ささやくように恋を唄う（漫画）とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ささやくように恋を唄う』の概要

『ささやくように恋を唄う』とは、竹嶋えくによる漫画で、一迅社の『コミック百合姫』に2019年4月から掲載されている。『コミック百合姫』とは女性同士の恋愛（百合）をテーマにした漫画雑誌である。
高校入学初日に行われた新入生歓迎会。主人公・木野ひまり（きの ひまり）は、親友の水口未希（みずぐち みき）の姉が参加しているというバンドのライブに誘われる。そこでボーカルを務めていた先輩・朝凪依（あさなぎ より）にひまりは一目惚れしてしまう。ひまりはライブの感動のあまり、校内で見かけた依に勢いで「一目ボレしました」と伝えてしまった。依はそれを告白と捉え動揺するも、可愛く笑うひまりに依の方も一目惚れしてしまう。しかし、後日ひまりの言う「一目ボレ」はファンとしてという意味で、恋愛感情ではなかったと知る依。だが初恋を諦めきれない依は、「もっとホレさせるから、覚悟してね」とひまりに伝えた。こうして二人の勘違いの「一目ボレ」から物語はスタートする。

『ささやくように恋を唄う』のあらすじ・ストーリー

一目ボレ

高校入学初日、木野ひまり（きの ひまり）は小学校からの親友・水口未希（みずぐち みき）と同じクラスになる。喜ぶひまりに未希は、入学式後に行われる新入生歓迎会のバンド演奏を一緒に見てほしいとお願いされる。参加バンドのメンバーに、未希の姉・亜季（あき）がいるというのだ。音楽に詳しくないひまりだが、久しぶりに見る亜季の姿に懐かしさを感じるひまり。バンドの演奏が始まった瞬間、ひまりの頭の中に歌声が響いた。気が付くと演奏が終わり、未希に感想を聞かれるひまり。だがひまりが見ていたのは、亜季ではなくボーカルの先輩だったという。感動したひまりは、ボーカルの先輩に「一目ボレした」というのだ。驚く未希にひまりは「大ファンになった」と伝え、恋愛としての好意ではないことに未希は安堵した。余韻に浸るひまりを残し、未希は吹奏楽部の見学へ向かう。未希と別れたひまりは帰宅するため下駄箱へ向かうと、そこには憧れの先輩が立っていたのだ。靴を履く先輩に思わず声をかけるひまり。驚く先輩に興奮しながらライブの感想を伝えるひまりだったが、「わたし、一目ボレしました」と伝え去ってしまった。
翌日、未希は姉にボーカルの先輩について色々と話を聞いてきてくれたという。彼女の名前は朝凪依（あさなぎ より）といい、軽音部ではなく帰宅部だというのだ。バンドでは代理で出席しただけという情報に、もう歌が聞けないのかと落ち込むひまり。今まで音楽に興味がなかったひまりがここまで夢中になることに、未希は驚いていた。そんなひまりに、依は放課後屋上で一人で歌っていると伝えると、ひまりは会いに行くというのだ。ライブで歌声を聞いてから、依の声が頭から離れなくなってしまったひまり。もう一度歌が聞きたいという思いで屋上の扉を開ける。屋上では未希の言う通り、依が一人で歌っていた。ひまりの突然の訪問に驚く依だったが、依もひまりに会いたかったという。なぜだかわからず問い返すひまり。そんなひまりに依は「あたしも一目ボレなんだよね」と告げる。下駄箱でひまりと会ったとき、依もひまりに一目惚れしたのだ。ひまりから告白されたと思った依は、自分も同じ気持ちだと思い返事をする。しかしひまりの口から飛び出したのは、「先輩もボーカルに一目ボレしてバンドを始めたってことですか！？」という言葉だった。その言葉を聞き依は、ひまりの一目惚れは「恋愛」としてではないことに気づく。自分の勘違いに落胆する依だが、ひまりに「先輩にベタボレしているから歌を聞かせてほしい」と言われてしまう。勘違いでもひまりへの想いを諦められない依は、「もっとホレさせるから、覚悟してね」とひまりに伝えたのだった。

二度目の告白

ひまりからの告白が勘違いだと知り落ち込んだ依だったが、放課後に歌を聞かせるためひまりと会う約束をしていた。ひまりと会えるだけで浮かれてしまう依。ひまりも依と会うことを楽しみにしていた。依の歌を嬉しそうに聴き、まっすぐ好きだと伝えてくれるひまりに対し、依は思わず頭を撫でてしまう。無意識の行動に動揺する依に、ひまりは「依先輩にされると、なんか照れちゃいます」という。ひまりの素直な反応や言葉に好きな気持ちが募っていく依。思いが溢れてしまいそうなのを必死に我慢していた。
ある日雨でいつものように屋上に行けず、教室で話していたひまりと依。猫が好きだという依を、ひまりは休日の猫グッズイベントに誘う。思わぬデートのお誘いに動揺する依だったが、嬉しさを隠しきれずにいた。デート当日、お互いの私服姿に感動するひまりと依。ひまりの無邪気な表情や言葉を意識してしまう依だったが、同じようにひまりも依の自然なエスコートに少しドキドキしていた。最後に立ち寄った楽器屋で、ひまりは依を初めて見た時のことを思い出していた。「またバンドで歌う依を見たい」と言うひまり。人前で歌うことが苦手な依だが、ひまりに言われると「もう一度やってもいいかもしれない」と思うようになっていた。
帰り際、楽しい時間を過ごすことができたが、依はもっとひまりと距離を縮めたいという気持ちが高まっていた。さりげなく「木野さんと付き合ったら、毎日幸せだろうな」と伝える依。ひまりの反応もまんざらでもない様子だった。そんなひまりを見て、依は気持ちが抑えきれず「本気で付き合いたい」と再度告白をするのだった。真剣な依を見て驚き言葉に詰まるひまり。依は「考えといて」と返事は聞かずに帰ってしまった。依の告白を聞き、ひまりは屋上で言われた「一目ボレ」が自分とは違う意味だったことに気づいた。自分とは違う「好き」を持つ依にどう接していいかわからず、ひまりは悩んでしまう。

ひまりの気持ち

依からの真剣な告白に戸惑うひまり。まだ恋愛を知らないひまりには、依の言う「好き」がどんなものなのかがわからなかった。未希に相談すると、その人と「ハグ」や「キス」がしたいかどうかと聞かれてしまう。突然の問いに焦るひまりだが、未希は「好きじゃなくても付き合ってみるのはどうか」と言う。なかなか納得のいく答えが出せないひまりだったが、「もう少し考えてみるよ」と未希に伝えた。
一方依は、返事が気になり落ち着かない様子で一日を過ごしていた。放課後いつも通り屋上に行くが、そこにひまりの姿はなかった。自分の告白のせいだとわかっているものの、音沙汰のないことに焦りと不安を感じている。茫然としている依に、一通のメッセージが届いた。ひまりから「しっかり考えて返事をする」という内容で、とりあえずホッとする依。ひまりがまた会いに来てくれるのを待つことにしたのだった。依に「待ってて」とメッセージを送ったひまりだったが、その答えは決まらないでいた。依と付き合ってみることも考えるが、依と同じ「好き」になれず傷つけてしまうのが嫌だった。悩み疲れてチョコが食べたくなったひまりがキッチンへ向かうと、母親が出張中の父と電話で話しているのを聞いてしまった。今でもラブラブな父と母を見て、どうやって付き合い始めたのかを聞いてみることに。父が母に告白したのは高一のときだったが、付き合い始めたのは高三になってからだという。告白された時は仲のいい友人だったが好きではなく、半端な気持ちで付き合って関係が悪くなるのが嫌だったというのだ。今の自分と同じ気持ちを母も抱いていたことを知り、ひまりも自分の素直な気持ちを依に伝えることを決めた。依に返事をするため屋上へ向かうひまり。今はまだ恋愛の「好き」がわからないことを伝える。もう少し一緒に過ごしたいというひまりに、依は「チャンスくれるってことだよね？」と返した。わがままなお願いをしているとわかっているひまりは、その言葉に思わず涙してしまう。真剣に考えてくれたことに喜ぶ依と、優しく話を聞いてくれたことに安堵するひより。今まで通り会いに来ていいか尋ねるひよりに対し、依は改めて「ホレさせるから、覚悟してね」と伝えるのだった。
ひまりの返事を聞いた依は、後日ある場所へ向かう。それは亜季たちがやっているバンド「SSGIRLS（えすえすがーるず）」の練習している教室だった。ひまりのことをメンバーに相談していた依は、報告も兼ねてあるお願いをしに来たのだった。依は亜季たちと共にバンドをやらせてほしいと言うのだ。突然の申し出に驚くメンバーだが、ひまりを惚れさせるにはもう一度バンドで演奏している姿を見てもらいたいという。亜季だけでなく、メンバーの筒井真理（つつい まり）と橘香織（たちばな かおり）も依とバンドを続けたいと思っていたので、その申し出を受けることにした。依が正式メンバーとして活動し始めて数日、亜季の家にひまりが遊びに来ていた。実はひまりのことで一喜一憂している依を見て、亜季は少し不満を抱いていたのだ。不意に現れたひまりを見て、動揺しながら依のことを好きになれたのか聞く亜季。煮え切らない回答をするひまりに苛立った亜季は、「依のこと好きなんだよね」と告げる。突然の告白に驚くひまりだが、亜季は以前から恋愛として依が好きだったと言うのだ。元々友人として側にいたいと思っていて、ひまりとのことも応援していたが、依の告白を保留にしていることにモヤっとした気持ちを抱えていた。「いつか好きになれたら」というひまりに対し、「時間は有限だよ」と告げる亜季。もう三年の依や亜季には卒業まで時間が迫っていたのだ。改めて依に対して自分のしている行為がひどいことなのではと悩み、依に打ち明けるひまり。悩むひまりに依は、一か月後のライブで改めて返事を聞かせてほしいという。もし答えられなかったらと不安になるひまりだが、依は「大丈夫」だと力強く伝え、その姿にひまりも覚悟を決めるのであった。

ひまりの答え

ライブで歌うオリジナルソングを完成させた依。ひまりのことを想いながら作り上げたその曲は、「Sunny Spot（サニースポット）」というラブソングである。亜季たちからも好評で、依はこの曲でひまりを振り向かせると意気込んでいた。ひまりも依と話をしたことでどこか吹っ切れた様子だった。とあるバンドの練習日、依のスマホにきたメッセージを亜季に読まれてしまう。「以前約束したクッキーを渡したい」という内容で、メッセージを読んだ亜季は「部室に呼びなよ」と提案する。部室に呼ばれたひよりは、向かう途中トイレに行っていた亜季と鉢合わせてしまった。前回の宣戦布告以来で戸惑うひまりに対し、亜季は「この間はごめん」と謝罪した。ひまりはライブ後に告白をすると伝えると、亜季は応援してくれるようだった。部室に入るとメンバーから歓迎され、ひまりも持ち前の明るさからすぐに打ち解けていた。可愛がられるひまりを見て嫉妬心が隠しきれない依。見かねた亜季が茶化しに行きつつ、ライブ曲の打ち合わせを初めてしまう。楽しげに話す依と亜季を見たひまりは、突然胸にズキッとした痛みが走り苦しくなった。その痛みが嫉妬からくるものだと気づかないまま、ひまりは依とライブ用のアクセサリーを買いに行く約束をする。
後日買い物に来たひまりと依。なかなか決まらず店を見て回ったが、ひまりが依に似合いそうなイヤリングを見つけプレゼントしてくれた。買い物後、家までひよりを送る依が最後に「ちょっとだけ目をつむって？」と言う。素直に従うひよりの頬に、依はそっとキスをして「これが最後のデートじゃないといいな」と言い帰っていった。
ライブ当日、ひよりは未希と共に会場へ向かった。ライブが始まり盛り上がる会場に、感動しながら曲を聞くひまりたち。ついに最後の曲となり、依は「Sunny Spot」をひまりに向けて歌った。ひまりとの出会いから今までの気持ちをつづったその曲を聞き、曲が終わると同時に思わず依の元へ駆け寄るひまり。何か伝えたそうなひまりの様子を見て、亜季が依を送り出してくれた。二人になり、ひまりは自分の気持ちを伝え始める。「依先輩の歌を隣で聞くのは私がいい」「これが私の恋なんです」とひまりは好きな気持ちを寄りに伝え、「付き合ってください」と告白をする。「もちろん」と返事をして思わず泣きだしてしまう依。ひまりもつられて涙しながら、二人の交際が始まるのだった。

学際オーディション

ライブが無事終わり、次の活動について話し合うSSGIRLSのメンバーたち。迫るのは学園祭で行われる学祭ライブだった。早速申し込むために生徒会室へ向かう一行だったが、参加申し込みが多いため「オーディション」を行うと生徒会から告げられる。すぐに出演が決まらないことを残念がる亜季だったが、切り替えて練習しようと生徒会室を後にする。教室を出ようとする香織の前に、一人の生徒が立っていた。その姿を見て香織は思わず扉を閉めてしまう。そこにいたのは、以前SSGIRLSでボーカルをしていた泉志帆（いずみ しほ）だったのだ。亜季と親友だった志帆だが、ある日突然バンドを辞め、それ以来疎遠になっていた。気まずい雰囲気の中、志帆が口を開く。志帆も学祭のオーディションを受けるために生徒会へ申請に来たと言うのだ。出場枠は自分のバンドで確定だと自信満々に話す志帆の後ろから天沢始（あまさわ はじめ）がやってきた。志帆の忘れたオーディションの申し込み申請書を持ってきてくれたのだ。バンドメンバーに始がいることに驚いたのは真理だった。実は始の父は超有名な演奏家で、彼女もまた有名なフルート奏者だという。バンドではドラムを担当し、なかなかの腕前を持つようだった。オーディションを勝ち抜く自信のある志帆たちは、亜季たちに「楽しみにしてる」と伝えその場をあとにした。
後日、依は練習の後亜季を自宅に誘った。亜季と志帆の過去に何があったのかを知っておきたいと言う。亜季と志帆は軽音部で出会った。メンバーと上手くいかずに孤立していた志帆に亜季が声をかけたことがきっかけだった。「どことも上手くやれないなら、あたしとやろう」と声をかける亜季。志帆は「本気でバンドがやりたい」という。本気が空回り真面目過ぎることが孤立する原因になっているという。亜季はその真面目な姿勢が好きだと伝え、志帆はバンドに参加することを決めた。こうして「SSGIRLS」が誕生したのだった。揉めたりもしつつ楽しくやっていたメンバーだったが、ある日突然終わりを迎えることになる。志帆が突然「こんな演奏で良いの？」と言い始めたのだ。練習の成果が出ず結果も出せないと突っかかる志帆に対し、亜季も志帆の歌い方に不満があると口にしてしまう。それを聞いた志帆はバンドを抜けると言った。突然のことで意味が分からない亜季たちだが、志帆は「ずっとやめたかった！こんなおふざけグループ！」と言い放つ。それを聞いた亜季は「最低」と志帆をぶってしまう。頭に血が上った亜季は、「やめたいならやめなよ」と志帆に言った。そのまま志帆が抜け、現在に至るという。今まで志帆が嫌々やっているようには見えず、なぜやめてしまったのかわからないままだった。泣きながら話す亜季に対し、依は「話してくれてありがとう」と伝えた。依も「志帆の代わりに自分が歌っていてもいいのか」と不安になっていたという。志帆への疑問は残ったままだが、亜季と依の絆は深まったのだった。
オーディション当日。いつも通り楽しそうに演奏するSSGIRLSのメンバーたち。彼女たちを見る志帆は、「誰よりもいい演奏じゃないと意味ないの」といいステージへ向かった。演奏が始まると、音楽のことに詳しくないひよりでさえその演奏が圧倒的であると感じていた。周囲を圧倒する演奏を見せつけた志帆たち。演奏後、志帆は亜季に「自分の方が依よりも上だった」と伝える。亜季は苛立ちを抑えながら「そんな風には思わない」と反論する。自分たちは最高のバンドで、ステージ枠だってもらえるはずという亜季に対し、志帆は「枠がもらえるかどうか考えてる時点でレベルが違う」と伝え去っていった。
結果発表の日、亜季は志帆に言われたことを気にしながらも表に出さないようにしていた。合格者が掲示されている廊下へ向かう亜季。掲示板の前には先に志帆が立っていた。気まずくて思わず隠れて様子を見る亜季。発表を見る志帆は強気な発言をしていたとは思えない程不安げな表情を浮かべ、その姿は亜季の知る以前の志帆を彷彿させた。
無事合格しステージ枠をゲットしたSSGIRLS。真理に志帆は受かったのかと聞かれ、亜季は受かっていたことを伝える。圧倒的な演奏を見せられ、「自分が足を引っ張ってたんだな」と言う亜季。その様子を見た依は、「亜季たちとバンドしていた時の方が志帆は楽しそうだった」と言う。依は、本当に志帆が嫌々やっていたと思うのか聞いてみた。亜季の本音は「そうは思わない」という。依の言葉で自分の本音を確認した亜季は、志帆と話をする決意を固めるのだった。

『ささやくように恋を唄う』の登場人物・キャラクター

木野ひまり（きの ひまり）

高校一年生で本作の主人公。天真爛漫で人懐っこい子犬の様な性格をしているため、作中では犬耳で感情を表現することがある。恋愛に興味はあるものの、恋愛の「好き」がわからず、好きな人はできたことがない。新入生歓迎ライブで依に「憧れ」の意味で一目惚れする。依からの告白に戸惑い一度返事を保留にするが、文化祭ライブで改めて依に告白の返事をする。バンドの練習で依と過ごす時間が減ったため、料理研究部に入部。作ったお菓子を依やミキに食べてもらっている。

朝凪依（あさなぎ より）

高校三年生。恋愛経験はなく好きな人もいなかったが、ひまりに一目惚れして初恋を迎える。歌が好きで、屋上でよくギターを持ち一人で歌っている。人前に出ることが苦手で、新入生歓迎ライブのときは「SSGIRLS」の助っ人ボーカルとして歌っていたが、ひまりを振り向かせるために改めて亜季たちとバンドを組むことになる。猫好きで猫グッズには目がなく、度々猫グッズにつられてお願いを引き受けてしまう。

水口未希（みずぐち みき）

ひまりと同じ高校・クラスで、小学生からの友人。明るく面倒見の良い性格で、姉の亜季をとても慕っている。ひまりと依が親しくなるきっかけをつくり、交際後も二人を温かく見守っている。中学時代に彼氏がいたが、現在はいない。吹奏楽部所属。

水口亜季（みずぐち あき）