神作家・紫式部のありえない日々(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『神作家・紫式部のありえない日々』とは、D・キッサンにより月刊コミックZERO-SUM (一迅社)にて 2021年12月号から連載が開始された歴史コメディ漫画。『源氏物語』を同人誌にたとえ紫式部をその神作家、そして読者は宮中の人々として描いている。紫式部を支える家族や、中宮彰子の事、宮仕えする中で感じた事などを『源氏物語』の制作過程を辿りつつストーリーが進む。シングルマザーで陰キャな紫式部が中宮彰子のために、かつての輝かしい定子サロンのような宮廷サロンを作る過程と紫式部の成長を描いている。

『神作家・紫式部のありえない日々』の概要

『神作家・紫式部のありえない日々』とは、D・キッサンにより月刊コミックZERO-SUM (一迅社)にて 2021年12月号から連載が開始された歴史コメディ漫画。D・キッサンは同人活動をへて『共鳴せよ!私立轟高校図書委員会』でデビュー(全7巻、完全版上下、月刊コミックZERO-SUM 2006年〜2009年9月号まで連載)。本作のような平安時代をモチーフにした作品は『千歳ヲチコチ』がある。D・キッサンは『千歳ヲチコチ』と『神作家・紫式部のありえない日々』に関して雑誌ananのウェブサイトananNEWSにて、「以前、平安期に変わった感性の才女がいたという設定で『千歳ヲチコチ』という作品を描いたことがあるのですが、まさか実際の才女を描くことになるとは(笑)」と語っている。
『神作家・紫式部のありえない日々』では、紫式部が仕えていた中宮彰子の事や、宮中の行事、宮仕えする中で感じたこと、他の女房たちの批評など、『源氏物語』の制作過程をたどるようにストーリーが進む。本作の一番の特徴は、『源氏物語』を同人誌と位置付け、紫式部を神作家、物語の製作を依頼し締切に厳しい編集長を藤原道長の正室である倫子とし、宮中の女房たちを読者に見立てているところ。史実通りシングルマザーである紫式部は、夫を亡くした悲しみを癒すために書いている同人誌『源氏物語』が中宮の母である倫子に認められ、中宮彰子と帝を結びつけるために宮仕えをしながら『源氏物語』を書くことを命じられる。
慣れない宮中暮らしの中で書き綴る同人誌『源氏物語』は、女房だけでなく徐々に公達にまで評判が広まり帝の手にも届き心をとらえる。雅な宮中行事やしきたりなど、後に「この世をばわが世と思ふ望月の欠けたることもなしと思えば」と、歌った藤原道長政権への道のりを背景に同人活動はさらに続く。そんな中、かつて中宮定子をかこんで輝かしく盛り上がっていた定子サロンのようなサロンを彰子のために作りたいと思うようになる。到底そんな大それたことをするキャラクターではないと紫式部本人も思いながらも、中宮彰子の人柄に惹かれ彰子の為ならと奔走する。作中に『源氏物語』の「桐壺」をはじめ各帖が、ストリーにそってあらすじと共に登場したり、同時期に読まれていた『竹取物語』や『うつぼ日記』『伊勢物語』の感想を語り合うシーンなども出てきて、より古典が身近に感じられる作品になっている。

『神作家・紫式部のありえない日々』のあらすじ・ストーリー

初出仕と推しカプ

夫を亡くした悲しみを癒すために始めた同人活動に生きがいを見いだす香子(こうし)、後の紫式部(むらさきしきぶ)34歳。香子が作る同人誌『源氏物語』の評判はたいそう良く、宮中の藤原道長(ふじわらのみちなが)の正室・倫子(りんし)にまでその評判が届く。藤原家は長女である彰子(しょうし)を入内させたものの、帝は未だに亡くなった先の中宮定子(ちゅうぐうていし)に心を囚われ続けている。倫子はなんとか帝の心を娘の中宮彰子(ちゅうぐうしょうし)へ向かわせようと、物語好きな帝に評判の良い同人誌『源氏物語』献上することを考える。香子は倫子に宮仕えをしながら同人活動をする事を請われるが、不慣れな宮仕えに尻込みする。しっかり者の香子の娘・賢子(けんし)や、賢子の乳母に励まされ、さらには世渡り下手な漢学者である父にまで頼みこまれ宮仕えをする事となる。
そして初出仕。倫子に宮中での呼び名を「藤式部」(とうしきぶ)と名付けられ、意気揚々と宮仕えを始めたものの、慣れない宮中生活や同僚女房たちのやっかみと陰口の洗礼を浴び、早々に宿下りして引きこもってしまうこと5ヶ月。心配した娘・賢子に諭され叱咤激励され、宮仕えのコツとして「アホになりきること」という言葉を授けられて再び宮中へ戻る。賢子の言葉どおりにすると思いのほか効果があり、意地悪な女房たちをうまくやり過ごせるようになった。
新しく彰子付きの女房になった挨拶をしに、倫子と共に中宮彰子の元に出かけた藤式部は偶然に帝にもお目通りが叶う。この時藤式部は、亡くなった先の中宮である定子が、いまだに帝をはじめ宮中の多くの人々から賛美され続けていることを知る。なぜ亡くなって何年も経つ中宮定子をいつまでも皆が懐かしがるのかと不思議に思っていると、隣の局にいる小少将(こしょうしょう)からその理由を、定子を賛美する『枕草子』を皆が読んでいるからだと教えられる。さっそく小少将に『枕草子』を貸してもらい読むと、表現の美しさや生き生きとした描写に打ちのめされる藤式部であるが、愛する夫をメタメタにコケ下している文章を見つけ俄然闘争心がわき上がる。しかし、『枕草子』の素晴らしさは充分に感じていた。定子付きの女房・清少納言(せいしょうなごん)が定子に捧げたのは『枕草子』だが、自分が書いている『源氏物語』は自分のために書いている。自分は彰子に何ができるのだろうかと藤式部は考える。宮中の生活に徐々に馴染み彰子と共に過ごす時間を重ねるにつれて、藤式部は彰子が周囲からの評判とは違い、知性と教養があり、ライバルともいえる先の中宮の定子が産んだ第一皇子・敦康(あつやす)を育て仲睦まじく過ごし、少々の事には動じない姿を目の当たりにする。中宮になるために育てられた権力者の娘以前に、心から帝を慕うひたむきで魅力的な彰子に激しく萌える藤式部。帝と彰子のまだ仲睦まじいとは言えない二人の関係が、自分が同人誌『源氏物語』を作ることで「帝×彰子」の推しカプが成就するかもしれないと思い始める。

彰子サロン

藤式部は10年ほど前に定子の兄弟が花山法皇を襲撃した際、定子が髪を切り仏門に入ることで兄達を庇おうとした場面に偶然立ち会っていた。『源氏物語』はその時の定子の気持ちを思い、書いたのが始まりだと彰子に話す。それを聞いた彰子は、『源氏物語』の中の「桐壺」の登場人物である更衣のモデルが中宮定子であると察する。これまで更衣のモデルが中宮定子であると気づいたのは彰子だけだったが、藤式部は帝も彰子と同じように気付きいっそう定子に思いを馳せるのではないかと心配し、このまま書き続けても良いのだろうかと思う。すると彰子は藤式部に、「同人誌を書くことが自分を救うことに…なるならやめてはいけない…っ」と言い、自分も『源氏物語』の続きを読みたいし、定子について藤式部や帝と共に語り合いたいという。藤式部はたとえ帝がまた強く定子に囚われようとも、その時は自分が彰子を支えようと決意し、『源氏物語』は自分が彰子にささげられる物なのだと気づく。
彰子の世話役である中宮大夫(ちゅうぐうだいぶ)の中納言・斉信(ただのぶ)は『枕草子』に登場するほど、かつての華やかだった定子サロンに出入りしていた人物。定子サロンに比べ彰子に仕える女房たちはつまらないとおおっぴらにぼやくが、藤式部に対しては他の女房たちとは違い教養があると感じていて、面白い女房が入ったと興味津々である。そのいっぽうで藤式部は斉信に対して、今は彰子の中宮大夫なのに彰子の女房たちをディスっていて気にくわない。反発する藤式部に斉信は「アンタが作ってみせてくれよ ”彰子サロン”ってやつを」とけしかけるが、自信がない藤式部はやってやろうじゃないかとは言えない。

『源氏物語』を読んだ帝は彰子に、作者の藤式部は難しい日本紀を読み、漢詩や漢文にも詳しい学のある女房だと褒める。定子が「桐壺」の登場人物のモデルである事については気づいたかどうかは、とくに語らなかったが彰子は自分が好きな物を帝が認めてくれた事を喜ぶ。帝が藤式部を褒めた事で、女房たちの間では学識をひけらかしてるだけのインテリ歴オタ女房の意味を込めた「日本紀の御局」という悪口が広まる。広めたのは帝付きの女房の左衛門の内侍(さいものないし)。『源氏物語』アンチと思いきや意外にも彼女は源氏オタクの強火ファンで、妄想にくれる同担拒否な夢女子だった。
またもや新刊の締切日が迫りあわてる藤式部。となりの局の小少将が製本を手伝う。なんとか締切に遅れる事なく倫子に新刊を渡した帰り、倫子付きの女房・赤染衛門(あかそめえもん)を偶然見かける。赤染衛門は倫子に取り次いでもらいたいと願う公達を、気の利いた歌を詠んでバッサリと面会を断っていた。あまりの鮮やかな断りっぷりに見惚れていた藤式部に気づいた赤染衛門は、『源氏物語』のファンだと嬉しそうにいう。藤式部の「日本紀」というあだ名は、歴史にも漢文にも明るいという事を表しているので、「そんなに悪いあだ名ではないと思っている。」ともいってくれる。歴史に詳しく漢籍にも明るい、その上あらゆる物語が好きで気も利く、赤染衛門こそが彰子サロンになくてはならない人材であると藤式部は確信する。

物語は人を動かす

女房達から広まった同人誌『源氏物語』は公達にも読まれるようになり、さらに評判が高まる。そんな矢先、藤式部の娘・賢子が『源氏物語』ファンの高階成章(たかしなのなりあき)に誘拐される。賢子の乳母・百草(ももくさ)の奇想天外な能力によって無事助けられるが、藤式部は成章が賢子を誘拐したきっかけが『源氏物語』の「若紫」だと知りショックを受ける。
成章は職場でも家でも蔑ろにされていた。『源氏物語』に出会い、自分と歳の変わらない源氏の美しく自信のあるふるまいに魅了される。物語と自分の現実とのギャップに辛くなり、その辛さを仏さまに聞いてもらおうとお寺参りに行った先で偶然賢子に出会う。彼女の才気煥発なようすに憧れ、妻になってもらいたいと文を送るが、まだ少女の賢子からは返事がなく落胆する。そんな時に『源氏物語』の「若紫」を手にした。「若紫」に綴られた源氏とまだ少女の紫の君(むらさきのきみ)の愛の物語を、自分と賢子に当てはめ源氏が紫の君にしたように自分も賢子をさらえば、少女と暮らせると思い誘拐に至ってしまったのだ。
藤式部は娘が狙われたショックとともに、物語を書くことの影響力の大きさや重さを感じ、筆を持ち続けて良いのだろうかと思い悩む。そんな藤式部を賢子が、初出仕でいじめられて宿下がりしてしまった時と同じように励ます。賢子は藤式部が成章の屋敷に乗り込んで来て助けてくれただけで嬉しいといい、物語を待っている人がいるのだから書くべきだという。その言葉に『源氏物語』を読むことを生きがいにしている女房や、自分を理解してくれる女房の言葉、何より彰子が続きを読みたいと言ってくれたことを思い出す。賢子を救い出した後もズルズルと長くなってしまっていた宿下りから宮中へ戻る。

宮中では定子が産んだ敦康親王(あつやすしんのう)が帝に、局に迷いこんだ犬を彰子とこっそり逃がした話しや、彰子が『枕草子』を読んで定子のことを教えてくれると楽しそうに話す。何も知らなかった帝は感慨にふける。左衛門の内侍は『源氏物語』の「桐壺」を帝と彰子の前で読んだ時に、帝のようすが少々おかしかったと藤式部に言う。それを聞いて彰子に帝の様子を尋ねると、相変わらずの内気さから帝の表情を見ていなかったという。藤式部はもしかしたら「桐壺」の更衣のモデルが定子だと気づいて、定子を思い出したのかもしれないと思う。彰子に自ら帝と交流しようとする意思を持って、帝との仲を深めるために定子のことを話してはどうかと伝える。迷う彰子に何があっても自分は味方だと手を握り力づける。そのかいがあり、彰子は帝が寵愛していた定子の話しをしたいと帝にいう。帝は彰子が敦康に『枕草子』読み聞かせて、定子の事を教えてくれている事に礼を言い定子の話しを始める。帝の話しを聴いた彰子は泣きながら帝の事を「もっと もっと知りたいのです…!」と自分の心をさらけ出す。この事で二人の心は少し近づく。彰子から帝との仲が進展したとを聞いた藤式部は心から安堵する。

新刊「葵」は物の怪が出てきて、源氏の思い人を呪い殺すホラーが入った話。出来ばえに不安があったが、瞬く間に宮中に広まり評判になる。その勢いに乗って藤式部は、赤染衛門に彰子付きの女房になってもらえないかと直接本人に願い出るが赤染衛門は難色をしめす。定子サロンは定子の力があってこそ輝いていたのであって、定子の人を導く才能が清少納言(せいしょうなごん)の本質を見抜いて『枕草子』を書くまでに変えた。定子の力が周囲の女房たちをまとめあげて皆を輝かせたのだと赤染衛門はいう。それに比べて彰子自身の魅力が見えないという赤染衛門に藤式部は、彰子の本質は中宮としての美質や感性を兼ね備え、自らが背負う責務の圧力に耐え苦悩を隠し、また帝や定子をおもんばかる心の持ち主である。ご自身も変わられようと努力をしていると説得する。最初は藤式部の申しでを渋っていた赤染衛門だったが、『源氏物語』での人物描写の素晴らしさから、藤式部の人を見る目を信頼し藤式部の申し出を受ける。しかし、倫子付きの女房である赤染衛門の事を倫子抜きでは決められない。

深まる絆

宮中では先の中宮定子の兄・伊周(これちか)達が、金峯山へ彰子の子宝祈願に行く道長を襲撃する計画を立てていた。妹である亡き中宮定子が産んだ敦康皇子が今のところ唯一の東宮候補だが、彰子が皇子を産みその皇子が東宮になることがあったら、彰子の父である道長の勢力がますます強くなってしまう。それは道長をライバル視する伊周とって避けたい。そんな襲撃計画をたまたま立ち聞きをしてしまった藤式部の弟・惟規(のぶのり)は、慌てて藤式部に伝える。しばし考えた藤式部は信頼できる上司に渡すようにと、暗殺計画を回避する方法をしたためた文を惟規に握らせる。伊周の襲撃計画は藤式部と惟規の心配をよそに、事前に道長に漏れておりあっけなく失敗に終わる。惟規から信頼できる上司として文を渡された道長の側近である成行(なりゆき)は、その筆跡から以前読んだ『源氏物語』の作者である藤式部が書いたものだと気づく。

藤式部は赤染衛門と共に倫子のもとへゆき、赤染衛門を彰子付きの女房にしてもらいたいと申し出る。赤染衛門からも倫子に願うと、彰子の事を大切に思う倫子は思いの外にあっさりと受け入れてくれた。その後、新刊『賢木』と『花散里』の二作品を書き上げた藤式部は、再び倫子の元へ新刊を渡しに来た。今回二つの作品を仕上げたのは、倫子が身近に仕える大切な女房の赤染衛門を彰子付きの女房にしてくれたお礼と、自身が中宮彰子にとって少しでも益のある女房でありたいと願う覚悟が込められている。倫子は藤式部の心意気を受け止め「これからも彰子を頼むぞ」と言う。
赤染衛門が彰子付きの女房になってまもなく、『源氏物語』を共に読もうとしている帝と彰子のもとに、敦康親王が病に倒れたと知らせが入る。動転する女房たちに彰子がテキパキと指示を出し、彰子自ら寝ずに看病をする。一夜明けて回復した敦康と彰子は、なごやかに話しをしながらお互いの大切さを確認しあう。御簾の陰でそのようすを見ていた帝は、敦康が自信がなく萎縮していた彰子に自信を持たせてくれたと感謝する。そして、自分の定子への思いが彰子を傷つけていた事に気付き、自分や敦康をこころから慕ってくれる健気な彰子が愛おしくなる。
赤染衛門は彰子付きの女房として敦康が病に倒れた時に帝や彰子のそばについていて、彰子の以前とはちがう毅然とした態度と振るまいにおどろいた。それまで彰子の自信なさげな姿に、彰子サロンに対して不安があったが、今はまだサロンの主となるには未熟なところがあっても、経験や研鑽をつめば素晴らしいサロンの主人である皇后になるかもしれないと思うようになる。藤式部が思う理想のサロンへは時間がかかるかもしれないけれど、共に頑張ろうと決意する。

それぞれに得意なこと

敦康の病が良くなり彰子と和やかに話す二人の姿を見た帝はその夜、権力者の娘としか見ていなかった彰子の事がとても愛しくなり仲を深めた。一夜あけて彰子は夜の帝を思い出しては、ポアポアしてなにも手がつかなくなる。その姿を見て藤式部は二人の仲が進展したと知り喜び萌え、筆がすすむ。
そんな中、帝の元に冷泉天皇(先の花山天皇の前の天皇)の皇子である敦道親王(あつみちしんのう)が20代半ばで亡くなったと知らせが入る。敦道親王の兄・為尊親王(ためたかしんのう)も若くして亡くなっており帝は残念に思う。敦道親王と為尊親王が共に寵愛していたのは和泉の守の妻。二人の親王に愛された経緯はとてもスキャンダルだったと、行成と俊賢は思い出し危険な女性だとお互いに話し。俊賢は恋愛経験が豊富で、素晴らしく情熱的な歌を詠み、虜になる男が多い女性だったと、いつになく思いを込めて語る。彼女の名は和泉式部、後に彰子に仕える事になる。

新刊「須磨」を書き上げた藤式部は、いつも新作を褒めちぎってくれる女房仲間の小少将の感想を聞きたくて真っ先に読んでもらう。小少将は自身の推しカプである「源氏×頭中将」の絡みに身悶えし、あまりの感動に写本を作り手元に置かせてもいたいと願う。そして、藤式部も手伝って公式写本ができあがる。小少将は写本を作らせて貰ったお礼に、彰子サロン作りを手伝いたいと申し出るものの、自信を持ってできる事がないと藤式部にいう。自信がない自分を変えたいとも思っている小少将に、藤式部は得意なことで彰子サロンに貢献してもらいたいといい、小少将の良いところは「褒め上手」な所だと伝える。それを聞いて小少将は消極的な自分を奮い立たせ、何かにつけ彰子を褒めまくる女房となる。これで小少将も『源氏物語』のファンであると共に、サロンを支える大切な仲間になる。

道長の側近である俊賢は、源氏を須磨に左遷させた物語の「須磨」を、同じく左遷させられた伊周を彷彿させて貶めるために、道長が書かせたのではないかと疑い藤式部を問い詰める。実は、俊賢は道長の側近ではあるが、政況次第では道長を裏切る気持ちがあった。問い詰められた藤式部は、道長にそんな思惑があれば藤原氏を褒め称える物語を書かせるだろうと答え、俊賢の考えを否定する。それより俊賢自身の不遇な境遇をなぞっていると感じたのではないかと逆襲する。俊賢の父・源高明(みなもとのたかあきら)は、左大臣まで上り詰めたが政変で藤原氏に左遷された皇子だった。そのため、俊賢は幼い頃からの屈辱的な経験をしていた。藤式部は俊賢の辛い過去の話しを聴きながら「かわいそうに」とか「気の毒に」と思う前に創作意欲がたぎり手がうづく。そんな自分自身に創作する者の業を感じ恐ろしくなる。

『源氏物語』のおかげで帝が彰子の元に頻繁に通うようになり、彰子が居る藤壺は賑わうようになってきた。しかし、女房たちは相変わらず公達の話に受け答えすらする気がなく、赤染衛門は頭を抱える。輝かしい彰子サロンへの道は簡単にいかないようだ。そんな折、彰子が懐妊する。

『神作家・紫式部のありえない日々』の登場人物・キャラクター

主要人物

藤式部(とうしきぶ)/香子(こうし)

後の紫式部。34歳。バツイチ陰キャ。亡くなった夫との間に一人娘の賢子をもうける。
夫亡き後、同人活動に励み同人誌『源氏物語』を作っている。
『源氏物語』の同人活動がきっかけで藤原道長の正室・倫子にスカウトされ、中宮彰子付きの女房をしながら『源氏物語』の執筆に励む。慣れない宮仕えで、同僚の女房達のいじめにもあうが、隣の局の小少将や左衛門の内侍と親しくなり宮中での暮らしにも馴染んで来ている。彰子に仕えるうちに『源氏物語』は彰子に捧げるものだと感じるようになり、人々に知れ渡っていない彰子の本質に気づき惚れ込むこむようになる。帝と彰子の仲をさらに深める為に、帝が寵愛していた先の中宮である定子が作った定子サロンのように、彰子を主人とする輝かしい彰子サロンを作ることが彰子のためになる、と思うようになりサロン作りにも奔走する。

彰子(しょうし)

藤原道長と倫子の長女。幼い頃から中宮となるべく育てられ12歳で入内。
たいへん奥ゆかしい性格で周囲の者たちには無口で頼りなく見えているが、育てている亡き前中宮の息子・敦康親王の前では気を許し明るく振る舞える。
藤式部と出会い徐々に中宮として成長してきている。帝を心の底から慕っている。

帝(みかど)

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