シークレット・ミッション(韓国映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『シークレット・ミッション』とは、2014年に日本で公開された韓国のアクション映画である。監督はチャン・チョルスで、韓国のインターネットポータルサイト「ダウム」に掲載されたウェブ漫画を原作にしている。北朝鮮の軍人であるウォン・リュファンは、秘密特殊任務のため韓国へスパイとして潜入する。しかし指令を待つうちに、北朝鮮上層部の都合で秘密特殊部隊の存在を隠蔽するため、リュファンたちに自決命令が下されてしまう。この作品は国の思惑や家族愛、コメディとシリアスが複雑に絡み合った目の離せない物語となっている。

次第に町へ馴染んでいくリュファン

母の生活を守るためにソウルに潜入していたリュファンだったが、町の人々と触れ合うにつれて次第に気持ちが揺れ動くようになる。自分はスパイとして北朝鮮に害を与える韓国に潜入しているのに、町の人々は身分を隠している自分に対して何の疑いもなく接し頼ってくれる。北朝鮮では母と離れて厳しい訓練に耐え、ただ「韓国は北朝鮮にとって悪である」と教えられてきただけに、これまで学んできたことと実際の落差に戸惑うようになったのである。そして同じくスパイとして潜入しているヘランやヘジンも次第に町に溶け込んでいくのを見て、来世ではこの町の人々のような「平凡な家庭に生まれて暮らす人」に生まれ変わりたいとすら思うようになる。しかし自分はスパイであり、命令が下れば町の人々に危害を加える側になる可能性もある。スパイである自分と平凡でありたい自分の狭間に揺れ、自らのアイデンティティに自信がなくなっていくリュファンであった。

ウォン・リュファン「戻りたい。こんな風に生きたい」

スニムから預かった通帳を見て号泣するリュファン

祖国に裏切られたリュファンが、スパイである自分の身を嘆き放ったセリフ。北朝鮮から自決命令が下ったリュファンだったが、母の身を案じ命令に従うことが出来ないでいた。しかし自分がスパイになった時点で母は強制収容されていることを聞き、リュファンは呆然自失となってしまう。さらに町を出ることを知ったスニムに渡された通帳には、「息子の結婚資金」という名目で貯金がされていた。それを見たリュファンは母や、自分を本当の家族のように受け入れてくれたスニムやドゥソクなどを思い浮かべ、「戻りたい。こんな風に生きたい」と泣き崩れる。二年間ソウルの町で暮らしていくうち、家族でいることの素晴らしさや友人と何気ない時間を過ごすことの大切さに気付き、スパイなんかではなくただ平凡に生きたいと思うようになったのだ。しかし周りはそれを許してはくれず、結局リュファンはヘランやヘジンとともに命を落としてしまう。ただ家族と何気ない日常を送りたいと誰よりも思っていたリュファンだったが、その願いが叶うことはなかった。

『シークレット・ミッション』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

主演3人の抜群のチームワーク

雰囲気の良い3人のシーン

リュファンを演じるキム・スヒョンは1988年生まれ、ヘランを演じるパク・ギウンは1985年生まれ、ヘジンを演じるイ・ヒョヌは1993年生まれと、主演の三人は歳が近い。そのため、三人の間には「言葉が必要ないです」とヘラン役のパク・ギウンは言う。キム・スヒョンは人格者で実年齢よりも年長者のようで、イ・ヒョヌは甘え上手で周りを明るくさせる人柄、そしてパク・ギウンは一番の兄として他の2人を支えるというバランスの良い三人が集まったのだ。しかし韓国社会では年功序列が厳しいため、年長者がその場を取り仕切るということが良くある。主演三人の中で最も年長者のパク・ギウンは他の二人が自由に演技ができるよう、あたたかく見守り可愛がっていたようだ。

「国民の弟」から脱却したイ・ヒョヌ

ヘジンを熱演するイ・ヒョヌ

ヘジンを演じたイ・ヒョヌは幼少期から韓国のドラマ等で活躍してきており、その人気は「国民の弟」ともてはやされる程だった。そのため子役出身者にありがちな幼少期のイメージから抜け出せない時期が続いたが、『シークレット・ミッション』で見事そのイメージから脱却に成功する。映画の大ヒットと共に、成長した姿でのアクションや迫真の演技が高い評価を得たのだ。イ・ヒョヌ本人は完成した作品の試写で自分の演技力不足やアクションの未熟さが目立ち悔しい思いをしたそうだが、多くの観客は『シークレット・ミッション』によりイ・ヒョヌが俳優として新たな境地にたどり着いたと感じたのだった。

『愛の不時着』でのカメオ出演

『愛の不時着』の面々を驚かせた、リュファン演じるドングの愚鈍さ

韓国国内外で大ヒットとなったドラマ『愛の不時着』で、キム・スヒョンはリュファン扮するドング役でカメオ出演を果たしている。『愛の不時着』も南北に分断された朝鮮半島での様子を描いた作品であり、その中で北朝鮮の軍人が密かに韓国に潜入するシーンが描かれる。その際にリュファンが先輩スパイとして登場するのだ。しかし『愛の不時着』の登場人物たちは、愚鈍なドングを見事に演じきるリュファンを見て「電気ショックを受けさせられて実はおかしくなっているのではないか」と疑うほどショックを受けた。『シークレット・ミッション』を過去に鑑賞していたファンたちにとっては、コミカルなドングの再登場は嬉しいサプライズだったことだろう。このカメオ出演は、キム・スヒョンと『愛の不時着』脚本家のパク・ジウンがこれまで『星から来たあなた』等のドラマでタッグを組んできた経歴から実現したことである。

『シークレット・ミッション』の主題歌・挿入歌

挿入歌:イ・ヒョヌ「청춘예찬(青春謳歌)」

『シークレット・ミッション』の挿入歌として制作された「青春謳歌」(「青春礼賛」とも訳される)は、ヘジン役のイ・ヒョヌが作詞と歌を手掛けている。撮影中に実際に感じた感情をイ・ヒョヌ自ら詞に起こし、本業の歌手顔負けの歌唱力で歌い上げている。歌詞の内容はリュファンやヘラン、ヘジンといった若者の生を讃えるものとなっている。また、映画後半の暗いイメージとは相反するフォークロックのメロディと力強い歌詞で、「若者の生がいかに素晴らしく貴重なものか」を表現している。

kamick2014
kamick2014
@kamick2014

Related Articles関連記事

ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』とは2018年に公開された『ファンタスティック・ビースト』シリーズ2作目の映画。『ハリー・ポッター』シリーズと同じ"魔法界"を舞台とした作品で、『ハリー・ポッター』シリーズの公式スピンオフ前日譚の第2弾。 闇の魔法使いグリンデルバルドが移送中に逃亡するシーンから物語が始まる。巨大な力を求め仲間を集めるグリンデルバルドとの攻防が繰り広げられる。 黒い魔法使いグリンデルバルドを追う魔法動物学者ニュートの新たな冒険が描かれる。

Read Article

サイコだけど大丈夫(韓国ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ

サイコだけど大丈夫(韓国ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ

『サイコだけど大丈夫』とは、2020年に放送された韓国ドラマ。自閉症スペクトラム障害を持つ兄と暮らすムン・ガンテと闇を抱える絵本作家コ・ムニョンのヒーリングラブストーリー。人との関わりを避け、自分を押し殺して生きてきた主人公が、後先考えずに行動する無鉄砲なヒロインと出会い、変わっていく様子が描かれている。サスペンス要素や社会ドラマ的な要素など、一言にラブストーリーと言い表せない深みのある設定が反響を呼び、国際エミー賞にノミネートされるなど海外でも評価の高い作品。

Read Article

涙の女王(韓国ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ

涙の女王(韓国ドラマ)のネタバレ解説・考察まとめ

『涙の女王』とは、韓国tvNで2024年3月から放送されたロマンティックコメディドラマである。脚本はパク・ジウン。主演はキム・スヒョンとキム・ジウォンで、パク・ソンフンやクァク・ドンヨンなどが出演する。財閥3代目のデパート業界の女王であるホン・ヘインと、スーパーマーケットの王子であるペク・ヒョヌは結婚3年目であるが関係は冷え切っていた。しかしとある危機が訪れ、恋が再び動き出す。様々な苦難を乗り越えながら、2人の愛が深まっていく様子が描かれる。本作は韓国tvNで最高視聴率28.3%を記録した。

Read Article

韓国・韓流ドラマの主題歌・挿入歌・OSTまとめ

韓国・韓流ドラマの主題歌・挿入歌・OSTまとめ

韓国・韓流ドラマとは、韓国で制作されたテレビドラマである。「韓ドラ」とも呼ばれ、日本では2003年に放送された『冬のソナタ』が一世を風靡して以来、根強い人気を誇っている。1話につき1時間以上の見ごたえのあるストーリーや斬新な演出も人気の理由として挙げられるが、中でも注目されるのが「OST」と呼ばれるサウンドトラックである。K-POPアイドルや歌手が担当する主題歌は、特に話題となることが多い。

Read Article

目次 - Contents