神田ごくら町職人ばなし(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『神田ごくら町職人ばなし』とは、坂上暁仁によって描かれた日本の漫画作品。2020年12月にリイド社の時代劇漫画雑誌『コミック乱』に短編漫画として掲載され、webサイト「トーチweb」で公開されている。2023年に、宝島社が発行する『このマンガがすごい!』のランキングで「オトコ編」の第3位にランクインした。江戸に住む職人たちの日常や匠の技、心意気を描いた物語。

『神田ごくら町職人ばなし』の概要

『神田ごくら町職人ばなし』とは、坂上暁仁によって描かれた日本の漫画作品。2020年12月に、リイド社の時代劇漫画雑誌『コミック乱』に短編漫画として掲載され、webサイト「トーチweb」で公開されている。主に1話完結型の短編として描かれているが、2話から3話ほどで完結する話もある。
圧倒的な画力で描かれた繊細な絵柄や、歴史的背景に沿ったリアルな描写が人気を博し、2023年には宝島社が発行する『このマンガがすごい!』のランキングで「オトコ編」の第3位にランクインした。
物語の舞台は、江戸時代の神田にある「ごくら町」。各話ごとに、桶職人、刀鍛冶、紺屋、畳刺し、左官などの職人たちをピックアップし、その人物たちの日常や匠の技、心意気を描いた作品である。

『神田ごくら町職人ばなし』のあらすじ・ストーリー

桶(おけ)職人編

ごくら町の桶職人として働くとある女性は、材木を売っている商人から桶づくり用のサワラ材を買い求めた。「他の桶屋はみんな杉を使っている」と不思議そうにする商人に対して、女性は「杉はかおりが強すぎるんだ」「飯びつにつかうと米にかおりがしみついてしまう」と返し、サワラ材のみを購入して去っていく。
桶屋に戻り、黙々と作業を進める彼女のもとには、桶の修理を依頼する者やアドバイスを求める者が多く訪れる。それら全てに対応しながら新しい桶も仕上げた女性は、作業場で1杯の酒を煽り満足気に微笑んでいた。

刀鍛冶(かたなかじ)編

ごくら町では、「サムライが往来の邪魔だという理由で子供を斬り、その子の父親がサムライの刀を奪って斬り返した」という噂が流れていた。刀鍛冶の男性は、自分の弟子たちがその話で盛り上がっている様子を見て、仕事に戻るように指示を出す。
仕入れたばかりの造鋼(つくりはがね)を全て弟子たちに鍛えさせた彼は、本来は刀3本分となるそれを全て使い、純粋な鋼のみで1本の刀を作り始めた。「そんな鋼の使い方はもったいない」という弟子たちに、彼は「この刀は純な鋼だけで作りたい」と話す。刀は通常、やわらかい柔鉄(なまかね)で作られた芯鉄(しんがね)と、硬くて丈夫な鋼でつくられた皮鉄(かわがね)を組み合わせて作ることで「折れず曲がらずよく斬れる」ものが完成する。そのため、芯鉄を入れない刀は「コストがかかる割にしなやかな刀にはならない」と弟子たちは判断した。しかし、噂で子供を斬った刀は自分たちの師匠である彼が作ったものであるという話を聞いたため、彼にも思うことがあるのだろうと察し、止めることはできずにいた。
鋼のみで作られた刀は、とある武家屋敷に献上される。武士はその刀を持った瞬間、自分の腕が斬られたような錯覚を起こし、「斬れすぎる」という評価を下す。そして刀は、使われることはなく、武家屋敷の床の間に飾られることとなった。

紺屋(こうや)編

藍染め職人として働くとある女性は、小袖の意匠(デザインや構図)について悩んでいた。友禅染めが流行っている中、彼女は自分の仕事である藍染めのことが好きになれず、桶職人の女性に相談する。「本当は友禅染めのような鮮やかな小袖を作りたい」と話すと、「なんで紺屋職人なんてやってるのさ」と聞かれ、「自分はそれしかできることがないから」と返すしかなかった。
彼女は流行りのものを見たいと思い、藍染めも友禅染めも扱っている太物屋を訪れる。そこで「白あがり」という友禅染めの技法を用いた藍染めを見せてもらい、自分が今まで考えていた意匠が藍色の見栄えを考えていなかったことに気付いた。「藍色が1番生きる意匠」をテーマに図案を考え、完成させた彼女の藍染めは、店の主人はもちろん、町中の人々からも好評をもらうこととなる。

畳刺し(たたみさし)編

とある畳屋の職人たちは、畳の張り替えを行うために吉原遊郭の大黒屋(だいこくや)を訪れた。部屋数が多いことから、職人たちは手分けして作業に取り掛かる。畳屋の一員として来たとある若い男性は、花魁の花里(はなざと)の部屋の担当になるが、彼女の客が中々帰る気配を見せず、作業を始められないでいた。
鬱陶しい客にうんざりしていた花里は、畳の張り替えを始めた男性を気に入り、彼の懐にお駄賃を入れる。今度は客として来るように伝えて満足した花里は、張り替えたばかりの畳の上に満足そうに寝ころんだ。

左官(さかん)編

ごくら町には「町の象徴(かお)」とも言われる立派な土蔵があった。長七蔵(ちょうしちぐら)というその蔵は、高名な左官職人・長七(ちょうしち)が建てたもので、町に住む者で知らない者はいないほど有名な蔵である。

蔵の建設が始まった100年前、親方を務める長七の前に上方で左官職人をしていた甚三郎(じんざぶろう)と名乗る男性が現れた。左官屋の親方・長兵衛(ちょうべえ)に気に入られた彼は、しばらく長七の弟子として蔵の建設を手伝うこととなる。
確かな腕を持った甚三郎が加わったことで長七の仕事は順調なものの、職人歴は長いが中々仕事が上達しない源助(げんすけ)や、喧嘩っ早くすぐに問題を起こす六次(ろくじ)といった厄介な弟子たちに頭を悩ませていた。皆をまとめる立場にいることをずっと不安に思っていた長七は、甚三郎に「自分が女でありながら頭をやっているから皆の目が変わる」と悩みを打ち明ける。すると彼は女性であることは関係ないと前置きし、職人という生き物の気難しさを指摘して接し方のアドバイスを送った。
彼女が弟子への接し方を改善しようと考えている中、六次が源助を一方的に暴行する事件が起きる。なんとかその場はおさめたが、六次が「オメーにカシラの器はねえ」と言い放ち、左官屋を辞めてしまったことから、長七は「人を引っ張れるような器も自信もない」と落ち込んだ。長兵衛にそのことを話し、彼女自身も辞めようとしたが、「お前がこの仕事を辞めるのは許さん」と拒否されてしまう。職人をよくまとめられていることや、建設中の蔵が格好のいいものになっていることを褒められ、自信を持つように諭された長七は、改めて左官職人として弟子や仕事に向き合うことを決めた。

順調に蔵の建設が進み完成に近づき始めた頃、六次が再び残っていた職人たちに暴力を振るい、蔵の一部を破壊する事件を起こす。弟子に呼ばれた長七が駆け付けると、先に到着した甚三郎が六次を止めた後だった。それを見て彼女は動揺したり怒ったりすることなく作業のやり直しを指示したが、甚三郎が六次の腕を折ろうとしているのを見て彼の胸倉をつかむ。「仕事の邪魔をしてくるし、2度と職人と名乗らないように腕の1本くらいもらった方が良い」という彼の考えに、長七は「職人がヤクザの真似事してんじゃないよ」と怒鳴りつけ、相手の生計を断つようなことをするのは間違っているという考えを示した。
数か月後、長七が最後の仕事である観音扉の黒漆喰仕上げを終え、無事に蔵が完成した。彼女は甚三郎が担当した蔵の中の茶室を見て、彼の職人としての腕の良さに改めて感動する。本人に感想を伝えると、「あの茶室はまだ完成してへん。主が使い込めばそれだけ茶器や鉄瓶のようになじんでいくんや」と言われ、100年後にやっと完成するのだと教えられる。長七が100年後に思いを馳せる中、甚三郎は茶室作りで余った土と茶室の未来を彼女に任せ、旅に出るのだった。

『神田ごくら町職人ばなし』の登場人物・キャラクター

職人

桶(おけ)職人

ごくら町で桶職人として働く女性。本名は明記されていない。
桶づくりに関する知識が豊富で、使用する木材にも強いこだわりを持っている。作業の最中も修理の依頼を受けたり、困っている人にアドバイスをしたりしていることから、町の人たちから頼りにされていることが分かる。

刀鍛冶(かたなかじ)

ごくら町で刀鍛冶として働いている男性。本名は明記されていない。
弟子を複数人抱えている刀匠で「金や仕事なんざどうだっていい」と発言しており、自分の納得する刀を作ることに強いこだわりを見せている。彼が「純な鋼だけで作りたい」と言って仕上げた刀は、「斬れすぎる」という理由で使われることはなく、武家屋敷に飾られた。

紺屋(こうや)職人/藍染め(あいぞめ)職人

ごらく町で紺屋職人(藍染め職人)として働く女性。本名は明記されていない。
彼女が作る藍色は、「深みがある」と言われ人気がある。しかし、意匠は「面白味がない」と言われボツになったことから、しばらく悩んでいた。自分の仕事である藍染めよりも、町の流行りである友禅染めの方が良いと思っていたが、両方の良さを取り入れることで自身も納得できる藍染めを完成させることができた。

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