物だから」と言ってのけました。
【ロケットの神様】人類初の人工衛星スプートニク1号を頭部に据え、後は人間と同じという姿。服装は古代ギリシア風。最初は顔がなかったんですが、「寂しいから」とあやめちゃんに適当な顔を描かれて後、自分で描き直しています。描いた顔なのになぜか表情が変わりますが、誰もツッコミを入れることなく話は展開。宇宙飛行士のインタビューを見て「宇宙に行きたいね」と話していた二人の近くに落ちてきました。理由は「ボーっとしていたため」。ロケットに関するものは、エンジン、本体、宇宙服に至るまで神通力で出せるものの、自分の為に力を使ってはいけないとのこと。「君たちが宇宙に行きたいなら、そのサポートをしてあげる。その代わり、できた宇宙船に乗せてね」ということで講義が始まるわけです。人工衛星とは何か?から始まり、ロケット製造に携わった偉人も出しますが、飽くまでヒントを与えるのみ。いつの間にかよしおクンのロケットに乗っており、宇宙へ戻ることができました。一度は別れを告げますが、地球への帰還方法が分からずパニック状態で「神様!」と叫んだ際は「呼んだ?何してるの」と戻ってくるなど、神様らしい頼りがいも見せてくれました。基本的には親しみやすい性格ですが、あやめちゃんに馬鹿にされたからと人体実験を行う、「あんまり深い角度で大気圏に突入すると燃え尽きちゃうよ」と笑えない冗談ものたまうブラックな面も。第二部では偉人たちを消し忘れたため、「もっといい宇宙船に乗せてあげよう」との甘言でサターン5型を用意するのでした。月ロケットの設計上三人の内一人が司令船に残らなくてはならないことになっていたのですが、三人とも月面に降りたいということで、留守番役を引き受けます。
【ゴダード先生】偉人の一人。世界で初めてのロケットを作った人物。ジュール・ヴェルヌの小説を読んだことで月へ行くため、ロケットづくりの研究をしていました。
【ツィオルコフスキー先生】偉人の一人。少年時代の病気が元で耳が遠い、という逸話を基に「え?何て言った?」と聞き返すことが一つのギャグになっています。多段式ロケットづくりの政策が難航していたよしおクンに、「上の方のロケットは、そんなに思いエンジンを積まなくていい」との助言を与えました(使っていないと機のエンジンは重り状態のため、飛び立てない、もしくは落下するなどの事態が発生)。
【オーベルト先生】偉人の一人。怪しい雰囲気漂いますが、ロケット完成を急ぐよしおクンの為出された人物(この時神様は「辛抱がないねえ」と呆れた風を見せました)。彼が作っていたのは映画の小道具用のロケットでしたが、後の月ロケット製作を行う人物と関わっていました。
【フォン・ブラウン先生】偉人の一人。アポロ計画に参加し、月へ行くためのロケット、サターン5型(アポロ11号)を作り上げた人物。しかし、あやめちゃんが見せられたのは戦争用のミサイルでした。月に行きたくてロケットの研究を始めたものの、戦争時代を生きた為、「人殺しの道具」と自嘲する物を作って製作費を得ていたわけです。第二部では、よしおクンらとともに月ロケットに搭乗。史実のフォン・ブラウンはアポロ11号発射時年齢(当時59歳)による体力の低下により月へは行けなかったものの、今作では若い姿で現れたので、ロケット搭乗が実現。ロケットに乗ってからは神様の代わりに解説を担当。設計者としての貫禄も見せてくれましたが、いざ月面に降りるや、涙を流してはしゃいでいました。
【日本のロケットの神様】第4巻に登場。日本産のロケットの歴史について話してくれます。頭部は日本初の人工衛星、「おおすみ」。他が人間と同じなのは2巻の神様と同じですが、服装が古事記に出て来そうな様相。本人曰く「日本には八百万の神様がいるんだから、ロケットの神様だっている」とのこと。他国の部品や力を一切借りない初の純国産ロケットH-Ⅱの打ち上げ(天候のため延期が続きました)の際はハイテンションになり、成功の時は喜びの声を上げました。ちなみに「おおすみ」はあやめちゃんの名字でもあります。「あやめ」もロケットの名前。
少年たちのロケットづくり『なつのロケット』
『なつのロケット』からはある種の青春を感じます。といっても、ロケットを作るのは小学生と老人なんですが。教科書に沿った授業をしない先生が辞めさせられるかもしれない、じゃあ、先生の教え方が正しいことを証明するためにロケットを作って飛ばそう!ということで、先生と仲のいい3人の小学生による計画が始まります。ペットボトル式ではない、本物のロケットです。
出典: www.mbok.jp
主人公は表紙の眼鏡の少年、泰斗君ですが、三浦君(茶髪の少年)も彼もロケットに関する知識はかなりのもの。小学生とは思えないクオリティです。しかし、泰斗君はある事情から自分が「お子様」であることを痛感します。そのことを悔しがる彼の心情は、絵だけでも十分伝わってきます。痛いほど。一方の三浦君。彼の言葉はかなり真理を突いています。「できないことはしない」と言いますが、本当に言いたかったのは「どうせするなら失敗しない努力をしろ。『努力したんだから』なんて逃げ道を作るな」ということではないでしょうか。人を見る目もあるようで、戦時中に上官とこっそりロケットを作っていた老人木下や、電卓があればどんな計算もやってのける数学の天才少年ヘチマこと辺島とともに「飛ぶロケット」を作っていました。しかし、結果は…?打ち上げシーンとラストは鳥肌モノです。
登場キャラ
【北山泰斗】主人公。ペットボトルロケットなど、先生の授業には賛成派。ロケットに関する造詣が深い物の、少年らしい甘さなどが見受けられます。三浦達とのロケットづくりの中で成長。ロケットの一部が海に落下したと新聞沙汰になったことから、責任をとる為警察に自首に向かいます。打ち上げたロケットが衛星軌道に乗ったらしいと聞き、始めは馬鹿にしていたヘチマに、ロケットの現在地をすぐさま計算させる辺りにも成長の跡が見られました。
【三浦】転校生。変わり者と目されていましたが、泰斗たちの作ったロケットを破壊するなど、何かと泰斗に突っかかる描写が見られました。「できもしないことはしない」と言いますが、泰斗に負けず劣らずロケットに詳しく、ロケットを上げるという夢実現の為には仲の悪い相手でも仲間に引き入れます。嘔吐の直後とみられる描写や病院に行ったとの証言、急な転校や「時間がない」との意味深長なセリフ(「先生が辞めるから」と言っていましたが、方便の可能性大)から一部の読者から死亡説も囁かれていました。打ち上げの際、生霊のような幻が現れ微笑んで消える描写あり。
【久我】泰斗の友人で、先生の「優秀な生徒」の一人。ロケットの方向を決めるジャイロを考案。先生が担任になってから、理科の成績が上がったそうです。
【岡谷内】泰斗の友人で、先生の「優秀な生徒」の一人。先生のため、三浦と一緒にロケットづくりをした方がいいと判断。泰斗を説得します。
【辺島】通称ヘチマ。ぼんやりした見た目からは想像がつきませんが、三浦曰く数学の天才で、ロケットづくりに関する計算は彼の役目。電卓さえあればどんな計算も可能。逆に言えば電卓がないと算数のテストさえ分からず、成績は悪いです。三浦の秘密を知っているらしく、「肝心な時に役に立たない」などの泰斗の言葉に怒りを見せました。三浦がいなくなった後も「約束した」として、泰斗に立ち向かいます。
【木下】殺人経験の噂がある老人。ヘチマ同様、三浦と仲が良いと噂されていますが、第二次大戦中、上官と共にロケットを作っていた経験から製図係を担当。戦時中はアメリカとの交戦の為ロケットを作っていたようですが、月行きを目指していた上官は実験の失敗が元で亡くなりました。
【藤根先生】泰斗らの恩師。教科書ではなく、実験や実践を重視した授業を行う為受験を控えた生徒やその親、他の教員との衝突が絶えず辞職。夏休み中泰斗らが一度も家に訪ねて来なかったことに関し、「慕われてなかったか」と苦笑。しかし、ロケットを完成させた一同からの手紙で呼び出し先に向かい、打ち上げを見届けました。
まとめ
ぶっちゃけた話、個人的にロケットにはあまり興味はありません。でもそんな人でもこの2作は面白く読めます。しかもぞわぞわと鳥肌の来るシーン、名言が多く、「夢」を実現することの難しさなど、ロマンだけで終わらせない何かを感じさせます。共通しているのは、「教える側」は知識を与え、「教えられる側」はそれとは別の何かを、同時に学び取る、ということです。