艦隊のシェフ(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『艦隊のシェフ』とは講談社『モーニング』にて2021年43号から連載中の海軍グルメを題材にした漫画作品。原作・池田邦彦、作画・萩原玲二、監修・藤田昌雄の3名により制作。第二次世界大戦下、太平洋で最前線にいた大日本帝国海軍の駆逐艦・幸風(さちかぜ)。その艦の中で兵士たちのために毎日食事を作り続ける男たち・烹炊兵(ほうすいへい)の姿を描く。

『艦隊のシェフ』の概要

『艦隊のシェフ』とは原作・池田邦彦、作画・萩原玲二、監修・藤田昌雄による日本の少年漫画。講談社『モーニング』にて2021年43号(2021年9月22日発売)から連載されている。戦争漫画では珍しい「海軍グルメ」を題材にしている。話数は「第○糧食(りょうしょく)」と記載される。
単行本巻末では「海軍グルメ」を現代に伝える「呉海軍グルメ研究会」とコラボし、海軍グルメを提供する店の紹介、監修の藤田による物語の解説などが掲載されている。
物語の舞台は第二次世界大戦下、太平洋で最前線にいた大日本帝国海軍の駆逐艦・幸風(さちかぜ)。その艦の中で兵士たちのために毎日食事を作り続ける男たち・主計兵(しゅけいへい)と。主計兵らは限られた食材や調理法を駆使しながら、戦闘には携わらず、ひたすら兵士たちの腹と心を満たしていく。
「戦争」という非日常の中での「食事」という日常を通して、兵士たちの様々な心情を描いているところが見所。補給食糧の砂糖に自分たちは見捨てられていないと思いを馳せる陸軍兵、亡くなった妹との思い出の料理を食べ再び前を向く兵など、食べ物が人の心を満たしていく様子がしっかりと描かれている。

『艦隊のシェフ』のあらすじ・ストーリー

賀津夫と海原の出会い

第二次世界大戦下、大日本帝国海軍の駆逐艦・幸風には239名の乗組員がいた。彼らの食事作りを行う烹炊所(ほうすいじょ)は一等主計兵・海原衛(かいばら まもる)が取り仕切る。海原は自分の作った食事を美味しそうに頬張る乗組員たちを見るのが好きだった。
ひとたび戦闘状態になれば献立はすぐに戦闘食に切り替えられ、主計兵らは轟音の鳴り響く中握り飯を握る。この日はミッドウェイ海域で戦闘に突入した幸風。海原は乗組員に戦闘食の五目握り飯を届けた後、ふと外に目をやる。そこには爆撃を受け沈没していく空母・蒼龍(そうりゅう)の姿があった。幸風はすぐさま生存者の救助にあたる。
翌日、海原は漂流していた1人の青年を救助する。しかし青年は言葉を発さず、所属もわからない。そこで海原は上官用の白米を握り飯にして「日本一美味い握り飯だ」と青年に渡した。海原が日本一美味いと思う「握り飯を握った後に掌についた飯粒」も全部握り込んで作ったのだ。青年は握り飯を頬張りながら「うまいっす」と涙を流し呟く。
青年は名を湊谷賀津夫(みなとや かつお)といい、蒼龍に乗り組んでいた三等主計兵だった。

主計兵の仕事

蒼龍の生存者は既に医療設備のある艦へ引き渡しが終わっていたため、賀津夫はしばらく幸風の烹炊所で働くことになった。
空母に比べ小さな駆逐艦は揺れが激しく、賀津夫は仕事にならない程の船酔いに苦しむが、海原からアドバイスを受け克服。同じように船酔いで食事も取れない通信長・鈴木(すずき)を、賀津夫は実家の西洋料理屋で覚えた生姜入りカレーで回復させる。上官である鈴木から礼を言われた賀津夫はその姿に言葉を詰まらせる。私的制裁を認めない艦長・寺田(てらだ)を始めとした幸風の雰囲気の良さに驚く賀津夫だった。
ある晩、呉鎮守府病院(くれちんじゅふびょういん)内科院長・岡島(おかじま)が脚気の検査と麦の消費確認にやってきた。ビタミンB1の欠乏で発症する脚気は日本国内でも多数の死者を出していたのだ。海軍では予防の為に栄養豊富な麦飯を主食としていたが、白飯より味の劣る麦飯は兵たちに好まれず、艦によっては隠れて麦を処分していたのだ。岡島は幸風の乗組員らが夕食に白飯を食べていたのを見て、麦の処分を疑った。そこで海原は翌日の朝食を岡島にも食べてもらうことにする。白飯を出され憤慨する岡島だったが、寺田がおかずの煮込みも食べるように言う。煮込みを食べた岡島は中に入っていた麦に驚く。寺田は「白米を腹一杯食べられると期待して海軍に入った兵たちも多い。日々兵たちの期待に応えられるよう主計兵たちは知恵を絞っているのです。艦の乗組員は皆、自分の仕事を心得ておりますよ」と岡島に言う。岡島は乗組員らに謝罪した。
その後、新たな配属命令を受けるため呉で幸風を降りた賀津夫。しかし下された配属先はなんと幸風であった。賀津夫は正式に幸風へと乗り組むことになった。

賀津夫の父と海原の過去

幸風はガダルカナル島奪還の戦いに参加するため、新たに水雷兵・柴田(しばた)を加え母港の呉を出発。以前上海方面に配属されていた柴田は、かつて賀津夫と同じ「湊谷」という名の男が上海にいた話をする。賀津夫が「それは俺の親父です」というと周囲は驚いた。すでに亡くなっていたものの、上海の海軍の中では英雄とされていたからだ。賀津夫の父は「上海水交社(しゃんはいすいこうしゃ)」という海軍幹部用施設の運営組織で、料理人として働いていた。ある時、賀津夫の父は、上海のシンボル爆破を計画するゲリラ部隊の動きを察知した。ゲリラ部隊は爆破を日本軍の仕業に見せかけようとしていたのだ。彼は危険を顧みずに上海の日本軍本部に走り伝え、食い止めに成功。それが英雄とされる所以だった。しかし賀津夫にとっては「家族をほったらかしにした薄情な父」に変わりはなかった。
その頃、士官食を担当する柳原(やなぎはら)は、寺田からチャプスイという料理を頼まれ対応に窮していた。海原にレシピを教わる柳原。その会話を小耳に挟んだ賀津夫は聞き覚えのあるレシピにハッとする。父の考えたレシピと同じだったのだ。賀津夫は父を知っているのかと海原に尋ねるが、海原は否定する。
寺田はチャプスイの注文が賀津夫の父と海原の関係を匂わせる結果になった事を「迂闊だった」と海原に謝罪。海原が上海にいた事は絶対の秘密なのだと寺田は言った。するとその時、幸風に向かって敵潜水艦から二発の魚雷が発射される。寺田はすぐさま回避指示を出す。しかし柴田が「回頭が間に合わない。一発は当たる」と言う。乗組員総出で必死に回避する中、海原が賀津夫に「お前にだけは言っておきたいことがある。俺は…」と言いかけた瞬間、幸風を衝撃が襲う。寺田の巧みな操縦のお陰で、幸風は損傷を負った程度で危機を回避。賀津夫はあの時何を言いかけたのかと海原に問うが、海原は濁すだけだった。

地獄の島ガダルカナル

ガダルカナル島の陸軍への補給任務にあたる幸風。任務は撃沈される艦も増えたため、物資を詰め込んだドラム缶をロープで繋ぎ、海に投げ込む形で行われていた。ある晩、転倒し甲板をゴミで汚してしまった賀津夫。それを目撃した水平長・葛城(かつらぎ)は失敗につけ込み「口で謝るだけじゃなく、何か持ってくるもんだ」と賀津夫に砂糖を要求してきた。賀津夫は渋々渡すが、葛城はその砂糖や自分の戦闘食を食べずにドラム缶に入れていたのだ。「弟が陸軍にいるもんでな」と言う葛城。ガダルカナル島に弟がいるのか不明な上、わずかな砂糖や食料を送ったところで何千もの陸軍兵が助かるわけでもないと賀津夫は考えるが、それを聞いた海原は厳しい顔で「それは違う」と嗜めた。
夜間にドラム缶のロープはずれに気づき結び直していた賀津夫は、投げ込みに巻き込まれドラム缶と共に海に投げ出されてしまう。投げ込みを終えた幸風は退避してしまい、賀津夫はガダルカナル島の陸軍の幕舎に合流することになった。兵たちはドラム缶に入った砂糖を見つけ喜ぶ。「甘いものを口にできる以上に、俺たちは見捨てられていないんだとわかって嬉しい。誰かが俺たちの事を考えてくれている。その事が嬉しいんだ」と言う兵たち。賀津夫の脳裏には「それは違う」と嗜めた海原の顔が浮かんだ。
炊事担当の秋山(あきやま)と話す賀津夫。陸軍の料理教科書を見ながら、わかりやすくて料理人としての意欲が湧くと言う賀津夫に、秋山は「そんな本は必要ない。俺は命じられてエサの面倒を見ているだけだ。料理人?笑わせてくれるぜ」と言う。陸軍は海軍と違い、補給が切れれば野草やトカゲなどを食べて命を繋ぐ。腹が満たされればなんでも良いのだ。それを聞いた賀津夫は1人で海を見ながら考え込む。
総攻撃の出発前、賀津夫は食事作りを頼まれる。焼き味噌の握り飯を作ると、兵達は「日本の味だな」と嬉しそうに頬張った。秋山は「こういうものを食うと、少し人間らしい気持ちになるな」と呟き、「山岡(海原の事)を始末するのが俺の役目なんだよ」と言い残し出動していった。
その後も賀津夫は幸風には戻れず、残された傷病兵や看護兵と共に幕舎で過ごしていた。食料も医療品も極度に不足した状態でマラリアが蔓延し、命を落とす者も毎日のようにいた。賀津夫もマラリアに感染し、同い年の陸軍兵・深山(みやま)と共に病床に伏せた。深山には海軍に所属する兄がいた。厳しい訓練の後に甲板で食べる親子丼が美味いという兄の話を賀津夫に聞かせ、自分にとって親子丼は憧れなのだと力なく呟いた。数日後、新型の海軍機がやって来てようやく補給物資が届く。中には肉や卵もあった。体調が回復した賀津夫は早速親子丼を作り、深山の所へ運ぶ。深山は涙を流しながら嬉しそうに親子丼を頬張った。
翌朝、賀津夫が目を覚ますと隣に深山の姿はなかった。深山の遺体を目の前にした賀津夫は絶望し「どうなっちまうんだよ…」と項垂れる。

日本の勝利のために

補給にやってきた駆逐艦・轟(とどろき)に乗り込むことに成功し、ようやく幸風に帰還できた賀津夫。しかしマラリアが再発し寝込んでしまう。回復してきた賀津夫は粥を持ってきた同僚の名取(なとり)に白米を希望するが、戦局の悪化で糧食不足に陥っている事を知らされる。
その日の昼食はフスマ入りのうどん。小麦粉不足による苦肉の策である。ガダルカナルで野草まで食べていた賀津夫は、食べられるだけでありがたいとは思うものの、その不味さに顔をしかめる。それを物陰から先輩・今野(こんの)が見ていた。翌日の朝食も昨日と同じ材料のうどんだったが、味が全く違う。驚く賀津夫に海原は「フスマ入りのうどんは、どれだけ力を入れて捏ねるかが味を左右すると考えていたが…」と言う。その捏ね役を買って出たのが今野だった。今野は艦から落ちた賀津夫をずっと案じていたのだ。礼を言う賀津夫に、普段は無口な今野が涙を流して生還を喜んだ。その時、幸風の近くに停泊していた駆逐艦が襲撃を受け撃沈させられた。
翌日、撃沈した駆逐艦に乗り組むはずだった楠田(くすだ)中佐と楠田の従兵である主計兵・清水達雄(しみず たつお)が幸風に乗り組んできた。更に次の任務が東南アジア方面の哨戒任務と聞き、意図不明な人員補充と任務に賀津夫たちは首をかしげた。
ある日、幸風の調査隊は近くの島で糧食調達を行った。しかし手に入れた米は、現在ではタイ米と呼ばれる南京米(なんきんまい)という独特な香りの米で、海原ですらお手上げ状態である。賀津夫はなんとか美味しく食べられないかとあれこれ手を尽くすが上手くいかない。そんな賀津夫を見て清水は海南鶏飯のレシピを教える。どこでそんなレシピを覚えたのかと尋ねる賀津夫に、清水は家が貧しかったから安い南京米を食べているうちに自然に覚えたのだと言う。それを聞いた海原は清水を怪しむ。
幸風はラバウルに到着し補給品の積み込みを行った。中にはラバウルでも不足する貴重な医薬品もあり、楠田の管理品だと聞いた賀津夫はどこに運ぶのかと疑問に思う。その後ラバウルを出発した幸風は敵艦を発見し、撃沈のチャンスだと戦闘配置に入ろうとする。しかし楠田は自身の特命任務が予定より遅れていると敢えて見逃すよう指示。寺田や士官らは反発するが、楠田は強行し先を急がせた。そして船と落ち合い医薬品を別の物資と交換したのだ。海原は楠田の任務が「戦費調達のための物資の売買」だと見抜いた。
翌日、幸風は漂流していた日本兵を救出する。乗り組んでいた潜水艦が楠田の逃した敵艦に撃沈させられたのだ。駆逐艦として敵艦を逃したことが、幸風全体の士気を下げていると士官らが反発を始める。楠田は任務隠蔽は困難と判断し「戦費の調達は敵艦一隻を沈めるより日本の勝利に貢献する。生粋の駆逐艦乗りである君たちには煮え湯を飲まされるに等しい心情だろうが協力してほしい」と頭を下げて寺田や士官らに協力を仰ぐ。これにより幸風は楠田の特命任務中は敵艦への攻撃を控える事になった。
名取はこそこそ隠れて行う楠田や清水の任務は汚いと言う。当時海軍は敵でも非武装の船は攻撃しない、卑怯な事はしないとしていたからだ。しかし戦争をするのであれば、汚いことや憎まれることも必要なのではないかと考える名取。「それが嫌なら戦争を始めるべきではない」と名取は賀津夫たちに言った。

『艦隊のシェフ』の登場人物・キャラクター

幸風の主計兵たち

湊谷 賀津夫(みなとや かつお)

物語の主人公で広島県出身の17歳。物語当初は三等主計兵だったが後に一等主計兵となる。
自分の意見も臆さずに言い、食材調達の際は現地民に受け入れてもらうため自らニワトリの真似をするなど明るい性格。時々キツネのような表情もする。
元々は航空母艦・蒼龍(そうりゅう)に配属されていたが、ミッドウェイ海戦で蒼龍が撃沈、漂流していたところを幸風に救助され一時的に乗り組む。この時自分だけ「しごき」がないのではと勘違いし、自分もしごきを受けると申し出るなど真面目な性格も垣間見える。その後再配属で正式に幸風の乗組員となり、海原の元で烹炊員として働く。
実家が西洋料理屋のため、料理好きで知識も豊富である。料理人の父のことは「家庭をほったらかしにした人」と捉えている。
配属当初は料理屋とは違う艦の烹炊の仕事に不満を抱いていたが、兵たちの笑顔を見られる仕事だと気づいてからは、やりがいを持って働くようになる。幸風の気持ちの良い雰囲気を好んでおり、思慮深く頭のキレる海原を尊敬している。

海原 衛(かいばら まもる)

幸風の烹炊所リーダー。一等主計兵から後に主計兵長となる。
料理の腕は良く、別に主計長がいるものの烹炊所について一任されている。以前は上海陸戦隊(しゃんはいりくせんたい)に所属していたが、その経歴は隠され名前も変えている。艦長・寺田のみがその詳細を知っている。昔の海原を知る者は皆「山岡(やまおか)」と呼んでいる。
思慮深く、上官にも臆さず筋の通った意見を言うため一目置かれている。
左眉に大きな傷があり、海軍大将・山本五十六に会った時に驚いて包丁を持ったまま敬礼してつけたものだと噂されるが、賀津夫は右利きの海原が左に傷をつけるとは考えられず、疑っている。

柳原 譲(やなぎはら ゆずる)

幸風の二等主計兵で後に上等主計兵となる。お調子者で明るい性格をしており、自身の料理の腕を過信しているような発言も多々ある。しゃくれた顎が特徴。
パイロットに憧れており、パイロット養成制度である飛行予科訓練生(通称・予科練)の受験経験がある。
カレイをヒラメと勘違いして提供し、士官食担当を降ろされかけるが海原のアイデアで助けられるなど、少々抜けているところもある。

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