クイーンズ・ギャンビット(ドラマ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『クイーンズ・ギャンビット』とは、2020年10月23日にNetflixで配信が始まったドラマである。原作はウォルター・テヴィスが書いた小説『クイーンズ・ギャンビット』だ。第73回プライムタイム・エミー賞では、作品賞リミテッドシリーズ/アンソロジーシリーズ/テレビ映画部門を受賞。事故により唯一の身寄りだった母を亡くし、9歳で孤児になった主人公ベス・ハーモン。養護施設でチェスと出会い、才能を開花させる。アルコール・薬物依存と戦いながら、男性社会のチェスの世界でトップにのぼり詰めるまでの物語。

精神安定剤

主人公べス・ハーモンがメスーエン養護施設で飲まされていた緑の薬。心が落ち着くと言われていたこの薬の正体は精神安定剤である。ベスが養護施設での生活に馴染んでしばらくした頃、州法でこの精神安定剤を子どもに飲ませることは禁止となった。その頃には、ベスはこの薬に依存していた。禁断症状でイライラしてしまい、この薬を盗もうと医務室に侵入する。見つけた薬を一度にたくさん飲み込み倒れる事件もあった。それ以来、この薬とは縁を切っていたが、養母のアルマがこの精神安定剤を服用していたことをきっかけにベスはまた薬に依存し始める。

クイーンズ・ギャンビット

チェスのオープニングの一つ。
先行の白盤がポーンを2マス進めて、d4へ。後攻の黒盤もポーンを2マス進めて、d5。
応じて、白がc4という始まるゲームを総じてクイーンズ・ギャンビットと呼ぶ。

レート

チェスプレイヤーの強さを示す数値。
USCF(全米チェス連盟)の大会で30対局をこなし、4ヶ月後にレートが付く。
1960年からUSCFで採用されてうまくいったため、1970年にはFIDE(国際チェス連盟)でも採用され、世界に普及した。

グランドマスター

FIDE(国際チェス連盟)により付与されるチェスのタイトル(称号)である。
グランドマスターになるには、プレイヤーは少なくとも2500以上のレーティング獲得経験が無くてはならない。そして、大会での好戦績を2大会以上で達成する必要がある。
グランドマスターは世界チャンピオンを除けば、チェスプレイヤーの最高位のタイトルだ。

『クイーンズ・ギャンビット』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

アルマ「私はもう妻じゃない。でも母親にはなれる。」

夫のオールストンが南西部で無期限の勾留を受けてしまい、独り身になったアルマ。精神的にも参っていたが、目の前には社会のこともよく知らない少女がいる。困ったときに自分を頼ってくるベスの姿を見て、人の母親になる覚悟を決めるという名場面だ。アルマは「私はもう妻じゃない。でも母親にはなれる。」と言う。ベスに言葉を掛けながら、アルマ自身にも言い聞かせる。話し相手が欲しいというような軽い気持ちでとった養子だったが、結果的にアルマの生きる支えになった。

ジョリーン「孤児じゃなかった。お互いの存在がある限りね。」

モスクワで行われる世界大会に参加する旅費が用意出来ず、困っていたベスにジョリーンが自分が出すことを提案するシーン。なぜそこまでしてくれるのか不思議に思うベスに、ジョリーンはベスがいたことで自分は一人ではなかったのだと言う。孤児として施設で育った二人だが、決してひとりぼっちではなかった。「孤児じゃなかった。お互いの存在がある限りね。」とジョリーンは言う。施設では自分が黒人であることなど、どうしようもないことへの不満を抱え、素行も悪くなるジョリーンだったが、ベスのことを家族のように思っていたことを初めて明かす名場面だ。

ベニー「ナイトにはポーンで行け。」

モスクワでのベスとボルゴフとの対局は接戦のため中断され、日をまたぐことになる。対局二日目となる朝、ベスの部屋の電話が鳴った。出てみると、「ナイトにはポーンで行け」とベニーの声が聴こえてくる。団体の力で臨むボルゴフらソ連に対し、個で戦うアメリカのチェスプレイヤーのベスは心細いことも多かった。ベスとは決して良い関係ばかりではなかったチェスプレイヤーたちだが、ベスのためにベニーのもとに集まり、ボルゴフに勝つ術を検討してくれていた。その術を伝えるために電話をかけてくれたのだ。ベスとこれまで出会ってきたチェスプレイヤーたちの絆の深さが分かり、ボルゴフに勝つ可能性を感じさせてくれる名場面だ。

『クイーンズ・ギャンビット』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

ベスのファッション

配信開始当初から、ベスが着ている服が素敵だとおしゃれ好きの女性の間で特に話題になっていた。衣装はデザイナーのガブリエル・バインダーが務めている。施設を出てすぐのベスの衣装は、少し時代遅れでネガティブなイメージで、ベスの成長に合わせ自信と経済力を示す華やかなファッションへ、そしてチェスの世界チャンピオンを飾る頃には洗練されたファッションへと変化させていることを、ファッション・ライフスタイル雑誌である『VOGUE』で語っている。施設にいる時や、施設から出たばかりの物語冒頭は、丸襟の白ブラウスを一番上のボタンまで留め、ジャンパースカートにカーディガンを合わせている。足元は白い靴下にレザーのトゥシューズ。引き取られて、養母に服を買ってもらうも、同じようなスタイルだ。白いブラウスは上のボタンを外し、ウエストにボタンのついたモスグリーンのシンプルなジャンパースカート。チェスで賞金が入り、自分で購入した服は似たシルエットでありながら、中のブラウスは胸元まで大きく開き、チェックのジャンパースカートを合わせて、少し垢抜けたスタイルになっている。チェス大会で経験とお金を稼いだベスは、今までのスタイルにとらわれず、ドレスやカーディガン、フレアスカートなど品性と知性を表すスタイルに変わっていく。1950年〜60年代の時代を意識しつつ、赤毛のベスの魅力を引き出したファッションにも注目だ。

チェスのルールが分からなくても楽しめるストーリー展開

チェスの対局で物語が進行するが、ルールを知らない人でも対局の状況が分かるように工夫して撮影されている。撮影ではベス・ハーモンというキャラクターに焦点を当て、ベスの内面を視覚的に見せられるように、周りのキャラクターの表情や反応を大切にしていたという。この点にこだわったことで、ゲームの展開が分かりやすくなっている。そして『クイーンズ・ギャンビット』の影響でチェスに興味を持つ人が増えた。この作品の影響でアメリカではチェスがブームになってきていて、いくつかの玩具メーカーがチェス盤の売り上げが200%前後上昇したと発表している。

本作の本当のテーマは「自分との戦い」

osu16g8
osu16g8
@osu16g8

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