ウツボラ(漫画 ・ ドラマ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ウツボラ』とは、太田出版の雑誌『マンガ・エロティクス・エフ』で2008年11月から不定期で連載された中村明日美子原作の漫画およびそれを原作としたドラマ作品。身元不明の投身自殺死体が発見されるところから物語が始まる。主人公の溝呂木舜は人気作家でありながら、この自殺した藤乃朱の執筆した小説『ウツボラ』を盗作し発表していた。朱が死亡すると入れ替わるように朱の双子の妹と名乗る三木桜が溝呂木の前に現れる。正体が謎に包まれた瓜二つの女性、朱と桜により深い闇に追い詰められていくサイコ・サスペンス作品である。

『ウツボラ』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

三木桜「約束ですよ、きっと彼女のことを書いてくださいね」

朱の悲願である『ウツボラ』出版を確信した桜が飛び降り直前に言い残したセリフである。
溝呂木は朱が飛び降りたビルの屋上で桜と再会する。溝呂木は桜に『ウツボラ』はボツにしようと提案する。朱が書いた『ウツボラ』を出版することを強く望んでいた桜は、溝呂木の発言に取り乱し、怒りをぶつける。桜自身の飛び降りを仄めかし溝呂木を脅迫すると、溝呂木は慌てて発言を取り消し、続きを書く事を約束する。溝呂木の返事に満足した桜は「約束ですよ、きっと彼女のことを書いてくださいね」と涙ながらに言い残すと、ビルから飛び降りてしまう。桜は朱の死後、朱の「溝呂木の手で『ウツボラ』を出版させる」という悲願のために奔走していた。最終的に我が身を盾に溝呂木に約束を取り付けると、このセリフを最後に溝呂木や読者の期待を大きく裏切り衝撃を与えた。この桜のセリフの中の「彼女のこと」とは、読者の間では「朱」であると推察されており、桜が溝呂木を選んだのは単に富士子が彼のファンだっただけでなく、彼の作品に必ず「この世とは思えぬ美しい少女」が登場し、彼と精神的に結ばれるためには「彼の作品の美しい少女」として登場する必要があったためと考察されている。
また、この直前の溝呂木と桜のやり取りは、溝呂木の指す「朱」と「本当の『ウツボラ』の作者」が誰を指していたのかについては、完結後も読者の間で議論されている。

溝呂木舜「よくがんばったね、ずっと不安だったろう恐ろしかったろう」

朱の書いた『ウツボラ』出版のために桜が奔走していたことを知り、桜の今までの働きを労った溝呂木のセリフである。
桜は病院を抜け出し溝呂木の元に向かった。最終話の原稿を読み終わった桜は、溝呂木に礼を言う。溝呂木は桜の願い、「朱が書いた『ウツボラ』を出版させる」ために奔走していたことを知り、「よくがんばったね、ずっと不安だったろう恐ろしかったろう」と声をかけ、桜を労った。
朱の願いを遂げた桜と溝呂木はこのあと恋人のような短い蜜月を過ごすも、溝呂木は海辺で消息を断ち、帰らぬ人となる。そのため、『ウツボラ』を出版するためならば死をも厭わなかった桜の背負っていたものを、溝呂木が代わりに背負ったともとれる印象的なセリフである。

溝呂木コヨミ「それでもよかったです、私はおじさまがいてくれたらそれで…」

幼い頃から溝呂木に思いを寄せていたコヨミが、彼の死を受け入れられずに悲しむセリフである。
海岸で死体となって戻った溝呂木の一周忌を前に、彼の墓前でコヨミと矢田部は溝呂木について語り合っていた。
溝呂木の遺言で彼の著作権はすべてコヨミの名義になっており、コヨミは溝呂木と同居していた家を引き払い、独り暮らしをしていた。
矢田部は財産を残すことが溝呂木のせめてもの気持ちだと話すが、コヨミは納得できずにいた。矢田部は「作家にとって生きることは書くことであり、書けない作家は死人と同じだ」と諭すが、コヨミは「死ぬくらいなら作家を辞めればよかった」と反論する。矢田部は「(作家を辞めてしまえば)それは溝呂木舜じゃない」と返すも、コヨミは「それでもよかったです、私はおじさまがいてくれたらそれで」と涙を流した。
物語は作家としての溝呂木舜を愛した藤乃朱や三木桜との関係にフォーカスが当たっており、担当編集の辻や同業の矢田部すらも溝呂木が作家であることを望んでいた。しかし、このセリフからは、コヨミだけが唯一「作家ではなく“溝呂木舜”その人」を想っていたとわかる。また、このあとにコヨミが作家である溝呂木を愛していた桜とすれ違うことで、2人の対比をさらに印象づけている。

『ウツボラ』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

『ウツボラ』の映像化「前田敦子さんならぜひ」と快諾

前田敦子(左)、『ウツボラ』1巻表紙(右)

中村明日美子のカルト的人気を誇る漫画『ウツボラ』がWOWOWで映像化され、女優の前田敦子が主演を務めた。前田は美しい双子の姉妹、藤乃朱と三木桜を一人二役で演じた。謎が多く人間の深部に迫るストーリー、官能的な描写など映像化にあたっていくつもの課題があったが作者の中村明日美子は、「前田敦子さんならぜひ」と映像化を快諾した。
今まで何度か実写化の話はあったが物語の難解さから実現できず、作者である中村も半ば諦めていた。本作のドラマ化実現は中村にとって待望であり、インタビューでは「箱庭的な迷宮物語が俳優さんたちによってどう蘇るのか、大変楽しみにしております」と期待を寄せている。

『ウツボラ』の由来の最有力候補は「空洞」

「ウツボラ」は造語とも言われているが、作中ではその由来について全く明かされず、作者の中村明日美子も明言していない。
そのため、読者の間では様々な考察が行われた。数ある考察の中でも、空洞のことを「ウツボラ」とも言うことから、登場人物たちの「からっぽ」な特徴を強調しているのではないかとする説が有力となっている。

ドラマのロケ地となった蒲郡市制作の「ロケ地MAP」

蒲郡市で制作されたロケ地MAP

原作では舞台は東京都内となっているが、ドラマでは架空の街「琥珀市」が舞台となっている。
ほとんどの撮影が愛知県蒲郡市で行われており、蒲郡市の公式HPでも紹介されている。
ロケ地MAPも制作されており、2023年2月には蒲郡市民会館でドラマの特別試写会も行われた。

チーズケーキとショートケーキが示唆する桜の正体

チーズケーキを食べる三木桜

ビルから飛び降りるも一命を取りとめ病院で目覚めた三木桜に、望月剛は「あなたの好物」として秋山富士子の好物だったショートケーキを渡す。望月は桜の正体を富士子と推察しており、ショートケーキを持参したのも富士子の兄から彼女の好物を聞いていたためである。しかし、桜はショートケーキには手を付けなかった。桜は朱が投身自殺した直後に溝呂木と共に利用したcafé troisでチーズケーキを食べている。このことからも、桜の正体は富士子ではなく別の人物(=浅尾ゆかり)とするのが最有力説である。
そのため、このチーズケーキとショートケーキでの表現は、三木桜の正体を印象付けるキーアイテムになっている。
連載当時は望月の推理に翻弄された読者も多く、その分このケーキの表現が殊更に大きく議論された。

Hua18257
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@Hua18257

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