ドローン・オブ・ウォー(Good Kill)のネタバレ解説・考察まとめ

『ドローン・オブ・ウォー(Good Kill)』とは、2014年にアメリカで制作された映画。第71回ヴェネツィア国際映画祭に出品された後、同年開催のトロント国際映画祭でも上映された。無人機ドローンを遠隔操作することで人を殺し、基地と自宅を日帰りで往復する日常に精神を病んでいく一人の兵士の姿を描いている。実際に戦争で生存した兵士がPTSDを発症することもあるという実話から生まれた戦争ドラマである。

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『ドローン・オブ・ウォー(Good Kill)』の概要

『ドローン・オブ・ウォー(Good Kill)』とは、2014年にアメリカで制作された映画。第71回ヴェネツィア国際映画祭に出品された後、同年開催されたトロント国際映画祭でも上映された戦争ドラマ作品である。ドローンを自在に操って、数万キロ離れた外国での戦争に加勢している元戦闘機パイロットの主人公をイーサン・ホークが演じ、任務と倫理の間で板挟みとなる葛藤を見事に表現した。
戦争ドラマ作品として、戦争というものの側面を描くと共に、ドローンを操る人間の心理状態もきちんと描写しており、元パイロットの主人公が実感のない戦争に戸惑い苦悩する様が見るものの心に痛々しく迫る作品となっている。「痛みの伴わない戦争は戦争でなく、虐殺と呼ぶ」と言わんばかりに現代の戦争の真実を生々しく描き、話題を読んだ。
原題の『Good Kill』は、実際に兵士たちがミサイル投下の際に互いを称えて発する言葉から名付けられた。

『ドローン・オブ・ウォー(Good Kill)』のあらすじ・ストーリー

ゲームのような戦争と実感のない殺人

かつてはF-16のパイロットとしてアフガニスタンで活躍した空軍少佐、トーマス・"トミー"・イーガン。彼は現在、故郷ネバダ州の空軍基地で、無人攻撃機MQ-9リーパーを遠隔操作する任務に就いている。安全なシェルターから、数千マイル離れた中東の標的を攻撃し、任務が終われば自宅に帰り、美しい妻と子供たちとの生活に戻る日々を送っていた。
夫が血なまぐさい戦場で命を脅かされることなく、妻のモリーは上機嫌だった。
しかし、トミーは自身が戦場に出ることなく人を殺し、当たり前に家族のいる家に帰る日常に違和感を抱いていた。

蝕まれるトミーの精神

当初、遠隔操作の任務は「ボタンを押すだけ」の簡単なものだと思われた。しかし、日々、モニター越しに映し出される人々の生活、そして作戦によって命を落とす人々を目の当たりにするトミー。任務は常に高度な判断を求められ、時には民間人の犠牲も伴う。標的を殺害するたびに、彼は自らがその場にいるかのような感覚に陥るようになる。
ある日、民間人の子供の命を奪ったのをモニター越しに見ていたトミーは、自身の子供に合わせる顔すらないと思うようになり、それを契機にして彼の精神は深く蝕まれていく。

崩れ出す生活

異動願いを出すトミーに、彼の上官であるジョンズ中佐は作戦の重要性を説き、あくまで任務を遂行するよう指示する。さらに、新たに配属されてきた新人の女性操縦士、ヴェラ・スアレス上等空兵は、ドローン攻撃の倫理性に疑問を呈し、トミーの心の揺らぎをさらに大きくする。彼女は人道的観点で道理を説き、時には同僚たちと激しい口論に発展していた。そんなヴェラの存在が、トミーが抱える倫理的な葛藤をより大きいものに変えていく。
家庭では、妻のモリーとの関係も冷え切っていく。トミーは任務で負った精神的ストレスを誰にも打ち明けることができず、酒に溺れ、夫婦間の溝は深まる一方だった。モリーは夫の変化に気づいて戸惑いつつも心配するが、トミーは何も語ろうとしない。
情緒不安定なトミーが突然モリーの浮気を疑ったことで、彼女は子供たちを連れて家を出ていってしまった。

新しい道へ

トミーの苦しみをよそに戦争は激しさを増し、それに伴って作戦も次第にエスカレートしていった。CIAからの直接的な指示が増えていくものの、その指示は疑わしい情報源に基づくものであり、トミーたちは民間人までをも巻き込む可能性のある危険なミッションに駆り出されることになる。特に、テロリストのリーダーとされる人物を追跡する中で、彼らはその人物が居住する村全体を標的とするよう命じられる。トミーと彼の所属するチームは、女性や子供を含む無関係な人々が犠牲になることを恐れる。
最終的に、トミーはCIAの命令に従うことに抵抗を感じるようになっていく。彼は良心の呵責に耐えかね、作戦の最終段階で、テロリストと見られる人物が隠れている建物を攻撃する命令を無視した。トミーは、そこにいるのは民間人であると確信していたのだ。しかし、彼の同僚であるエド・クリスティ大尉がトミーの代わりにミサイルを発射し、標的を破壊する。
こうしてCIAの指示通りに任務は完了したが、トミーの心は晴れなかった。彼は軍を退き、妻のモリーの元に戻ることを決意する。しかし心の傷は完全に癒えたわけではなく、彼は戦争というものの現実と、自身の行動がもたらした結果に深く向き合って生きていくこととなった。

『ドローン・オブ・ウォー(Good Kill)』の登場人物・キャラクター

トーマス・"トミー"・イーガン少佐(演:イーサン・ホーク)

画像右がトミー

日本語吹き替え:咲野俊介
アメリカ空軍所属。かつてはF-16戦闘機に200回以上も搭乗して出撃した名うての名パイロットだったが、優秀な狙撃技術を買われて、「地上誘導ステーション」のドローン・パイロットとして配属されることになった。辞令は辞令であるとして受け入れたものの、戦っている実感もないまま人を殺し、任務が終われば家族の待つ家に帰る日常に違和感を覚えている。
ボタン一つで直接関係のない民間人の命を奪い、モニター越しに戦争というものを目の当たりにしていくことで、深く精神を蝕まれていく。最後は軍を辞し、妻や子供たちと共に再出発する道を選ぶ。

モリー・イーガン(演:ジャニュアリー・ジョーンズ)

画像左がモリー

日本語吹き替え:加藤有生子
トミーの妻。元ダンサーの美しい女性で、彼との間に子供を2人もうけている。夫がどのような任務をこなしているかについては具体的に把握しておらず、彼が家で何となく落ち着かない様子でいることにも気づいていない。また、夫が生命の危機がない部署に異動になったことを喜んでいる節もあった。
徐々に精神を病み始め、家族のことも無関心になってしまっていたトミーに突然浮気を疑われ、互いに罵り合った後、子供を連れて家を出て行ってしまう。

ヴェラ・スアレス上等空兵(演:ゾーイ・クラヴィッツ)

画像奥の女性がヴェラ

日本語吹き替え:種市桃子
トミーの部下として配属されてきた女性の新人空兵。非人道的な作戦には異を唱える意志の強さを持っており、精神的に追い詰められたトミーに大きな影響を与えていく。

ジョセフ・ジマー(演:ジェイク・アベル)

日本語吹き替え:中村章吾
トミーと同じコンテナの中で補助要員として待機している軍人。一人でも多くのタリバン兵を殺すことを誇りとしており、非戦闘員が巻き添えになることなどまったく気にしていない。こうした性分から倫理を重視するスアレスとは衝突している。

keeper
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@keeper

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