かろりのつやごと(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『かろりのつやごと』とは小田ゆうあが描く、体型にコンプレックスをもつ主人公・花鳥風月と定食屋のアルバイト店員・青井柊吾の恋を描いた漫画作品。2019年に『月刊オフィスユー』で連載を開始。本作の主人公は食べることが大好きなぽっちゃり体型の女性で、あだ名は「かろり」。男性に縁がないが、恋愛に強く憧れている。常に控えめな彼女だが、青井との出会いによって少しずつ自信を持ち成長していく。恋愛だけでなく、2人を繋げる「食」もテーマとなっており、胃袋も刺激される作品である。

かろりの自宅の周りに作られた落とし穴。近所で泥棒騒ぎがあったため、一人暮らしをしているかろりを心配して、彼女が開いている英語教室に通っている小学生・俊太が掘った。ひとつだけでなく家を囲むように数か所掘られている。かろりを訪ねてきた青井が気づかずに落ちた。玄関付近にも糸を張り巡らせるなどの防犯対策がされている。

『かろりのつやごと』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

花鳥風月「あたしなんか」

自分に自信がもてないかろり

太っている自分に自信が持てず自己肯定感が低いかろりは、周囲に迷惑をかけないことを一番に考え、何事に対しても「あたしなんか」という言葉が口癖となっていた。
青井が大学の課題に追われてアルバイトを休んでいた日、店を訪れたかろりは人手が足りず大忙しな様子を見て、皿洗いを買って出る。「手際がよい働きのおかげでとても助かった」とおかみさんやめぐに褒められるが、謙遜してしまうかろり。2人から「いいお嫁さんになりそう」と言われても、自分なんかが恋愛できるはずがないという思いを吐露。「あたしなんか」という言葉がつい口から出てしまうのだった。
昔から、体型のせいで同性からは陰口を言われたり馬鹿にされ、異性とは付き合った経験がない。言葉遣いや所作が丁寧で美しく、本当は人としてのスペックがとても高い彼女だが、自分の良さに気づいていない。「あたしなんか」という自分を否定するような言葉が口癖だった彼女が、青井や周囲の人々との関わりによって変わっていくところも見どころである。

おかみさん「まずは愛さなくちゃ」

おかみさん(左)に車で送ってもらうかろり(右)

店の手伝いをしてくれたかろりを自宅まで車で送り届ける途中、「男の人からの愛され方がわからない」と言うかろりにおかみさんがかけた言葉。
「まずは愛さなくちゃ。それがなきゃはじまらないですよ」と優しく諭すような言葉は、恋愛に消極的なかろりをそっと後押ししているように感じられる。それでも「あたしなんかに愛されたら迷惑じゃないでしょうか」と言うかろりに対しても、「好きになったらしょうがない」と答えるおかみさん。相手を気遣うあまりどうしても遠慮してしまうかろりだが、魅力的な部分をたくさんもっている素晴らしい女性だ。だからこそ自分の気持ちに正直に、恋愛にも積極的になってもらいたいというおかみさんの思いが表れている言葉である。

青井柊吾「いじるんやったらうまいことユーモアにくるんでいわんかい」

客に対する青井の言葉に恥ずかしさと嬉しさを感じるかろり

定食屋・ナナツノコの常連となったかろり。ある日、彼女がいつも座っている椅子が大きな音を立てて壊れてしまう。突然の出来事に恥ずかしさと驚きで呆然としてしまうかろりだったが、それを見ていた2人組の男性客が「象がイス乗ったら壊れるよなぁ」と話すのを聞き、青井が「人いじるんやったらうまいことユーモアにくるんでいわんかい。でけへんのやったら黙っとけ」と声を荒げた。
関西出身の青井にとってユーモアすら感じられない、ただ人を馬鹿にしただけの言葉が許せないという思いが強く表れている。従業員という立場を考えると、客に対して好ましい態度ではない。しかし、青井の人間性が伝わってくる一言である。人に迷惑をかけることや自分が目立つことを避けたいかろりは、大事になってしまったことを申し訳なく思う反面、自分をかばってくれた青井の言葉をとても嬉しく感じるのだった。

成美可奈「それでも女子はぐっとガマンなの」

好きなだけ食べることを否定する成美

祖母から送られてきたぬか床をかろりに譲る約束をしていた青井が、成美と冬馬とともに彼女の自宅を訪れる。英語教室の子供たち以外の久しぶりの来客に、できる限りのおもてなしをしようとするかろり。とっておきのお菓子や、手作りのスイーツをふるまう。次々に出てくる食べ物に大喜びし「食べたいだけ食べればいい」という青井と冬馬に、成美は「それでも女子はぐっとガマンなの」と、男女の食に対する違いを熱弁したのだった。
食べるもののカロリーや夜に食べると太ってしまうなど、女性は体型のために食事に気をつかっているはず、という考えを持っている成美。だが、我慢や努力をしていないように見えるかろりに苛立ちを感じる。一方、食べることが一番の楽しみであるかろりは「生きる喜びはもっと他のことよ」という成美の言葉が理解できず、この夜は一睡もできないほど思い悩んでしまった。

『かろりのつやごと』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

かろりは由緒正しい家柄に生まれた一人娘

事故で両親を亡くしているが、裕福な家庭であったため遺産のおかげで困ることなく暮らしているかろり。完璧な行儀作法や丁寧で美しい言葉遣いや所作は、しっかりとした教育を受けてきた証であり、気品が感じられる。彼女は「今日1日をふりかえり、いやなことはお湯に流しておしまいなさい」など、母の言葉をたびたび思い出し気持ちの整理をするのが習慣になっている。両親亡き今も彼女の大きな支えとなっており、金銭的なものだけでなく、惜しみない多くの愛情を受けて育ってきたことが伺える。
自宅は街はずれの大きな洋館で、シャンデリアや絵画が飾られ部屋数も多い。広々としているため、英語教室に通う子供たちにとっては、かくれんぼをするなど絶好の遊び場となっている。ちなみにかろりの寝室には、自分たちはベッドではなく布団で寝ていたという両親の趣味で、天蓋付きの豪華なベッドが置かれている。

テーマは「恋愛」と「食」

本作は、かろりと青井の恋の行方に心動かされる一方で食欲も刺激される作品だ。食べることが大好きで料理上手でもある主人公、かろりと青井が出会った定食屋、青井の祖母のぬか床など「食」が深く関わっている。定食屋・ナナツノコの朝定食も丁寧に描かれ、美味しそうな香りがしてきそうだ。
普段から所作が美しいかろりだが食事の時も同様で、食べ終わった茶碗をお茶できれいにする彼女を見て、青井は祖母が同じことをしていたのを思い出す。おばあちゃん子である青井が、かろりを気にかけるようになるきっかけでもあった。

kou_il9
kou_il9
@kou_il9

目次 - Contents