LAMB/ラム(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『LAMB/ラム』とは、ある夫婦が羊から生まれた羊ではない「何か」を我が子として育てるスリラー映画。アイスランド・スウェーデン・ポーランドの合作だ。「何か」の特異なビジュアルがSNSを中心に話題を呼んだ。
『プロメテウス』、『ミレニアム』シリーズで知られるノオミ・ラパスが主演・製作総指揮を務めた。
第94回アカデミー賞国際長編部門のアイスランド代表作品に選出、第74回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門でオリジナリティ賞を受賞するなど、世界的な評価を得ている。

『LAMB/ラム』は霧深いアイスランドの山地の景色から始まる。霧の中を進む馬たちが、何かを感じ取って動揺を見せる。そしてマリアとイングヴァルの羊小屋の羊たちも、馬たちの不安が伝播するように騒ぎ出し、小屋の外の何かを見つめる。
この一連のシークエンスには、恐怖の対象となる姿は一切映らない。そのため視聴者は「山に何かがいる」というぼんやりとした予感だけを覚えて物語を見続けることになる。その正体が明らかになるのはずっと後、イングヴァルが撃ち殺されるクライマックスシーンだ。猟銃を構える羊頭の獣人が、馬や羊たちを怯えさせていた怪物(あるいは神聖な生き物かもしれない)の正体だ。マリアとイングヴァルの目を盗んで羊小屋に侵入し、メスの羊を妊娠させたのだ。そして、自分の子どもを取り返しにやってくる。
『LAMB/ラム』はストーリーの大部分を台詞で語らず、映像だけで説明する作品だ。明言されない情報はたくさんあるが、何かに怯える馬や羊たちだけで怪物の存在を示唆する冒頭のシーンは『LAMB/ラム』を象徴していると言える。

マリアとイングヴァルのセックス

物語の中盤、ペートゥルがアダを連れて出かけている間に、マリアとイングヴァルがセックスをするシーンがある。言葉少なに淡々と進行する映画の中で唐突に挿入されるラブシーンは、観る人によっては少々唐突に感じるかもしれない。だが、本作は徹底して、台詞ではなく絵で語る作品だ。この場面にも様々な意図が含まれている。
それは「我が子の喪失から立ち直りつつある夫婦の姿」かもしれないし、「夫との時間を過ごす余裕を取り戻したマリアの姿」かもしれない。中には、ラストシーンでマリアが自分の腹を見ているように見えることから「クライマックスで夫とアダを一度に失ったマリアだが、イングヴァルとの性行為で子どもができており、再び自分の人生を取り戻す」と読み解いた人もいる。解釈は人それぞれだ。

『LAMB/ラム』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

イングヴァルを殺したのはアダの本当の父親

イングヴァルを撃ち殺したアダの父親。

本作は、ストーリーの大部分が明示・明言されない形で進んでいく。クライマックスでイングヴァルが撃たれる場面でようやく、猟銃を盗んだり犬を殺していたのが羊の頭を持つ獣人の男であることが判明する。一切のセリフがないためわかりにくいが、彼はアダの血の繋がった父親だ。

神話や聖書と関係の深いストーリー

本作はギリシャ神話や聖書との関係性が深い物語だ。アダの母親となるマリアは名前の通り「聖母マリア」、その夫イングヴァルは「マリアの夫ヨセフ」…といったように、聖書の中に多くのモチーフを発見することができる。
また、アダの本当の父親である羊頭の獣人は、ギリシャ神話に登場する半人半獣の精霊、あるいは怪物の「サテュロス」であるという見方もある。サテュロスは豊穣を司り、踊りや音楽を愛する。作中では、アダを含めた一家が音楽とダンスを楽しむシーンがある。
本作は台詞で多くを語らず、ほとんど絵だけで物語を説明する作品だ。そのためネットで検索するだけでも多くの考察を見つけることができるし、監督のインタビュー記事も本作を読み解く大きなヒントになる。エンドロールの後にも多くの楽しみがある映画なのだ。

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@shuichi

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