9-nine-ここのつここのかここのいろ(9ここいろ)のネタバレ解説・考察まとめ

『9-nine-ここのつここのかここのいろ(9ここいろ)』とは、株式会社クリアレーヴのゲームブランド、ぱれっとによって制作された恋愛アドベンチャーゲーム。シリーズ4作と新章からなる『9-nine-(ナイン)』シリーズの第1作目となる本作は、ヒロインの1人である九條都に焦点を当てたストーリーとなっている。異能を手にしたことで揺れ動く心情に葛藤するお嬢様“都”とぶっきらぼうな主人公の恋模様を描く。美麗なグラフィックからは想像しがたい過酷なストーリーに、プレイヤーを絶望に追い込んだ衝撃作である。

『9-nine-ここのつここのかここのいろ』の概要

『9-nine-ここのつここのかここのいろ(9ここいろ)』とは、ぱれっとが開発した恋愛アドベンチャーゲームであり、ぱれっととして14作目の作品となる。『9-nine-』シリーズの第1作目として発売された本作は、ヒロインの1人である「九條都(くじょうみやこ)」に焦点を当てたストーリーとなっている。
18禁となるWindows版が2017年4月28日に、Steam版が2019年2月1日に発売され、2021年4月23日にシリーズ4作と新章をまとめた全年齢対象版のコンプリートパッケージが発売された。また、『9-nine-新章』も同日にDMM GAMESにて単品ダウンロード配信されている。

舞台となるのは、学園都市であること以外になんの特色もない街である、白巳津川市(しろみつがわし)。主人公の新海翔(にいみかける)は、ここで学生として平穏な毎日を送っていた。しかし、白蛇九十九神社(はくだつくもじんじゃ)に祀られた神器が破損したことで異能に目覚めた少年少女が、数奇な運命に巻き込まれる。
本作のキャッチコピーは「この世界は、キミを「 」した物語だった——。」「ここから始まる物語——。」
主人公の新海翔とヒロインの1人となる九條都は、ある事件の真相に迫っていく。

終始美麗なグラフィックで進む物語からは想像ができない過酷なストーリーは、多くのプレイヤーの心を惹きつけた。都の魅力を存分に引き出しながらも、続編の内容を大いに期待させる作品となっている。

『9-nine-ここのつここのかここのいろ』のあらすじ・ストーリー

変化する日常

アルバイトでコスプレをする都

白巳津川市に住む新海翔(にいみかける)は、白蛇九十九神社で開催されているフェスにアルバイトとして訪れていた。このフェスは、白巳津川市がスポンサーとなって作られたアニメ、『輪廻転生のメビウスリング』に由来されたもので、地域振興を目的とし毎年開催されているものであった。
しかし、大きな地震の発生によりフェスが中止となり、神社に祀られていた神器も破損してしまう。神社の巫女であり、翔の担任の先生である成瀬沙月(なるせさつき)は、遊びに来ていた翔の妹である新海天(にいみそら)とともに帰宅を促す。コスプレのアルバイトとして参加していた九條都(くじょうみやこ)は、誘導に従わず自分を撮影し続ける参加者に困り果てており、その様子を気にしつつも、翔は一人暮らしをする部屋へ、天は実家へ帰宅する。
その後、翔が夕食に訪れた店は、都のアルバイト先でもある喫茶ナインボールであった。そこで翔は、フェスで拾ったヘアアクセサリーの持ち主を探している、と都に話しかけられる。この店の常連でありつつも、アルバイトの都とは一切会話がなかった翔は少し動揺するも、身に覚えがないことを告げる。
食事を終え店を出た翔は、腹ごなしを兼ねて神社を訪れる。フェスの名残は一切なく、静寂を取り戻した境内は薄暗く不気味であり、翔は足早に帰路に付こうとした途端、視覚の端に異物を捉える。確認すると、それは奇抜なデザインをしたぬいぐるみであった。これもフェスの落とし物だろうと考えた翔は、落とし主が見つけやすい位置に移動させ、その場を後にした。

翌日、待ち構えていた天と学校へ向かう道中、美少女が男子に囲まれていた。必死に口説こうとしている男子たちに美少女はひどく困っている様子であったが、いじめられているような状態ではなかったため、その集団の横を足早に通り過ぎる。教室に入り席に着いた翔は、フェスの落とし物である髪飾りを深刻そうな顔で見つめる都を気にしつつ、友人の深沢与一(ふかざわよいち)と言葉を交わす。放課後になり、翔は話し込んでいた成瀬先生と都の元に呼ばれる。何か変わったことがなかったか成瀬先生に尋ねられるも、翔はそれを否定。何かあったのか尋ねると、都が拾った髪飾りが勝手に移動し、気付いたら手元にある状態が続いたため、怖くなり成瀬先生にお祓いをお願いしていたことを知る。悪いものではなさそう、という成瀬先生の助言もあり、様子を見ることとなる。こんなことがあった手前、都を送っていってあげなさいと成瀬先生に言われるも、都は大丈夫であることを翔に告げ、下校していった。

その夜、天との外食を済ませた翔が部屋に戻ると、神社に落ちていた奇抜なデザインをしたぬいぐるみが枕の傍にあった。どうしてここにあるのか考えて気味が悪くなりながらも、天の忘れ物だと思い棚に置き直す。

人体石化事件

登校後教室へ入ると、公園に突然リアルな女子学生の石像が設置された、という噂を与一から聞く。確認しに行ってみようと話していると、都が「私も行っていい?」と会話に割って入ってきたため、放課後3人で公園を訪れる。公園のベンチには、苦悶の表情を浮かべた女子学生の石像が座っていた。爪の一部があまりにもリアルであったため、気になった与一が爪に触れると、その爪が落ち、指から血が流れ始める。その異常な事態に翔は警察に通報し、その場を後にするのであった。
バイトの都を含む3人はナインボールを訪れる。そこには石像と同じ制服を着用したボーイッシュな女子学生が1人、パフェを頬張っていた。その子も翔と同じくナインボールの常連であり、いつもパフェを食べているため、翔は“パフェクイーン”と勝手に呼んでいることを与一に話す。帰宅後は都とスマホアプリのLINGで連絡を取りつつ、今までの不思議な出来事に思いを巡らせながら眠りに就いた。

起床後に日課であるニュースチェックをしていると、“行方不明の少女 石像として発見される”という見出しの記事が目につく。様々な要因から、石像が行方不明となっていた女子学生本人と特定され、なぜ表皮が石化しているのかは不明であるという内容であった。「神器が壊れたせいで…白巳津川に厄が降りかかった。…なわけないか」と独り言をつぶやく翔の背後から、「いいえ、その通り。正解よ」と聞き覚えのない女の声が聞こえる。背後を確認するもそこに誰もいないことは、一人暮らしの翔にとって当たり前の事実であった。恐怖を覚えた翔は足早に学校へ向かっていった。

幻の火事

昼休みになり翔は購買へ向かおうとすると、突如火災警報知器が鳴り響く。その直後、天からの着信があり、クラスメイトが教室に放火し、天が逃げ遅れていることを知る。急いで教室に向かうも、そこは火の海であった。しかし、そこからは熱を感じず、煙も出ておらず奇妙な光景を目の当たりにする。消火器を使うも火は消えず、もう一本の消火器に手を伸ばした翔に、「新海くんはユーザー?」と都が問いかける。何のことかわからず戸惑う翔に、都は「私ならこの火を消せる」と力強い眼差しを向けた。その言葉を信じた翔は、都とともに放火したという天のクラスメイトの元へ向かう。そこでは狂った男子生徒が「力がぁ、勝手にぃい!勝手にいぃいい!」と奇声を上げていた。その男子生徒に向かって都は左手を突き出し、呪文のようなものを唱えると、左手の甲に紋章もようなものが浮かび上がる。それは狂った男の頬にも違う形で浮かび上がっていた。そして、男が所持していたアクセサリーが都の手の中に納まると、炎の渦は男を包み込んでいった。

放課後、都が使った超能力のような力の話をするために、翔の部屋で実験を交えつつ説明を始める。
「他人の持ち物の所有権を奪い、その持ち物に関する記憶まで消してしまう。この能力によって奪った物品は、問答無用で私のものになる。元の持ち主は奪われたことに気が付かないし、私が所有権を放棄しない限り、はじめから持っていなかったものとして振る舞う。所有権を放棄したあとも、奪われたことに気がつかない。持ち物に関する記憶が戻る代わりに、私が奪っていた間の記憶が抜け落ちるから。他人の大事なものを自分の所有物にしてしまう…盗人の力。発動条件は、対象の10メートル以内に近づくこと。そして対象物が私の視界に入っていること」
そして、都がアーティファクトと呼ぶアイテムを取り出す。それはフェスで拾った髪飾りであった。
「アニメ輪廻転生のメビウスリングの登場人物たちは、特殊な力を持っているの。その力は、それぞれ所有している専用のアーティファクトから引き出したもの。人が石化したのも、今日のことも、アーティファクトを所持するものによって引き起こされた事件」
理解はしたものの受け入れられずにいる翔に、そうだよねと都は微笑む。
「この髪飾りに触れた瞬間、力の使い方がわかったの。信じていなかったけど、好奇心もあって試してみたの…本物だった。そのあとも何度か実験して、確信した。この髪飾りはアニメと同じだって。アーティファクトと呼ぶべきものだって」
所有者を選ぶというアーティファクトに自分が選ばれ、盗人の力が自分に相応しい力である、と突き付けられたことにショックを覚えたことを都が話すと、「そんなに難しく考える必要はないわ。力に善悪なんてないのだから」と謎の女性の声が聞こえる。それは翔が何度か聞いていた声であり、都の後ろに鎮座する“落とし物のぬいぐるみ”こそがその声の犯人であった。

ソフィーティアとの出会い

そのぬいぐるみはソフィーティア(以下ソフィ)と名乗った。かんぬき代わりであった神器が地震により壊れてしまったことで、アニメと同じく異世界へのゲートが開き、ソフィの世界と繋がってしまった。ゲートを閉じない限りこの混乱は続く。アーティファクトはソフィの世界のものであり、ソフィはこれを回収しに来たのだと話した。アーティファクトを奪う能力を持つ都の力があればこの混乱を止められるかもしれない、と協力を仰ぐソフィに対して、盗人の能力に選ばれ絶望していた都は、二つ返事で承諾をする。
都とソフィの間でどんどん話が進み、完全に蚊帳の外に置かれていた翔であったが、その翔も間違いなくなんらかのアーティファクトに選ばれていることをソフィから知らされる。自覚していないのは珍しいケースであり、それはきっと普通じゃない力を得ておりトップクラスの危険度であることから最優先監視対象と判断され、ソフィが都ではなく翔の前に姿を現したのはそれが理由であった。現在一番危険とされる、魔眼の所持者であり石化のアーティファクトを持つユーザーを探し出してほしいと告げたソフィは、歪んだ空間に吸い込まれ、消えていった。

都は強い使命感と生来持つ正義感で、翔とともに石化事件の犯人である“魔眼のユーザー”を探し出し、この街を守ってみせると誓うのであった。

新たなアーティファクトユーザー

それから大きな事件もなく、平穏な毎日を過ごしていくなかで、天もユーザーであることを知る。その能力は、物や人を目立たせたり、逆に目立ちにくくすることができる、という存在感の操作であった。
その日はアーティファクトユーザー同士となった都、翔、天の3人で夕食を囲みながら、石化事件の犯人を捜す作戦会議を行っていた。そのなかで『輪廻転生のメビウスリング』のファンサイトである“アガスティアの葉”内の掲示板を監視している天が、エデンの女王と名乗る人物の書き込みを指さす。そこには、アーティファクトの力が暴走して、男性が自分に夢中になって困っている、と書き込まれていた。翔と天は登校中逆ハーレムになっている女子をよく見かけており、その子なのではないかと推測していた。この掲示板はファンによる“なりきり”での書き込みに紛れて、本物のユーザーの交流場所となっており、監視を続けている最中であった。また、以前3人でナインボールを訪れて以降、都が常連である“パフェクイーン”に睨まれるようになったと話す。アーティファクトの話を聞かれてしまったことが原因かもしれないと思い、その日の夜都と翔がナインボールを訪れると、やはり睨んでいるような視線をこちらに向け、それは異常を感じるほどであった。
“逆ハーレム女子”と“パフェクイーン”の2人もアーティファクトユーザーの可能性が高いと判断した翔は、ソフィにもその2人の情報を共有し、調査にあたることとなった。

ソフィは翔が提供した情報をもとに、アーティファクトユーザーを疑う1人である“逆ハーレム女子”を割り出す。名前はコウサカハルカ、翔より1つ年上であり、ソフィから見てもかなり怪しい人物であった。早速登校時に逆ハーレム女子である“コウサカ先輩”の集団を追うとそこには、同人物にも関わらず前のおどおどとしている状態とは真逆で、胸元をさらけ出し女王様のように振る舞う美少女が歩いていた。しかしその話し方にはぎこちなさがあり、違和感を覚える。真実を追うために手紙を書いた天は、アーティファクトの力を使い、その手紙を誰にも気づかれることなくコウサカ先輩のポケットに忍ばせてみせた。その手紙には、翔のLINGのIDとともに「エデンの女王はあなたですか?私はあなたの仲間だから、良かったら連絡ください」と記されていた。

その後、即座に「あなたは誰ですか?私と同じアーティファクトユーザーですか?」とメッセージが入る。放課後にナインボールで待ち合わせる約束を取り付け、アルバイトの都と向かうのであった。すでに来ていたコウサカ先輩の向かいに座り、自己紹介を交えつつ事の顛末を説明する。うつむいたまま翔を一切見ず、何か言おうとしても“どもって”しまう状態であり、終始おどおどしていたコウサカ先輩であったが、顔を伏せた瞬間コウサカ先輩をまとう空気が一瞬で変わる。そして顔を上げたコウサカ先輩は、自身に満ち溢れた表情で翔を見つめ、「香坂春風(こうさかはるか)ですわ。以後、よしなに」とまるで別人のように振る舞ってみせた。そして翔の手に自分の手を重ね「場所を変えませんか?」と誘い出そうとする。他人を魅了する能力で翔の頭が思考停止状態に陥ってしまいそうになるも、アルバイト中の都がそれを遮った。非礼を詫びた香坂先輩は、次会ったときに能力を明かすと告げ、ナインボールをあとにする。

香坂先輩が去ったあと、都はうしろにパフェクイーンが座っていることを翔に耳打ちする。視線を移すと相変わらず睨みつけていたため、翔はパフェクイーンの向かいに座る。そしていつも自分たちを睨んでいる理由を問うも、「私は石化の能力者ではない」と告げるのであった。核心を突くその発言に動揺を隠せない翔であったが、平静を装いつつ「やっぱりユーザーだったか」と漏らす。今までの会話が聞こえていたのなら話が早いと協力を仰ぐが、「石化の能力者は自分が裁くから邪魔をしないで。私の能力だけで十分」と翔たちをばっさり切り捨ててしまう。
その後、ソフィの調査によってパフェクイーンの名前は“ユウキ ノア”であることと、翔と同じ学年であることが発覚するのであった。

翔はソフィと情報を共有していくなかで、アーティファクトはユーザーを殺すか、ユーザーを仮死状態にするアンブロシアという名の霊薬を飲まないと回収できないことを知る。幻の火事を起こした男子学生のアーティファクトを奪った都は間接的にその男子学生を殺していたことになる、と話すソフィに翔は動揺しつつも、それは都に言わないでほしいと懇願する。それに対して「言っても仕方ないでしょう?都には役に立ってもらわなくちゃいけないんだから。心を挫くようなこと、言うはずがないじゃない」と返答し、歪んだ空間に消えていったソフィの一連の発言に翔は不信感を抱き、不安ばかり大きくなっていくのであった。

再び発生する人体石化事件

男子学生が本当に亡くなってしまったのか、情報を探そうとニュースサイトを開くと、そこには“二体目の石像を発見”と書かれていた。発見場所は前回の石化事件のすぐ近くであり、再び動き出した魔眼のユーザーはこの白巳津川に潜んでいることが確定事項となる。そのニュースを見た都から連絡があると同時に友人の与一からも連絡があるが見て見ぬふりをし、その後都は翔の部屋を訪れる。魔眼のユーザーを止めるためにアーティファクトの力を成長させたいと相談する都に、翔はどうして他人にそこまで真剣に頑張るのかと問う。「力を持つものが人を助けるのは当然であり、それは見ず知らずの人も一緒」と都は話し、もらったものは返すべきである、というお爺様の教えから築き上げられた信念が行動として現れていたものであった。自分とは根本的に考え方が違うことを目の当たりにするも、都のその強い意志を尊重した翔は「行けるとこまで行ってみよう。どこまでも付き合う」と誓うのであった。そして都のアーティファクトの力を成長させるために2人で試行錯誤する。その結果、視界に入らずとも対象が明確で場所が把握できていれば能力が発動することと、対象を元の位置に戻せることを導き出し、それは人の記憶にも干渉できるのではと翔は考えた。聞こえが悪い都の能力を“スティール”と言い換えることを提案し、「この勢いで初記憶スティールも試してみるか」と翔の記憶で試そうとした瞬間、玄関から音がする。天の声がしたと思ったら天と天以外の悲鳴が聞こえたため、玄関へ急ぐとそこには与一がおり、遊ぼうと連絡したけど返事がないから近くに来たついでに寄ったと話す。天を含む3人で今後の動きを話す予定であったが、与一が来てしまったことによりそれは中止となり、みんなで都が作った食事を囲むのであった。

その翌日、何か手がかりが掴めればと思い、翔と都は新たな石化事件が発生した場所に向かうが何も得ることはできず、前回の石化事件が発生した公園に足を運ぶ。ベンチに座り都の能力について話をしていると、「それがあなたの能力なのね」と物陰からゴスロリ様の洋服を身にまとった“ユウキノア”が現れる。翔たちをつけてきたと話すノアは、改めて結城希亜(ユウキノア)だと名乗り、自分の能力は“ジ・オーダー”であると話す。その様子から重度の厨二病患者であると翔は確信する。そんな希亜は、アーティファクトのユーザーでありながら能力が不明な翔が、石化の能力者ではないかと疑っていた。それを否定するために、都は翔の記憶を奪い無実を証明しようとする。しかし、記憶を奪うことには成功するも、都は酷く動揺していた。「新海くんは無実…でも…今日は帰るね…」と都は言葉を濁し、そのまま帰ってしまう。その様子に希亜は更に疑いを強め、翔自身もまた、自分が犯人なのではと疑う結果になってしまうのであった。

都の異変

それから翔は都に連絡をするも返事は素っ気なく、何に動揺したのかも話してもらえず、学校でもまともな会話ができていない状態であった。そんな都が授業中に何度も能力を使っており、翔がどうしたのか尋ねると、手当たり次第にみんなの記憶を奪い石化事件の犯人捜しをしていることを淡々と話す。昨日とあまりにも様子が違う都に翔は戸惑い、「大丈夫、心配しないで。犯人は必ず見つける。1人でやり遂げてみせる。それが私の責務なんだと思う。今までありがとう。もう…迷惑はかけません」と話し去っていく都の背中を目で追うことしかできなかった。
その日以降、都との接点がほぼゼロとなってしまった翔は、周りから喧嘩を疑われ思い悩んでいたとき、天から「仲を取り持つから」と一緒にナインボールへ行くことを提案される。そこに都の姿はなかったが、オーナーである都のお爺様が顔を出し「最近都の帰りが遅くて…」と心配をしている様子であった。

食事を済ませ天と別れたあと、学校で成瀬先生が「夜の境内で都を見かけた」と聞いたことを思い出した翔は神社に向かう。そこに都の姿はなかったが、代わりにソフィが姿を現す。積極的にアーティファクト探しを行っていない翔にイラついた様子のソフィは、「あなたに愛想を尽かしたのは、どうせ下心を見抜かれたからでしょう?」と翔を詰める。都の意思を尊重し手伝っていたのは不純な動機であったことを翔自身も自覚しており、それを知られて軽蔑された可能性もあると考えていた翔であったが、ふと脳裏に幻の火事の光景がよぎる。それは、翔にとって絶対に隠しておかなければいけない記憶であった。幻の火事の際男子学生を間接的に殺してしまったことを翔の記憶から知ってしまい、責任を感じて躍起になっていたことに気付き、一連の出来事をソフィに報告する。
「周囲を火の海にしたあの男のように、力に飲まれたわね。アーティファクトが当たり前に存在する私の世界ですら、強い力を持てば人は変わってしまう。だって誇示したいもの、人にはない自分だけの力を。だから私たち、セフィロトがある。人間を調子づかせないために、アーティファクトを管理している。力を使うことにためらいがないのなら、もう都は堕ちたのでしょうね。他人の経験が、自分のものとなる。獲物を探しているのかもね。極上の記憶を持つ、誰かさんを」と、不敵な笑みを浮かべて話すソフィを睨みつけた翔は必死に都を捜索する。何時間も探し回り体力も限界を迎えそうな頃、都から「魔眼のユーザーはもう見つけました。責任を果たします」とスマホにメッセージが届く。1人で犯人と対峙しようとしている都を危惧した翔は、都の気持ちに寄り添えなかった自分を反省しつつ必死に都を探し回った。

手がかりを掴めないまま再び神社に戻ると、ソフィが何かを見下ろし「一足、遅かったわね」とつぶやく。それは石の塊であり、灰色となった身体の横には繋がっていたはずの頭があった。苦痛にかためられた表情をしたその石の塊は、紛れもなく“都”であった。

「残念だけど相手の方が上手だった。都は単独で行動すべきじゃなかった。天と協力すれば、勝機もあったでしょうに。憎い?許せない?さぁ、感情を解放なさい。覚醒の時よ。私すら知らないその力を、今こそ目覚めさせるの。………駄目ね、あなたは見込み違い。さようなら。次の可能性を、探ることにするわ」翔のアーティファクトが覚醒することに期待したソフィであったが、それは叶わず、歪んだ空間に消えていった。

「…帰ろう」そう優しく“都”に告げる翔であった。

やり直される世界

舞台は白蛇九十九神社で開催されていたフェスの日まで遡る。翔は要所要所で都のフォローに回っていった。そのおかげで少しずつ日常が変化していき、翔と都はお互いを意識する関係となる。ソフィに話しかけられても、都との連絡を優先するような状態であった。

公園で遭遇した希亜に石化の能力者に疑われ、翔の無実を証明するために記憶を奪った都は、やはりひどく動揺していた。「新海くんは犯人じゃありませんっ!」と宣言する都に、希亜は「それなら、なぜそんなにうろたえているの?」と尋ねる。「一体俺のなにを見たんだよ」と焦る翔をよそに、都は急にお腹を押さえてわざとらしく痛みを訴え始めた。そして「ご、ごめんなさい……っ、か、か、帰りますぅ~……っ!!」と自転車に飛び乗った都は、立ちこぎで去っていった。都は翔の記憶を読むことで自分への好意を知り、うろたえていたのだろうと希亜に言われ、翔はそこで初めて事の重大さに気付く。
それからというもの、翔は都に避けられる日が続いていた。そんなある日、与一からアミューズメント施設へ遊びに行かないか打診される。乗り気でない翔であったが、「九條さんと2人きりにしてあげるからさ」と言われ、渋々了承する。そのおかげで2人の想いは結ばれ、交際をスタートさせることができた。

翔の部屋で食事をしていた2人の元にソフィが姿を現し、「この枝の都は、無事みたいでよかったわ」と話す。その言葉を理解できていない2人に、「世界は、様々な可能性が重なっている。今あなたたちが一緒に食事をしているのも、数多に存在する可能性の一つに過ぎない。世界は可能性の数だけ、枝分かれするの。この並行世界のことを、私は枝と呼んでいる。私は枝分かれした可能性を知ることができるの。アーティファクト、“世界の眼”の力によって。今日は特別に、別の枝のできごとをあなたたちに教えてあげにきたの。二日前、都は魔眼のユーザーに殺されたわ」とソフィは淡々と話す。どういうことだと詰め寄る翔をソフィはなだめ、順を追って説明していった。
「その枝は、翔と都が恋人にならず、仲違いをしていた。そして都が、不特定多数の相手に、おそらくは学校の生徒たちを中心に能力を使い、記憶を読んでいた。その結果、魔眼のユーザーを特定し、単独で先走って魔眼のユーザーと接触した。そして、翔が都を見つけたときには、もう手遅れ。魔眼のユーザーに殺されてた」
一連の流れを聞いた2人は、茫然自失となってしまう。この枝でも頑張って魔眼のユーザーを探すよう2人に伝えたソフィは、歪んだ空間に消えていった。

思わぬところで死を身近に感じた都は震えが止まらなくなるも、それでも前へ進もうとするその姿を見た翔は、都の死を絶対回避すると誓うのであった。

犯人の末路

ソフィから聞いた「別の枝の都が一週間で犯人を特定した」という情報から、犯人は自分たちの生活圏にいると翔は考えた。学校で能力を使ってしまった都は、犯人にユーザーであることを知られている可能性が高く、犯人が都に対して何か行動を起こす前に捕まえる必要があった。こうして翔、都、天の3人で作戦会議をするなか、天が監視していたアガスティアの葉でオフ会が開催されたことを知る。そこに犯人である石化の能力者も紛れ込んでいる可能性があると考え、まずは香坂先輩の記憶を読み、参加者がわかったら次はその参加者たちの記憶を読んでいくことで、犯人の特定に繋げていく作戦で話がまとまった。

次の日の朝、3人は香坂先輩を待ち構える。相変わらず堂々とした立ち振る舞いで男子たちを引き連れており、自ら「彼らはわたくしの親衛隊なんです」と話すほどであった。都が能力を使って記憶を読む際、目に見えない記憶を選んで読むのは難しく、印象の強い記憶を読みやすいと話したため、翔はさりげなくオフ会の話を聞き出し、その最中に都は香坂先輩の記憶を読むことに成功する。その記憶のなかで香坂先輩と謎の男女が神社で会っていることがわかり、別の枝での都も神社で殺されていることから、神社が共通点であることを見出す。この3人のうち誰かが犯人であるからこそ、都は神社で殺されてしまったと翔は考えた。しかし、能力がまだ未熟な都と天の2人に犯人の可能性がある人物の元へ向かわせても、天まで殺されかねないと思った翔は、「石化の能力者は、私に勝てない。私のジ・オーダーは無敵」と豪語する希亜を用心棒として仲間に迎え入れることに成功する。

その日の夜に早速4人で神社へ向かうと、境内に人のような影を発見する。警戒して進むなか、「あの男が私たちに意識を向けることは、決してない」と言った希亜は無造作にその人影との距離を詰める。その自分勝手な行動に翔は苛立ちを覚え後を追うも、希亜の言ったことは正しく、そこにいたのは確かに男で、もう動くことは決してない石像であった。その傍らには紙切れが落ちており、そこには“罪の意識に押しつぶされそうだ。気が狂ってしまう前に僕は僕自身を石にして、すべてを終わらせよう。”と書かれていた。そしてその男を見た都は、香坂先輩の記憶で神社で会っていた男であると話した。「罪の意識に押しつぶされるのならば、はじめから犯罪など犯さなければいいのに。この男はしっかりと裁かれるべきだった。自分だけ楽に逝くなんて」と吐き捨てた希亜は、「…私の仕事は、これで終わりね」となんの動揺もせず平然と去っていくのであった。
神社の敷地内にて勝手に通報するわけにもいかず、都と天が成瀬先生を呼びに行っている間、翔はソフィを呼び出す。ソフィはその石像からアーティファクトを回収しようとするも、見つけることができなかった。それは、アーティファクトが他の主を見つけてしまったか、もしくは魔眼のユーザーはこの石像の男ではない可能性を示唆していた。あまりにもタイミングが良すぎる展開に不明な点が多く見受けられるも、手がかりを完全に失ってしまった以上、なにが真実であろうとこれで終わりでいいんだ、と翔は自分に言い聞かせる他なかった。

エピローグ

3人目の犠牲者となった男は、一連の事件の犯人という扱いにはならず、他の犠牲者と同じように人体が石化する謎の病気を発症し死亡したと発表された。詳細は不明のままであったため翔は自分で調べた結果、その男は“アガスティアの葉”の管理人であることが判明した。香坂先輩とも確かに親交があり、それを知った香坂先輩はひどくショックを受け、会話もままならない状態となっていた。
それ以降石化事件は起こることなく、なんの変哲もない平和な毎日が戻った。いつも通り都が翔の部屋で手料理を振る舞い食事をしていた最中、ソフィが姿を現す。魔眼のユーザーに全く動きが見られないため一時的なお別れを言いに来たと話すソフィは、また必ず来ると告げ、歪んだ空間に消えていった。

ソフィが一時的に去り、石化事件も収束し、翔と都は何気ない日々とかけがえのない幸せを嚙みしめる毎日を過ごしていた。そんなある日、アーティファクトの能力を私的に使おうとした都は、左手の甲のスティグマが広がっていることに気付く。そんな様子の都をよそに、見覚えのない金髪の女が不敵な笑みを浮かべ、夜の街を見下ろしていた。

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