サイコだけど大丈夫(韓国ドラマ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『サイコだけど大丈夫』とは、2020年に放送された韓国ドラマ。自閉症スペクトラム障害を持つ兄と暮らすムン・ガンテと闇を抱える絵本作家コ・ムニョンのヒーリングラブストーリー。人との関わりを避け、自分を押し殺して生きてきた主人公が、後先考えずに行動する無鉄砲なヒロインと出会い、変わっていく様子が描かれている。サスペンス要素や社会ドラマ的な要素など、一言にラブストーリーと言い表せない深みのある設定が反響を呼び、国際エミー賞にノミネートされるなど海外でも評価の高い作品。

『サイコだけど大丈夫』の概要

『サイコだけど大丈夫』とは2020年6月から8月まで韓国のケーブルテレビtvNで放送された連続ドラマ。制作したのは『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』や『愛の不時着』など、大ヒットドラマを制作した「STUDIO DRAGON」である。『嫉妬の化身~恋の嵐は接近中!~』や『ボーイフレンド』を手掛けたパク・シヌが監督を務め、脚本は本作が2作目となったチョ・ヨンが担当している。

幼い頃から自閉症スペクトラム障害を持つ兄の世話をし、現在は精神病棟の保護士として働くムン・ガンテと、反社会性パーソナリティ障害の傾向がある児童絵本作家コ・ムニョンのラブストーリーを描いた作品。

ただのラブストーリーに留まらず、愛を知らずに生きてきた2人が成長していく姿や、ガンテの兄サンテがハンデを背負いながら自立していく姿などが描かれており、傷を持った登場人物たちがそれぞれの過去と向き合いながら立ち直り生きていく様が描かれている。その結果、アメリカで開催される放送業界を代表する受賞式であるエミー賞のうち、アメリカの作品を除く国のコンテンツを対象とした「国際エミー賞」にノミネート。過去の殺人事件を絡ませたサスペンス的要素も描かれており、一般的なラブストーリーとは一味違った奥深いテーマ設定が評価された。また、第57回百想芸術大賞では、作品賞、脚本賞、演出賞、主演男優賞など、その他にも多くの部門でノミネートされ、助演男優賞やTV技術賞を受賞した。また主人公を演じたキム・スヒョンの除隊後復帰作品としても注目を集めた。

『サイコだけど大丈夫』のあらすじ・ストーリー

2人の出会い

ムニョンが振りかざしたナイフを素手で受け止めるガンテ

精神病棟の保護士ムン・ガンテは幼いときに両親を亡くし、自閉症スペクトラム障害を持つ兄サンテと共に暮らしていた。ある日、ガンテの勤め先の病院に絵本の朗読会のため、絵本作家のコ・ムニョンがやってくる。禁煙の病院の敷地で堂々とたばこを吸うムニョンに対し、ガンテは注意するがムニョンは悪びれる様子がない。コ・ムニョンは反社会性パーソナリティ障害の疑いがあり、2人の出会いは最悪なものだった。

朗読会の最中、患者が脱走する事件が発生し、朗読会は中断を余儀なくされる。舞台裏でムニョンと鉢合わせた患者は、朗読会を中断させられたことに腹を立てて暴言を吐くムニョンの首を絞める。ムニョンが気を失いそうになったその時、患者を探していたガンテが助けに入る。解放されたムニョンは、落ちていたナイフで患者を刺そうとするが、そのナイフをガンテは手で止めた。

この騒動を受けて、ガンテは責任をとり病院を退職することとなる。サンテも職場で騒ぎを起こしクビになったばかりだったことや、元々各地を転々としてきたガンテにとって職場がかわることは珍しいことではなかった。

一方、ムニョンがガンテを怪我させてしまったことを詫びるため、出版社のイ・サンイン代表はガンテを出版社に招いた。先日の事件以来、ムニョンはガンテのことが気になっていたが、ガンテはもう連絡をよこさないよう言い残し、出版社をあとにした。

仕事を失ったガンテだったが、幼なじみで看護師のジュリに久しぶりに再会し、自分の働いている病院で働かないかと持ちかけられる。ジュリが働く病院は、ガンテが幼い頃過ごしていた街にあり、母親が亡くなったあとその街を離れてからは、ずっと避けてきた場所だった。最初は戸惑ったが、サンテの賛同もあり、ガンテはジュリの病院で働くことを決める。兄弟と生活をともにし、助けてくれる親友ジェスも一緒に故郷の街に移り住むこととなった。

ムニョンとの再会

新しい職場で勤務を始めたガンテだったが、そこにムニョンが現れる。実はその病院はムニョンの父が入院する病院だったのだ。病院を訪れたムニョンに、病院長オ・ジワンは、病院内で開催される絵本の朗読プログラムの講師をやらないかと打診する。ムニョンは承諾し、病院にしばしば訪れることとなった。

病院内で会うたびにムニョンはガンテに、冗談なのか本気なのかわからない言葉で挑発をする。ムニョンはガンテのことが気になって仕方なかったが、ガンテはムニョンの相手の都合や立場に配慮しない態度に苛立っていた。反面、サンテを守ろうとするあまり常に自分を押し殺してきたガンテは、無鉄砲で本能のままに生きているムニョンに知らぬ間に惹かれていた。

ある日、ムニョンは病院内で散歩をする父親と遭遇する。ムニョンは過去の出来事から、父親のことを避けていた。ムニョンの父は大きな病気を患っており、過去の記憶もはっきりしない。娘を見ても無反応な父親に対しムニョンが挑発すると、ムニョンの父は突然「お前がなぜ生きてる?」とムニョンに襲いかかり首を締めた。

一方、ガンテはムニョンの著書『ゾンビの子』を読み、心のない主人公から、ムニョンの心のうちを知った気がした。さらには幼い頃、障害を持つ兄ばかりに構い、自分に構ってくれなかった母親のことを思い出し涙した。そんな中、ムニョンが父親に首を締められたことを聞き、ガンテはムニョンの元へ向かう。雨の中、傘もささずに呆然と歩いているムニョンを見つけたガンテはムニョンを抱き締めた。

惹かれあう2人

旅行先でムニョンにキスをするガンテ

ガンテはムニョンを兄弟で居候しているジュリの家に連れ帰った。その様子を見て、昔からガンテのことを好きだったジュリは面白くない。母の後押しもあり後日、ジュリはガンテに告白しようとするが、ジュリの気持ちに気づいていたガンテに「自分は好きになってもらう資格がない」と釘を刺されてしまう。

一方、ムニョンはサンテに声をかけ、幼い頃にムニョンが過ごした邸宅へサンテを連れていく。サンテの絵の才能に気づいたムニョンは、サンテに自分の絵本の絵を描かないかと打診する。サンテはその依頼を受け、ガンテとサンテはムニョンの邸宅に移り住むこととなった。最初は反対したガンテだったが、サンテがガンテのために稼いだお金でキャンピングカーを買おうとしていることを知り、またガンテの自立を応援するためにもムニョンの邸宅で絵を描くことを認めたのだ。

ある夜、ムニョンは母親に叱責され、王子様を連れてきたら殺すと言われる悪夢にうなされる。ムニョンの母は作家だったが、現在は行方も生死も不明だ。うなされる声に気づいたガンテはムニョンの寝室に駆けつけ、落ち着くまで抱き締め続けた。翌日ガンテは仕事を休み、気分転換のためにムニョンをドライブに連れ出す。ガンテは一線を引いているが、2人の距離は少しずつ縮まっていた。

数日後、朗読プログラムのために病院を訪れていたムニョンは、入院患者の元夫が患者へ暴力を振るおうとする場面に遭遇する。ムニョンはその行為を罵ったため、元夫に殴られてしまう。それを目撃したガンテは思わず元夫を殴ってしまい、停職処分を受ける。これまで感情を押し殺し、すべてのことを我慢してきたガンテだったが、ムニョンが殴られることは許せなかったのだ。

停職になったガンテはムニョンを誘い、初めてサンテを置いて1泊の旅行に向かった。ジェスはサンテの面倒を理由も聞かずに引き受ける。サンテとは来ることの出来ない高い場所で眺めを楽しんだり、ツーショットを撮ったりと、ガンテとムニョンはつかの間のひと時を楽しんだ。翌朝、ムニョンのために花を摘んだガンテは、花とともにムニョンにキスをした。

帰宅すると、ガンテはサンテに昨晩不在だった理由を問われたため、ひとりでソウルに行っていたと嘘をつく。しかし、ガンテとムニョンが旅行に行ったことが病院内で噂となり、噂を耳にしたサンテはショックを受ける。そして、幼少期にサンテが溺れた際にガンテが置き去りにしたことを思い出し、病院内で「弟は僕を殺そうとしている」と叫びまわってしまう。幼少期の出来事をサンテが覚えていたことに、ガンテは大きなショックを受ける。そして、ムニョンと楽しい日々を過ごすことは無理だと悟ったガンテは、ムニョンの家を出て、ジュリの家に戻ることを決意する。ジュリの家に戻ったガンテは、サンテと和解し、サンテは「サンテを捨てないで」とガンテのことを抱きしめた。

ガンテとサンテの過去

家族写真を撮るガンテ、ムニョン、サンテ

ある日、ムニョンの母で作家でもあるト・ヒジェのファンだという患者パク・オンナンが病院から脱走した。オンナンは今日がムニョンの誕生日だということを知っており、ムニョンの家を訪れていた。オンナンがムニョンの邸宅に向かった可能性を知ったガンテは、急いでムニョンのところに向かう。到着すると、家の中に血痕があり驚いたガンテだったが、ムニョンは無事だった。すぐに逃げたオンナンを探しに向かおうとするガンテだったが、ムニョンは自分の優先順位の低さに抗議する。サンテを思い、ムニョンへの想いを忘れようとしたガンテだったが、それが無理であることを悟り、ムニョンにキスをする。

そしてガンテは、過去に自分の母親が何者かに殺害されたこと、サンテは目撃者であり、そのトラウマから蝶を恐れていることをムニョンに告白した。

病院に戻ったガンテは、院長にも過去の事件とサンテのトラウマについて告白する。これまで過去の出来事から目をそむけてきたガンテだったが、サンテがトラウマを克服できるよう院長に協力を依頼した。

一方ムニョンは、ガンテと付き合うためにサンテの理解を得ようと、サンテのもとを訪れていた。再度自分のもとで絵を描かないかと説得を試みるも、サンテはムニョンがガンテを奪うと思っているため、首をたてにふらない。しかし、サンテも頭では大人にならないといけないことは分かっており、最終的にはムニョンのことを受け入れ、ガンテとサンテは再度、ムニョンの邸宅で暮らすこととなった。

院長のセラピーにより、サンテは過去のことを話し始めた。サンテの話から、母親を殺した人物は蝶のブローチをつけていたこと、もしこのことを話したらサンテのことも殺しに来る、と言ったことなどが分かった。ある日、ガンテはムニョンの家族写真に映ったムニョンの母が蝶のブローチをしていることに気づく。ガンテの母を殺したのは、ムニョンの母かもしれないことを知ったガンテは愕然とする。

それを知らないムニョンは、ガンテ、サンテと3人で家族写真を撮ることを提案する。ガンテは乗り気ではなかったが、家族が出来たことを喜ぶムニョンを見て、3人で家族写真を撮ることを承諾する。そして、ガンテは何があってもサンテとムニョンを守ろうと心に誓うのだった。

過去の真実

その数日後、ムニョンの父の容体が悪化する。「人を殺しても飄々としている妻が恐ろしく、自分が妻を殺した。娘はそれを見てしまった」と告白し、ムニョンの父は亡くなる。また、さらにその数日後、ガンテ、サンテ、ムニョンの3人が病院を訪れると、院長に依頼されてサンテが病院内に描いていた壁画に、それまでなかった蝶が描かれていた。それを見たサンテは取り乱し、ムニョンもその蝶が自分の母がつけていたブローチと同じだと気づき、その場を去ってしまう。

壁画に蝶を描いた人物を確認するため、防犯カメラの映像を確認すると、そこに映っていたのは看護師長パク・ヘンジャだった。ムニョンの母ト・ヒジェは容姿を変え、パク・ヘンジャとしてこの街で暮らしていたのだ。ムニョンは自分の母がガンテの母を殺した犯人だと気づき、ショックを受ける。

その頃、サンテの元に看護師長パク・ヘンジャから電話がかかってくる。ヘンジャが母を殺した犯人だと知らないサンテは、ヘンジャにムニョンの邸宅に来るよう言われ、1人で向かってしまう。そのことを知ったガンテが急いで駆けつけると、そこにはヘンジャと気を失ったサンテの姿があった。ヘンジャは20年前、家政婦として働いていたガンテの母が一言意見したのが気に食わず殺したことを告白。些細なことで母を殺したヘンジャに対し、怒りを抑えることが出来ないガンテはヘンジャの首をしめる。しかし、ヘンジャに注射器で薬を打たれ意識が朦朧としてしまう。そこにやってきたムニョンは倒れるガンテを抱きしめるが、ヘンジャはそんなムニョンのことをナイフで刺そうとする。ムニョンが刺されそうになった瞬間、それまで気を失っていたサンテが、本でヘンジャを殴り、事なきを得る。

母がガンテの母を殺した犯人だったことを受け、ムニョンはガンテに別れを告げた。しかし、ガンテがムニョンのことを深く愛していることを知り、ムニョンはガンテと一緒にいることを決意する。そしてムニョンとサンテは『本当の顔を探して』という絵本を完成させた。サンテは自分の描いた絵が作品になったことに「幸せなのに涙がでてくる」と喜ぶのだった。

病院内の壁画の報酬として、院長からもらったキャンピングカーで3人は旅に出ることになる。楽しい旅の最中、サンテは打ち明ける。「自分の絵を気に入って仕事をしたいと言ってくれている人がいる。自分はもう誰かの必要な人、なんだ。ガンテはもう兄さんのものではない。ムン・ガンテはムン・ガンテのもの」と言い、ガンテとサンテは抱き合った。

『サイコだけど大丈夫』の登場人物・キャラクター

主要人物

ムン・ガンテ(演:キム・スヒョン)

日本語吹き替え:小林親弘
精神病院の保護士。幼い頃に両親を亡くし、自閉症スペクトラム障害の兄サンテと共に暮らしている。母親が殺された事件により、トラウマを抱える兄のため引っ越しを繰り返している。そのため、職場も1年程度で変わり、各地を転々としている。幼い頃から兄を優先してきたため、常に自分の感情を押し殺して生きてきた。その為、人と深く関わることを避けている。無鉄砲なムニョンと出会い、最初は反発するが、殻にこもった自分の心をこじ開けてくるムニョンに惹かれていく。

コ・ムニョン(演:ソ・イェジ)

日本語吹き替え:村中知
人気絵本作家。反社会性パーソナリティ障害の疑いがあり、幼い頃、母親から歪んだ愛情を受けたため、人を愛することや思いやることを知らない。表には出さないが、現在も生死不明の母親の影におびえており、しばしば悪夢にうなされる。講演会を行った病院でガンテと出会い、最初はその美しさから「モノ」としてガンテのことを手に入れたいと思ったが、徐々にガンテのことを本当に愛するようになる。

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