町田くんの世界(漫画・映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『町田くんの世界』とは、勉強も運動も苦手だが人が好きな高校生・町田一の優しさ溢れる日常を描いた、安藤ゆきによる少女漫画。主人公は天然の人たらしであり、周りからも愛されているが恋に関しては鈍感。自分と正反対な、人間嫌いのクラスメイト・猪原奈々と言葉を交わすうちに生まれた恋という感情を育んでいく。別冊マーガレットにて連載された。単行本は全7巻。
「このマンガがすごい!2016」オンナ編3位にランクインし、石井裕也監督による映画化は1000人以上の中から選ばれた2人によるダブル主演も話題となった。

『町田くんの世界』の概要

『町田くんの世界』とは、安藤ゆきの初のオリジナル連載作品となる少女漫画。2015年4月号から2018年5月号まで別冊マーガレットで連載された。単行本は全7巻で、最終巻の帯で映画化が発表され、2019年6月に公開された。監督は石井裕也で、ダブル主演となった細田佳央太と関水渚は1000人以上からオーディションで選ばれた新人であったことも話題となった。
また第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門・新人賞や、第20回手塚治虫文化賞・新生賞も受賞しており、従来の主人公像とは一味違った、独特なキャラクター造形が高く評価されている。『このマンガがすごい!2016』オンナ編第3位にもランクインした。
主人公は天然の人たらしで、周りの人間から愛されている高校生の町田一。家では母を助けながら5人の弟妹たちの面倒を見る、6人兄弟の長男。勉強も運動もできないけれど人間が大好きで、常に周りに気を配りながら困っている人には手を差し伸べる。いつも世界は綺麗だと思いながら生きている一に周囲も魅了されていき、優しい世界観が広がる作品である。一方、ヒロインの猪原奈々は人嫌いで、一はそんな彼女を気にかけるようになりやがて恋心へと変わっていく。最初は一を拒絶していた猪原が次第に心を開き、表情まで柔らかくなっていくのも見どころ。外見ではなく、言葉や行動のかっこよさで人の心を動かすような主人公像が高い評価を得ている。どの話にもぐっとくる一のセリフがあることも魅力のひとつである。

『町田くんの世界』のあらすじ・ストーリー

みんなに愛される主人公

大家族の長男・町田一(まちだはじめ)は人が好きで誰に対しても優しく、家族からも周囲の人たちからも愛されている。メガネをかけた成績優秀そうな見た目に反して、勉強はできず運動も得意ではないが、自然に人に優しくできるのは立派な特技だということに本人は気づいていない。そんな無自覚なところも愛される理由のひとつ。
家では喧嘩をする小さな弟と妹をなだめたり、植木鉢に毎日水やりをしてくれる弟をちゃんと褒めてあげたり、母の無茶な夕飯のリクエストに応えようとレシピを調べたりする。学校では野球部のクラスメイトのレギュラー入りに「おめでとう」と声をかけたり、廊下で掲示物を画鋲でとめようとしている女子生徒を手助けしたり、重い荷物を先生の代わりに職員室まで運んだり。そんなさりげない彼の優しさはどんな時も、どんな相手に対しても変わらない。

人嫌いなヒロイン

授業中、一は怪我をしてしまい、向かった保健室で授業をさぼっていた猪原奈々(いのはらなな)と居合わせる。人と関わりたくないという言葉とは裏腹に、自分のハンカチを使って手当をしてくれた猪原に矛盾を感じる一。優しい心を持っているのに冷たい態度をとる理由がわからず、彼女の気持ちを知りたいと思うようになる。猪原は腕をつかんでまで「ありがとう」と伝えてきた一をうっとうしく思うが、それ以降も街でナンパされている時に割り込んできたりと、ことあるごとに自分を構う彼のことを意識し始めた。
ある日、クラスメイトの西野亮太(にしのりょうた)が猪原宛てのラブレターを間違えて一の下駄箱に入れたことがきっかけで、2人のデートに一も同行することになる。猪原への西野の気持ちを知っても、何とも思っていないような一の態度から、猪原は自分が恋愛対象として見られていないことを感じ、一に「もっと気にかけてほしい」と訴える。
周囲と距離をとることで自分を守ってきた彼女は、一と接するうちに期待したり求めたり欲張りになっている自分に戸惑っていた。一にもそっけない態度をとってしまうが、それでも理解しようとしてくれる彼の気持ちに応え、不安な思いを吐露。「そういうことも話してほしい。いなくなったりしないから」という一の言葉に、安心する猪原だった。

新しい家族の誕生

出産を控えた一の母。予定日翌日に無事出産し、町田家に第6子・六郎(ろくろう)が誕生。一たちの叔母であるカズミが病院に付き添っていた。カズミにはまだ子供がおらず、周囲には悟られないようにふるまっていたが、なかなか授からないことを悩んでいた。新しい甥っ子の誕生を喜びながらも、姉ばかり子宝に恵まれることを羨ましいと思ってしまう。その気持ちに気づいた一は、自分は兄弟が多いため子供の頃は寂しい思いをしていたが、両親の代わりに可愛がってくれたことを感謝し、母親のように思っていると伝えた。「いま妹たちを可愛がれるのはカズミのおかげ」と言う一を、カズミは嬉しさのあまり強く抱きしめる。カズミをはじめ周囲からの深い愛情があったからこそ、いまの一があるのだ。

ライバル登場

学校で男女が揉めている場面に遭遇した一は、ふられてしまった女の子・高嶋さくら(たかしまさくら)のそばにミルクティーを置き立ち去る。その様子を見ていた猪原は焦りを隠せない。一は誰にでも優しいため好意をもたれやすく、自分だけを見てほしいと思っている彼女は気が気ではないのだ。クラスメイトの栄りら(さかえりら)の情報により、さくらは男たらしだという噂があることがわかる。栄は一を好きなわけではないが、彼がさくらに傷つけられるのは避けたいと思っていた。心配する2人をよそに、優しくしてくれた一にお菓子やお弁当を作ったりと、好意を見せるさくら。だが本当はふられた相手のことが忘れられずにいることに一は気づいていた。「その相手のことを嫌になるまで、好きでいていいんじゃないかな」と話し、心の底では誰かにそう言ってもらうのを待っていたさくらは勇気づけられる。

中学校の同窓会

春休み、中学校の同窓会に参加した一。偶然出会ったクラスメイトの氷室(ひむろ)も一緒に会場へ行くと、人気者だった一はみんなに囲まれる。にぎやかな雰囲気の中、当時明るくて人気があり、リーダー的存在だった青池(あおいけ)が現れた。以前と雰囲気が変わってしまったことに戸惑う一同だったが、進学校での勉強についていけずに引きこもっていることがわかる。励まそうとする周囲を受け付けない態度をとる彼は、父親に「有能でなけれが価値がない」と言われ、「本当の自分は今のだめな自分だ」と言い、その場に崩れ落ちてしまう。そんな彼に一は「弟が生まれた時に、人は生まれてくるだけで充分なんだと思った」と語りかけた。一やみんなの言葉に涙があふれる青池。一に消しゴムを返すという口実を用意してまで同窓会に来たのは、一に何かヒントをもらいたかったのではないかと同席していた氷室は思ったのだった。

恋という感情を知る

一は生まれたばかりの弟・六郎を連れて行った公園で、輪に入らず1人沈んだ様子の女性と出会う。周りのママ友たちの話ではワンオペ育児中で夜泣きもひどいため、よく眠れないのではないかとのことだった。子育ての大変さを改めて感じた一は、日頃の疲れをとるために母に温泉に出かけてもらい、その間の家事を引き受けることを提案。そのことをたまたま知った猪原が、手伝いにくることになる。買い忘れた食材を買いに出かけた一は、公園で見かけた女性と再会。彼女は家の鍵をなくしてパニックになっていた。鍵は無事見つかったが、「周りの人が当たり前にできていることが自分にはとても難しい」と落ち込む彼女に、「当たり前なんかじゃないんです」と声をかける一。家事や育児の大変さは知っているし、力になりたいという言葉で救われた女性は一と旦那さんはどこか似ていると話し、ずっと友達だったが、ある日急にドキドキするようになったという馴れ初めも教えてくれた。
女性と話しているうちに思った以上に時間が過ぎていて、慌てた一が帰宅すると心配して待っていた猪原が駆け寄ってくる。そのまま抱きつかれ、先ほど聞いた馴れ初めの話を思い出しながら、ドキドキが止まらなくなってしまう。

通じ合う想い

猪原に恋をしていることを自覚した一は、嫌われるのが怖くなり彼女を避けるようになってしまう。そんな態度を見て、自分が抱きついたせいだと悩む猪原。今まで恋をしたことがなかったためネガティブになっている一に、栄は「嫌われたくないじゃなくて、好きになってほしい」と捉え方を変えてみたらどうかとアドバイスする。氷室も「人の魅力なんて言葉にできるものだけじゃないことはよく知ってるでしょ」と、いつも通りの一でいいんだと励ました。猪原をクリスマスデートに誘った一は、ついに自分の気持ちを伝える。「猪原さんの心が欲しい。猪原さんが好きだから」という言葉に、ずっと前から一に心を奪われていた猪原は嬉しくて涙を流し、一は思わず彼女を抱きしめるのだった。
付き合い始めて3ヶ月が経った頃、町田家を訪れた猪原は家族のあたたかさに触れる。自分の家族とは全く違うため戸惑いもあったが、一の「安心してここにいればいい」という言葉に安心し、涙を流しながらも笑顔を見せる猪原。2人はこれからも一緒に過ごす未来を描きながら、理想の家族像を語り合うのだった。

『町田くんの世界』の登場人物・キャラクター

主要人物

町田一(まちだはじめ/演:細田佳央太)

16歳の高校生。中学生の妹をはじめ、小さな弟妹がいる町田家の長男。物静かで眼鏡が似合う知的な雰囲気だが、実は成績は中の下。活字が苦手。50m走のタイムは「運動神経が悪い方の女子レベルだ」と先生に言われてしまう。自分に得意な分野なんてあるのだろうかと悩むが、周りの人間からは愛されている。
家では妹や弟の世話や不器用ながらも家事をこなし、母から頼られる存在。学校では先生やクラスメイトをさりげなくサポートし、街で困っている人にも当たり前のように手を差し伸べる。人間が好きで、どんな相手とも素直に正面から向き合おうとする。本人は無自覚だが、その見返りを求めない優しさによって周囲の信頼や評価は高い。他者への気配りは完璧だが、自分への好意には鈍感。ある日学校の保健室で猪原と出会い、親しくなっていくうちに自分の恋という感情に気づいていく。

猪原奈々(いのはらなな/演:関水渚)

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